暇を持て余した読書家のの日記〜町外れの喫茶店での一日〜
騒々しくもなく、かと言えば完全な静寂でもない。
本を読む人や仕事をする人、談笑を交わす人々や一人お茶を嗜む人。
微かなBGMがが店内を彩り、漂うお茶の香りが心を落ち着ける場所。
そんな喫茶店での日常を描こうと始めたはずの「Euterupe」でしたが、思ったよりも色々な要素が詰まった、ちょっとだけ重量重めのストーリーになりました。
見た目も中身もちょっと変わり者なカフェオーナーの「エウテルペ」。天真爛漫で少々抜けてるでもエウテルペの事を人一倍心配している「モニカ」。そしてその二人を暖かく見守るカフェの常連客「マーガレット」。
この3人がどんな物語を紡いでいくのか。
文字を書くのが本業ではありませんが、どうかお茶でも飲みながらお楽しみ頂ければ幸いです。
王国の中心街から大きく外れた小さな住宅街、その近くの静かな森の中に古い石造りの建物を改築して建てられた小さな一軒の店があった。
昼下がり、買ったばかりの本を読もうとゆっくりできる場所を探していた私はその店の扉を叩く。
「いらっしゃいませ。お好きな場所におかけください。」
広くも狭くもない、外から見たとおりの石壁にシックなワインレッドの絨毯が敷かれた店の中は、満員ではないもののそこそこな人数が入っていて賑やかであった。
そして声のする先に目をやると2人の女性が私を出迎えてくれた。
風変わりな店主とどこにでもいそうな街娘風の2人の女性が経営している小さなカフェ。
1人は、店主は色白でラスター陶器のような虹色がかった紫の裾の方を跳ねさせた癖毛のショートヘア。そして少し虚げながらも美しいルビーの宝石の様な紅の瞳もった女性。
もう1人の一方の食事を運んでいる少女は、無垢な飴色の瞳とミルクチョコの様な癖のない茶色のおかっぱ頭。
少ない席数ながらも人はそこそこ入っているカフェは2人の少女と客達の声が飛び交っている。
ふと風変わりな客が多いことに気がつき不思議だと感じていると店主が
「ご注文はお決まりですか?」
店主が店内をぼーっと眺めていた私の元に注文を取りに来た。
私が慌ててメニューから選ぼうとしているとそっと耳元で話しかけてこう教えてくれた。
「ここには魔術に詳しいお客様もいらっしゃるんです。
私、昔から魔術があまり得意でなくて…それで誰でも簡単に使える魔術アイテムを作りたくて、こうして落ち着いて長居して考え事ができるようにお食事やお茶を提供しながらお話とか…アドバイスを聞かせて頂いてるんです。」
私がキョトンとした顔をしていると、彼女はハッと我にかえり
「あっ……!失礼しました!ええと注文…あの、もし迷っているのであれば当店オリジナルのブレンドティーと本日のスイーツのカシスのタルトはいかがですか?」
決めかねていた私はではそれをと伝えると店主は優しくに返事をしてカウンターの方で準備を始めた。
ー
それからどれくらい経っただろうか
本を持ち込んでいた所為もあったであろうが入った時は明るかった外が茜色に染まる頃まで長居していた。
時間を忘れるような静けさ、振り子時計の音と片付けをする水音の響く不思議なほど居心地の良い空間で、私はハッと現実に引き戻される。
周りにいた筈の客は皆いなくなっており店内には私とカウンターの向こうで後片付けをする店主と2人きりになっていた。
私は慌てて荷物をしまい帰り支度を整えた。
「長居してしまってすまない。」と言いながら会計をしようと財布を探していると店主が笑顔で話しかけてきた。
「お寛ぎ頂けたなら何よりです。」
店主に支払いしつつまた来ても良いか、と訊ねると店主は神秘的な笑みを浮かべてにこやかに「もちろんです」と返事をした。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
バイオリンの音色を思わせる店主のしなやかな声が帰路につく私の背中を押す。
今日はとても充実した日だった。
何もない、しかしながら新たな出会いと心地よい居場所を見つけられた。
夕焼け空の下、レーンブルグらしいひんやりとした風が吹く、満たされた想いはその風を物ともせず私の心を暖かく包み込んでいた。
この感情が冷めないうちに、
今日の出来事を日記にしたためよう。
そうだな、題目は…あのカフェの名前にしよう…そう、確か名前は…
「Euterupe」