触手少年ねっとり☆タッコン 第一話「幼馴染の心をねっとりキャッチ! 触手少年タッコン参上!」
泣く子も黙る新番組、今日からスタート!!
な、なにこれええええ!?
『これは、覚醒ってやつだね! 今までは君が乗り気じゃなかったから僕がベースのフォルムになっていたんだろう。でも、君が乗り気になったことで僕らは真の触手少年として目覚めたんだ! やったね!』
やったね! じゃねーよ!
いや、でも前の怪物らしい姿よりは何倍もマシだな。なんだか顔も元々の俺よりイケメンな気もするし……。
『あ、それは僕の影響だね。こう見えても僕、かなりのイケメンなんだよ』
え……。お前のイケメンさに引っ張られてちょっとイケメンになったってことは、俺はタコよりブサイクだったってこと?
『そういうことだね。ドンマイ!』
な、何か悔しい……!
「あ、あっくんなの……?」
星川の声が耳に入り、意識を現実に戻す。俺の目の前にはあからさまに狼狽えている星川とイリスさんがいた。
「そうだな、俺はお前のよく知る悪道善喜だ。だが、悪道善喜ではない!」
「ど、どういうこと?」
「さっきも言っただろう。俺は触手少年タッコンだ」
「なにそれ……。わけわかんないよ!」
「今はそれでいい。それよりもだ! 星川、お前疲れているな!」
ビシッと星川を触手で指さす。俺に指摘されたことが図星だったのか星川はたじろいだ。
「う……そんなことどうでもいいじゃん! それに、あっくんを助けるためだから仕方ないでしょ!」
「いーや、仕方なくないね。折角の可愛い顔が台無しだろ!」
「か、可愛いって……はっ! そんなこと言っても誤魔化されないんだからね! 分かったよ……。さてはあっくんの身体をその触手が乗っ取ってるんだね! 私を騙そうとしたってそうはいかないよ。あっくんはそこまで整った顔立ちじゃないし、触手も生えてないもん!」
星川の悪気のない言葉が胸に突き刺さり、身体がぐらつく。
整った顔立ちじゃないって……思っても言わなくていいじゃん。
『し、しっかりするんだ悪道! あの子はただ事実を言っただけだよ!』
うるせー! 事実だから傷つくんじゃねーか!
「あっくんを取り返すんだから……! 行くよ!!」
落ち込む俺に星川が飛び掛かる。
だが、俺の目には星川の動きがスローモーションに見えていた。
『ふふ。これがオクトパス・アイの力さ!』
おお! これは凄い!
俺目掛けて跳び蹴りをしようとする星川だが、今の俺にはその動きが全て見えている。
『そう! フリフリスカートの中までくっきりね!』
余計なこと口走んな!! この変態が!
『ひ、酷い!』
ちなみにスカートの中はスパッツだった。
飛び掛かる星川の全身に触手を伸ばし、羽交い絞めにする。
「きゃあっ! くっ……!」
触手を引きちぎろうとする星川。その細い腕からは考えられない凄まじい力だった。
くそ……。このままじゃさっきと同じことの繰り返しだ。何とか策を練らなくては……。
『それなら僕にいい考えがある! 大きな声で「テンタコル・サーチ」と叫ぶんだ!』
よく分からないが、このタコは触手少年についてなにやら詳しそうだし信じることにしよう。
「テンタコル・サーチ!!」
俺が大きな声を出すと共に、腰回りの触手がうねうねと動き出し星川の身体をまさぐり始める。
「ひゃっ! な、なにするの!? あ、そ、そんなところまで……だめだってばぁ!」
『説明しよう! テンタコル・サーチとは触手を用いて対象を調べ上げる技なんだ!』
おお! なんか凄いぞ! ようは弱点とか相手の得意技が分かったりするってことだよな!
『そうだね』
そういうことならと、俺も触手に力をこめ星川の全身をまさぐっていく。
「んあっ! そ、そこは……!」
すると、胸の辺りを触れた時に星川の反応が変わる。
明らかに声がワントーン高くなったし、全身が弛緩した。
『分かったよ! そこが彼女の弱点だ!!』
よしきた! 俺に任せろ……ってバカか!!
『え?』
え? じゃねーよ! 弱点ってそういうことかよ! それはダメだろ!
そういうことは好きな人相手じゃないとダメだって。
『でも、気持ちよさそうだよ?』
タコの言う通り、星川の目はやや潤んでおり、突然手を止めた俺の表情を伺うように上目遣いをしてきていた。
「あ、あっくん……?」
……いやいや、いくら何でもそれはダメだ。理性をしっかり保て俺。
『やらなきゃやられるんだよ! しっかりしろ! 彼女の身体は疲れ果てているんだ! 誰かが止めなきゃいつかパンクするよ!』
た、確かに、誰かがやらなきゃいけないならせめて俺がやるべきか……?
『そうだよ! やーれ! やーれ!』
そうだ……そうだけど、胸はなぁ。
『股のあたりも弱点だよ!』
もっとダメ! 他にないのか?
『他? 他だと、足裏とか脇とか首筋かなぁ』
よし! そこで手を打とう! その辺を重点的に責めつつ、全身をマッサージしていく!
タコ、触手からリラックス効果のある粘液は出せるか?
『任せてよ!!』
葛藤時間はおよそ一秒。結論を出した俺は星川を癒すべく触手を星川の首筋、脇の下、ブーツの中にねじりこむ。
「きゃあ!? んっ……くっ……ど、どこに触って――ひゃああああ!!」
星川の喘ぎ声にも聞こえる悲鳴が昼の公園に響き渡る。
フリフリの衣装に身を包んだ女性を触手まみれにするおかしな姿の人間。周りから見れば変態かもしれない。
だが、これは星川のためだ。無理をしている星川を強制的に休ませるため!
いやらしい気持ちなんて一切ない!!
「あんっ……だ、だめだめだめなの! わ、私はあっくんを助けるために戦わなきゃっ!!」
星川の気持ちは正直に言えば嬉しい。だが、それが原因で星川に傷ついて欲しくはない。
「星川、お前が俺を思うように俺もお前を思ってる。しっかり休めよ。俺は元気なお前の姿が見たいよ」
「あ、あっくん……?」
「大丈夫、今は無理かもしれないけど必ずお前のもとに戻って来るから。だから、今は休んでくれ」
時には本人の思いを無視してでも止めることが必要なのだ。本人の意思を尊重した結果、潰れていった人たちがこの世界にはたくさんいるんだから。
「あ――」
星川の身体が一際大きく跳ね上がり、コテンと力なく首が項垂れる。
脈拍や呼吸を確認するがどれも正常だった。
「ふう……。これにて一件落ちゃ――」
ヒュン!
突然、俺の頬を一本のステッキがかすむ。
俺の頬からは血がたらりと零れ落ちていた。
「明里ちゃんに何してるのカナ?」
振り返った先にいたのは、桃色の鬼、いや、変身した愛乃さんだった。
少しでも動けばやられる。それほどまでに愛乃さんが放つオーラはひりついていた。
「その顔、悪道君に似てるけど……あなたは悪道君なの?」
「悪道であり、悪道じゃない。俺は触手少年タッコンだ」
「ふざけてるの?」
「いや、真面目だ」
「明里ちゃんに何をしたの?」
「疲れているみたいだから全身マッサージした」
「嘘でしょ。マッサージしただけでどうして明里ちゃんは気を失っているの?」
「き、気持ちよすぎたんだろ」
質問に答えるたびに愛乃さんの目が険しいものに変わっていく。
ま、まずい……確かに端から見ればこの光景は完全に俺が悪者だ。
『美少女二人目だ! あの子も触手でねちょねちょにしちゃおうよ!!』
脳内でタコは歓喜の声をあげるが、間違ってもそんなことをするわけにはいかない。
てか、愛乃さんに隙が無さ過ぎてそれを出来る気もしない。
「……明里ちゃんに危害を加える気が無いなら、明里ちゃんを解放して」
「分かった」
一瞬迷ったが、今の星川は安らかな表情をしている。
星川ともう少し話したかったが、星川の疲れをとるという俺の目的は果たせているし、解放してもいいだろう。
触手に包まれている星川の身体を愛乃さんの前に優しく置く。
愛乃さんは俺の動きを警戒しつつ星川に近づき、異常が無いか確かめていた。
丁度いい。この隙にさっさと退散しよう。イリスさんもさっきからポカンとした顔でこっちを見てるし。
「イリスさん、今日はここまでにしましょう」
「え、ええ……。その、あなたはタッコンなのよね?」
「はい。触手少年タッコンです」
「そ、そう」
イリスさんに触手を伸ばすと、戸惑いながらも彼女は触手を手に取り立ち上がった。
少しずつではあるが公園周りが少々騒がしくなってきた。野次馬たちが集まってきたのかもしれない。
注目される前にさっさと立ち去らないとな。
「待って」
立ち去ろうとする俺の背に愛乃さんの言葉が投げかけられる。
振り向き、愛乃さんを見つめる。愛乃さんはどこか不安げだった。
「あなたの目的はなに?」
「星川と一緒に笑顔で生きること。それと、触手のよさを世界に広めることかな」
「触手……?」
普通に生きていたらまず聞くことのない単語に愛乃さんは首を傾げる。
そんな愛乃さんを尻目に俺は公園を後にした。
「良かったの?」
イヴィルダークの基地に戻ってから、イリスさんは俺にそう問いかけてきた。
「何がですか?」
「……その、さっきの二人のことよ。きっとあなたの知り合いだったんでしょ? 私が言えることでは無いかもしれないけど、帰る場所があるならあなたはそこに帰るべきじゃないかしら」
儚げな笑みを浮かべつつイリスさんはそう告げる。
正直、俺もさっさと星川のもとに戻りたいと思っていた。だけど、そういうわけにもいかない。今の俺の身体は俺だけのものではないのだから。
「まだやり残したことがあるので、帰るわけにはいきません」
「それは、彼女たちを置いてでもやらないといけないことなの?」
「はい」
「そう……。ごめんなさい、少しだけ一人にさせてもらえるかしら」
「分かりました」
俺の返事を聞くと、イリスさんは自分の部屋に入っていった。最後に見た横顔はどこか寂しげだった。
残された俺は基地の中をぶらついていたが、ふと星川のことが気になった。
俺の知らない間に星川は随分と責任を抱え込んでいた。今回、一時的に星川を休ませることは出来たけどまた同じことが起きるかもしれない。
せめて星川に俺は大丈夫だと伝えられれば良かったんだけどな……。
『それなら会いにいけばいいじゃないか』
会いに行くって言ったって、基地の出入り口には見張りがいつもいるし、無理じゃないか?
『それなら大丈夫さ。壁に張り付いて呼吸を止めるんだ』
タコの指示に従う。すると、呼吸を止めた途端に俺の姿が壁の色と同化した。
こ、これは……!?
『擬態って奴さ。タコの中には擬態することを得意とするものもいる。その力が使えるのさ』
なるほど! これなら、呼吸を止めている間だけ見張りに気付かれることなく外出出来るってことか!
『そういうことさ』
そうと決まれば話は早い。
基地内の人が殆ど寝静まる夜を狙って行動を開始するとしよう。
星川と再会したタッコンは星川を触手信者にできるのか!?
次回、触手少年ねっとり⭐︎タッコン!
「触手と俺と星川明里」
お楽しみに!