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32.これから、戦いは続くから

「ロジーネ、援護を頼む。オーガスタは背後も注意」


「はい」「了解」


 タロー、ロジーネ、オーガスタはダンジョンの下層、地下、二十階に潜っていた。この階層は特殊で、他の階と違って広い。地下なのに開放感のある空間の上、十分な光量まである。今現在、三人がいるのは通路だが、巨大なドラゴンが二体ほどは通れる巨大な通路だ。


 そんな場所で三人は戦闘を開始した。敵は巨獣サクラザウルス。四足歩行の首が長い魔物。ミノワウルスなど比較にならないほど巨大だ。体高で人間の身長の二倍、頭から尻尾の先までは七人以上の長さがある。


 タローはサクラザウルスに長剣で斬りかかった。不意打ちでも遭遇戦でもない。あくまでも望んで始めた戦いだ。


 サクラザウルスは、ミノワウルスほど機敏ではない。大きい分、動きは鈍重だ。それに四足獣。武器は持っていないし、知恵もそれほどあるわけでもない。敵を判別して攻撃してくるのは頭か尻尾、若しくは体当たりか踏み潰し。その巨体のパワーは人間の力とは比較にならない。真正面から喰らえば一撃で死にかねない威力がある。


 だが、そうそう敵の攻撃には当たらない。敵は巨体故に自分の足元を見るのは苦手だ。首を動かして自分の足元を確認する必要があるからだ。それに特殊階層とは言え、通路の幅はサクラザウルスにとっては狭い。自由に走り回れるわけではない。動きが制限されている。ボーッとして無ければ体当たりはされたり、踏み潰されたりすることはないだろう。


 それに、ロジーネが放っている魔法の矢が地味に効果的だ。サクラザウルスほどの巨獣にはダメージとしては期待できない。だが、敵の集中力を削ぐのには役に立っている。見た感じ、サクラザウルスは足元で斬りかかっているタローより、頭部へ集中的に砲火されている魔法の矢に意識が向いている。


 サクラザウルスは怒りのあまり踏み潰そうと走り出そうとする。しかし、一歩踏み出した瞬間、左足を踏ん張れない。タローが足を攻撃しているからだ。タローの剣技では足をぶった切るほどの威力は出ない。それでも、着実な一撃一撃で、本来の機能を失わせている。皮膚が頑丈とは言え、巨体を支えている足は意外と脆い。


 バランスを失ったサクラザウルスが、タローの方へ倒れ込んでくる。意図的なのか無意識なのかわからない。のしかかられればミノワウルスの比ではない。完全治癒をする間もなく一瞬でペシャンコだ。


 数ヶ月前のタローであればどうなっていたかわからない。だが、今は違う。巨木を倒す木こりのように、予想していたとばかりの位置に立っている。


 天井が崩れたかのような勢いでズドーンと音を立ててサクラザウルスは倒れ込んだ。ダンジョンの床が埃を撒き散らすが、まだ勝ったわけではない。攻撃する余力は十分に残っている。すぐに倒れ込んだ状態でも攻撃を仕掛けてくるだろう。


 だから時間を与えない。タローはサクラザウルスの眉間に長剣を突き立てる。頭蓋骨の硬さはある。ただ、サクラザウルスはドラゴンではない。巨体であること以外の特殊な強さはない。全体重を乗せたタローの力ならば突き刺すことは可能だ。


 サクラザウルスは断末魔を上げる。最後の生命の咆哮をタローたちに示す。


「やった?」


「ああ。もしかして、俺たち強くなった? 冒険者、行こうぜ奥底、レペゼン、ナマステハウス♪」


「油断、駄目」


「私、出番なかった……」


 オーガスタが少しだけ寂しそうな表情。


「でも、それが、良い戦闘」


 ロジーネの言う通り。オーガスタが活躍する戦いは、戦いとして望ましくない。これが国を守るためなどであれば、そのような戦闘する場面があるのは仕方がない。だが、タローらは冒険者としてダンジョンに潜っている。出来るだけ勝てる戦いしかしないのが理想だ。


「力試しとしてはちょっと物足りなかったかもしれない。ファーベルたちと別れてから俺たちはかなり強くなった。と言ってもまだまだだ。更に地下、ゲヘナの魔物はこんなレベルじゃない。俺たちはもっともっと強くなる必要がある」


「でも……、ここら辺でも、良いのかも。お金稼ぎ、なら」


「確かに商売だけなら、このレベルの階層で杖や魔術書を探して集めるのが効果的だ。魔物のレベルは中層とは比較にならないけど、持っているアイテムの価値も高い。だから、このダンジョンをこれ以上攻略する必要なんかどこにもない。それに、俺たちの持っている探索書(スポイラー)はゲヘナより下層の記述は少ない。ゲヘナに潜れば危険度は今までの比ではない。けどさ……」


「タロー、ラッパーに、なるために、稼ぐ、のが、目的だったんじゃ」


「そうだ。だが、ここまで来たんだから、何処まで潜れるか挑戦したい気もする。これは単なる俺の我儘だけど」


「オーガスタは?」


「私は二人と一緒にいれればそれでいい」


「ああああ、もう」


 ロジーネは魔物に気づかれるほどの大きな声を出す。だが、心配は無用だ。タローのスキルで魔物の位置は把握している。十分に安全は確保されている。


「いっぱい、稼ぐよ」


 ロジーネはタローとオーガスタに向かって片手ずつ差し伸べる。もう、決心したと言わんばかりだ。


「そうだな。一生、働かなくても困らないくらいのアイテムを持ち帰ろうぜ」


 タローはロジーネの手を握りしめる。そして、逆の手でオーガスタの手を。


「私はペロペロできれば構いませんが」


「もう、教会で、祓われた、じゃない?」


 ロジーネが頬を膨らませると、オーガスタはフフフと笑った。三人は円になって手をつなぎ、結束を確かめる。


「今、確認した。次の階層はメデューサ(石の魔物)がいる。睨まれたら石にされてしまうからコカトリスより厄介だ。対処方法は睨まれないこと。目隠しをしたまま闘うしかないってことになるけど、大丈夫か?」


「テレパシー能力を身につけていないのはタロー様だけです」


「俺は、マッパースキルがあるから、テレパシー能力は不要だけどな」


「だったら、大丈夫ね」


 三人は下への階段の途中でタオルで目隠しをする。直ぐ側にメデューサの居室がある。タローが位置を確認してはいるが、予想外の動きをする可能性はある。突如、居室からでて襲いかかられる危険がないわけではない。リスクは出来るだけ排除するべき。


 メデューサ自体は、それほど危険生物ではない。戦闘能力で言えば、ミノワウルスにすら勝つことが出来ないレベル。せいぜいユニコーンとどっこいどっこい。怖いのは、石化の特殊能力だけ。


 不安など無いはずなのに、タローは脈拍数が上がっていくように感じた。何が自分をダンジョンに惹きつけるのだろうか。少しだけ考えてみるものの回答は出てこない。だから考えることを止める。


 今は戦闘に集中しなければならないのだ。余計なことは考える余裕など無い。一瞬の隙や油断で命を落とす可能性があるのだ。マッパースキルや聖女スキルだって、一撃で殺されてしまえば役に立たない。


 そんな事がありうるのが、ダンジョン(ここ)なのだ。


 それに、考えなくてもわかることがある。仲間がいて戦う相手がいる。そして、生活が出来ている。それ以上何を望む必要がある。ダンジョンに潜るべきかどうかなんて考える必要はないのだ。そんなことより、どうやってレベルを上げていくか、能力を獲得していくかを考えたほうが良い。


 もし、そんな生活に厭きたのならば、地上に戻って冒険者相手の道具屋でも開けるように。十分にダンジョンを攻略していこう。


 タローは長剣を握る力を強める。メデューサの位置をスキルで確認しながら。


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