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記憶にない家


母さんと妹が部屋に戻ってきて少しした後。

僕は記憶が無くなる前の事が気になった。自分はどんな人だったのかが知りたくなったからだ。


「母さん、僕の苗字はなんて言うの?」


「あなたの苗字は、烏間、烏間 翔太っていうの、鳥のように自由に生きて欲しいって意味でつけたのよ」


僕の苗字は烏間というらしい、なかなかカッコいい苗字で気に入った。


「翔にぃはね~、とっても優しくて、明るくてみんなからの人気もあってね、自慢のお兄ちゃんだよ!」


唐突に妹が語りだす。記憶のない僕は、妹に好かれていたらしい、お兄ちゃんはブラコンぽい鈴が少し心配です。

ちなみに鈴とは妹の事だ。烏間 鈴音、今年から中学三年生になる僕の妹。

いつもにこにこしていて楽しそうな妹だ。


「鈴、僕が事故にあう前と比べて、何か変わったことってある?」


「ん~、前は一人称が僕じゃなくて、俺だったよ。でも鈴は今のお兄ちゃんの一人称も

好きだよ」


「僕……一人称変えたほうが良いのかな?」


「いいえ、翔太。前の翔太に合わせようとしなくてもいいわ。あなたはあなたよ」


僕は胸から何かがジンジンと熱を持って、こみあげてくる。やばい、泣きそうだ。

僕は……自分が否定されてしまうのではないかとずっと怖かった。

昔の僕の方が良かったと思われてしまうのではないかと。

でも今は、自分を肯定してくれていることが何よりもうれしい。

僕は記憶が無いはずなのに、話しているだけで安心感と心地良さが得られるのは、血が繋がっている家族だからだろうか。優しさが伝わってくる。


「翔太、大丈夫? 急に泣きだして」


「翔にぃ、どっか痛いの?」


「大丈夫、少し目にゴミが入っただけだよ」


僕は、目に涙を浮かべていた。家族の優しさが温かくて。

やっぱり、泣いているのは恥ずかしくて、照れくさくて言えないから心の中で言った――


「ありがとう」


僕はそのあと、三日間入院していた。

入院って言っても体が痛かったことが理由の検査入院だった。

毎日母さんと鈴がお見舞いに来てくれたから寂しくなかったしね。

鈴は、今春休み期間のようで暇らしい。

もちろん僕も今は春休み期間みたいだ。

後、十日間ほどで休みが終わってしまうらしいけど、僕という意識が生まれたのはつい最近なので休みがあまり残されていなくても何とも思わなかった。

むしろ早く学校に行ってみたい。


僕と母さんは入院中、お世話になった看護師や医者に挨拶をしてから病院を出た。

入院中の費用は助けた女の子の家が払ってくれたらしい。もちろん僕たちから請求したわけではない。断じて違う。

僕も家族も、もう気にしてないけれどせめてこれくらいはと、相手が聞かなかったらしくお言葉に甘えたらしい。

駐車場で母さんが運転してきた車に乗り、十五分くらい外の景色を眺めていると車が止まった。


「さあ翔太、久しぶりの我が家に着いたわよ!」


正確に言うと五日間ぶりくらいらしいが、僕には記憶が無いので、初めて見るように感じる。

ぱっと見では比較的新しくて、綺麗だ。

クリーム色の壁に赤い屋根が良く似合う。


玄関に入ると鈴と犬が出迎えてくれた。


「翔にぃ、おかえり~」


「ワン! ワン! ワン!」


犬はトイプードルで結構小さかった。三十センチくらいで、例えるなら文庫本二、三冊くらいだ。


「ただいま、鈴。犬の名前はなんて言うの?」


「ショコラだよ! 翔にぃとあたしで考えてつけたんだ!」


凄く甘そうな名前だった。

毛が黒いからショコラにしたんだろうけど、前の僕はすごく安直なやつだったのかな。


ショコラは僕の匂いを嗅ぎ始めた。

すると少し警戒したように僕から距離をとった。多分匂いは変わらなかったんだろうけど、僕が前の僕ではなくなっていることが、犬にはわかるのだろう。

昔から犬は人を判断するのに長けているって言われているしね。


ショコラに警戒されながら、母さんに僕の部屋まで案内され、二階に上がった。

僕の部屋は階段を上がってすぐの正面にある部屋だった。

部屋は意外にもきれいに片付けられていた。

ただ……僕の部屋だと言われても、自分の部屋という感じがしなくて、落ち着かない。

例えるなら友達の家に上がった時の感じだろう。記憶ないからわからんけど。

兎にも角にも、この部屋に慣れるのは、少しばかり時間がかかりそうだった。

その時ピーンと部屋に来た記憶はないのに、机の引き出しだけは何故だか開けなければならないという妙な使命感に駆られ、開けてしまった、母さんのいる前で……。

そこには、大人の本やDVDがあった。僕はそっと閉じた。

見られてないよな!?

幸いにも母さんはドアの前に立っていたので見られてない……ハズだ。うん、信じよう。

ちなみにだが、ぱっと見た感じ好みドンピシャだった。

前の僕と、今の僕の意外な共通点だった。良い趣味してたな流石僕だ。


そのあと僕は夕飯を食べることになる。

献立はハンバーグにご飯、お味噌汁にサラダという、シンプルだけれどおいしそうなものばかりだった。

だしが香るお味噌汁を口に運ぶと懐かしく感じる味がした。


「どう、おいしい?」


母さんは、どことなく嬉しそうだ。


「うん、なんだか懐かしい感じがする」


母さんは嬉しそうに「そっか」と笑った。


主人公の名前は烏間からすま 翔太しょうたです。

妹は鈴音すずねと読みます。

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