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5. ファーベル。戦ってる

 タローの穴掘りの杖のせいで地下十一階層に落下したファーベルらは、すぐに動き出すことは出来なかった。

 それほどの高さではない。とは言え、身長の三倍以上の高さがある。打ち所が悪ければ死ぬ可能性すらある高さから落下したのだ。


 だから、死ぬほどの怪我をしなかったのは、日頃鍛えている成果もあるが運が良かった。

 それでも無傷ってわけではない。一番重症なのはブーンで全身打ち身の状態で仰向けの状態で悶ている。

 ファーベルも鎧を着ていて自重がある分、着地時の衝撃は酷かったが、足を痛めているだけですんでいる。


 聖女オーガスタはブーンの盾の上に落下したおかげで、それほどのダメージは受けていない。尤も、その分、ブーンが犠牲になったわけだが。


 一番、軽症だったのはクロエだ。着地の瞬間に床を二回転ほどして衝撃を殺した。武装が軽装備な上、レンジャーとして一番身軽だったためほぼ無傷と行って良い。


「オーガスタ、頼めるか?」


 ファーベルは片膝を立てた状態でオーガスタのことを呼ぶ。


「はい、何とか」


「まず、自分を治療してくれ」


「それは、不要です。まず、勇者様から治療しますね」


「ああ、頼む」


 オーガスタが両手を伸ばしてファーベルに治癒の魔法をかける。すると、光がファーベルの全身を包み込み、怪我を少しずつ癒やしていく。

 それほどの時間がかからずに、ファーベルはこれ以上は不要とばかりにオーガスタに向かって掌を突きつける。


「勇者様、もし、追加で治療が必要でしたら言ってください。ブーン、大丈夫ですか?」


「ああ、頼む」


 仰向けのままのブーンに対しても同じようにオーガスタは魔法をかける。だが、ファーベルの時より青白い光がブーンを包み込んで、回復させていく。


「もしかして、完全治癒の魔法か?」


「はい。戦士殿はかなりの怪我と思いましたので……」


「そうか。仕方がないな」


 ファーベルが言うと、クロエはオーガスタの後ろに立ち三人を見下ろした。


「早く行かないと逃げられる」


「だが、治療が優先だ。この十一階層。まだ攻略していない。どこで魔物にあって戦闘になるかわからない。中途半端な状態では負ける危険性がある」


「大丈夫。レンジャースキルでこの階に驚異となる魔物がいないことはわかっているから」


「でも、隅々まで見たわけじゃないだろ。それに、新しく現れるかもしれないし」


「だから、早く行かないと。と言ってるの」


「で、どっちへ行けばいいんだ?」


 ファーベルが言うとクロエは返答しない。


「そもそも、無理があった。追放の話は地上に戻ってからすれば良かった」


 ファーベルが吐き捨ているように言うと、今度は反論する。


「今更言っても仕方ないこと言わないでよ。そもそも、中途半端に説得なんかしようとしたのが矛盾してたんだって。アンタらが躊躇って二人をちゃんと殺しきらなかったからこんな目にあってるんだって。わかってる? もう少し考えな。もし、彼奴等に先にギルドに駆け込まれたらどうなるか。とか。アンタ、ダンジョンで名を売って王国騎士になるのが目標なんだよね。だったら、ギルドで揉めるようなことになったら困るんじゃない?」


「クロエ……、貴様」


 ファーベルは立ち上がるとクロエの喉元に手を伸ばす。

 クロエは女性としては背が高いほうで、タローと同じくらいの身長がある。

 だが、ファーベルは頭一個分近く大きい。さらにフルアーマーの状態だ。威圧感は半端ない。それでも、クロエは平然と鎧の中のファーベルのことを睨みつけてくる。


「わかった。兎に角、二人に追いつこう。それがまず優先されることであるのは間違いない」


 ファーベルが宣言すると、ブーンとオーガスタは立ち上がる。


「で、どっちに向かうんだ? 勇者よ。こんな時はマッパーがいれば助かるんだがな」


 軽い口調で言ったブーンにファーベルは地面を思いっきり踏みつけて反応する。ズドンと音を立てて怒りを表現するが、言葉にはしない。


 マッパーというスキルはレアなため知られていないが、ダンジョンの中ではかなり貴重である。

 何故ならば、ダンジョンの危険をかなり避けることができるから。外れスキル。と思う人も多いが、ダンジョンの中では唯一無二の強スキルなのだ。


 そもそも、ダンジョンという場所はとても危険だ。常識。誰しもがそう知っている。だが、何故危険なのかはあまり知られていない。


 漠然と魔物がいるから。そんなイメージしか持っていない人が多い。だが、それは正しくはない。ダンジョンが危険なのは油断が出来ないからなのだ。


 魔物なんてのは、対処法さえ知っていれば怖くはない。

 知識がなくてコカトリスに素手で触れたりするのは論外だが、ミノワウルスでさえ訓練されたパーティーが戦闘準備してから攻撃すれば、さほどの苦労はなく倒すことができる。


 もし、ドラゴンが群れで現れたとしても、先に発見すれば対処法はある。別の階に逃げ出すこともできるし、小さな部屋に隠れることもできる。


 それに比して恐ろしいのがトラップ()だ。ダンジョン内の何処にトラップがあるかなんて普通はわからない。もしかしたら、次の一歩を踏み抜いた場所で突然トラップが発動するかもしれない。絶えず緊張を強いられるのだ。


 トラップと単純に言うが、トラップにも色々なトラップがある。突如毒矢が飛んでくるなんてのはマシな方。

 魔物召喚のトラップであれば、倒せない強力な魔物が現れるかもしれないし、倒せないほどの沢山の魔物が生み出されるかもしれない。

 变化のトラップはもっと酷い。

 どうする? ネズミになってしまったら。猫にだって殺されるだろう。


 勿論、トラップにも対処法はある。例えば、クロエのレンジャースキルでトラップの解除は可能だ。無効化するか破壊するかして安全にすることができる。


しかし、それはトラップがあると分かってのこと。一歩進む毎にトラップがないかなんて調べていられない。そんなことをしていたら、食料が尽きて餓死してしまう。


 このダンジョンの冒険者(ダイバー)なら誰しもある悩みがタローにはない。

 マッパーのスキルで全てのトラップの位置を把握できる。魔法やスクロール(巻物)無しでダンジョン内をナビゲートできるのだ。


「しょうがない。道はアタシが教えてあげるよ」


 クロエはブーンに言うと、自分のバッグからスクロールを取り出した。片隅を右手で掴み腕を振り下ろすと、スクロールは開かれる。と同時に淡く光り消滅する。


「便利なものを持ってるじゃないか。次からも頼むな」


「構わないけど、金は取るよ。安くはないの知ってるよね? 魔法地図のスクロールが」


「そっか。金でマップが買えるなら安いもんだ。俺は歓迎するぜ」


「やめろ二人とも。俺たちはタローとロジーネに追いついて捕まえる。それが最優先事項だ。クロエ、上階段の位置を教えろ」


「らしさが戻ってきたじゃない。良いこと。アタシたちは運がいい。上階段もすぐ側にあるし、危険な魔物もいない。慌てずともあの二人を殺せそう」


 クロエがニヤリと笑いかけると、ファーベルはあからさまな態度で顔を背けた。

 フルフェイスヘルメットの下の表情はわからない。それでも、ファーベルが憂鬱であることは誰の目にも明らかであった。

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