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4. 隠れる。俺頭使ってる

 ダンジョンでは逃げる方が有利だ。追跡するには手間がかかるし隠れる場所も沢山ある。だが、単純に地上を目指すだけならば話が変わってくる。一転して追うほうが有利になる。


 理由は考えなくても明らか。逃げる方は新しく現出した魔物を倒しながら進まなきゃいけないのに、追う方は敵がいないのだ。すぐにも追いつけることだろう。


 そのことを知っているからこそタローとロジーネは、九階層の半分ほどまで来たところで困っていた。


 上階段の手前には門番となったミノワウルスがいる。あまり近づいて襲われるのも困るから、逃げることができる十分な距離を確保している。


「クロエのレンジャースキルが、な」


「隠れられない?」


「この階層のこと覚えているとは思うけど、改めて説明するよ」


「うん」


「九階層の上階段と下階段は、単純に言うと長方形の対角の位置、右下と右上に存在している。この時、右下から上へ行って左に行くルートと右下から左へ行って上へ行くルートの二種類がある」


「あれ? そんなに、単純だった?」


「細かい話をすれば、単純じゃない。でも、大きく二つのルートに分けれるのは事実。途中には通路や広間なんかあるし、曲がったりしているから、同じようなルートでも下側のルートの方がかなり遠回りになっている」


「あ、そう言えば。魔法の罠とかあったっけ?」


「そうそう。下側の方が面倒なルート。ただ、最終的に上階段がある部屋に辿り着くのは同じなんだよ。で、ミノワウルスがいる場所が悪い。どっちかのルート上の部屋か通路だったら逆のルートを選択すればいい。穴掘りの杖で道を作っても良い。でも、上階段の部屋に陣取ってるから困ったことになってる。この階に隠れてファーベルらをやりすごそうとしても、明らかに怪しまれる。もしかしたら、ミノワウルスはそのままにして九階層の隅々まで探そうとするかもしれない。クロエのレンジャースキルで魔物や俺たちの位置は分かってしまうから。バラバラに隠れればリスクは減る。別れて隠れるか? どうせ、狙いは俺のバッグだし」


「バラバラは、危険。私のことも、敵対してると、思ってるかも」


「殺されることは無いだろ。今からでもロジーネだけでも向こうに合流したらいい」


「それは、考えない。それより、ミノワウルス、私たちが、八階層に行ってから、現れた。と思うかも」


「そう考えたい。願っていたい。信じていたい。でも、それはたんなる願望……♪」


 タローはリズムに乗って言い終えてからため息をついた。


 ミノワウルスがいる場所が悪い。穴掘りの杖で床を消滅させてミノワウルスを下の階に落とすことはできる。だが、そうすれば、床が修復されるまで上階段にたどり着けない。かと言って、一人が囮になる作戦も駄目だ。


 ミノワウルスは足が速い。顔は牛だが、下半身は馬だ。下手に一人を囮にして別のルートに誘導してまいたりすることなんか出来ない。囮が背を向けているところを簡単に追いつかれて殺されるだろう。


 それならば戦ったほうが勝てる可能性が高い。不意を打てれば絶対に倒せないってわけではない。


「やはり、上手く誤魔化して倒すしか無いか」


「勇者くんが、倒してくれると、楽なんだけど……」


 タローが腕を組みながら呟くと、ロジーネはうんざりと独り言のように返事をする。と、その瞬間、タローはロジーネのことをハッとした表情で見る。


「な、何?」


「もう一度」


「勇者くんが、ミノワウルス、倒してくれないかな?」


「そ、それだ」


 タローはポンと掌を叩く。


「何が、それ?」


「俺たち楽する。使うのは頭。戦うのは勇者。それが本当の役割分担。あいつらは俺らに勝てない。理由は簡単。仕事をわかってない。大事なことをわかってない。だから、教えてやろうじゃないか。ダンジョンの中で必要なこと。俺たちが担っていたことを♪」


「わかった、から。早くしよ。勇者くんらが、上がってくるよ」


「そうだな。バッグの中身を使ってしまうけど構わない?」


「そんなこと、言ってる場合じゃないよ」


「売ったら金になるからもったいないけどな」


 そう言いながらタローはバッグから何枚かの巻物(スクロール)(ワンド)を取り出した。中身をしっかりと確認しながら。



 ★ ★ ★


「ちょ、ちょっと、何か、あ、当たった」


「ロジーネ、声が大きい」


 準備を終えた後、タローとロジーネは二人がやっと入る大きさの小部屋に隠れていた。クロエには場所を捕捉される可能性はある。

 だが、確認するのは最後になる。この階にいる魔物全てがいなくなった後で対応を考えれる。最悪、見つけられる前に、真下に穴を開けて逃げることもできる。


「だって、タローの硬いのが、当たって……」


「狭いんだから仕方がないだろ。こっちだって帽子が顎に当たって痛いんだけど」


「それくらい、我慢して」


「くう」


 二人が隠れている小部屋は、元はレプラコーン(小人)のお金の隠し部屋だったのだろう。洋服ダンス程度の大きさ。人間が入ることなど想定されていない。ましてや、二人入るように作られてはいない。かと言って、他に隠れる場所はない。


 ロジーネを奥に押し込んでから無理やりタローが入った。魔法の万能鍵で部屋の施錠をしているから、タローは扉にもたれかかることはできる。だが、もたれかかる以前のスペースしか無いから、恋人同士のように抱き合う体勢になっている。


「もしかして、背中向き同士が、良かったんじゃない」


「今更言われても。それに背中向きだったら、ロジーネのこと潰しちゃうかもしれないし」


「潰れないよ。私、スライムじゃないから」


「潰れなくても、押しつぶして窒息させたりしたら困るし。兎に角」


「さっさと、勇者くんは、ミノワウルス、倒してよね」


「だな」


 完全に他力本願。タローとロジーネは、ファーベルらにミノワウルスを倒させる作戦。


 無事に魔物を倒してもらったところで、ゆっくりとファーベルらを追跡する計画。同じ階層にならなければ、クロエに見つかることもない。最悪、見つかったとしても、目視されなければクロエには魔物との区別がつかない。


 ギルドには先に駆け込まれるが、後から行っても構わない。彼らが讒言ざんげんしたとしても、タローとロジーネから事情聴取無しに裁定することはありえない。

 遅れたことで、多少、不利な扱いを受けたとしても、ある程度納得の行く仲裁をしてもらえるはずだ。少なくとも、殺されることだけは絶対にない。


「ファーベルたちが九階層に上がってきた。ちょっと動きが止まってるな。クロエがスキルで状況を確認をしてるんだろう」


「この作戦、上手くいくと、いいんだけど。こんだけ、苦労させて、失敗したら、許さないからね」


「今考えられる最善の作戦と思うけどな」


 タローらの作戦は、クロエのレンジャースキルを逆手に取る作戦だ。


 彼女のレンジャースキルは生命の存在・ある程度の強さしか感知できない。だから、魔物とタローらの区別ができない。

 この九階層の下階段と上階段の間には上側の短いルートと下側の長いルートが有る。その短いルートの各場所に魔物造出の巻物と魔物造出の杖で沢山の魔物を造り出したのだ。


 その短いルート上にある隠し部屋に潜伏すれば、クロエのスキルでは、タローらは隠し部屋で動けなくなっている魔物としか探知できない。木を隠すのは森の中、石を隠すなら河原の石ころの中、存在を隠すなら大量の魔物中というわけだ。


「この階層、しらみ潰しにしたり、しない?」


「俺がファーベルなら短いルートに障害物として魔物を置いて逃げたって考える。ワンチャン、ミノワウルスもこっちの罠ってな。だから、こっちの手には乗らないって下側の長いルートを通るはず」


「重装備のブーンがいるよ。だから、上側ルートを選ぶ、可能性もあるんじゃない?」


「けど、そのための隠し部屋の潜伏。俺らは視認されない限りは気づかれないはず。流石に、隠し部屋の動かない魔物まで狩りながら上階段を目指すとは思えない」


「ま、ミノワウルスを倒す。より、分がいい、よね」


「だな」


「で、どうなの?」


「やはり、下側のルートを選んだようだ。ブーンが文句を言っているのが聞こえる気がする。だから、部屋から出ても大丈夫かも」


「それは、無駄なリスク。しばらく、このままが、安全」


 ロジーネはそう言うと、タローにもたれかかってきた。ロジーネはタローより一回り小柄だ。とは言え、人間一人分の質量。


 少し重いな。と思いながらもタローは彫像のように固まったまま、マップスキルでファーベルらの動きを確認していた。

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