四人で
お久しぶりです!
よろしければ是非見てみてください!
家を飛び出した俺は近所の公園で頭を抱えていた。
「……どうすりゃいいんだ?」
必死に頭を回転させるがいくら考えても答えは出ない。
ふと、顔を上げて公園を見回すと、ベンチの方で女の子三人に囲まれている銀髪赤眼の男の子が目に入った。
男の子は女の子三人に好かれているようで、その腕を引っ張られていた。
おーおー、あの年からモテモテとは。
将来苦労するだろうなぁ。
今の自分と重ねて遠い目をしながら眺めていると、手の甲にヒヤリとした感覚が走る。
「久しぶりラブね」
「お前は……ラブリン!」
俺の手の甲にコーヒーが入ったペットボトルを当てながらラブリンはそう言って、俺の横に腰かけた。
ラブリン。自称妖精の奇妙な生物だ。
愛乃さんの家に行くと時々いる。
「ほら、早くコーヒーを取れラブ」
「ああ、ありがとな」
懐かしい存在の登場に驚きつつ、ラブリンからコーヒーを受け取る。
ラブリンにお礼を言ってからペットボトルの蓋を開ける。すると、ラブリンがペットボトルの蓋を寄越せと言ってきた。
指示に従い、蓋を渡すと、ラブリンは続いて蓋を俺の前に突き出す。まるで、ここにコーヒーを入れろと言っているかのようだ。
「感謝するラブ」
蓋にコーヒーを注ぐと、ラブリンは感謝を告げて一気にコーヒーを飲む。それから、「ぷはーっ」と気持ちよさそうに息を吐いた。
「で、なにを悩んでるラブか?」
「……やっぱ分かるか?」
「そりゃ、普段アホ面して笑ってる奴が下向いて歩いてたら誰だって気付くラブ」
そこまで一緒にいる時間は長くないが、こいつにもバレてしまうくらい俺の心情は態度に出ていたらしい。
「聞かせろラブ」
ペットボトルの蓋をベンチの上に置くと、ラブリンはそう告げた。
「お前がそこまで悩むってことは、それなりの理由がある……違うラブか?」
「俺とお前ってそんなこと言い合う仲だっけ?」
「これでも一応、遺伝子を共有した仲ラブよ」
ああ、そういやそんなこともあったっけ。
まあ、折角の機会だ。それに、近すぎない距離感の奴の方が話しやすいというのはあるかもしれない。
「ハーレムを作ろうって提案されたんだよ」
「ああ、やっとラブか。花音もかなり頑張っていたラブからね。それで、なにを悩んでいるラブ?」
「別にさ、提案されたことは嬉しかった。俺がイリスを好きなことに変わりはないけど、星川や愛乃さんが嫌いなわけじゃない。イリスがそれで喜んでくれるならそれでもいいとも思う。だけどさ、それはイリスのためであって、星川や愛乃さんのためではない」
俺はイリスを心から愛していると胸を張って言える。
だけど、他の二人は?
好きか嫌いかで言えば、好きだろう。だけど、俺のイリスへの思いと比べるとどうしても見劣りする。
果たしてそんな状況で三人と付き合うことが星川や愛乃さんのためになるのか。
俺はそう思ってしまう。
ただ、これに関してはどうとでもなる。
今はそうでも、この先どうなるかは分からない。
早い話、これから星川と愛乃さんと向き合って、胸を張って二人を愛していると言えるようになればいいってことだ。
ここまで来る時に、その答えには辿り着いた。
しかし、問題は次から次へと湧いて出てくる。
「でも、この問題はぶっちゃけそこまで重要じゃない」
「じゃあ、なんで言ったラブ……」
「まあ、あれだ。別にハーレムを作ることが嫌というわけじゃないって前提を伝えるためだ」
「なるほど……。じゃあ、なにを悩んでいるラブ?」
ラブリンが問いかける。
俺の悩みが正直人ではないラブリンに伝わるかは分からない。
だが、誰にも言わないよりはマシだろう。
「子供が出来た時の話だ」
「子供?」
ラブリンの怪訝な表情に静かに頷く。
いくら法律で決まったこととはいえ、人と違うということはそれだけで注目の的になる。
特に幼い頃は猶更だ。
高校一年生の頃、俺は両親を失くした子供としてそれなりに周囲から「可哀そうな人」という目を向けられていたし、それを鬱陶しく思う時期もあった。
他人と違うところなんて、誰だって一つや二つは持っている。
でも、狭いコミュニティほどその違いに敏感になりがちである。
安易な気持ちで俺がハーレムを作ったとして、その先にどんな問題が起きるか分からない。
そして、その問題に直面するのは俺ではなく俺の子供かもしれない。
俺の親父はバカだった。
だから、母さんを救おうとして俺一人を残してこの世を去った。
親父の行動を一人の男として尊敬するものの、俺は同じ轍を踏むわけにはいかない。
考えなしに行動した結果、子供が笑えない未来になりました、では意味が無いのだ。
長々とした俺の話を聞いたラブリンはポカンとした表情を浮かべていた。
「なんだよ、その顔は」
「い、いや、思ったよりも考えててびっくりしたラブ……。お前、本当にあのバカラブか?」
「失礼な」
俺はバカではない。
会社でもそれなりに優秀と言われるくらいだ。
「言っとくけど、問題は他にもあるからな。金なんて特にそうだ。一人の子供育てるのに莫大な金と時間がいるんだぞ。子育て舐めんな」
「それは失礼したラブ……。まあ、でも安心したラブ。あと、やっぱりお前はバカラブね」
俺が散々悩みを吐き出したというのに、ラブリンは呆れたような表情を浮かべていた。
なんと失礼な奴だろう。
「一人で突っ走るなラブ。大体、昔からラブよ。お前が初めからイリスが大好きな悪の組織の構成員です!! って叫んでたらもっとスムーズにラブリンたちは戦いを有利に進めることが出来たラブ」
「え、今更そのダメ出しするの?」
「大体、昔からお前は弱いところを好きな人に限って見せないラブよね。好きな人の前でこそかっこつけて、楽しませようと頑張って、素敵な奴ラブ!!」
なんだこいつ。
急に褒めだしてきたぞ。てか、なんでそれをラブリンが知っているんだ。
「そんな風にイリスが花音と会話してたラブ」
「あ、そうなんだ」
なるほど、納得だ。
そう言えば、ラブリンは愛乃さんと定期的に会っているみたいな話を愛乃さん本人から聞いたこともあるし、イリスとの会話を盗み聞きしていてもおかしくはない。
「でも、お前はもっと弱いところをさらけ出していいと思うラブよ」
「弱いところ?」
「お前の悩みとか不安とかラブ。何時だって、迷わず全速力で突き進むお前の姿勢はラブリンも好ましいと思うラブ。でも、それはラブリンが傍観者だからラブ。きっと、お前の傍で寄り添い合うことを願う人こそ、お前の悩みとか不安とかを受け止めたいって思っているはずラブよ」
言いたいことは言い終わったのか、ラブリンはベンチから立ち上がると、どこかへ飛んでいく。
「おいおい、どこ行くんだよ」
「帰るラブ。お前もさっさと帰れラブ。今のお前には待っている人たちがいるラブよ」
辺りを見回すと、少しづつ日が傾いてきていた。
確かに、そろそろ帰るには丁度いい時間帯かもしれない。
帰り道、一人で歩きながら考える。
結局のところ、俺は星川や愛乃さんと結ばれることに対する嫌悪感なんて欠片も無い。
寧ろ、イリスも喜んでくれて星川、愛乃さんも喜んでくれるなら嬉しいくらいだ。
なら、先ずは一歩を踏み出すことから始めよう。
その後に問題はたくさん付きまとってくるだろうが、それらは俺たちの問題である。
一人で背負って解決しようとすること自体が間違いということだ。
「ただいま!!」
「「「おかえり!」」」
家の扉を開けると、直ぐにイリス、星川、愛乃さんの三人が出迎えに来てくれる。
ラブリンも言っていたが、先ずは俺の思いをちゃんと伝えるとしよう。
「三人ともに聞いてほしいんだけど、俺はイリスが好きだ。愛している! これは自信をもって言える」
俺の言葉に星川が少しだけ視線を下げた気がした。
「でも、星川や愛乃さんの気持ちは嬉しいし、これから二人のことも胸を張って好きだって言えるようになりたいって思って」
今度は、星川と愛乃さんの表情が明るくなる。
「ぶっちゃけ、不安しかない! 考えれば考えるほど問題とか悩みが頭に浮かんでくるし、本当に俺が三人を幸せに出来るのかって思う」
多分、俺の声は震えていた。
そんな俺にイリスがゆっくりと近づいてきて、俺の手を握った。
「大丈夫」
「イリス……」
「あなたは何時だって私たちのことを支えてきてくれた。今こうして私があなたといられるのは、明里や花音と笑っていられるのはあなたのおかげじゃない。それに、今度はあなた一人じゃない。私もいる」
イリスが真っすぐ俺の目を見る。
「ちょ、ちょっとちょっと! 私もいるからね!!」
イリスの背後からひょこっと顔を出した星川がイリスが握っている方の手とは反対側の手を握ってくる。
「私もいるよ。悪道君が私たちを幸せにするんじゃなくて、私たち四人で幸せになりたいな。少なくとも私たち三人はその思いで悪道君に重婚を提案知るんだよ」
最後に、愛乃さんが何故か俺の背後に回り込み俺を後ろから抱きしめた。
「「なっ!?」」
「ちょ、ちょっと花音……! 今はまだ善喜の妻は私なのだけれど、妻を差し置いてそれはどうなのかしら?」
「んー。でも、これからは悪道君は私の夫にもなるんでしょ? なら、問題ないんじゃないかなぁ?」
先ほどまでの穏やかな笑みとは一転、イリスが頬を引きつらせながら花音に警告を発するが、そんなことお構いなしと言った様子で愛乃さんは俺の背中に胸を押し当ててくる。
ああ、これは中々。
「あなたもなんで鼻の下伸ばしてるのよ!」
「す、すいません!!」
怒られてしまった。
ここで、花音を見ていた星川が覚悟を決めた表情で俺の方を見てくる。
何をする気か分からないが、またイリスに怒られるかもしれないとだけ思った。
いっそ、先に謝っておこうか。
「え、えい!!」
可愛らしい掛け声と共に、星川が前から俺に抱き着いてくる。
「なっ!?」
「ふふっ。明里ちゃんも大胆だね」
「か、かのっちがいいなら、私だっていいでしょ?」
頬を引きつらせていたイリスだったが、その口を閉じてムッとした顔になる。
明らかに不機嫌ですといった表情だ。
「ごめん。愛乃さんも星川も一旦離れてもらえるか?」
「えー」
「はーい」
星川は渋々と言った様子で、対照的に愛乃さんはニコニコと笑顔で俺から離れていった。
愛乃さんだけは何を考えているのかさっぱり分からん。
二人が離れた瞬間に、イリスが俺の腕をギュッと抱きしめてきた。
「あの、イリス……さん?」
「なに?」
「いや、ちょっと真面目な話するから一回離れて貰えたらなって」
「私はあなたの妻よ」
「あ、はい」
こ、これはまさか……極まれに見る嫉妬してる時のイリスだ!
こうなるとイリスは頑なに俺の傍を離れない。
多分、悪の組織からイリスが脱退した時に、俺がイリスに付いて行かなかったことをずっと根に持っているのだろう。
「イリス、嫉妬しているのか?」
「悪いかしら? 私だって、不安はたくさんあるわよ」
ギュッと抱きしめる力を強めるイリス。
か、可愛いぃいい!!
好き!!!
「それで、悪道君の答えを聞かせてもらえるかな?」
ここで、愛乃さんが改めて俺に問いかける。
その問いは紛れもなく俺と星川、愛乃さんの関係についてだろう。
ラブリンにも言われたし、愛乃さんも言っていた通り、これから直面する問題はたくさんあるだろうが、それは俺たちで乗り越えて行けばいい。
十代の頃は「俺がイリス様を幸せにする!」なんて息巻いていた時もあったが、そうじゃない。
この人と幸せになりたい、そう思える人たちと支え合って、寄り添い合って幸せになる努力をしていくんだ。
「ああ。星川、いや、明里、それと、花音。俺とイリスと一緒に生きてくれないか?」
「「はい」」
明里と花音が笑顔を浮かべる。
そして、俺の横にいたイリスも俺の方を見て微笑んでいた。
この日から俺とイリスの家族に二人の妻が加わることになった。
「それじゃ、今日の夜は悪道君と誰が寝る?」
これから頑張るぞ、と意気込んでいるところにニヤニヤした笑みを浮かべた花音が爆弾を投下する。
なにいってんだこいつ。
「それは私よ。大体、ここは私たちの家だし、既に寝室だってあるのよ?」
「ちょっと待ってよ。イリちゃんは毎日一緒に寝てるよね? なら、今日くらいは私に譲ってくれてもいいんじゃない?」
「私は妻よ!」
「私だって妻だよ!!」
案の定、イリスと明里が火花を散らし始めた。
それを見て花音は楽し気に笑っている。
それでいいのか? 花音は花音でイリスや明里と一緒にいたがっていてんじゃないのか?
そう思いながら、花音の方に視線を向ける。
すると、俺の視線に気づいた花音が二ッと怪しげな笑みを浮かべた。
「悪道君……じゃなくて、あなたって言って方がいいかな。どうしたの、あなた。もしかして、今夜は私を指名したいの?」
やりやがったこいつ。
ぐりんっと凄まじい勢いでイリスと明里の鋭い眼光が俺を射抜く。
わあ、肉食動物に睨まれた小動物ってこんな気持ちなんだろうな。
「善喜、どういうことかしら? あなたが愛していると言ったのは私よね?」
「あっくん? 推しのアイドルと添い寝出来るなんてあっくんだけの特権だよ?」
これが修羅場というヤツなのだろう。
いや、でも全員同意の上で重婚したよね? それでも修羅場って起きるの?
あ、でも俺が逆の立場でも同じだわ。好きな人とは一緒にいたいよね。
イリスと明里に詰められる俺。
そして、そんな俺たちを見て何故か楽し気な花音。
花音がどういうつもりかはさっぱりだが、俺はこの状況を打破する方法を知っている。
「一人ずつなんてしけたことは言わねえ。全員愛してやるって決めたんだ! 皆で寝るぞ!!」
何故かその日の食卓には急遽買い出しに行って買い足された牡蠣とか鰻が並んだ。
とりあえず物語としてはここで終わろうと思います。
これからはこんな話書きたいなって思った時に一話か二話完結の話を書いていくつもりです。
ここまでご付き合い下さり本当にありがとうございました!!
追記
異世界ものを書いてみたくて仕方なかったので、書いてみました。
興味がある方は是非読んでみてください!
↓
「クソガキ覇王伝説」
https://ncode.syosetu.com/n5596hv/