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15.金がねー

 小人が目の前に現れた。これが人間の子供であれば、油断しても仕方がないが、カバに似た頭をしている。見た目からして間違いなく魔物。


 よく知られているレプラコーンという魔物である。とは言え、愛嬌のある顔をしている。意外と悪さをしないのではないか。そんな勘違いをさせる風貌をしている。


 だが、こいつはある意味最悪の魔物である。見つけ次第、殺して構わない。ダンジョンに潜る冒険者達が声を揃える――とは言っても、冒険者は全ての魔物を殺して良いと言うが――ほどの魔物だ。


 何故ならば……


 ニコニコしたレプラコーンが近づいてきて、タローは動けなくなったのだ。タローだけではない。オーガスタもロジーネも一瞬、頭の中がぼんやりとして何をすべきなのか判断が鈍った。


「あっ」


 タローが叫ぶのと同時にレプラコーンは消える。


「しまった!」


「どうしました?」


 タローの叫びにオーガスタが反応する。


「盗まれた……」


「ま、まさか下着を? 今すぐ調べませんと」


「そんなもの盗まれるか。財布が盗まれたんだよ」


「そうですか」


 タローが気落ちするが、オーガスタは平然と答える。ちっとも大したことじゃないと言わんばかり。実家が金持ちのオーガスタにとってはどうでも良いことなのかもしれない。


 だが、タローにとっては一大事。


「こんな時、マップスキルを持っていて良かったと思うよ」


 タローは短剣を構える。敵の逃げている場所はマップスキルで追跡可能。追うのは難しくはない。


「行くぞ」


 タローは駆け出す。レプラコーン(小人)から財布を取り戻さなければダンジョンでの冒険ダイブは赤字だ。いや、単なる赤字ではない。大赤字となる。


 そうなれば、地上に戻るわけにはいかない。

 損した時、不利になった時は危険だ。

 引き時が分からなくなり、無理をすることになる。つまり、死が近くなる。


 タローはダンジョンの中で死にたくはない。ダンジョン攻略はあくまでも夢を叶えるための仕事でありお金稼ぎなのだ。


 マップスキルのおかげで、タローらはそれほど苦もなくレプラコーンを発見する。レプラコーンの戦闘能力は低い。戦士でもないタローでも勝つことは可能だ。


 だが、レプラコーンを倒すのは容易ではない。


 一つは、タローから財布を盗んだ時に見せた魅了の魔法。それほど強力ではないが、一瞬だけ意識を盗まれる。攻撃することを忘れてしまうのだ。


 次に強力な能力は瞬間移動の魔法だ。レプラコーンは瞬間移動の魔法が使える。魔法だけに回数の制限はあるが、鬼ごっこをしているうちに魔力も回復する。


 他の階や同階層でも遠くまで逃げられては探し出すのも一苦労だ。近くにいるうちに倒す必要がある。


 タローはダンジョンの死角を利用して接近して短剣を突き刺そうとする。しかし、レプラコーンの動きは俊敏だ。折角奪った金を奪い返されまいと俊敏に逃げ回る。


「オーガスタ!」


「はい」


 逃げた先に向かってオーガスタが衝撃の杖を振る。しかし、当たらない。

 ちょこまかと躱すレプラコーンに向かって、オーガスタは、一発、二発、三発。躊躇なく杖をふるい続ける。


「タロー様、無くなりました」


 そう言ってオーガスタは衝撃の杖を放り投げると、どこから持ち出したのか魔法の矢の杖を右手に持つ。


「タロー様、ありました」


 そう言いながら魔法の矢をぶっ放す。


「ま、待て」

「それそれー」


 四発、五発、放った矢がダンジョンの壁に当たって反射しまくる。タローは、オーガスタが撃ったはずの矢を避けるだけで精一杯。一撃で死ぬほどの強力な魔法ではない。とは言え、わざわざ身を持って威力を確認したくもない。


「あれー?」


 そう言うと、キョロキョロしながらオーガスタは棒立ちになる。レプラコーンはとうの昔にその場からいなくなっているのだ。状況を把握したのか、杖のチャージが無くなったのかはわからないが、もう魔法の矢は放たれない。


「タロー様、次の杖を」


「ちょっと待てよオーガスタ。今、銀貨10枚分は杖を使ったからね。10日は3食ステーキが食べれるほどの杖を使ったってことだからね」


「タロー様」


「ん?」


「私はもっと大きな心を持ったタロー様が好きです」


「いや、そうじゃないから。しかも、倒せてないし……。絶対、赤字だ赤字だ赤字だ……」


 タローがボソボソと呟いていると、オーガスタがタローの顔を覗き込んでくる。


「諦めないでください」


 囁きかけるように言われて、タローは一歩身を引いてから答える。


「勿論、諦めるつもりはない」


「では、雷撃の杖を。あれなら一撃で仕留めてみせます」


「待てって」


 ダンジョンの壁には魔法を弾き返す壁がある。そこで下手に雷撃の魔法なんか使った日には自殺行為だ。直撃すれば魔法の矢を受けるのと比にならないほどのダメージを受ける。体力がない冒険者なら、死んでも不思議ではないのだ。


「悪いけど、オーガスタには任せられない」


「どうしてもですか?」


「ああ、どうしてもだ。俺がやる」


 タローはそう言って短剣を握り直す。

 レプラコーンの動きは早い。不意をつけば杖で魔法の一発を当てることは難しくはない。だが、ダメージを受けると同時に瞬間移動で逃げる可能性も高い。雷撃の杖はリスクも高いしコストも高い。だから使いたくはない。それならば、剣を使ったほうが良い。不意打ちで首を落としてしまえばそれで終わりだ。


 マップスキルを上手く使えば不意打ちはそれほど難しくはない。


 その判断が甘かった。


 ダンジョンの角、壁面の影、死角から飛び出したタローはレプラコーンの首を一瞬で叩き落とした。


 ……はずであった。


 もし、これがファーベルであれば難なく切り落としていただことであろう。ブーンでさえ、気絶するほどの一撃を与えていたに違いない。だが、タローの剣技では傷を与えただけ。


 間一髪で避けられていた。


 単純な剣速の違い。それが全てであった。


 驚愕の表情を浮かべるタローと馬鹿にして嗤うカバの顔。ぐへへへへと下卑た声を出すと、からかうようにタローの周囲を飛び跳ねる。


 こうなってはタローの剣技など通用しない。杖も衝撃の杖程度ではどれほど効果があるか。


 タローは馬鹿にされつつも一旦距離を取って油断を誘うか、それともこのまま戦闘を継続するべきか、はたまた雷撃の杖を使って一撃で倒すことを狙うか考えが纏まらない。


 それでも、目の前にいる以上は戦うしか無い。


 タローは中途半端な攻撃を馬鹿にしているかの動きのレプラコーンに繰り返す。駄目か。こんな魔物にすら苦戦するのか。タローが焦りを感じた瞬間、脇腹に痛みを感じた。


 カネを盗むだけしかできないと思われていたレプラコーンが攻撃をしてきた。手にタローのと同じような短剣を持っている。


 まさか、そう思って短剣を突き刺そうとすると、レプラコーンはピョンピョンとバックステップして距離を取り、再びぐへへへへと嗤う。だが、その嗤いは先程の嗤いとは違う。明らかに殺戮を楽しむかのような嗤い。


 レプラコーンは短剣を両手で握り直し、タローのことを突き刺そうと突進してくる。


 不味い。タローの防具はなめし革鎧だ。ファーベルの鎧ほど強度はないし、ブーンのような盾もない。躱すしか無い。


 そう判断したタローが体をひねってレプラコーンの攻撃を避けようとした瞬間、脳にさっき刺された痛みが飛び散る。そのせいで動きが鈍り、レプラコーンの必殺の攻撃を……。受ける瞬間に、レプラコーンの動きが遅くなる。


 タローは大げさに横っ飛びして攻撃を避ける。だが、その単調な回避行動は知性などなさそうに見えたレプラコーンにさえ読まれていた。

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