連絡先とプロゲーマー
憂鬱な午後の授業も終わりを迎える。
解放感が凄い、刑務所からシャバに出る時はこんな感覚なのだろうか。
知ろうともしないし、知りたくもないけど。
僕はある目的を果たすために席を立ち彼女のもとに向かう。
「霧江さん、ちょっといい?」
彼女はきょとんとした顔で「何?」と言った。
「実は朝の事だけど……」
「へ? あ、朝!?」
何かを思い出したように焦り始める霧江さん、やっぱり変だ。
そんな事を考えていると霧江さんはバックからスマホを取り出し。両手で持つ。
そう言えば、朝もスマホをこんな風に持っていた。お昼の時もちらちらと気にしていたようだったし。
そうか! わかったぞ! 霧江さんの原因はスマホに関係する事かもしれない。
僕は必死に頭をフル回転させる。多分授業中よりも頭を使ったけど、何も思い浮かんでこない。
こういう時はどうすれば良いのか僕は知っている。それは――
「ごめん! 僕何も心当たりが無くて……。霧江さんに何かしちゃったのなら、教えてくれない?」
「烏間君が私に? 何かしちゃったの?」
「え、違うの?」
「逆になんでそう思ったの?」
その時僕のスマホの着信が鳴る。達也からだ。
〈今日の朝相談してきた答え、アレ嘘な。ちょっとからかっただけだよw 3:58〉
「……」
朝の朝の相談? 僕が霧江さんになんかしちゃったってやつ?
達也の方を見ると、スマホを指さして、何かジェスチャーを送ってくる。
旗から見ていると正直、面白い動きだった。大きく口を開けて伝えようとしてる。
全く分からないけど。
達也は僕が理解してない事に気づいたのか、ため息を一つして、LINEの画面を見せてくる。
(LINE? なんでそんなもの……あ! 霧江さんは僕の連絡先を聞きたかったのか!)
「霧江さん、もしかして朝から僕に連絡先を聞こうとしてくれた?」
「……」
無言で首だけを縦に振った。霧江さんの首は白くてとても華奢だ。
僕はスマホを霧江さんの前に出して振る。彼女もスマホを振ると連絡先を交換する事が出来た。
「……鈍感」
声が小さすぎて聞き取れなかった。
「今、なんて?」
「何でもない。連絡先ありがと!」
彼女はそれだけ言うと、カバンを持って教室を出て行った。
急ぐ用事でもあるのだろうか。
耳がいつもより赤くなっていた気がするのは気のせいだろう。
「翔太……お前マジか」
「なんだよ、てか、お前朝の相談嘘教えやがって!」
「あれは騙される方が悪いと俺は思うぞ」
「うっ……」
確かに彼女は朝から僕にずっとアピールしていた。
それに気づけなかった僕が悪いのは明白だ。……いや、待てよ。
「なんで霧江さんは普通に聞いてこなかったんだ?」
「はぁ!? お前ってやつは……」
達也が呆れたような目で見てくる。
「ラノベの主人公と良い勝負だと思うぞ、俺は」
「ラノベの主人公と脇役の僕のどこが良い勝負してるんだよ」
達也が大きくため息を吐く。
「もう、帰るぞ……」
~~~~~~~~~~~~
僕は達也と駅に向かって歩いていた。
学校の登下校で通る、商店街へ入ったところだ。
もう空も若干暗くなり始めた時間帯の商店街では、昔ながらのコロッケの良い匂いが食欲をそそる。
今日の夕飯は何かな~と、ベタなことを考えていると。
「そういえば翔太はいつも家で何してるんだ? 趣味とか今はなさそうだしな」
「なんだろうな、強いて言うなら、テレビをだらだら見るくらいかな。
あ、でも最近は部屋にあった[バレット・アンド・ライフル]ってゲームもするぞ」
そう、実は最近僕は、あるゲームにハマっていた。その名も[バレット・アンド・ライフル]FPSのゲーム、いわゆる一人称アクションのゲームで銃ゲーだ。
このゲームの基本的なルールとしては簡単で、チームで分かれて、キル数の合計が多い方が勝ち。
いたってシンプルなルールだけど連携やグラッフィクが綺麗で中々人気らしい。
「あー、あのゲーム面白いよな。良く一緒にやってたよな。今度久しぶりにやるか!」
「良いけど、俺下手くそだぞ?」
「んなもん、前からだから気にするなって」
「前から下手で悪かったな……」
「まあまあ、そう卑下するなよ、そんな君に朗報がある。」
「なんだ?」
「聞いた話だけどな。学校に[バレット・アンド・ライフル]のプロゲーマーがいるらしいぞ。あんな難しいゲームなのにすげえよなー」
「マジか? プロは凄いな」
「だろ! そんなわけでその人にゲームを教えてもらえれば、翔太でも絶対上手くなるぞ!」
達也は自信満々に言っているけど、現実的に考えてムリに決まっている。プロは僕らの予想以上に忙しいはずだ。
「そもそもの話、そのプロゲーマーの人が誰だか目星ついてるか?」
「そりゃあ……知らないな」
案の定知らないみたいだ。しかも本当にいるのかさえ疑わしい。
ただ、本当にいるのなら興味はある。
「まあ、でも僕も教わる云々は置いといても、純粋にプロがどういうものなのか興味があるから調べてみるよ」
「おう! 俺もなんか分かったら教えてやるよ。有料で」
「金取るのかよ……」
その後もどうでもいい話をして、家に帰る。
小、中、高と同じ学校なだけあって、家も近い。
今度鈴も連れて冷やかしに行くとするか。
家に帰り、ふろに入り、夕食を済ますと、僕はベッドに横たわりスマホを見る。
「霧江さんの連絡先か……まあ、使われることはほぼないだろうな……」
今日一日色々あったからか、僕はすぐに意識を落としてしまい泥のように眠った。