タマモという女
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日曜の昼、イヴィルダークのアジトで俺はタマモと向かい合っていた。
土曜の内に兄貴に連絡して、日曜にタマモを呼んでもらっておいたのだ。
そして、俺はタマモに俺が主催するミスコンに参加して欲しいことを伝えた。
「……その『女神祭』に参加して欲しいっていうのは分かったけど、それに私が参加する意味あるかしら?」
タマモは、四つん這いになった一人の男の背に座りながらそう言った。
椅子にされた男の瞳は虚ろで、生きているのか死んでいるのか分からない状態だった。
相変わらず趣味が悪い。
「イリス様に負けるのが怖いのか?」
俺の言葉に、タマモが眉を顰める。
はっきり言って、タマモが参加するメリットは一つもない。だが、俺は意地でもこいつを引きずり出さなくてはならない。
「挑発のつもりかしら? そんなものに私がのるとでも?」
のる。
タマモは自分を一番にすることへの欲求が強い。だからこそ、俺の中での一番がイリス様であることが許ず、イリス様を始末しようとしているはずなんだ。
ここでのらなければ、タマモはイリス様に恐れをなして参加しなかったという可能性が生まれる。それを、タマモが許容できるはずがない。
「……まあ、いいわ。参加してあげる」
俺の予想通り、タマモは参加に同意した。これで、俺の目的は達成された。
「ただし、あなたには私と勝負してもらうわ」
話が終われば、この部屋に留まる必要もないと、背を向けた俺にタマモが声をかける。
「勝負?」
「ええ。当日、裏で私とイリスの二人のどちらが魅力的かタマタマ教の代表者三人に決めてもらいましょう。もし、そこで私の方が魅力的となれば、あなたは私のものになる。この条件が呑めないなら、私は参加しないわ」
普段と何も変わらない妖艶な笑みを浮かべながら、タマモはそう言った。
リスクが高すぎる。そもそも勝負を決める代表者三人がタマモ側という時点でフェアじゃない。
普通なら、受け入れるわけがない。
それでも、タマモの表情は俺が断ることを一切想定していないというものだった。
「分かった」
俺の言葉を聞いたタマモが嬉しそうに微笑む。
普通なら、受け入れない。だが、タマモが『女神祭』に参加しなければ、俺がターゲットとしているタマタマ教にいる元イリス教とは参加しないだろう。
タマモの参加は絶対にさせなくてはならない。それこそ、俺の身体を天秤にかけてでもだ。
「だが、俺からも条件を付けさせてもらう。イリス様の方が魅力的となった場合、今後、イリス様に手を出さないと誓え」
「まあ、それくらいならいいわよ」
予想外にも、タマモはすんなりと俺の要求を呑んだ。そのことに違和感を感じたが、タマモの考えが読めず、今はその違和感を放置することにした。
「それじゃ、念のために契約もしておきましょうか」
そう言うと、タマモは手のひらを差し出す。
その手のひらの上に、どこからともなく真っ黒な紙が現れた。
「私はあなたが主催の『女神祭』とやらに参加する。それが終わった後に、タマタマ教の中から選ばれた三人にイリスか私の魅力的な方を決めてもらう。私が選ばれたら、あなたは私のもの。逆に、イリスが選ばれたら私は今後、イリスに直接手出しはしない。契約者タマモ。ほら、あなたも名前を言いなさい」
「悪道善喜」
俺が名前を言い終えると、黒い紙が細かくバラバラの粒子となる。そして、俺とタマモの二人の体内に、半分に分かれ入り込んだ。
「これで契約は成立。もし、契約を破った場合、身も心もあなたは私のモノになるわ。私はそれでも構わないけど」
「破らねえよ。タマモの方こそ、契約を破るなよ」
「ふふふ。破るわけないでしょ。それじゃ、楽しみにしてるわ」
タマモは微笑みながら俺に手を振る。
そのタマモに「じゃあな」と小さく呟いてから、俺はタマモの部屋を後にした。
***<side タマモ>***
「ふふふ。概ね予定通りかしら」
暗い部屋の中で一人微笑む。
私の予想通り、アークは動きを見せた。
それにしてもバカな男。イリスのことを余程信頼しているようだけど、現実はそこまで甘くない。
多くの人は、あのバカほど純粋で真っすぐじゃない。
勝負は十中八九私の勝ちだ。
「これで、漸く手に入れられる。ああ……楽しみだわぁ」
生まれた時から渇きを感じていた。
誰かが私を見ているとき、私に夢中になっているときはその渇きが癒えた。
だから、私しか見れなくなるようにした。
だけれど、いくら頑張っても渇きが癒えるのは一時的だった。
かつては私の渇きを癒してくれた玩具たちも、いつか壊れてしまう。
そして、また私を渇きが襲う。
いくつもの玩具を使いつぶし、渇きを誤魔化し続ける日々を過ごしている時、私はアークに出会った。
イリスに向ける大きな大きな愛。一切の穢れがない純粋な感情。
もし、アークの目が、感情が、私に向いたら。
そう考えた時には、もう行動に移していた。
私は一つアークに嘘を付いている。
私にとって、イリスという女は邪魔な存在ではない。寧ろ、私の渇きを満たす上でかけがえのない重要な要素だ。
当初の計画では、イリスを殺して、アークの頭の中をイリスを殺した私一色に染め上げる予定だった。
あれほど愛の大きな男だ。きっと、大きな大きな憎悪を私に向けてくれるはずだった。
だが、私は失敗した。
ただ、今は失敗して良かったと思っている。
だって、アークを私のモノにすることで、イリスと明里という二人の憎しみや嫉みを受けられるんだもの。
清水寺で見たイリスの絶望した表情は最高だった。
アークに見てもらえないというだけで悲しむ明里の表情もたまらなくそそられた。
アークが私のモノになったと知った時、あの二人はきっと素晴らしい表情を、感情を、私に見せてくれるだろう。
二人から向けられる感情をじっくり楽しんだ後は、アークの大事な人を一人ずつ殺していこう。
きっとアークはその度に私に大きな感情を向けてくれる。
イリスを殺した時には、私のことで頭がいっぱいになるに違いない。
そのアークを私の手元に置き続ける。
壊れる時まで、私だけにその感情も目も向けさせ続ける。
人の感情の中で最も爆発的な力を持っているものは、嫉妬や絶望、憎悪や殺意だ。
きっと、アークたちが私に向ける感情は、かつてないほどの絶頂を私に感じさせてくれるだろう。
万が一に備えてスペアプランも用意している。ゴールはもう目の前だ。
「はぁ……はぁ……。想像するだけで、イッちゃいそう。もう、待ちきれないわぁ」
いつもなら壊れた玩具たちに相手させるところだが、暫くは我慢しよう。
だって、じらせばじらすほど感じられる快感はとんでもないものになると思うから。
***<side end>***
ありがとうございました!




