表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/154

流星

今回、ついに怪人タッコンの恐るべき計画の全容が明らかになります。

 街中へ向かうに当たり、イリスさんが真っ先にしたことは俺に変装させることだった。


「はい。これの中に入りなさい」


 イリスさんが渡してきたのは大きめのクマの着ぐるみだった。

 何故クマ? と思いつつクマの着ぐるみの中に身体を入れる。八本ある触手のせいで少し窮屈だったが、タコの柔軟性を活かして見事に収まることに成功した。


「いい感じね。それじゃ、今から街に出るけど約束して欲しいことが三つあるわ。一つ、私の言うことを聞くこと。二つ、私の傍を勝手に離れないこと。三つ、人を傷つけないこと。いいわね?」


 イリスさんの言葉に頷く。

 意外だったのは三つ目だったが、イリスさんがただ人を苦しめたいだけの悪い人じゃないということは何となく理解した。


「それじゃ、行きましょうか」


 シャツにパンツスタイルというシンプルな格好をしたイリスさんについていく。

 今回はイリスさんと俺だけのお出かけらしい。となると、大方また公園にでもいくのだろう。


 基地の外に出てからもイリスさんの後ろをついていく。周りからの視線をひしひしと感じるが、話しかけられたりはしない。

 まあ、イリスさんのような美人が着ぐるみを連れてたら何かのイベントとか、撮影とかを想像するのかもしれない。

 周りの視線など一切気にすることなくイリスさんは目的地へ足を進める。対照的に俺は首を動かして周りをきょろきょろと見つめていた。


『どうかしたのかい?』


 俺の様子を不思議に思ったのか、タコが脳内で問いかけてくる。


 いや、久々の街だし、星川いないかなーと思って。


『ああ、君の幼馴染か。確かに、久しぶりに顔を見たくなるよね』


 まあな。お前には会わせたくないけど。


『な、なんでだい!? 僕らのたくましい触手をアピールしなくてもいいというのかい!?』


 だって、お前が星川見たらすぐに襲い掛かるじゃん。


『失礼な! 僕はそんな節操のない獣じゃないよ! 僕が襲い掛かるのは、あくまで触手の素晴らしさを知らずに触手を嫌う人だけさ』


 どーだかな。


 タコと脳内会話をしている内に、公園に辿り着く。

 今日も公園では子供たちが元気に遊んでいた。先週、タコの怪人に襲われたというのに呑気な連中である。


「わー! イリスちゃんだー!!」


 イリスさんが公園に入ると、イリスさんに気付いた子供たちが数人駆け寄って来る。

 駆け寄ってきた子供たちにイリスさんは柔らかな笑みを浮かべながら何やら話していた。


 うーむ。それにしても、休日に子供と戯れる悪の組織の女幹部ってどうなんだろ?


『悪の組織を裏切るフラグがビンビンに立ってるよね。逆にいつ裏切るんだろって期待してる自分がいるくらいだよ』


 それは確かにそう。

 てか、イリスさんが悪の組織を出て行ったら俺どうなるんだろう?


『ん? そんなの決まってるよ。イヴィルダークのボスを触手まみれにして、イヴィルダーク改め、『触手を広める会』を結成するのさ。月に二回の触手セミナーは欠かせないよね。後は、会員一人一人に触手を生やしてマッサージ店として活動するのもありかな。そして、この街の住民を触手無しでは生きていけない身体にするのさ。ゆくゆくは全国、いや、世界中にチェーン展開したいところだね』


 お前、そんなこと考えてたのかよ……。


『まあね。今はまだ十数人しか僕らの味方はいないけど、イリスさんが出て行く前には組織の三割は僕らの味方にしておきたいね』


 想像以上にタコがちゃんと計画を練っていてビビった。

 でも、話を聞く限りこいつは悪いことをしようとしてるわけじゃないんだよな。


 考え事をしていると、脇腹を誰かにつつかれた。横を見ると、そこには一人のちびっこがいた。


「ねえねえ、クマさんはなんでここにいるのー?」


 キラキラと目を輝かせながらちびっ子が俺に詰め寄る。

 何故ここにいるのか? か。難しい質問だ。

 まあ、強いて言うならば……。


「……アイユエニ」

「あいゆえに……? なにそれー。みなみ、わかんないやー」


 おっと、どうやらちびっ子には難しすぎたらしい。だが、いずれ分かるときもくるだろう。

 その時はもうちびっ子ではなく立派なレディーになっている時かもしれないがな。


 そう心の中で口にしつつ、ちびっ子の頭を優しく撫でる。

 撫でられたちびっ子は、警戒心が薄いのかキャッキャと喜んでいた。


『……ロリか』


 唐突にタコの神妙な声が脳裏に響く。

 嫌な予感がビンビンにする。


 おい。変なことするなよ。


『…………』


 無言になるなよ!


『いや、でも僕らの目的を考えれば子供たちに触手の良さを普及するのは大事だと思わないかい? 既に触手に悪いイメージを持っている大人たちを変えることは難しいが、まだ何も知らない子供たちに触手は良いものというイメージを付けることは容易い。だからこそ、子供たちへの教育は大事だと思うんだよ』


 お前の言う教育は子供たちを触手まみれにすることだろ。それで、先週恐れられたことを忘れたのか。


『まあ、確かにそうだね』


 タコにしてはあっさりと引き下がったな、そう思いつつ意識をちびっ子たちに向ける。

 ちびっ子は俺の着ぐるみの毛皮で出来ているお腹部分をもふもふしていた。


「ねえねえ、だっこしてー」


 ちびっ子にねだられる。まあ、抱っこくらいならいいか。

 そう思いながら、ちびっ子の身体を持ち上げる。


「きゃー! たかーい!」


 タッコン――現在の俺の身長はおよそ二メートルはある。それはかなりの高さだ。

 持ち上げられたちびっ子は嬉しそうに笑っていた。

 それを見て、周りのちびっ子たちも羨ましそうにこちらを見る。


「タッコン。あの子たちとも遊んであげたら?」


 俺の様子を見たイリスさんがそう言ってくる。

 まあ、上司の提案とあれば断れないな。

 そう思いながら、高い高いをしているちびっ子を肩車して、羨ましそうにこちらを見ているちびっ子たちの下へ向かった。



********



 二メートル越えのクマの着ぐるみの接近に、子供たちは興味と不安が入り混じった表情を浮かべていた。


「……アソボウ」


 タッコンは子供たちに近づくとそう呟いた。

 その一言に、何人かの子供たちは顔を見合わせる。興味はある。でも、後一歩踏み出す勇気が出ない。


「このクマねー、すごいんだよ! たかくてね、とおくまでみわたせてすっごくきもちいいの!」


 そんな子供たちに、着ぐるみに肩車されたら少女が話しかける。その表情は心底楽しそうであった。

 そして、その言葉が決め手だった。


「ぼ、ぼくもやってほしい!」

「おれも!」

「わたしだってやってほしいよ!」


 続々と子供たちがタッコンに駆け寄る。その子供たちを順番にタッコンは持ち上げたりしながら、子供たちを喜ばせた。



「……やっぱり、あなたはそっち側の人よね」


 子供たちと戯れるタッコンを見て、イリスはどこか寂し気に呟く。

 この数日、イリスは徹底してタッコンに雑用ばかりさせた。その理由は、タッコンにその手を汚して欲しくなかったからだ。


 タッコンは優しい。

 それは、ここ数日のタッコンの行動を見ていても何となく分かる。気付けばタッコンを慕う下っ端たちだっていた。


 だからこそ、イリスはタッコンにはこちら側へ来て欲しくなかった。愛を憎み、世界を呪い、人の不幸を消すために人の幸せを消すような存在になって欲しくなかった。


 イリスは愛を憎んでいる。愛を理由に人を不幸にする屑がいることを知っている。

 それでも、愛によって幸せになる人たちがたくさんいることを知った。知ってしまった。

 イリスには分からない。自分の行動の是非が。


 だから、せめてタッコン――望まずにその姿になってしまった人には、間違っているかもしれないことに加担させたくなかった。


 そして、それは間違いではなかったとイリスは悟った。子供たちをあんなに笑顔に出来る人間が、悪に染まっていいはずがない。

 それと同時に寂しさも感じる。

 いずれ来るであろうタッコンとの別れを想像して。


「「「きゃあああ!!」」」


 突然、公園に悲鳴が響く。その悲鳴にイリスは顔を上げ、悲鳴が聞こえた方に視線を向ける。


「ゲーロゲロ。さて、久々にひと暴れするか」

「「「アイー!!」」」


 視線の先にいたのは、ゲロリン――イヴィルダークの部隊長の一人と、ゲロリンに従う下っ端たちの姿だった。


 その姿を見た瞬間、イリスは行動を開始する。


「皆、ここは危ないわ。早く逃げなさい!」


 子供たちに呼びかけ、素早く公園から逃げるように指示をする。イヴィルダークの部隊長であるイリスの行動は矛盾したものだが、少なくとも、今のイリスは子供たちが襲われるところを黙って見逃せるほど大人ではなかった。


「タッコン! そこの子供たちを連れてあなたも逃げなさい!」


 タッコンに声をかけると、タッコンは静かに頷いて子供たちを連れて何処かへ走り去った。

 公園に一人残されたイリスも直ぐにその場から撤退しようとする。だが、イリスの耳に子供の鳴き声が入った。


「ママー!」

「アイー!」


 転んでしまったのだろう。子供の膝には擦り傷が出来ていた。そして、泣きじゃくる子供は背後から忍び寄る下っ端に気付いていないようだった。

 泣いている子供が、幼い頃の自分と重なった。


「危ない!!」


 声を上げると同時にイリスは走り出す。

 自身がイヴィルダークの部隊長であることはもう頭から完全に抜け落ちていた。

 それでも、あと一歩間に合わない。


 背後から忍び寄る下っ端に気付き、子供の表情が歪む。

 必死に手を伸ばすイリス。だが、その手は届かない。

 今にも下っ端の魔の手が子どもに触れる。その瞬間だった。


「アイイイイ!?」


 流れ星の如く飛来してきた黄色い髪の女性が下っ端の身体を吹き飛ばす。

 そして、輝くような黄色い髪を靡かせ、その女性は辺りを見回してから、強くイヴィルダークの構成員たちを睨みつける。


「あっくんは……どこ?」


 その鋭い眼光にゲロリンを含めてイヴィルダークの構成員は震えあがった。


もうすぐ会えるね…………あっくん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アカリンだよね? 随分雰囲気変わったけど(´・ω・`)
[一言] あとがきがヤンデレ化した明里になってます(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ