最終話「星の王子様」
戦いは、終わった。
数多の星を滅ぼし、破壊してきた銀河革命正義団ウィーズは、
彼等が滅ぼした星の遺児、シャルル・ルイス・アマデウスと、彼の操る光輝士セイグリッターにより、討ち取られた。
そして、後に「ラグランジュ戦役」と呼ばれる事となるこの戦いは、
地球人類初の宇宙戦争、そして地球人類初の他星との共同戦線として、歴史に記録される事となった。
そして………。
………………
最後の戦いから、二日の時が流れた。
戦いは終わったものの、まだ町にかつての活気は戻らず、人気は少ない。
元通りに戻るまで、一月はかかるだろう。
「ただいまぁ」
「ただいま」
二日ぶりに、シャルルはデオンと春香と共に自宅のアパートへと帰ってきた。
「やっぱり我が家は落ち着くねぇ~」
「そうですね」
くつろぐ春香と、連合軍基地から貰ってきた一つの紙袋をキッチンに置くシャルル。
その中身は、卵と食パン、そして砂糖やバター。
連合軍に頼んで、貰ってきた物だ。
まだ近所のスーパーは人が居ない為営業しておらず、連合軍の食堂から分けてもらってきた。
「じゃあ、フレンチトースト作っちゃいますね」
デオンにレシピを展開させ、シャルルは台所へと向かってゆく。
戦いに赴く前にした「生きて帰って来てフレンチトーストを作る」という約束を果たす為に。
春香は机の前に座り、シャルルがフレンチトーストを作るのを待っている。
戦いが終わり、ようやく日常が戻ってきた。
それなのに春香は、浮かない顔をしていた。
まるで、夏の終わりを感じとる、子供のように。
楽しい時の終わりが、近づいているかのように。
「さ、できましたよ!」
甘い香りを漂わせて、シャルルがフレンチトーストの乗った皿を二つ持って、笑顔でやってきた。
タカマガハラ基地で見たフレンチトーストと同じ、いや、それ以上に美味しそうなフレンチトーストが、春香の前に現れた。
シャルルも自分のフレンチトーストを、テーブルの向こう側に起き、座る。
「いただきます」
「いただきます」
食前の挨拶を済ませ、二人は皿の前に置いてある箸を取る。
長い地球での生活で、シャルルも箸の扱いには大分慣れた。
だが、シャルル箸を使うのも、おそらく後僅か。
橋で持ったフレンチトーストを口に運び、一口。
「………甘いね」
「………はい」
「………それでいて、美味しい」
「………ありがとうございます」
春香は、連合軍基地で食べた物より、ずっと美味しく感じた。
だが、それを素直に喜ぶ事はできなかった。
甘いはずのフレンチトーストが、ほんの少ししょっぱく感じた。
二人でフレンチトーストを味わい、食べている。
そしてしばらくの沈黙の後、春香が口を開いた。
「………シャルル、君」
名前を呼ばれたシャルルは。
「はい、春香さん」
と、微笑んで答えた。
相も変わらず、優しく眩しい、春の日差しのような笑顔だ。
だが、それが見られるのも、残り僅かだろう。
そう思うと春香は、胸の奥が締め付けられるように感じた。
「………やっぱり、帰っちゃうん、だよね」
辛そうに、春香が訪ねる。
その問いに、シャルルの箸が止まる。
そして少しの沈黙を置き、シャルルは答えた。
「………惑星アマデウスと、国民達を、放ってはおけませんから」
そもそも、シャルルが春香の家に………もとい地球に留まっていたのは、故郷である惑星アマデウスが滅びてしまったから。
そして、アマデウスを滅ぼしたウィーズが、地球を狙っていたからだ。
そのアマデウス国家は、今妹のソフィアと共に一部が逃れ、新天地ルデア星に逃れている事が発覚した。
更に、ウィーズは壊滅こそしたものの、惑星アマデウスは今もその残党に占拠されている。
もう、シャルルが地球に留まる理由は無い所か、アマデウス復興の為に、帰らなければならない。
シャルルは惑星アマデウスの王子………否、現「国王」として、果たさねばならぬ責務と、使命があるのだ。
仕方がない事は解っていた。
この生活が、永遠に続くものではないと。
春香も大人だから、そこは理解しているつもりだった。
けれども、いざそれに直面すると、春香の感情は重く沈んだ。
シャルルと離ればなれになる。
もしかしたら、永遠に会えないかも知れない。
何故だかは解らなかったが、それを考えると、春香の心は締め付けられた。
これではまるで、自分がシャルルに恋をしているようだとも思えた。
「………デオン」
『はい、シャルル様』
「例の物を」
落ち込む春香の前で、シャルルはそっと手を出す。
すると、デオンから光が放たれ、シャルルの手の上で収束してゆく。
セイグリッターを呼び出す時の現象を、小規模にしたような物だ。
そして、シャルルの手の中に現れたのは。
「………指輪?」
そこにあったのは、二つの指輪であった。
銀色のアームに、それぞれ赤と青の宝石が乗った、綺麗な指輪だ。
「セイグリッター用の資材から作った物です………時間があれば、もっとちゃんとした物を用意できたのですが」
残念そうに呟きながら、シャルルは二つの指輪の内、青い物を自分の右手の薬指にはめた。
そしてもう一つの方、赤い指輪を、春香に差し出した。
「え………シャルル君?これって?」
「………地球では、こうする風習があると聞きました、それに乗っ取らせていただきます」
何時にもなく真面目に、シャルルは言う。
春香はそんなシャルルを前に、少々混乱気味だ。
シャルルは、地球の風習に乗っ取ったと言った。
そして、地球の風習において、男が女に指輪を渡すといったら、その理由は一つしかない。
「いつか、惑星アマデウスを再興し、貴女に相応しい男になって帰ってきます、そしたら………」
いや、そんなハズはない。
そう否定しようとする春香だったが、それよりも早く、シャルルが結論を出した。
「………僕と、結婚してください」
言った。
言い切った。
一国の王子であるシャルルが、しがない会社員でしかない春香に、言ったのだ。
結婚してください、と。
「………ほ、本気?」
「本気です」
顔を赤くする春香に、シャルルは即答する。
シャルルは冗談を言う人間ではない事は知っていた。
だからこれも、冗談ではないのだろう。
「………私なんかでいいの?」
「デオンとも話し合って決めた事です」
確かに、こういう事は真っ先に止めて来そうなデオンが、微動だにしない。
彼等は本気だ。
本気で春香に告白してきているのだ。
身分差、年の差、その他諸々。
そんな障害だらけにも関わらず、シャルルは春香と、本気で結婚する気でいる。
「………え、えっと」
少しの沈黙の後、春香はシャルルの手を取り、指輪を受けとる。
そして。
「………私も、約束していいかな」
春香も、シャルルの目を見て、優しく微笑む。
「シャルル君が迎えに来るまでに、シャルル君に相応しい女に………レディになってるって」
春香なりに考えて出した結論が、それだった。
シャルルと並び立つに相応しい女になる。
それが、春香の答えだった。
「………じゃあ、未来で待ってます」
「………私も」
太陽に照らされた二つの影が重なりあう。
二人の薬指には、赤と青のきらめきが輝いていた………。
………………
この戦いの後、地球連合政府とアマデウスの間に、友好条約が結ばれる事となった。
地球史上初の、他の惑星との間に結ばれた物だった。
そして、ラグランジュ戦役終結から、三年の月日が流れた………。
………………
あれから、三年経った。
ウィーズの進行の足跡は、今も各地に残っている。
けれども、人間というのは意外に逞しいもので、一年も経たない内に、元の生活を取り戻していた。
ラグランジュ戦役。
人類初の宇宙戦争は、人々の環境を大きく変えた。
異星の技術による、科学の発展。
連合宇宙軍の発足。
そして、それは「彼女」も変えた。
「部長!頼まれていた資料、上がりました!」
「ありがとう、そこに置いておいて」
東京は、丸山社の一角。
そこで、てきぱきと仕事をこなす、一人の女がいた。
企画部部長・浅倉春香である。
今彼女は、丸山の様々な企画に携わっている。
今は、丸山の顔でもあるお面ライダーシリーズの、過去作のスピンオフ作品「マスクドタイム・お面ライダー虎騎」を担当している。
前の企画部部長がウィーズの進軍に巻き込まれた事により死亡し、その穴埋めとして後釜に収まった春香だった。
が、春香は仕事を、自分の立場でやるべき事をしっかりと果たした。
そして今、お面ライダー最新作という、一大企画を任されるまでに至ったのだ。
「………あっ」
ふと飛行音に気付き、窓の外を見上げる春香。
空には、正式に連合軍の主力として量産されているデルタクローズと、
地球に永住する事になった彼女の「知り合い」の乗る、ガイストパンドラーの姿があった。
ラグランジュ戦役終結後も、地球各地でウィーズ残党の目撃情報は寄せられている。
その討伐か、心理的な威圧を兼ねたパトロールに向かうのだろう。
隣のデルタクローズに乗っているであろう「彼」は、結婚後上手くやれてるだろうか?
将来宇宙飛行士になってシャルルに会いに行くと言っていた「彼等」は元気だろうか?
近い内に同窓会と称して、また会ってみようか。
そんな事が、思わず頭に浮かぶ。
「………ふふっ」
そして、今でもその二機を見ると、共に空を舞う青き機体の姿が浮かぶ。
それを操るアマデウスの王子………今は国王となっているであろう少年の姿も。
「………さーて、仕事仕事!」
彼と交わした約束を思いだし、春香は自分の仕事に戻る。
その薬指には、赤い宝石のついた指輪が輝いていた。
………………
光輝士セイグリッター
おわり




