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放課後にて②

ブックマーク、評価、感想をして下さった方々、本当にありがとうございます!


今回、少し長めです。

 星川と帰り道を他愛のない話をしながら帰る。とはいえ、会話の内容は九割星川の友達である愛乃さんと、イリス様のことだが。まあ、そうなっている理由は俺がその話が聞きたいと言ったからだが。


「イリちゃんとかのっちとは、この間三人でお泊り会したんだけど、イリちゃんはお泊り会とか初めてだったらしいんだよね。それで、三人でパジャマ姿でお話ししているときに、頬を少し赤くして照れながら「こういうの初めてで、よく分からないのだけれど、楽しい」ってはにかみながら言ってね! もう、可愛すぎて死んじゃうかと思ったよ!」


「死んじゃうかと思ったか……。甘いな。俺なら、一回死んで、再び白銀さんに出会うために生き返るくらいはするぞ」


「もーなに馬鹿なこと言ってんの!」


 星川は俺の反応を冗談と受け取って、笑っていた。冗談じゃないんだけどなぁ。

 それにしても、羨ましい。写真とか撮ってないのだろうか? いや、撮っていたとしても、ここで写真見せてというのはキモいか?


「「「きゃああああ!!」」」


 そんなことを考えていると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 どことなく、さっきまでとは空気も変わっているような気がする。この雰囲気には覚えがある。

 これは、「イヴィルダーク」の部隊長クラスが醸し出す雰囲気だ。


「ごめん! あっくん。私、急な用事が出来たから行くね! あっくんは直ぐに家に帰って!」


 切羽詰まった表情でそれだけ言い残すと、星川はどこかへ走り去っていった。


「あ! お、おい! 荷物……どうすんだよ」


 星川が走り去った後には、星川の荷物と供に、取り残された俺の姿があった。


 いや、立ちすくんでいる場合じゃない! 星川を追いかけねえと! 


 星川の急な用事が何かは分からないが、部隊長クラスが出たってことは街に行くのは危険だ。

 俺みたいに訓練された一般兵ならまだしも、普通の女子高生である星川が首を突っ込んでも碌な目に合わないだろう。


 全く、星川が傷つくとイリス様が悲しむんだよ!


 ため息を吐きながら、星川を追いかける。

 喧騒が大きな場所に近づくほど、逃げ惑う人々が増え、俺は星川を見失ってしまった。


 不味いな……。とりあえず、騒ぎの中心に行こう。そこに星川がいなければ一先ず安全な場所にいると考えていいはずだ。


 「イヴィルダーク」の部隊長と、ラブリーエンジェルたちがいるであろう場所へ俺は向かった。


「ゲーロゲロゲロ! その程度かああ!!」


「「「きゃあああ!!」」」


 現場に辿り着いた俺の目に入ったのは、カエルの頭をしたムキムキの怪人に、ラブリーエンジェルたちが吹き飛ばされるところだった。


 ああ! イリス様が! あのカエル野郎……!


 カエル野郎は許せないが、一先ずは星川がいないことを確認しなくてはならない。

 辺りを見回して、逃げ遅れた人々の中に星川がいないか確認する。


 良かった。どうやらいないらしい。


「きゃあ!!」


 ほっと一息ついた俺の耳に、イリス様の悲鳴が入る。

 悲鳴がした方に目を向けると、そこにはカエル野郎に踏み付けられるイリス様の姿があった。


「ゲロゲロ。人間どもを庇うからこうなるのだ。なあ、イリス。前々から甘いお前は気に入らなかったんだよ。それに、お前の部下のあいつにも散々世話になったしなぁ」


 ニタニタとイリス様を見下すカエル野郎。

 あいつは、「イヴィルダーク」の部隊長の一人である、ゲロリンだ。基地でもちょくちょくイリス様に突っかかってくる気に入らない奴の一人だった。

 いちいちイリス様に嫌味を言ってくるため、本気でムカついて、あいつに喧嘩を売ったことがある。イリス教徒と供に、拉致監禁して毎日のようにイリス様の素晴らしさを説き伏せた。

 それ以来、あいつはイリス様に突っかかるのをやめ、イリス様を崇拝するイリス教徒の一人となったはずだが、あの様子を見る限り洗脳は解けてしまったらしい。


「アークは……あなたの味方のはずでしょ?」


「あ? ちげえよ。あんな愛なんてものを自慢げに語る野郎が俺たちの味方なわけがないだろうが」


 ゲロリンの言葉にイリス様が驚きの表情を浮かべる。


 いや、俺もびっくりだよ。まあ、俺はカエル野郎には嫌われてるだろうから、そう言われても仕方ないかけど。


「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。さてさて、それじゃ俺たちにとって邪魔なラブリーエンジェル共を始末するか」


 ゲロリンが足に力を込め、イリスさんの背中を強く踏み付ける。


「ああああ!!」


 響き渡るイリス様の悲鳴。


 おいおい! 何やってんだよ黄色と桃色は!


 そう思って、辺りを見回すとそこにはネバついたものに拘束される黄色と桃色の姿があった。


 あれは、ゲロリンの唾液! あいつ、相変わらず気持ち悪い攻撃してんな……。

 いや、そうじゃない! 早くイリス様を救わなくては!


 だが、俺が動くより早く、ゲロリンは唐突にイリス様の背中から足を放した。


「いいこと思いついたぜ。イリス。お前をここに拘束して、お前の目の前で、お前が守りたかったものを全て壊してやるよ」


 ゲロリンが下品な笑みを浮かべ、口から唾液を垂らす。


「うぅ……」


 ダメージが大きいせいか、イリス様はうつ伏せのままうめき声を上げるだけだ。


 まさか……あの野郎、イリス様の美しく、穢れなき身体に汚らわしい唾液を浴びせるつもりか!?

 それだけは絶対に許せん!!


 辺りを見回して拳大程度の、手頃な大きさの瓦礫を拾う。


 あのカエル野郎に教えてやるよ。ガキの頃、町内会で敗戦処理を託された男のコントロールをな!!


「おらあ!!」


「ゲロオオ!?」


 唾液を垂らし始めたゲロリンの頬に瓦礫が直撃する。それなりの速さと質量を持った瓦礫を食らい、ゲロリンがよろめく。


「だ、誰だ!?」


 辺りを見回すゲロリン。だが、俺の存在には気付いていないらしい。

 まだイリス様は立ち上がれないようだ。なら、イリス様が回復するまで時間を稼ぐ!


 イヴィルダークの連中が暴れたことにより、出来たであろう瓦礫の中から手頃の大きさなものを選び、ゲロリンに投げつける。


「くっ! そっちか!」


 だが、瓦礫はあっさりと躱されてしまった。流石はイヴィルダークの部隊長クラス。警戒されていると、やはり攻撃を当てるのは難しい。


「おい。誰か知らねえが、邪魔するならただじゃおかねえぞ」


「てめえこそ、俺の大切な女神に手出してんじゃねえよ。このカエル野郎がよ」


 ゲロリンの前に姿を現す。ゲロリンの表情は怒りに満ちており、その目は確かに俺を捉えていた。


「てめえ……。よっぽど、殺されたいみたいだなぁ」


 これでいい。あのカエル野郎は単細胞のバカだからな。こうして、ちょっと挑発すれば直ぐに俺の方に注意を引き付けることが出来る。


「うそ……。あっく――「そこの人、逃げて!」


 黄色が何かを言いかけ、その言葉を桃色が遮る。

 悪いが、その声には答えられない。


「殺されたい? そりゃ、こっちのセリフだぜ」


 ゲロリンに一歩近づく。その一歩をゲロリンは宣戦布告と受け取ったのか、俺に飛び掛かってくる。


「てめえの罪は三つだ。一つ目、カエルの怪人とかいう余りにテンプレな怪人だということ。二つ目、そこの三人を痛めつけたこと。そして、三つ目は、俺の女神を汚そうとしたことだ! 食らえ! ジャスティスパン――ぐああああ!!」


 渾身のカウンターを叩きこもうとする俺の腹に、カエル野郎の舌が直撃する。身体が後ろに吹っ飛び、近くの建物に叩きつけられる。


「ぐはっ……」


 な、なんて卑怯な野郎だ……。舌なんて使われたら、リーチの差で俺が負けるに決まっているだろ……。


「けっ。雑魚が。粋がってんじゃねえよ」


 俺の身体に唾を吐き捨て、カエル野郎は背を向ける。


 そ、そんな……。俺、汚されちゃったよ……。まあ、でも俺の役割は果たせたな。


 新品の制服を汚されたことにショックを受けつつも、口角を僅かに上げる。


「もう、許しません」

「そうだね、私もちょっと頭にきたよ」

「はあ……はあ……。私もよ。ゲロリン。あなたは、絶対に許さない」


 俺の視線の先には、身体にオーラを纏いゲロリンの唾液による拘束を吹き飛ばした、黄色と桃色。そして、動揺にオーラを纏い立ち上がるイリス様の姿があった。


 ふおおお! 神々しい! 美しい! いや、こんなところで倒れてる場合じゃねえ! 早く、この気色悪い唾を吹き飛ばしてイリス様の姿を激写しねえと!


 ぐぐぐ……うらあ!


 全身に力を込め、唾液を吹き飛ばす。


 よし! 後は写真を撮れば……。あれ? 何か、変な音聞こえないか?


 耳を澄ますとグラグラと怪しげな音が聞こえる。恐らく、元々建物は壊れかけていたのだろう。そこに、俺の身体が直撃し倒れる寸前になっていた。ギリギリ耐えていたところに、俺が全身に力を込め、余計な衝撃を与えた結果、上から瓦礫が崩れ落ちてきた。


「うそん――」


 ガラガラガラ。


 俺の意識は身体と供に瓦礫の中に飲み込まれていった。


***



「――っくん! あっくん!!」


「ん……星川?」


 耳に飛び込む声に、目を開けると、俺の目の前には星川がいた。


「あ! 気が付いた! かのっち! イリちゃん! あっくん目を覚ましたよ!」


 星川は笑顔を浮かべると、隣にいた二人に声をかける。


「はあぁ。良かった。これで一安心だね」


「その馬鹿の自業自得だけれどね」


 愛乃さんが安堵のため息をつく。イリス様は言葉こそ素気ないものの、安堵の表情を浮かべているところから俺を心配してくれていたであろうことが伝わってきた。

 周りを見渡して、俺はおかしなことに気が付いた。


「あれ? 街が元通りになっている? さっきまでカエル野郎と三人の綺麗な子たちが戦っていたはずじゃ……」


 そう。カエル野郎に滅茶苦茶にされたはずの街が元通りになっていたのだ。当然、俺の身体に降りかかってきた瓦礫も跡形もなく消えている。おまけに、イリス様はいるものの残りのラブリーエンジェルのメンバーもどこかへ姿を消している。


「な、何のこと? 特に、何も起きていなかったよ。ね、イリスちゃん」


「そうね。善道君はここで寝ていたみたいだし、夢でも見ていたんじゃないかしら」


 いや、あれは確実に夢ではない。そう言おうとしたが、その前に俺に星川が詰め寄ってきた。


「それより、あっくん! 私、先に帰れって言ったじゃん! 何で約束破ったの!」


 星川がハリセンボンの様に頬を膨らませる。


「いや、普通に放っておくわけにもいかないし……。てか、もう完全に日が沈んでるじゃねえか!」


 辺りを見れば、もうかなり暗くなってきていた。

 こんな時間までイリス様を外に出しておけば、それこそ暗い闇の中で光に群がる羽虫の如く、男どもが集まりかねない。


「早く帰りましょう! 一人だと危ないんで、俺が送ります!」


 三人に声を掛け、早く帰る様に急かす。イリス様も、イリス様の友達も危険な目には合わせられない。

 三人は俺の身体を心配して、先に俺を家に送ってくれようとしたが、土下座して三人を優先して送らせてもらうことにした。


 最初に愛乃さん。次に、イリス様の家に着いた。二人とも、身体を大事にするように俺に言い残して、家の中へ入っていった。

 そして、残った星川を家まで送るべく、俺と星川は隣り合って歩いていた。


 それにしても、最後は星川か……。欲を言えば、イリス様と二人きりになりたかった。まあ、でも別にいいか。これから話せる機会も十分あるだろうしな。


「ねえ。あっくんってバカ?」


 のんびり歩いていると、唐突に星川が失礼なことを言ってきた。


「そんなわけないだろ」


 こう見えても、俺は賢い方である。イヴィルダークにいた頃、イリス様を気に入らないと思っている部隊長がゲロリンともう一人いた。そのもう一人は中々の頭脳派だったが、俺はそいつと互角以上に渡り歩いていた。

 なんなら、そいつもゲロリンと共にイリス教徒に変えてやった。

 つまり、イリス様が関わることに関して俺は頭脳明晰、アインシュタインも顔を真っ青にするほどの天才なのだ。


「じゃあ質問だけど、特別な力を何も持ってないのに、見ず知らずの人を助けるために行動して死にかける人をどう思う?」


 少しだけ、考えてみる。答えは割とすぐ出た。


「バカだな」


「でしょ? だから、あっくんはバカだよ」


 失礼な。俺は、見ず知らずの人のために命をかけたりしない。俺が命をかけるのはイリス様に不利益が生じるときだけだ。


「さっきのは例え話だけど、そういう行動は絶対にしないでね!」


 星川が強く俺に忠告してくる。


「分かった。でも」


 だから、俺はそれを条件付きで了承することにした。


「さっきの話が、見ず知らずの人じゃなくて、俺にとって大事な人なら、俺は命をかけるぞ」


「……は、はあ!? だ、ダメだよ! 自分の命を大事にしないとダメ! 死ぬかもしれないんだよ!?」


 一瞬、ポカンとした表情を浮かべた後、星川は首を振って俺の考えを否定する。


「俺にとっては、その人たちを助ける方が大事だ」


「そ、その人たちが凄く特別な人だったら? あっくんより、凄い力を持ってて、あっくんなんかじゃ役に立たないような状況でも助けようとするの?」


 星川の声は震えていて、どこか不安げだった。その震えの理由は俺には分からない。だが、ここで俺が答える返事は一つしかなかった。


「当たり前だろ。特別な人だろうと、苦しむときは来る。その時、俺は必ずその大切な人たちを助けるために行動する。だって、普段は俺の方が助けられてるんだから」


 そう。俺はイリス様に出会って、救われたんだ。

 色を失い、無気力に過ごしていた日常が、イリス様に出会ったことで鮮やかに光り輝く日々に変わった。

 誰かを愛することの素晴らしさを、心の底から理解した。

 だから、俺はイリス様に恩返しがしたいんだ。


 もちろん、結婚して愛し愛されもしたいけどな!


 ……でも、やっぱり俺の一番の目的は、イリス様に恩返しすること。つまり、彼女が幸せを掴めるようにすることだ。


「……やっぱり、バカじゃん」


 俺の言葉を聞いた星川は、そう呟いてから小さく微笑んだ。


「でも、あっくんの大切な人たちはあっくんのことを大切に思ってると思うよ。だから、無茶はしないでね! きっと、その人たちもあっくんのその気持ちだけで十分だって思ってるから!」


 さっきまでの不安げな表情とは打って変わって、晴れやかな表情を浮かべる星川。


「まあ、そうだな」


 イリス様が俺を大切に思ってくれる。そんな時が来れば、自分の身体も大事にしよう。


「それじゃ、またね! あ、そうだ! 今度の学園祭でかのっちとイリちゃんと踊って歌おうと思っててね、練習するんだけど、あっくん良かったら練習の手伝いとかしてくれないかな?」


「任せろ。何が必要だ? 何でも言ってくれ、明日には全て用意しておく」


「いやいや、そこまでしなくていいよ! ちょっと見て、感想言ってくれるだけでいいからさ。それじゃ、連絡先交換しよっか!」


 星川がスマホを取り出し、それを見てから俺もスマホを取り出す。


「うん! ありがとう!」


「おう」


 連絡先を交換して、直ぐにスマホにとある通知が入る。


「……目指せ未来のスーパーアイドル? 何だこのグループ」


「それが、私たちが作ったグループだよ。折角同じクラスになったし、これから学園祭に向けて協力する仲間だからね! それじゃ、明日からよろしくね!」


 それだけ言い残して、星川は自分の家の中に戻っていった。

 残された俺は、まさかと思いながらグループのメンバーを確認する。そこには、白銀イリスの名前があった。


 うおおおおお!!

 やったあああああああ!!


 イリス様の連絡先、獲ったどおおおお!!


 夜空に向けて、拳を突き出す。

 この日、俺は偉大なる一歩を踏み出した。

ありがとうございました!


モチベーションに繋がりますので、よろしければブックマーク、評価、感想お願いします!

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