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光輝士セイグリッター  作者: なろうスパーク
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第6話「王子様、同棲する」


「………あー、疲れた」



真っ暗になった外を背に、自宅のアパートに向かう春香。

今日も残業があった。


帰りのバスにはギリギリで間に合ったが、彼女は酷く疲れきっていた。



「あんにゃろう、社員をストレス発散の道具か何かだと思ってんだろ………」



脳裏に浮かぶのは、今日もセクハラパワハラ三昧だった上司。


あの後遅刻せずに出社できた春香だったが、案の定上司はそんな春香を小馬鹿にして、いつものように仕事を押し付けてきた。


スーツに埃がついている事について「帰ってそのまま寝たんだろう?」「将来お嫁さんになった時に困るぞ?」「そんなだから今も独身なんだろ」と。


不可抗力とはいえ、確かにスーツのまま寝た春香に非はあるかも知れない。

だが、いつもの事ながらそれでここまでネチネチ言われる道理はない。



「………いつつっ」



首を少し傾けると、ズキリ、と痛みが走った。

一晩眠っただけで、昨日受けた疲れが全回復する訳がなかった。

肩は痛み、節々が悲鳴をあげている。


そんな状態で、春香は仕事が雨後のタケノコのように生えてくる激務を、一日過ごしたのだ。



「………あ」



そんな事を考えていると、言っては悪いがその元凶ともいえる、あの少年………シャルルの事を思い出した。



「………シャルル君、いい子にしてるかなぁ」



あの時、急いでいるとはいえ「続きは帰ってきてから聞くから」と言い、彼を家に置いてきてしまった。


恐らく、今も彼は家にいるのだろう。



………27歳の女の部屋に、14歳の美しい少年が一人。

中々犯罪的な絵面である。



「………って何を考えとるのだ私は!」



脳に過った(よこしま)な考えをぶんぶんと振り払う。

たしかに、家に美形が待っていると思えばテンションは上がる物。


だが、春香はそんな夢物語を夢想するには歳を取りすぎている。

もしここに春香に親しい友人か、漫才のツッコミ役が居たなら「現実見ろ」とハリセンで叩かれている事だろう。


そもそも、未成年に手を出すのは、少なくとも地球では犯罪だ。

相手が男でも女でも、法律上は何かあれば大人の春香が裁かれる。

………どういう訳か男性加害者の方が重い罰を下される傾向があるが。



「そんな事より、部屋にあの子をあの部屋にあげてる事を恥ずかしがりなさいよ私………」



今まで気づいていなかったが、たしかにあの掃除もろくにされていない部屋に他人をあげている事は、よくよく考えれば恥ずかしい。


見られて困るような物が無い事が唯一の救いか。


………と、考えていたが、実は床に脱ぎ捨てられていた下着という女性の見られたくないものトップ10に入る物を、バッチリ見られている事にはまだ気づいてはいない。



「………へっくしょ!」



暖かくなり始めているとはいえ、闇夜の寒さは、彼女の体温を奪う。

この通り、くしゃみをする程に。



「………はよ帰ろ」



凍える身体をさすり、春香は帰路をいそぐ。

帰ったら、電気ストーブで暖でも取るかと考えながら。





………………





自分の部屋の鍵穴に、鍵を差し込む。

がちゃり、と音がして扉が開いた。



「ただいま………」



身体中に疲れを感じながらドアを開けた。

すると。



「………うわおっ?!」



春香が面食らったのも無理はない。



普段春香が帰宅した時、目に写るのは、薄汚れて散らかった我が家。

暗く静まり返り、当たり前だが風呂も空調も利いていない。

お帰りと答える声もない。


寂しいひとり暮らしを象徴する、労働で疲れきった春香に更に追い討ちをかける現実。



だが、目の前にあるのは何だ?


何年も掃除しておらず、埃を被っていた床が、新築かホームセンターで見るフローリングのようにピカピカに光っているではないか。


放置されていたインスタント食品の容器は、ゴミ袋にまとめられてキッチンの端にまとめられている。


読みっぱなしだった雑誌も纏められ、窓ガラスは山奥の渓流のように透明だ。


給湯器には、五分前に入浴の準備が整ったという表示。


そして。



「おかえりなさい!春香さん!」



パタパタと駆けてきて笑顔で出迎えるのが、春香に一日の気力をくれていた憧れの王子様・シャルル。



「………もしかして、これ、シャルル君がやってくれたの?」

「えっ?………はい、そうですよ?」



それがどうかしたの?と言うようなシャルル。

そこに、何の戸惑いも迷いもない、澄んだ綺麗な瞳で。



「………ううっ」

「春香さん?!」



それを前に、春香の心の耐久値はとうとう限界を向かえ、その場にへなへなとへたり込んでしまった。


いつも誰もいない汚れた部屋が、綺麗に掃除され、風呂の準備まで出来ている。

更にそれをやったのが憧れの美少年・シャルルな上に、それが「おかえり」を言ってくれた。


寂しく辛い独身生活を続けてきた春香にとっては、文字通り幸せすぎて死にそうな状況だ。



「は、春香さん!しっかり!」

「ああ………もう私死んでもいいかも」

「死なないでください!春香さん!春香さーん!」

「ああ………シャルル君が私の名前を呼んでくれる………幸せぇ」

「春香さーん!!」



安らかに昇天しそうな春香を、シャルルは必死に引き留める。

十分に渡るやり取りは続き、なんとか、シャルルは春香を現世に留める事ができたのであった。





………………





入浴を済ませ、二ヶ月ほど久しぶりに寝巻きに着替えた春香は、今朝のように机を挟んでシャルルと対面する。


机の上には、有り合わせの物でシャルルが作ったという春香の分のパスタ料理が、皿の上に綺麗に盛り付けられている。



「………それで、今朝の続きだけど」

「はい」



対面したシャルルには、春香にどうしても言いたい事があった。

それは。



「僕やデオン、そしてセイグリッターの事を、誓って誰にも話さないでほしいんです、知り合いは勿論、警察にも」



それは、自分の事を秘密にしてほしいという事。


もしシャルルの事を大衆が知れば、行政は勿論、メディアや学会も宇宙人であるシャルルの事を放っておかないだろう。


少なくとも、今まで通りに活動はできなくなってしまう。

そうなれば、ウィーズの魔の手に素早く対処する事はできなくなる。


これに対し、春香の下した答え、それは。



「………解った、誰にも言わない」

「本当ですか!?」



間を置いて、春香は首を縦に降った。

飛び付くように、シャルルの顔がぱああと明るくなる。



「そもそも、言ったって誰も信じないし、シャルル君は私を助けてくれたし、シャルル君が黙ってて欲しいなら私は黙るよ」

「あ、ありがとうございます!」



ペコリペコリと、感謝の意を込めてシャルルは何度も頭を下げる。

流石の春香も若干引き気味………ではあるものの「子犬みたいで可愛い………」と、ほんの少しだけ考えてはいた。



「………それでは、僕はこれで!」



シャルルはスックと立ち上がり、玄関に向かおうとする。



「………ま、待って!」



そんなシャルルを、春香は直ぐ様呼び止めた。



「これでって………あなた、何処へ行くの?」

「どこって………前にある公園ですよ?」



公園。シャルルがそう答えると、春香の頭に嫌な予感が過った。



「………聞きたいんだけど、シャルル君、地球では何処に寝泊まりしてるの?」

「はい、公園ですよ?」

「………地球に来てからずっと?」

「はい、地球に来てからずっとですよ?」



そして、嫌な予感は的中した。


シャルルは、地球に来てからずっと、このアパートの前にある公園で寝泊まりをしていたのだ。

だから、春香は毎朝公園でシャルルを見る事が出来たのだろう。



「公園て………」



眼前の美少年が、故郷を焼かれた挙げ句、知らぬ土地でホームレス同然の生活を送っている。

そう考えると、春香の胸は酷く締め付けられた。


今まで、生活が忙しく他人の事を気にする事は無かった春香。

だが久々に文化的な生活が出来たからか、それとも目の前にいるのが毎朝元気をくれた美少年だったからか。

春香の中に、彼を助けたいという気持ちが沸き上がった。


そして。



「………よかったら、ウチで寝泊まりしない?」

「えっ!?」




勇気を振り絞り、春香はその言葉をひねり出した。

自分の部屋で寝泊まりしないかという、事実上の同居提案。



『私もいいと思いますよ』

「デオンまで?」

『これからの事を考えると、ほぼ屋外の公園よりも屋内で寝泊まりした方が効率的です』



少々シャクにくる言い方だが、ペンダントになっているデオンも賛成のようだ。



「………女性の部屋で寝泊まりするのは、紳士として恥ずべき事ですが………」



王子として生まれ、今まで生きてきたからか、シャルルは少々渋った。

だが、少し考えた後、恥ずかしさを堪えるように口を開いた。



「………よろしく、お願いします」

「………こ、こちら、こそ」



かくして、シャルルのホームレス生活は今日を持って終了。

そして、春香の少しばかり奇妙な同居生活が、こうして幕を開けたのであった。





………………





月。


太古の昔より、地球の側に居続けた、白き衛星。


その背面。

地球からは見えぬ影の中に、蠢くモノがあった。


一枚の巨大な円盤に、それを挟むように上下に無計画に延びた、都市のような無数の建造物。


いくつもの機械を混ぜ合わせたようなソレは、赤黒い錆のような色をしていた。


推定1000キロはあるであろう、宇宙の要塞。


その周りを、刺々しい形をしたマシンが、いくつも浮かんでいた。



宇宙要塞「ディアボロ」と名付けられたそれは、地球を影から狙うかのように、月の影に佇んでいた。



「惑星アマデウスの生き残りだァ?」

「はい、映像に出します」



その内部にて、簡素な装備で身を固めた兵士と、その上司と思われる男が、モニターの前に立っていた。


モニターには、夜の街を舞台に戦う、アーマイゼとセイグリッターの姿。



「………あん時逃げた王族の生き残りかァ」



サメのように尖った歯を見せ、男は笑った。


男は、地球で言うパンクファッションのような衣服に身を包み、その上から白いガウンのような物をマントのように羽織っている。


鍛え上げた屈強な身体と、日焼けしたような浅黒い皮膚。

尖った耳にはピアスのような物がいくつも輝いている。


ショッキングピンクの髪は箒のように立ち上がり、凶悪な肉食獣のような目には、紫の瞳が光っていた。


一言で言うなら、デスメタル歌手のような、見るからに荒々しそうな男だった。



「いかが致しましょうか」

「あ?んなモン決まってんだろ」



尋ねる兵士に対し、デスメタル男は荒っぽく答える。

兵士も、少々怯えているようにも見える。



「男は黙って正面突破!更なるインベイドベムをぶつけて………」

「貴重な戦力を減らすおつもり、でしょう?」



男らしくキメようとしたデスメタル男の背後から飛んできた女の声が、デスメタル男の台詞を遮った。



「………相変わらず正面突破しか考えられないのね、“ヴォルガン”」

「………チッ、テメーかよ“ジャクス”」



デスメタル男の背後に、知らぬ間に一人の女が立っていた。


デスメタル男とは、その女は何もかも真逆だった。


黒い長コートか軍服のような服を規則正しく纏い、少しの乱れも見せていない。


男と同じく耳こそ尖っているがそこには何の飾りもなく、肌も雪のように白かった。


切れ長の目にはピンク色の瞳が輝き、口許には紫色のルージュが煌めき、銀色の長いシャギーの髪型をしている。


デスメタル男を虎やライオンのような陸の肉食獣とするなら、彼女はサメやシャチのような海の肉食獣。

そんな印象を与える。



「テメーは進行作戦の帰りかよ」

「おかげさまで、三つの惑星を解放したわ」

「俺は五つだぜ?」

「その内四つは武力で跡形もなく叩き潰したんでしょ?そんな物は解放とは言えないわ」

「………ちっ」



説教をするような軍服女に、露骨に不快感を露にするデスメタル男。



「………まあ何にせよ、地球は俺が“総統閣下”直々に担当を任されてんだ、テメーの出る幕は無ぇよ」

「そうだといいけれど」



逆にデスメタル男が威圧的に言ってはみるものの、軍服女は意に介さない。



「………惑星アマデウスは、私達が一度に進行しても、ああいう残党を出した惑星………そして「光輝士」の力は直接戦った貴方なら、どれだけ恐ろしいか解るはずよ」

「………っせーなァ!あんな軟弱なクソ貴族、気にする間でもねーよ!」



テメーのゴタクは聞き飽きた。デスメタル男はそう言うように、乱暴に会話を断ち切った。

そんなデスメタル男に、軍服女は呆れた様子を見せる。



「………何はともあれ、今回の解放作戦は多難な物になりそうね」

「関係ねぇよ………この宇宙を支配する腐った権力者共を叩きのめし、宇宙を解放に導く止まらねぇ奴等」



地球を睨み、不敵に笑うデスメタル男………「獣将軍ヴォルガン」。

もう何も言うまいと呆れきっている軍服女………「竜将軍ジャクス」。



「………それが俺達“ウィーズ”だ!!」



今、地球最大の敵が。

かつて惑星アマデウスを滅ぼした「銀河革命正義団・ウィーズ」は、その魔の手を地球に伸ばしつつあった。

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