バカに振り回される男
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今回は、主人公にとっての兄貴こと、ガルドス視点です
***<side ガルドス>***
「はぁ~」
任務から戻ってきたアークが、椅子に座り、ため息をつく。
「……何かあったのか?」
アークの落ち込んでいる様子とため息から、何かあったことは確定だ。問題は、何が起きたのかだ。こいつが落ち込んでいるときはイリス関連だから、間違いなくそうだろうとは思うが。
「イリス様に求婚した」
「ふぁ!?」
アークの返答は、俺の想像の遥か上を軽々と飛び越えていった。
「お、お前! 馬鹿なのか!?」
つい、焦りで声が大きくなる。
もし、こいつとイリスが相思相愛になったりしたら、俺の計画は破綻しかねない。まだ、こいつはこの組織に留めておく必要がある。
「……だって、いけると思ったし」
だが、アークの反応を見る限り、失敗だったようだ。
その事実にホッとしつつ、この好機を逃さないように、改めてアークに釘をさすことにした。
「焦る気持ちは分かるが、落ち着け。恋愛は長期戦だ。今回の失敗で分かったと思うが、もっと時間をかけるべきだ。間違っても、告白なんて軽率にするな。たった一回の告白が、それまで築きあげてきた関係を全て破壊することもあるんだぞ」
俺の言葉を聞いたアークが顔を青くする。
よしよし。単純なバカは扱いやすくて助かる。
本当のことを言うなら、こいつは、既にイリスへの好きという感情を伝え続けているにも関わらず、イリスにそこまで嫌われていない。
つまり、だ。イリスもこいつのことを少なからず好意的に見ているということだ。
だからこそ不味い。間違っても、こいつにそのことを気付かせるわけにはいかない。
「くそ……! やっぱり、失敗だったよなぁ」
「いっそ諦めた方がいいんじゃないか? そもそも、散々イリス様への愛を伝えてきたにも関わらず、ここまで進展はなし。イリス様のお前への扱いも雑だったし、あの女に固執する理由などないだろう?」
「好きなんだよ」
さっきまで落ち込んでいた男の目に、強い光が宿る。
「俺も、兄貴の言う通り諦めた方がいいと思ったことがある。でもな、イリス様が笑うところを見ると思うんだ。もっと笑っていて欲しいって。イリス様が辛そうな顔を見ると思うんだ。幸せにしたいって。どれだけ取り繕っても、頭で否定しても無理なんだ。俺はイリス様が好きだ。この思いは、絶対に変わらないし、俺がイリス様を諦めることも無い」
思わず気圧されてしまった。
やはり、こいつが一番危険だ。イヴィルダークのボスも、ラブリーエンジェルたちも上回るほどのイリスという一人の女への愛。
今のこいつを構成しているのはそれだけだ。
イリスの為に、イヴィルダークに入り、イリスへの愛一つでイリス部隊を大きく変革した。挙句には、部隊長たちを拉致監禁するほどまでの力を見せた。
俺の計画において、こいつが一番の障害になる。だからこそ、まだこいつと敵対するべきではない。
「……そうか。なら、また一からの積み重ねだな。もう暫くは、敵対関係を続けておくべきだ」
「だよな~。はあ、確実に距離は縮まってたのになぁ」
「恋愛の駆け引きはそう単純じゃないんだよ。あっちから迫ってきたら、直ぐにこっちも好意を伝えるのではなく、思わせぶりな態度を取りつつ、あっちが戻れない位置まで引きずり込むんだ。勝負はそれからだ」
「はあ……。仕方ないか」
ガックリと肩を落とすアーク。一先ず、これでこいつがイリスに告白をすることは暫くはないだろう。
「さて、それじゃ、本題に入るとしよう。学園内でのイリス様の様子を教えてくれ」
「おう! 任せろ! 今週のイリス様の様子を折角だし、パワーポイントに纏めてきたんだ!」
「は?」
「気付いたら、スライドが百枚を超えてたんだけど、まあ、大丈夫だよな!」
「お、おい! 待て!」
「じゃあ、行くぞ!!」
その後、俺はアークから二時間以上イリスに関して、どこが可愛かっただの、どこが美しかっただの、今週のイリス様が喋った言葉ランキング(可愛い部門)などを聞かされた。
初めは、重要な情報が隠されているかもしれないと思ったが、始まって三十分で気付いた。
これは、こいつのただの感想を伝えられているだけだと。
そして、長い長いアークの「今週のイリス様」という感想が漸く終わるころには、時刻は十七時になっていた。
「まあ、今週はこんな感じだったぜ」
「お、おう。そうか。ありがとう。ところで、イリス教を学校内にも布教したとはどういうことだ?」
アークの報告の中にあった数少ない情報の内、それが気になった。
「ああ。イリス様の美貌に見惚れる奴はやっぱり、どこでもいるみたいだから、イリス教を布教して供にイリス様の素晴らしさを伝えあうことにしたんだよ。今は、学園内だけだから三桁程度の人だけど、いずれは街全体にも布教するつもりだぜ」
「な!?」
自身満々にそう告げるアークに俺は恐れおののく。
こいつ……。とんでもないことをしてやがる。
「そ、そうか……。だが、街まで布教するのはやめた方がいいんじゃないか?」
「うーん。でもよ、イリス様の素晴らしさはやっぱりいろんな人に知って欲しいけどなぁ」
「ライバルが増えるぞ」
「うぐっ……。せ、積極的な布教はやめる。でも、イリス様を好きだって言って、イリス教に入りたいってやつを拒むことは出来ねえよ」
ちっ! こいつは馬鹿正直すぎる。
まあ、いい。逆に考えればイリス教が布教されることは俺にとってもチャンスだ。
「なら、今日の話はここで終わりだ。引き続き、継続してイリス様の監視を頼む」
「はいよ」
そう告げると、アークは俺の部屋を出た。
「厄介なことをしてくれたな」
一人だけになった部屋でポツリと呟く。
やはりあの男は忌々しい男だ。わざとかそうでないかが検討が付かないが、結果的に俺の計画の邪魔となることばかりしてくる。
計画の見直しをするべく、計画書を持ち上げる。そこで、俺はアークが言っていた言葉を思い出した。
待て。そういえば、こいつはこの計画書を見たあいつに、俺はある質問を投げかけた。
『お前も、こういうことを考えことがあるのか』
と。それに対して、あいつは確か……。
『俺の場合は兄貴と逆のことだけどな』
と言った。確かに、そう言った。
この時、あいつの可笑しな点が全て繋がった気がした。
イリスへの異常な愛を抱いているにも関わらず、イヴィルダークに残った。
イリス教の設立と布教による、俺の計画の阻止。
あいつはバカだと思っていた。だが、もしそう思わせることがあいつの狙いだったとしたら?
あいつは部隊長を罠に嵌めることが出来るだけの知略を持っている。
それだけの知略を持つ男が、本当に俺の口車に単純に乗って、イヴィルダークに残ったのか?
いや、違う。確実に、何か理由がある。
イリスがイヴィルダークにいた頃と、今のイヴィルダークであいつにとって変わらないものが一つだけある。
そう、俺だ。俺だけは、あの時も、今も変わらずにあいつの上司としてあいつの近いところにいる。
それこそがあいつの狙いではないのか?
勿論、イリス様が好きだという思いは嘘ではないのだろう。だが、あいつの真の狙いは、俺の傍で、俺の計画を阻止することではないのか?
そう考えれば、全てに説明がつく。
気付けば、持っていた計画書にしわが寄っていた。知らず知らずのうちに手に力がこもっていたらしい。
面白い。だからこそ、奴は『俺は兄貴の逆だけどな』と言ったのだ。あれは、俺への宣戦布告。
「くくくっ。なるほど。手のひらの上で転がされていたのは俺の方という訳か」
なら、いいだろう。乗ってやる。
あくまで、俺はお前の味方を装いながら、お前を叩き潰す。お前の策を利用してな。
イリス教の布教の恐ろしいところは、それがラブリーエンジェルとなったイリスの力と変わってしまうところだ。愛の力という訳の分からない力を使う連中は、自分自身が抱く愛、もしくは他者から向けられる愛を力の糧としている。
故に、イリス教が広がればそれだけイリスという女への愛が増えることになり、イリスが強化されることとなる。
だが、イリス教徒が学園内に集まっているなら、それは逆に俺たちにとってチャンスだ。学園内の人間から愛を奪えばイリスの弱体化に繋がるのだから。
俺は計画書をしまってから、部屋を出た。そして、基地内にいるとある男の下へ向かう。
先日、ラブリーエンジェルとの戦いで大ダメージを受けたというその男は、自分の部屋の中でふんぞり返っていた。その目には、強い憎悪が宿っている。
「何の用だ。ガルドス」
「いや、一つ面白い提案をしに来たんだ」
「面白い提案? 悪いが、俺はラブリーエンジェルたちへのリベンジをしなきゃならねえんだ」
話は終わりだとばかりに、俺に背を向ける男。
「ラブリーエンジェルたちとお前が戦った時、乱入してきた男がいるだろう?」
その言葉を聞いた瞬間、男の動きが止まる。そして、ゆっくりと俺の方に首を回し、顔を向ける。
「あの男と、ラブリーエンジェルの両方を倒せる方法があるぞ」
「……話を聞こう」
その言葉に、内心でほくそ笑む。
「ご協力感謝する。ゲロリン部隊長」
ゲロリンが勝てばそれでよし。負ければ、部隊長が一人消えるだけ。どっちにしろ俺にはプラスだ。
アーク。悪いが、お前の楽しみにしている学園祭は潰させてもらうぞ。
ありがとうございました!
本日、あと二回更新しようと思っているので、よろしければまたそちらの方も読んでいただけると嬉しく思います。
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