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夕陽が沈みゆく中、君に伝える言葉

 勝った!


 小躍りしだしそうな気持を抑えて、心の中でガッツポーズする。

 星川から手を繋ごうと言ってきた。星川は、「幼いころからよくやってたじゃん」と言っていたが、それとこれでは全く別物である。

 その証拠に星川の耳は少し赤かった……ような気がした。

 勿論、俺も照れている。だが、星川も照れているはずだ。そして、その照れこそが、星川が俺を男として意識し始めているという何よりの証拠。

 更に、嫌いな人と自ら手を繋ごうとする人はいない。

 以上のことから、星川は俺のことを異性として好き!


 ここまで、割と長かった……かもしれない。いや、そんなこともないか。

 何だかんだ言ってデート一回目で決着ついたようなもんだしな。星川チョロいな。


「ひえ!」


 そんなことを考えていると、頬にひんやりとしたものが当たる。

 思わず変な声が出てしまう。

 左側を向くと、そこにはクスクスと笑う星川がいた。


「あっくんっていい反応するよね。それで、何を考えてたの?」


「あ、いや、何でもない」


 流石に星川本人に星川をチョロいという訳にもいかない。


「ふーん。まあ、言いたくないならいいよ。ところでさ、ほら、あっくんもヒトデ触らない?」


 そう言うと、星川は水槽内のヒトデを指差した。

 ここは触れあいコーナー。一部の海洋生物と触れあえる場所だ。先ほど、頬にひんやりとした感覚があったのは、星川が濡れた手で俺の頬を触れたからだろう。


「そうだな」


 水槽の中のヒトデをちょんちょんと触る。

 すると、ヒトデは少しだけ動いた。


 可愛いじゃないか。


「可愛いね」


「ああ。そうだな」


 ヒトデに触っている間も、星川の片手は俺の手を離さなかった。



***



「楽しかったねー!」


「そうだな」


 触れあいコーナーを離れた俺たちはお土産売り場に来ていた。

 ペンギンやらアシカのぬいぐるみを見て回る。星川がお土産に夢中で俺の手を離してしまったことは残念だが、星川が楽しそうならそれでよしとしよう。


「あ、悪い星川。ちょっとお手洗い行ってくるわ」


「そう? なら、私も行っておこうかな」


 一旦、お土産コーナーを離れ、トイレに向かう。

 素早く用をたした俺は星川がまだ来ていないことを確認してお土産コーナーに向かう。

 そして、ヒトデ型か星型かよく分からないペアストラップを購入した。


 俺はこれを手土産に夕陽の見える海辺で告白する。

 ぶっちゃけ、ほぼ間違いなく告白は成功すると思っている。逆に成功しないことがあるのだろうか?


「あっくん、お待たせ」


 そうこうしている内に星川がやって来た。

 相変わらず可愛い。


「じゃあ、帰ろっか」


「お土産はもういいのか?」


「うん」


「なら、最後に夕陽を見てから帰らないか?」


「……うん。いいよ」


 俺の言葉に星川はゆっくりと頷いた。



***



 夕方の浜辺は海も空も当たり一面がオレンジ色に美しく染まっていた。


「わあ。綺麗」


 夕陽を見て星川が目を輝かせる。そして、海に向かって走り出した。


「ほら! あっくんも来なよ!」


 こちらを振り向いた星川が笑顔を浮かべる。その笑顔は夕陽に負けないくらい綺麗で、眩しかった。

 はしゃぐ星川の傍に歩み寄る。

 一度目を閉じてから、俺は星川の顔を真っすぐ見つめた。


「星川、これ貰ってくれるか?」


 星川に向けてペストラップの片方を差し出す。


「これは……?」


「さっき買ったんだ。星川。改めて伝えたいことがある」


 星川は静かに頷く。

 これから言われることに想像はついているのだろう。星川の表情は真剣なものだった。

 深く息を吐いてから、気持ちを落ち着かせようとする。だが、高鳴る鼓動が収まる気配は無い。


 こればっかりは仕方ない、か。


 決意を固めて星川を見る。


「星川、俺は星川のことが――」


「シャッシャッ。真っすぐで大きな愛。実験対象には十分な器ですねぇ」


 耳障りな甲高い声が直ぐ後ろから聞こえたと思った瞬間、背中に何かが突き刺さる。

 振り向くと、そこには蛇のようなギョロっとした目を持つ白衣の男がいた。


「あっくん!!」


 星川が俺の名を呼び、俺に手を伸ばす。

 その手を掴もうとしたその瞬間、心臓が一際大きく脈打つ。それに伴い全身に激痛が走る。

 肉体から可笑しな音が鳴り始めたかと思えば、腕が足が姿形を変えていく。


「キエエエ!!」


 そして、奇声を上げるタコの姿をした怪人がその場に誕生した。


 は!? 何で!?



***



「キャアア!!」

「ひ、ひい! 化け物だああ!」


 悲鳴を上げ、次々と浜辺から逃げ出す人々。


「シャーッシャッシャ! 素晴らしい! 実験は成功です! これでまた、私の科学は新たな世界へ突入する!!」


「「「アイー!」」」


 高笑いを浮かべる白衣を着た蛇男と全身黒タイツたち。


「キエエエエ!!」


 奇声を上げて触手をブンブン振り回すタコの怪人。……というか、俺。


 ここまで来れば流石に俺も状況を理解する。

 大方、イヴィルダークの連中がしょうもない企みをして、この俺をタコの怪人へと変えた。

 そんなところだろう。


「キャアア!」


 俺の触手が一般人に襲い掛かる。


 右!!


 だが、俺が強く念じると僅かに触手は右にずれ、一般人に直撃することは無かった。


 完全にこの肉体を制御することは出来ないが、まだ俺の支配下を離れたわけではないらしい。

 とはいえ、何時までこの状態が続くかは分からない。漫画やアニメでも、こういう展開になると、怪人にされた人間はいずれ正気を失い、ただ全てを破壊する殺戮兵器へと化してしまうのが定番の流れだ。


 しかし、心配はいらない!

 何故かって?


「あっくん……! 直ぐに助けるから!」


 だって、ここには俺の愛する正義のヒロインがいるから!


 俺の目の前にいる星川を光が包み込み、その姿を変えていく。

 どうせ俺も変身するならもっとかっこいい生物に変身したかった。例えば、カブトムシとかサメとか。そういえば星川がタツノオトシゴをやけに勧めて来てたな。

 タツノオトシゴでも良かった。


 なのにタコって!

 いや、生物としての能力の高さを考えればタコは優秀な部類だ。だが、かっこよくない!

 寧ろ気持ち悪い。タコの怪人なんて女の子受けは当然ながら男受けも悪いだろう。

 こんな醜い姿は嫌だ。早く倒して欲しい。


「……コロ……シテ………」


 そんなことを思っていると、俺の目から涙が零れ落ちた。

 殺してまでは思ってない。それに、涙を流すほどの悲しみを抱いてない。

 本当に思い通りにいかない身体だ。


「……っ。あっくん。大丈夫だよ。直ぐに助けるからね」


 変身した星川が一瞬悲痛な表情を浮かべる。だが、直ぐに俺を安心させるように微笑んだ。


「シャーッシャッシャ! 行くのです! 我が忠実な下僕、『タッコン』よ!」


 ネーミングセンス無いな、あいつ。


「キエエエエエエ!!」


 俺の胸の内に呼応するように、蛇男の言葉に俺の肉体が叫びを上げる。

 そして、星川に向けてその気色悪くヌメヌメした触手を放つ。


 こいつ! 星川になんてことを!


 必死に触手が星川に当たらないように動かす。


「きゃああ!!」


 だが、不運にも俺が途中で無理やり動かした方向が星川が触手を躱そうとした方向と被ってしまった。

 結果、星川から見ると触手が自分を追尾してきたようになり、星川に触手が直撃した。


 やっちまったあああ!!


「キエエエエ!」


「シャーッシャッシャ! 素晴らしい! 素晴らしい力ですよタッコン! その調子で憎きラブリーエンジェルを倒すのです!」


 蛇男が歓喜の声を上げる。


 くっそ。何だあいつ。ぶん殴りたい……!


「シャッ!? ギョエエエ!!」


 そう思っていたら触手が蛇男の方に飛んで、蛇男を吹き飛ばした。


 おお。気が合うじゃねえか。よし、この調子で蛇男をボコろう。星川に攻撃、ダメ、絶対!!


「くっ! 私ではありません! タッコン、そこの女を倒すのです!」


 だが、蛇男が命令を一つすると俺の肉体はそれに従い動き始める。


 ちくしょう。どうやら、あいつの命令には逆らえないらしい。


「負けない。絶対にあっくんを助け出して見せる!」


 俺の触手を食らった星川が立ち上がり、そして力強く叫ぶ。

 その目には強い意志が宿っていた。


 頼む星川! 助けてくれ!!


「キエエエエ!!」


 大切な人を守るため立ち上がる星川明里に、「受けて立つ」と言わんばかりにタコの怪人は雄たけびをあげた。

ほのぼの日常系を書いてるつもりだったのに、どうしてこうなった?

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― 新着の感想 ―
[一言] やめて!イヴィルダークの特殊能力で、タッコンが蛇男に命令されたら、タッコンに変身させられた悪道の精神まで操られちゃう! お願い、負けないで悪道!あんたが今ここで堕ちたら、明里や光里さん達と…
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