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謎のゲームワールド転移  作者: 塩コンブ
第一章  …全ての始まり、動き出す蓮斗の運命!
3/83

3話 知らぬ間の休息

編集3話です。


「んー? 疲れてるんじゃないかな?」


 白い個室の白いベッドの上で壁に背をつけ、座っている綺麗な女は、隣で、四本足の丸い椅子に座る男にそう答える。


 ここは華那の病室。蓮斗はお見舞いに来ると、先程自分の身に起こった不思議な出来事を華那に話していた。


「やっぱりそうなのかなぁ」


 蓮斗は上を向きながらそう答える。だが、その顔は少し曇っている。当然、華那はそれに気づく。


「なーんか、不満そうだね?」


「え?」


「納得いってません! って顔してるよ?」


 そう言われて、蓮斗はすぐに考えていたことが顔に出ていたのか……、と首を振りいつもの顔に戻す。が、華那はそれを不満そうに見つめる。


「何かあるなら言ってよ。根拠もなく考えてるわけじゃないんでしょ?」


「まぁ、一応な……。根拠ってほど大したものじゃねぇけど」


「だったら教えて?」


 華那の有無を言わさぬ追求に、蓮斗ははぁ、とため息を溢す。そうして数秒後、自嘲しながら言う。


「まぁ、バカらしいって思われると思うけど……」


「ん?」


「なんとなくな、夢や幻覚って感じには感じないんだ。どうしてなのか、何が原因なのかわからねぇけど、頭の中で何かが訴えてきてるんだ。あれは現実だ、って……。根拠って言ったら、それぐらいだ。俺の勘。第六感? ほんのそれだけだ」


 蓮斗は気恥ずかしさからか、それともあの惨劇を思い出してか、はたまたその両方なのか、足の上で握っている拳を見ながらそう言う。

 しかし、全部言い終わったというのに華那からの返事がない。

 蓮斗は、急に冷静になって、握っていた拳をパッと離して華那を見る。


「か、華那?」


「レンちゃん、一ついい?」


 レンちゃん、とは当然蓮斗のことである。子供の頃から蓮斗のことをそう呼んでいる。


「ど、どうした?」


 蓮斗がそう言うと、華那は呆れたような表情と声で言う。


「ほんとにバカらしい。今すぐ見てもらった方がいいんじゃない?」


「うっ、やっぱり?」


 蓮斗は苦笑しながらも、首を傾げ、食い下がる。


「でもよ、倒れたときとか、痛かったし、怪我もしてた気がするんだよなぁ。意識もはっきりしてたし」


「ふふっ、気がするって、覚えてないの?」


「いや、パニクってそれどころじゃなかったっていうか」


「そっか〜なるほどなぁ。でもさ、今は怪我してないし、一瞬意識飛んだんでしょ?」


「そうなんだよ。気付いたらなぜか治ってるんだ」


「ていうか、怪しすぎるよ。そんな大規模な災害があること自体不自然だけど、それ以上に、国がなんの対策もしてないこと。普通隕石なんて事前に気付くでしょ。そしたら大ニュースだよ。それに、何? 時が止まった? 非現実的すぎるって。しかも、そのあと全部元に戻ってた。はい不自然! こんなの夢や幻覚じゃなきゃ説明できないじゃん」


「まぁ、そうだよなぁ……」


 蓮斗は落胆したような声を漏らす。それを見て、華那はため息を溢す。どうやらかなり疲れてるらしい、と。


「疲れてるんだよ、レンちゃん。今日はもういいから帰りな?」


「えっ、いやそれは」


「おうちでゆっくり寝て、疲れとった方がいいよ。たまには。大学あっても、バイトあっても、毎日来てるでしょ? そりゃ疲れるよ」


「でも」


「いーから、レンちゃんは私に気を使いすぎ」


 華那は蓮斗言葉を遮る。

 華那がじっと蓮斗の目を見つめている。長い間共に過ごしてきた仲だ。言いたいことはわかっている。


 蓮斗は仕方ない、というように、ため息を溢す。

 これ以上は無駄なのだ。蓮斗が華那を大切に思うように、華那も蓮斗を大切に思っている。


 華那は今回、譲るつもりはない。


 それを感じ取った蓮斗は、バッグを取る。


「……わかったよ。気ぃ使わせて悪かった。じゃあ、また明日な?」


「うん、バイバイ!」


「あぁ、バイバイ」


 蓮斗は静かに立ち上がり、ドアの前まで歩く。そうして、ドアに手をかけ、開けようとしたとき、


「ねぇ、レンちゃん?」


 華那が優しい声で言う。


「私はやっぱり、そんな不思議体験信じられないかなぁ。……でも、レンちゃんのことは信じてる。レンちゃんが現実だって言うならそれは現実だね」


「お前……」


「今回はただ、ゆっくり休んで欲しかっただけ。ごめんね?」


「ふっ、別にお前が怒ることじゃねぇだろ。ありがとな」


「うん!」


 蓮斗は病室を出る。蓮斗の後ろ姿を、華那はこの個室で1人、見つめていた。


「ゲホッ、ゲホッ……」


 先程まで必死で堪えていた咳が出て、息が切れる。


「華那さん……」


 ドアの外から、看護婦が心配そうに見つめている。


「いくら彼氏を安心させたいからって……気を使いではないですか? そんなふうに我慢するのもそろそろ限界のはずです」


 看護婦のその言葉に、華那は微笑みながら答える。


「それは違うよ。たしかに安心させたいし、気も使う。でも、それは別に体調の悪いところ見せたいわけじゃないよ。私がこうして我慢するのは違う理由」


「それは一体……」


「レンちゃんは、強いの。とっても強いの。私は小さい頃から、レンちゃんにずっと憧れてきた。もう長くない命。せめて生きてる間は、レンちゃんの隣では、強い私でいたいの。それに、別に苦じゃないから、我慢してるわけじゃないよ。レンちゃんといると辛さなんて吹き飛んじゃうんだ。咳してる暇があるなら一文字でも多くレンちゃんと話したいからね」


「……そうですか」


 その笑顔は、果てしなく美しく、強く、そして少しばかり悲しそうにも見えていた。




誤字脱字質問文句否定愚痴なんでもいいのでお願いします。

ブックマークよろしくお願いします。

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