初デレとイケメン
雲一つない快晴の日、僕は断言する。
今日は僕の今までの人生の中で、一番の思い出となる日だろう。だって記憶が無いからね。
……つまらない冗談はさておき、今日から春休み期間は終わって、新学期が始まる日。
僕には、家族を抜くと、知り合いと呼べる人物は霧江さん、ただ一人しかいない。
そんな僕にも、今日から通う高校で友達ができることを考えると、不思議とテンションが上がって
しまった。
「翔太、早く朝ごはん食べないと電車乗り遅れるわよ」
「はーい」
母さんはテンションが上がり過ぎて、浮かれている僕を戒めるように言う。
朝ごはんはトーストに目玉焼き。
鈴は部活があるようで急いで掻き込んで、すぐに家を出て行った。
僕は朝ごはんを食べてから自分の部屋に向かい、シワ一つない綺麗な制服に身を包む。
おろしたての服は気分が高揚するのはなぜだろう。
軽やかな足取りで階段を下りて、玄関に向かった。
「それじゃあ、いってくる」
「いってらっしゃい、お母さんは後で行くからね」
母さんに一声かけて、僕は家を後にする。
高校は家から少し遠い位置にあるので電車で向かわなければならない。
駅までの道のりは、春休み期間中の暇な時間に散歩がてら歩いていたので迷うことは
ないはずだ。
駅に着くと、チャージしてあったICカードを改札にかざしホームへと入る。
ホームには同じ高校の制服を着た生徒がちらほらといて、みんな緊張や、楽しみと言った、十人十色な
面持ちだった。
十分毎くらいで電車が来るので幸いにもすぐに乗りこめる。
電車の中は、通勤ラッシュほどではないが、思ったよりも混んでいた。
これだけ混んでいると、痴漢の冤罪などに間違えられることもありそうで、間違えられないように行動
しようと、心に誓う。
10分ほど人の波に押され、電車に揺られると目的の駅に着く。
同じホームで降りる人の大部分は、学生服を身に纏っていた。
この近辺は学校が多いのかな?
改札から出て学校へと向かう道中、綺麗な淡いピンク色の桜並木に差し掛かったところだった。
「烏間くん!」
「おはよう、霧江さん」
「おはよ!」
霧江さんの制服姿は、一言で表すとしたら、可愛いという三文字以外にありえない。
透き通るような白い肌に、背景の桜の淡いピンクが良く似合う。
制服のブラウン色の生地に、胸元のワンポイントのリボンが一層女の子らしいラインを強調していた。
「翔太君……? そんなに見られると……恥ずかしいんだけどな……」
「ご、ごめん! あんまりにも可愛かったから……つい」
言った後に、普通に本音が出ていたことに気づき、僕はすぐに顔を背ける。
やばい、キモがられる。聞かなかったことにしてくれないかな……。
女子からの「「うわっ、キモ……」」は男子ならば、ほぼ一撃必殺の言葉だ。
「あ、あり……がと」
しどろもどろに霧江さんが言う。
あれ? 思ったよりも怒ってなさそうな声色だ。
そうか! 霧江さんくらい、美少女だと周りからいつも言われていて、慣れてるのか。
とりあえず僕は、一撃必殺の言葉が飛んでこなさそうで心底ホッとする。
言われた日には、僕は瀕死だしな。
霧江さんの方をゆっくりと見ると、顔を伏せていて、表情が確認できない。
けど、多分怒ってないだろう。
ホッ、としたのも束の間、腕時計を見る。
「まずい、学校に間に合わなくなる。急ごう!」
遅刻しそうな時間だった。
「え、もうそんな時間?」
登校初日から遅刻するのは流石にまずいので、駆け足で学校へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「つ、疲れた……」
「ふふっ、そうだね、途中走ったしね」
「今度からはもう一本電車を早くしようかな……」
何とか学校に遅刻せずに登校することができた。
凄く疲れたのだが、霧江さんはたいして、息を切らしていない。
明日は家を早く出ようと固く決意した。
「あ、烏間君、クラス分けの紙、玄関に貼ってあるらしいよ、いこっ!」
半ば強引に連れていかれたのだが、悪い気はしない。あれ? 僕ってもしかして
Mなのかな?
クラスの紙を見ると、3組だった。席は真ん中で、後ろの方だ。
中々良い席に少しテンションが上がる。
「烏間君と私同じクラスだって! しかも席まで近いね!」
僕はもう一度紙に目を向ける。
「本当だ。僕の二個後ろの席だ」
「うん、同じクラスで良かった~、一年間よろしく!」
「よろしく!」
同じクラスなだけで、こんなに喜んでくれる彼女は本当に友達思いの優しい子だと思う。
こんなに可愛くて、気さくで性格まで良い彼女と付き合える男は幸せだな。
僕? ムリに決まってるだろ、ラノベの主人公でもあるまいし、こんな暗くて口下手な
やつを、彼女が好きになってくれるわけがない。
自分で言ってて、悲しくなるからやめるか。
~~~~~~~~~~~~~~~~
校舎に入り、クラスの前まで来た。中にはすでに二十人ほどの生徒がいる。
霧江さんが先にクラスに入ると、一気に教室がざわつく。
「おい、めちゃくちゃ可愛いぞ」 「やば~い、胸でか過ぎ」
クラスの人はみんな霧江さんの容姿に少なからず好感度を抱いていた。
めっちゃ、可愛いよな。みんなの気持ちわかるよ……。
肝心な僕は、と言うとクラスの目が霧江さんに向いている間に、影のように身を潜めて目立たずに潜入することに成功した。
席にも無事につき、一息着いてから、カバンから必要な書類や筆記用具を取り出そうと
した時。
「なあ翔太! さっき入ってきた女子めちゃレベル高くね??」
「……」
「どうした、黙りこくって。二週間俺に会えなかったから、照れてんのか?」
「……」
「あ、イメチェンしたことに触れてなくて、拗ねてんのか。大丈夫、似合ってるぞ、前の方がイケメン
だったと思うけどな!」
爽やかなイケメンの男が、笑いながら饒舌に話かけてくる、僕の名前を知っているから知り合いだったの
だろうが、如何せん僕には記憶が無い。
さて、どのように伝えよう……。
オブラートに包み、なるべく心配かけないように……尚且つ仲が良い感じにするには……。
僕は、まだ男友達と話したことがないから、わからないぞ‼
よし!
「ごめん、僕……事故って記憶なくしちゃった。 テヘペロ」
よし、今の中々良かったんじゃないか!?
最後に『テヘペロ』を入れることによって、相手と仲良いです、感がバッチリと出てたな!
「……」
あれ? 僕、何か間違えた? 心なしかイケメンの顔が、固まってる気がするんだけど……。
「翔太」
「ん?」
「何言ってるんだ!?」
ついに高校生活に入る事ができました!
これからもドシドシ投稿していきたいと思います!
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