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作戦会議は必須

いつも読んでくださり、ありがとうございます!

 昼休みが終わり、放課後がやって来た。

 星川と帰ろうと思い、荷物をまとめる。すると、星川が俺の方に近づいて来た。


「あっくん。私、今日はかのっちと用事があるから先に帰っててよ」


「用事? 何の用事なんだ?」


「ちょっとしたお悩み相談かな。でも、これはあっくんにだけは出来ない相談だから! だから、絶対についてこないね! それじゃ、またね」


「お、おう。また」


 星川は俺に手を振ると、足早に教室を出て行った。


 俺に絶対に出来ない相談って何だよ……。

 まあ、昼休みの時も何か話してたみたいだしその続きなのだろう。


 星川と帰ろうと思っていたが、一人になってしまった。このまま一人で帰ってもいいが、何だか勿体ない気がする。

 そう思っていると、俺の前の席にいる佐藤が目に入った。


「なあ、佐藤。これから暇か?」


「……ん? まあ、今日は暇だけど」


「おお! それは良かった! じゃあ、ちょっと付き合ってくれよ」


 佐藤との約束を取り付けた後、教室を見回す。

 教室内には、まだチラホラと生徒が残っており、その中に根川と出井田の姿もあった。


「根川、出井田。この後、時間あるか?」


「作戦会議ー? いいよー」

「ふむ。この後の予定は授業の復習くらいしかない。私も暇といって差し支えないだろう」


 根川と出井田の確認も取れた。

 折角出来た時間だ。どうせならこの四人で話し合いを行おう。


 教室に長居するのも良くないということで、四人で近場のファミレスに向かい、そこで話をすることになった。



***



「それじゃ、話をするか」


 四人分のドリンクバーとフライドポテトを一つ頼み、それぞれがドリンクを入れてから席につく。

 

「ふむ。今回の議題は何だ?」


 出井田の問いかけに少し考える。

 大雑把に言えば、星川を落とす方法だが、こういう時に抽象的な議題を出すと話が広がり過ぎて収拾が付かなくなる。

 ここは俺がある程度話すテーマを絞った方がいいだろう。


「そうだな。実は、今週末に星川をデートに誘うつもりなんだ。だから、デートの誘い方とデートでやった方がいいことをテーマとしよう」


「はいはーい」


 俺の言葉を聞くと、直ぐに根川が手を挙げた。


「根川、何だ?」


「デートで行く場所は決めてるのー?」


「いい質問だ。今のところ、水族館に行こうと考えている。星川も水族館は割と好きだからな」


「水族館か。イルカショーは外せないな。星川さんの好きな魚とか海洋生物とかは分かっているのか?」


 佐藤の言葉に頷く。


「当たり前だろ。星川の好きな海洋生物はヒトデだ。星の形をしているところに運命を感じているらしい」


「なるほどねー。なら、当日はヒトデのコスプレしていくー? もしかしたら、好きだって抱きしめてもらえるかもよー」


 根川がフライドポテトを口に放り込んでから、そう言った。


「根川……。お前、天才か?」


「へへへ。そうでもないよー」


 誇らしげに鼻をこする根川。

 余りにも革命的な案に俺は驚きを隠せずにいた。


「……ふむ。私が読んだ恋愛漫画ではそういった格好をする登場人物はほぼいなかった。故に、成功するかどうかは何とも言えんな。だが、着ぐるみを着た主人公がヒロインの一人とキスをするという状況は見たことがある! そう考えると、ヒトデのコスプレはありだと思うぞ」


 根川の意見に出井田も賛成を示す。


 三人中二人が賛成している。これはもうやるしかないんじゃないか?

 問題はヒトデのコスプレ衣装が売っているかだが、通販で調べるか。


 そう思い、スマホをいじっていると佐藤に頭を叩かれた。


「バカか。ヒトデのコスプレするような奇人と誰が付き合いたいと思うんだよ。現実を見ろ。ここはアニメの世界じゃねーんだぞ」


「いや、だけど星川はヒトデが好きだし……」


「逆に聞くけどよ、お前は好きなもののコスプレをしてる人だったら皆好きになるのかよ?」


 佐藤の言葉を受けて、冷静になって考える。

 例えばだが、俺は星川が好きだ。じゃあ、目の前にいる佐藤が星川のコスプレをしたとしよう。

 その佐藤を俺は星川同様に好きになるだろうか?

 いや、ならない。だって、星川のコスプレをしようがしまいが、佐藤は佐藤だからだ。


「ならない。そう考えると、ヒトデのコスプレは効果がない?」


「そういうことだ。当日は普通にオシャレしていけ。オシャレが分かんないなら、ネットで調べて無難な格好するといい」


「「「おおー」」」


 佐藤の適格なアドバイスに三人で拍手する。

 なるほど。何でもかんでも奇抜なことをすればいいという訳じゃないのか。


「よし。なら格好は普通で、ヒトデを見るということは決定だな。後は、オススメとかあるか?」


 俺が問いかけると、出井田が眼鏡をクイッと人差し指で上げてから手を挙げる。


「出井田、何かあるのか?」


「ああ。イルカショーというのはどうだ?」


 イルカショーか。まあ、定番といえば定番だ。

 だが、定番ということは即ちハズレにはならないということだ。


「そうだな。イルカショーは行くべきだな」


 出井田の言葉に俺も同意する。だが、出井田の話はここで終わりではなかった。


「そして、イルカショーを出来る限り前の席で見るんだ」


「おいおい、出井田。そんなことしたらイルカショーで服が濡れるぞ?」


 佐藤の言葉を聞いた出井田の目が怪しく光る。


「それこそが真の狙いだ」


「ん~どういうこと? 服が濡れてもいいことなんてないよ~。肌にピッタリ張り付いて気持ち悪くなっちゃうしさ~」


 根川が何気なく放った言葉。それを聞き、俺はピンと来てしまった。


 まさか、出井田……こいつ!


「そうだ。服が肌にピッタリ張り付く。そうなれば、ラブコメでお決まりの下着が透けて見える展開があるんだ」


 出井田が口角を吊り上げる。


 何という恐ろしい作戦。俗にいうラッキースケベを自ら起こそうというのか?

 それは正に神をも恐れぬ所業。

 ラッキースケベというのは男の夢だ。だが、それは男の夢でしかない。


「……出井田。折角の申し出、ありがたいんだが、その作戦は無しだ」


「な、何故だ!? ラッキースケベはラブコメの定番! ラブコメ界の王道! 王道とは全ての始まりと言ってもいい! 王道があるからこそ、邪道がある。王道があるからこそ、王道展開を逆手に取った展開が生まれる。その王道を切り捨てようと言うのか!?」


「その王道は、見る側の王道に過ぎない」


 感情的になって立ち上がる出井田に、俺は静かにそう告げた。


「確かに、ラッキースケベは素晴らしい。だが、ラッキースケベを受ける星川の気持ちはどうなる?」


「そ、それは……だ、だが彼女はヒロイン! 問題ないはずだ!」


「あるよ。大ありだ。何故なら、水族館には大勢の人がいるからだ。仮に、出井田の言うようにラッキースケベが起こり、星川の下着が透けたとしよう。ならば、その光景を見るのは俺だけか? 水族館にいる他の客が、星川ほどの美少女のあられもない姿を見て注目しないと言い切れるか?」


 出井田はその言葉を聞いて、ハッとした表情を浮かべる。やはり、そこまで考えが及んでいなかったらしい。


「答えはノーだろう。俺だって、そういう状況下に立ち会えばそうしないとは言い切れない。公然の場で、下着を舐めまわすように飢えた男たちに見られる。それは最早セクハラだ。たまたまそうなるなら仕方ない。だが、意図的にそれを起こすというのであれば、それはただの犯罪なんだよ」


「そ、そんな……。ち、違う! 違うんだ……。私は、私は犯罪を犯したかったわけじゃない……!」


 出井田が顔を青ざめて、力なく椅子に座る。

 その目は虚ろだった。


「分かってる。お前はただ男の夢を追いかけただけだ。だけど、覚えておいた方がいい。ラッキースケベは、ラッキーという言葉があるように偶然起きる幸運なんだ。それも、あくまで男にとってのな」


「……そうだな。肝に銘じておこう」


 それ以降、出井田は己の発言を悔いるように口を閉じた。


「まあ、そうは言ったがイルカショーというのはありだ。切り替えていこう。他に意見は無いか?」


「ペンギン!」

「チンアナゴ!」

「大水槽!」


 その後は活発的な議論が行われた。

 結果、水族館でやることはある程度決まった。気を落としていた出井田も盛り上がる水族館トークと供に元気になったようだった。



「さて、それじゃ最後の議論だ。議題は、どうやって星川を誘うかだな。何か意見のあるやつはいるか?」


 俺が問いかけると、根川が手を挙げた。


「普通に、一緒に行きたい~って言うのはダメなの~?」


「断られたら悲しいだろ」


「でもでも~。一緒に行きたいって言って、断られるんだったらそれって脈無しってことじゃない~?」


「「確かに」」


 根川の言葉に、佐藤と出井田も頷く。


 くっ。そう言われば確かにそうだ。いや、だが脈無しを脈ありに変えるためのデートだ。

 断られないための作戦は必要なはずだ。


 そう根川たちに告げると、三人とも心底めんどくさそうな顔をした。


 こ、こいつら……! 協力するって言ったくせに!


「まあ、普通に行こうって言うしかないと思うけどなぁ」

「数多の恋愛漫画でも、デートの誘い方は割と普通のことが多かったぞ」

「だよね~。奇をてらっても仕方ないよ~。それに、もうすぐ日も落ちるし今日はこれくらいにしよ~」


 根川の言う通り、外を見ると辺り一面赤く染まっていた。

 悔しいが、今日の所はこれでお開きの方が良さそうだ。まあ、デートの内容を一緒に考えてもらっただけでもありがたいな。


「なら、今日はこれで終わりにしよう。デートプラン一緒に考えてくれてありがとな。誘い方については、自分で考えることにするよ」


「こっちも楽しかったからいいよ~」

「私も今日は大きな収穫があった。感謝するのはこちらの方だ」

「頼むから奇行だけはするなよ? 普通のデートが一番好感度上がるからな?」


 三人とファミレスの前で別れて、家に帰る。

 一先ず一晩デートの誘い方を考えて、明日のどこかのタイミングで星川をデートに誘うとしよう。


ありがとうございました!



現在、「惚れっぽい男の俺が学年一の美少女の裏の顔を知った結果」という作品を更新しています。こちら、二章まで書き終えていますのでよろしければそちらも見ていただけると嬉しく思います。

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