表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光輝士セイグリッター  作者: なろうスパーク
9/50

第8話「市街での戦い」

昼過ぎ。

オフィスの時計は3時近くを指している。



「お願いします!祖母の葬式なんですよ?!」



春香がいつものようにキーボードを打ち込んでいると、上司のデスクからそんな声が聞こえてきた。


見れば、春香の後輩の若い男性社員が、上司に何か訴えている。



「お願いします!一日でいいんです!有給を使わせてください!」



同僚達の噂で、祖母が死んだと言っていたのを聞いたが、どうやら本当の事だったらしい。

有給を使い、お葬式出たがっているように見える。


彼は確か派遣社員だったはずだが、2070年現在の法律では、彼も有給休暇が使えるハズだ。

だが。



「あのねぇ、君有給なんて使える立場だと思ってんの?」



春香は知っていた。

この上司がそんな事で首を縦に振らない事を。

いや、下の人間が何を言おうと、彼は首を縦には振らないだろう。



「………派遣でも申請すれば有給は使えるんじゃないんですか」

「そんな事を話してるんじゃないよ、皆が頑張ってる中君だけ休むの?って言ってんの」

「………家族の葬式なんですよ?」

「関係ないよそんなの」



春香からすれば他人事だし、上司の理不尽さには慣れていた。

しかし、それを考慮してもこんな事が言える人間がいる事には、やはり驚きを隠せない。



「あのね、組織で働くって事はそーゆー事なの、いつまでも学生気分でいるんじゃないよ、じゃ、これ今日中にやっといて」



上司は面倒臭そうに、若い社員に書類をポンと渡した。

若い社員は呆然としたまま、とぼとぼと自分のデスクに戻り、キーボードを打ち込む。


もう、何もかも諦めたようにも見えた。

春香ら、上司の理不尽さを前に項垂れる同僚や後輩を何人も見てきた。

だが、やはり見ていていい気分にはならない。



「………ばあちゃん………ごめんよ………」



見れば、若い社員は泣いていた。

嗚咽を漏らし、涙で書類を濡らして。

それほど、彼にとって祖母は大切な存在だったらしい。



「いい歳した男がビービー泣くな!仕事に集中しろ!はい手ぇ動かす!」



そこに飛んでくる上司の罵声………専門用語でいう所の“ゲキ”。

若い社員はボロボロと涙を流しながら、キーボードを打ち続ける。



あの男は正気で言っているのか?その場に居た誰もが上司の人間性を疑った。

おおよその人間が、あんな非道な事が出来るのか、と。


だが、誰も上司に意義を唱える事は出来ない。

社会人として、それは「やってはいけない事」だと教え込まれているから。

もとい、自分が余計な火の粉をかぶる事は避けたいから。


誰も、何も言わない。

言えないのだ。



春香も、そんな傍観者の一人だった。

いつもなら、気の毒に思うだけで終わるだろう。

だが、今回は少しばかり違った。



「………シャルル君なら、どうするかな」



ため息と共に、シャルルの名が出る。

人知れず、誰かに頼まれたワケでもないのに、ウィーズと戦い続けていたシャルル。

それに比べて、自分は眼前で苦しむ後輩一人も救えない。


そう思うと、春香は自分がとても恥ずかしく感じた。





………………





そんな丸山社ビルから、少し離れた場所。


そこは、ちょっとしたお洒落なカフェが立ち並ぶ広場。

デートスポットとして有名だが、カップルだけでなく、散歩をしに来た子連れの姿もちらほら見える。


少なくとも、今丸山ビルでパワハラ重労働に晒されている社員達とは、まるで無関係な人々のための場所だ。


労働基準を守る会社に勤め、子を産み育て、テレビの取材で一般的な世間として紹介される人々の為の。



「ジュース、ジュース!」

「はいはい」



そこのカフェテラスでも、母親にジュースをねだる幼子の姿が。

そんな風に、街をゆく人々の多くが、穏やかな午後を過ごす。


それまでもそうだったから、今日もそんな風に過ごすのだろう。

誰もが、そう思っていた。



「………ママー」

「んー?」



ふと、ジュースを飲もうとしていた幼子が、視線を空に向ける。



「………あれ、なにー?」

「ん?」



飛行機でも見つけたのか?と、母親も同じ方向を向いた。


「えっ?」

「あれ何?」

「………流れ星?」

「そんな時間でもないでしょ」


彼等だけではない。街の人々の多くが空を見つめて騒いでいた。

そして、彼等の眼前で。



ズドン



轟音を立てて、広場の真ん中の噴水の真上に、何かが突っ込んだ。



「うわあ!」

「きゃあ!」



その場に居た人々を強い揺れが襲い、噴水は衝撃により破壊される。

爆風により、多くの人々や物が吹き飛ばされる。



「………な、何だ?」

「まさか、テロか………?」



よろよろと、倒れた人や咄嗟に伏せた人が立ち上がる。

その視線の先に映るのは、落下してきた「何か」により完全に破壊された、広場の噴水。


そして。



「………ギギィ!」



落下してきた、複数の腕を持つ2mの機械兵。

噴水の残骸を払い落とすと、その腕の一つを砲身のように変形させ、ビームを放つ。


ビームは真っ直ぐに飛び、ビルの一つに着弾。

そのまま爆発した。



「に、逃げろ!」

「バケモノだぁ!!」



機械兵が破壊を開始すると同時に、その場で唖然としていた人々は一斉に逃げ出す。


ほんの少し前まで、街に現れた謎のロボット(セイグリッターとアーマイゼ)の話をニュースでやっていた事もあり、行動を起こす者は多かった。



「ギィィ!」



そんな人々を前に、機械兵はまるで嬲り殺しを楽しむかのように、ビームを撃ちながらゆっくりと歩を進める。


機械兵が一歩動く度に、街は破壊され、瓦礫の山が広がってゆく。





………………





『シャルル様!緊急事態です!』



街中で暴れる機械兵の出現は、どこのメディアよりも早く、デオンの耳に入った。

普段ウィーズの行動を探るべく、世界中の監視カメラや人工衛星にハッキングをかけているのだ。



「どうした?シャルル」

『ウィーズの機械兵が街で暴れています!』

「なんだって?!」



やる事もないので部屋を軽く掃除していたシャルルだが、そうとなればそんな事をしている場合でもない。


部屋を飛び出し、鍵をかける。



「いくよ、デオン!」

『了解しました!』



瞬間、デオンから閃光が広がる。



『戦闘礼装!展開!』



光の中で、シャルルの着ていた服が分子レベルにまで分解され、デオンの中へと吸い込まれる。


一糸纏わぬ姿になったシャルルの身体に、今度はデオンの中に圧縮格納してあった戦闘礼装………戦う為の戦闘服が展開する。


シャツに包まれていた上半身には、肩章のついた青いきらびやかな服が。

半ズボンを履いていた下半身には、白く長いズボンが、それぞれ展開する。


手の周りに白い手袋。

足には黒いブーツ。

背中に白いマントが靡く。


最後に、デオンが光に包まれる。

デオンはペンダントの姿から、柄に赤い宝石の輝く一振りの剣の姿「デオンカリバー」へと変化。

それをシャルルが持ち、構える。


変身が完了した。



「デオン、機械兵が現れた場所は?」

『ここから南東に5キロの街です』

「よし!」



大地を蹴り、戦闘礼装に身を包んだシャルルが飛び立とうとする。

すると。



『お待ち下さいシャルル様』

「デオン?」



突然、デオンがそれを呼び止めた。



『これを』



デオンの宝石部分がぱあっと光ったかと思うと、そこから一枚の仮面が現れた。

まるで、仮面舞踏会につけるような、目を覆うタイプの金色の仮面だ。



『正体を隠す為の仮面です、今後はこれを着用してください』



今までは根なし草で、誰にも知られずに戦っていた。

が、これから春香と共に暮らしてゆく事を考えると、今まで以上に正体を隠す必要がある。

特に、今回のように人目の多い場所で戦うなら、なおの事。


もしシャルルが異星人だという事が明らかになれば、春香の生活を脅かしかねない。

何より、ウィーズも黙っていないだろう。


デオンはそう考え、この仮面を用意したのだ。



「………よし!」



デオンに言われた通り、シャルルは仮面を付ける。

そして今度こそ、マントを靡かせて大空に飛び立つ。

まるで流星のごとく空を駆け、機械兵の元へと一直線に飛んでいった。





………………





「助けてー!」

「誰かぁーっ!」



相変わらず、逃げる人々をいたぶるように、機械兵はビームで街を破壊しながら前進する。



「撃て!撃てーッ!」



遅れて駆けつけた警察隊が、道を封鎖するように駐車したパトカーを縦に、機械兵向けて拳銃を発砲する。


彼等の背後には、逃げる市民達がいる。

絶対に、ここから先を通すワケにはいかない。



「………ギギィ!」



だが、拳銃の一斉掃射を浴びても、機械兵には傷一つない。

治安維持を目的にした地球の警察の装備では、何世代も進んだ技術で造られた侵略兵機たる機械兵にダメージを与えられないのだ。



「く、くそっ………!」



焦る警官。

しかしどれだけ撃っても、機械兵にダメージはない。



「………ギギギギッ」



嘲笑うように、機械兵が唸る。

背中の砲身を、警察隊よりも上部に向ける。

そして。


ビィィッ!


早く、真っ直ぐ吐き出されるビーム。

それは警察隊の頭上を通りすぎると、逃げる人々の頭上のビルに着弾した。



「まずい!」



ビルの一角が破壊され、瓦礫が落下する。


その先にいるのは、先程ジュースを飲んでいた母と子。

人々が気づくより早く、瓦礫は地面に向かう。

今からでは誰も間に合わない。


母親はせめて子供だけでも守ろうと、咄嗟に子供に覆い被さる。

このまま、瓦礫は無慈悲に母子を下敷きにしようとした。


その時である。



「はあっ!!」



突如、瓦礫が破壊され、吹き飛んだ。

人間を押し潰すには十分だったそれは、砕けた事で無害な埃と破片となり、パラパラと人々の頭上に降り注ぐ。



「………えっ?」



覚悟を決め、目を瞑っていた母親が、何が起こったのかと目を開いた。



そこに居たのは、人々を守るかのように、警察隊と機械兵の間に立ち塞がる小さな人影。

瓦礫を破壊し、彼女とその子供を救った張本人。



「………デオン、相手は」

『恐らく長距離攻撃タイプですね、これまでの機械兵より装甲も強固です』



呆然とする、人々と警察隊の視線を集め立つのは、他でもないシャルルだ。



「あの怪物は僕が倒します、貴殿方は市民の避難を!」

「ちょ、ちょっと!」



警察隊にそう告げると、シャルルはデオンカリバーを構え、機械兵に向けて駆け出す。

戦闘礼装によって強化されたその身体能力は、オリンピック選手よりも遥かに早い。



「ギギギ!」



機械兵は背中の腕を両方共砲身に変形させ、何発もビームを放つ。


対するシャルルは、それをデオンカリバーを振るい、弾きながら距離を詰めてゆく。

ビルをも吹き飛ばすビームを、霧を払うかのように簡単に。



「はあっ!」

「ギィィ!?」



そして懐に入り込み、一撃。

拳銃ですらダメージを与えられなかった機械兵が、後退った。



「どりゃあっ!」



間髪入れず、追撃を入れようとデオンカリバーを振るう。



「ギィィ!」



対する機械兵も、前の腕をブレード状に変形させ、デオンカリバーの一撃を受け止める。


何度も、何度も、剣と剣のぶつかり合うガキンガキンという音が響いた。



「み、皆さん!落ち着いて避難してください!」

「こちらです!どうぞ!」



そしてシャルルが戦っている間に、警察隊の避難誘導が始まる。

シャルルが機械兵を釘付けにしている事もあり、避難は順調に進んだ。


後の話だが、この事件に巻き込まれたある母親は「あの騎士のような少年がいなければ、今ごろ子供ごとあの機械の怪物にやられていた」と語っている。



「だりゃあーーっ!!」



隙をつき、デオンカリバーの重い一撃が、機械兵の胴に叩き込まれた。



「グゥエギギッ?!」



鈍い音と共に機械兵の胴の装甲が砕け、機械兵はスパークを散らしながら吹っ飛ばされた。


そしてそのまま、自分が落下してきた広場の噴水があった場所へと飛び、激突する。



「今だ!デオン!」

『了解しました!』



瞬間、デオンカリバーの刀身が姿を変えた。

中心部から開くように展開し、音叉のような形状に。


別れた刀身の間に、バチバチと桃色の電流が走る。

エネルギーを充填しているのだ。



『エネルギー充填率、80、90………100%!』

「よし!」



エネルギーの充填が終わり、シャルルは変形したデオンカリバーを、バットのように構える。

そして。



「星光一閃!エトワールトネェーール!!」



大きく、横に振る。

デオンカリバーに充填されたエネルギーは、流星のようなビーム弾となり、真っ直ぐ機械兵に向けて飛来する。



「ギ………!」



避ける間もなく、ビーム弾は機械兵に直撃。

瞬間、ぶつけられたエネルギーは機械兵のボディを破壊し、エネルギーがスパークする。


そして機械兵が倒れると同時に、一気に爆発。

機械兵を吹き飛ばしたかに見えた。



「やった?!」



高エネルギーをぶつける剣技「エトワールトネール」なら、いちげきで機械兵を倒せたかと、シャルルは期待する。



『………いえ』

「あっ!」



シャルルの眼前に見えたのは、爆炎の中からよろよろと立ち上がる機械兵の姿。


四つあった内の腕は左右一本ずつが破壊され、全身の各部がスパークしている。

仕留めきれなかったとはいえ、瀕死の状態だ。


だが。



「ギギギ………ピピピピピピ!」



突如、機械兵から響く電子音。

モノアイが激しく点滅し、その電子頭脳に刻まれたプログラムが起動する。


そう、この機械兵にも仕組まれていた。

以前のアーマイゼのような、最後の切り札が。



「まずい!」



身構えるシャルルだが、もう間に合わない。


その眼前で、半壊した機械兵からコードが溢れる。

そしてその姿を、文字通り「大きく」変質させた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ