ウッキウキ! 修学旅行初日の昼①
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朝六時、私立矢場沢学園の校庭に二年生が勢ぞろいしていた。
「おはよう」
そして、俺たちの前で学年主任の先生が壇上で挨拶を始める。
「お前ら、のってるかー!」
「「お、おー?」」
気まずい沈黙が流れる。
「……こほん。これから修学旅行だ。調子に乗っていると、ボコボコにされるぞ。死ぬぞ。自分たちの立場を十分わきまえて、精一杯楽しめ」
そう言い残すと、先生はそそくさと壇上から降りて行った。
なんか、申し訳ないな。先生もきっと一生懸命挨拶を考えてきたんだろうし、もう少し愛想よくすればよかった。
こうして後味が悪い状態で、俺たちの修学旅行が幕を開けた。
***
「ふおおお!! 奈良だあああ!!」
「やべえええ! 鹿いるぞ鹿!」
「鹿ってグミ食えるかな? ほれ! グミいるか?」
バスから降りると同時に、男子たちのテンションの高い声が響き渡る。
俺たちが来たのは奈良の鹿公園。近くには東大寺もある。
「善道! 見るっしょ! 鹿っしょ!」
「おう。鹿だな」
三郎も見慣れない鹿に興奮しているようだ。
「よーし。これから一時間自由時間な。一時間後にバスに戻ってくるように」
「「「はーい!」」」
先生の言葉を聞いて、生徒たちが散らばる。
「善道! 俺たちも行くっしょ!」
「そうだぜ! 早く大仏見に行こうぜ!」
「二人とも落ち着きなよ。やれやれ。これだから、男子高校生は。もっといつも通り振舞えないのかな」
次郎は平静を装っているが、次郎のポケットからは奈良の観光雑誌がはみ出ていた。
お前もたいがいじゃねえか。
「うおおお!! 鹿人くんだ!! 本物だあああ!!」
四人で話していると、公園の奥の方からそんな声が聞こえた。ちなみに、鹿人くんとは、鹿と大仏を足して二で割ったようなゆるキャラだ。あまり可愛くない上に、人気がないことで有名である。
「「「鹿人くんだと!?」」」
「こうしちゃいられねえっしょ!」
「行くぞ!」
「やれやれ。僕は興味ないけど、折角会えるならツーショット写真の一枚でも撮っておかないと勿体ないよね!」
「「「鹿人くぅぅぅん!!」」」
太郎、次郎、三郎の三人は興奮を抑えきれなかったのか、そのまま声がした方へ走り去ってしまった。
し、しまった……!
まだまだテンションを上げるには早いぜ。キリッ。なんて、調子に乗ってたら皆のテンションに乗り遅れちまった……!
このままじゃ、折角の修学旅行をボッチで過ごしてしまう!
「あっくん!」
キョロキョロと辺りを見回して仲間を探していると、星川に声を掛けられた。
「あっくんって、もしかして一人?」
「あー、いや。まあ、一人っていうか、ちょっと乗り遅れたっていうかな……。ボッチではないぞ。つまり、一人じゃないぞ」
「そっかー。一人なら、一緒に行こって言おうと思ったんだけどな……」
残念そうに星川が肩を落とす。
一緒に行く……? 星川とイリス様は友達。星川と一緒に行くということは、つまり、星川と一緒にいるイリス様と一緒に行くことになるのではないか……?
「星川。ちなみに、星川は誰と行くんだ?」
「カノッチとイリちゃんと、タマちゃんの四人で行くつもりだよ! あ、タマちゃんは前野さんのことね」
「一人だ」
「へ?」
「俺は一人だ」
「で、でも、さっきは一人じゃないって」
「見栄を張った。友達いないって思われたくないから。本当は一人だ。寂しい。一緒に行かせてくれえええ!!」
その場で土下座をする。
プライド? そんなものは矢場沢学園の地下二階に置いてきた。このチャンスを逃せばイリス様と修学旅行を楽しめることは出来ないんだぞ。
「あー! ちょっと、目立つからやめてよ! なら、一緒に行こう! わ、私もあっくんと行きたかったから嬉しいよ!」
星川の言葉に顔を上げる。そこには、頬をほのかに赤く染めて照れる星川の姿があった。
「ありがとう! よし! じゃあ、行こう!!」
「うん!」
星川に連れられ、イリス様たちと合流して東大寺に向けて歩き出した。
歩き出したのだが……。
「鹿って可愛いわね」
「うわー! イリちゃんのところにすっごい鹿集まってるね!」
「ちょっと多すぎないかな~?」
歩き出して直ぐ、イリス様たちのもとに大量の鹿が集まってきた。
失念していた! イリス様は超絶美少女! その美貌には動物たちも惚れて当然だ……!
「ちょ、ちょっと! くすぐったいからやめなさい」
イリス様の下に集まった鹿たち。その鹿の一匹が、イリス様の頬を舐めた。
イリス様は困ったような表情を浮かべていたがまんざらではなさそうだった。
あの鹿野郎!!
イリス様の清らかな肌を舐めるなんて、許しておけぬ!
直ぐに鹿たちを追い払わなくては……いや、待てよ。
逆にこれはチャンスじゃないか? ここで、鹿のコスプレをして鹿になり切れば俺もイリス様に自然に近寄れる。
そうだ。どっかで聞いたことがある。ピンチはチャンス。大義のためには、憎き相手でも友好的にすることが必要だと。
今がその時……! あの鹿たちは俺の敵だ。だが、あえて奴らに紛れ込む。奴らの行動を見逃し、俺もそれに乗じる!
これが最善手!
そうと決まれば、行動に移すだけだ。近くの店に駆け込む。
「すいません! 鹿になりきりセットはありますか!?」
「ありますよ! 一万円です」
「おつりはいりません!」
一万円を置いてなりきりセットを受け取る。
角よし! 鼻よし! 茶色のタイツよし!
素早く着替えを済ませ、イリス様の下へ向かう。
うおおお! 待ってろ! 俺の楽園!
「何してるのかしら?」
「ぐえ」
だが、イリス様の下に辿り着く直前で誰かに角を掴まれた。角はゴム紐に繋がれていて、ゴム紐は俺の首で止めているため、角を引かれると首が絞まる。
「げほっごほっ……。誰だ?」
せき込みながら振り向くと、そこには呆れたような表情を浮かべる前野さんの姿があった。
「本当に……何してるのかしら……?」
前野さんは俺の姿をつま先から頭のてっぺんまでゆっくりと確認してから、俺に問いかけてきた。
「分からないのか?」
「逆に、その姿を見ただけで分かる人がいるならここに連れてきて欲しいくらいね」
「まあ、分からないならいい。とりあえず俺は行くから」
さっきまでイリス様たちと一緒に進んでいたはずの前野さんが、何故、今は離れているのか気になったが、俺には関係ないことだろう。
放ってさっさとイリス様の下へ行かないと。
「そんな焦らないの」
だが、また角を掴まれた。
「あなた、白銀イリスのところに行く気でしょう?」
「え? 何で分かった?」
思わず前野さんの方を振り返る。
さっきは、俺のこの格好を分からないと言っていたが本当は理解しているのか?
「分かるわよ。だって、あなたあの女のこと大好きだって表情にも態度にも溢れているもの」
「ま、マジか……!?」
嘘だろ? だとしたら、イリス様本人にもバレているのか!?
「安心しなさい。イリスにはバレてないわよ。でも、私がバラしちゃおうかしら。そっちの方が楽しそうだもの」
ふふっと妖艶な笑みを浮かべる前野さん。
こ、この女……。なんて恐ろしいことを考えやがるんだ。そんなことをすれば、ここまで折角俺が積み重ねてきたイリス様の友人というポジションを失いかねない。
「……何が目的だ?」
「ふふ。今日一日、私と一緒に回りましょ。付かず離れず、二人でね」
前野さんが俺の腕を抱き寄せ、耳元で囁く。
ぶっちゃけ、不気味だ。勿論、前野さんのような美女とスキンシップをとれることは嬉しい。
だが、こうして脅してくるところとか、前野さんには信用できない部分が多い。出来ることならあまり関わりたくないのだが……そんなことを言っていられる場合じゃないか。
「はあ……。分かった。だけど、約束を守れよ。それと、前野さんの傍にはいるけど白銀さんたちと離れるつもりはないからな」
「ええ。それで構わないわ。寧ろ、彼女たちに見せつけましょうよ。私たちのラブラブっぷりをね」
「ラブラブじゃない」
俺の「鹿になりきりイリス様と接近作戦」は失敗になってしまった。だが、仕方ない。
ここは早めに切り替えて、次のチャンスを伺うべきだ。
出来たら、イリス様と写真を撮ったり、イリス様の写真を撮ったりしたい。お揃いのキーホルダーとか買えたら文句なしだ。
「それと……気になってたんだけど、どうしてあなたはトナカイのコスプレをしているのかしら?」
「は? 何を言っているんだ? これは鹿のコスプレに決まってるだろ」
「でも、背中にメスって書いてあるわよ。鹿のメスには角は存在しないはずだから、それはトナカイよ。そもそも何でメスにしたのよ……」
前野さんがため息をつく。
ば、バカな……! この俺の完璧な作戦は始まる前から破綻していたのか!?
思わずコスプレを買った店に視線を向ける。
そこには、今更気付いたのかと言わんばかりのニヤついた笑みで俺を見る店員がいた。
は、嵌められた……!
そういえば、修学旅行の初めに学年主任の先生も言っていた。調子に乗るな。立場をわきまえろと。
これは、奈良からの洗礼!
面白いじゃねえか。この程度で怯む俺じゃない。
舐めるなよ。俺はイリス様に関しては最強無敵、天下無双だ。
必ずここでイリス様と楽しい時間を過ごしてやるぜ!!
「ほら、行くわよ」
「あ、はい」
トナカイのコスプレをしたまま、俺は前野さんに腕を引かれイリス様たちの下へと近づいて行った。
ありがとうございました!
ちなみに、奈良県は非常に良い場所です。鹿公園も大変素晴らしい場所で、この作品に出てくるような意地の悪い店は存在しません。本当です。信じてください。
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