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神様

作者: 瞳

 ある日突然、食欲が止まらなくなった。僕はその時人生で一番痩せていた。肌はカサカサで髪の艶もなく、瞳に光もなかったと思う。ただ目の前はギラギラとしていた。

 毎日、おなかがすいて堪らない。嫌だなぁ今の体型けっこう気に入っているのに、なんて思ったけれど食べても食べてもおなかがすく。おなかがいっぱいでもおなかがすく。


 僕は片想いしていた。彼女は素朴で可愛らしい女の子だ。僕が今まで好きになった女の子とは少し系統が違っていた。いつも幸せそうに微笑んでいて、僕は彼女と話している時いつも何かから守られているような気持ちになった。

 彼女は甘いものが好きだ。いつもお気に入りのグミを鞄に入れていて、時々ハートの形のグミを嬉しそうに僕に見せてくれた。そのグミは普通は丸いのだけど、時々ハートが混ざっているらしい。それをいつも彼女は、嬉しそうに僕に見せてから嬉しそうに自分で食べた。最初は僕にくれるのかと思ったけど、いつも僕の目の前で自分で食べた。その時の笑顔が素敵だから、僕は彼女がハートのグミを食べるのを見るのが大好きだった。


 夢を見た。黒い布をかぶった神様が目の前に現れて僕に、

「天罰を下す。」

と言った。その日から、僕は食欲が止まらなくなった


 僕はボロボロになった。たくさん食べて太った。肌はニキビだらけで髪もボサボサ、相変わらず瞳に光はなかった。家にある食べ物を全部平らげてしまった。味もよく分からなくなって、美味しくなくてもなんでも食べてしまった。僕はすっかり自信をなくして、ただ家に籠って食べるだけだった。


 そんなある日、彼女が家を訪ねてきた。僕は太った姿を彼女に見られたくなかったけれど玄関のドアの外の彼女は涙声だったので、そんなことは気にしていられない、と思い切ってドアを開けた。彼女は白いビニールの袋を下げていて、中に入っているいつものグミのパッケージが透けて見えた。とりあえず、僕は彼女を家に入れた。


 彼女はずっと泣いていた。僕は何と声をかければ良いか分からず、ただ彼女を眺めるだけだった。しばらく泣き続けたあとに、彼女は持っていたビニールの袋からグミを取り出した。彼女は同じグミを十袋も買っていた。彼女は泣きながら僕に、

「お皿を一枚ちょうだい。」

と言って、僕が渡した大きなお皿にグミを一袋空けた。さくらんぼ味のピンク色をした丸いグミが、白いお皿に映えた。彼女は、指を使ってグミをお皿の上で一つずつよく見えるように並べた。すべて見終わると、一つも食べることはせずに、もう一袋同じお皿に開けた。たくさんのグミがお皿の上でキラキラと輝いた。

 また同じ作業をして、もう一袋お皿の上に空けた。一袋見終わるたびに彼女は涙が止まらなって、指をグミからハンカチに移し顔を覆った。そうして、たくさん泣いた。僕はもう一枚お皿を持ってきてビニールの袋から新しいグミを出し、その皿の上に並べた。僕も一袋見終わるたびに泣きそうになった。

 最後の十袋目は二人で並べた。並べ終わったところで、彼女は今までで一番泣いた。彼女のハンカチはたくさんの涙を吸って、もう使い物にならなくなっていた。僕は彼女に新しいハンカチを貸して、温かいカフェオレを入れてあげた。彼女に少しだけここで待っていてくれるようにお願いして、僕はグミを買いに行った。十袋買った。


 家に帰ると、彼女は少し落ち着いていた。相変わらず瞳は潤んでいたけれど。それぞれカフェオレと紅茶を飲みながら、二枚のお皿に山積みにやっている丸いグミをつまんだ。砂糖を入れていない紅茶と甘酸っぱいさくらんぼのグミはよく合って、美味しかった。

 そうやって一息ついたあと、また新しいお皿を出して買ってきたグミを並べた。今度は二人で一緒に並べた。彼女はまた涙が止まらなくなっていたけれど、僕はただひたすらグミを並べた。三袋目をお皿に空けた瞬間、ハートのグミが視界に飛び込んできた。二人で顔を見合わせて、笑って泣いた。

 その時、彼女はこの家に来てからはじめて僕の顔をちゃんと見たようで、急に驚いた顔をして、

「太ったね。」

と言った。僕は、

「うん。」

と言って笑った。

 彼女は、ハートのグミを手にとって半分かじって僕にくれた。ハートを半分に割って食べてしまったので、僕たちは一緒にいなければいけなくなった。




 夢を見た。白い布をかぶった神様が僕に、

「もういいよ。」

と言った。その時春のような風が吹いて、めくれた布の下からはじめて神様の顔を見た。僕だった。



 今、僕の家には約十袋分のさくらんぼ味のグミがあるけれど、彼女は僕の家に遊びに来るたび、

「全然減ってないね。」

と言って笑う。

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