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光輝士セイグリッター  作者: なろうスパーク
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第4話「亡国の王子」

街が燃える。

見知った街が、炎に包まれて沈んでゆく。


燃え盛る炎の中、二体の巨大ロボットが死闘を繰り広げる。



「何なの………何なのこれ………」



眼前で繰り広げられる、非現実的な光景。

平凡な日々を繰り返してきた春香には、何もかもが受け入れられぬ事の連続。


巨大ロボットが、その剣でアーマイゼを真っ二つに切り裂き、爆発させる。



戦いに勝利した巨大ロボットが、炎の中から春香を見つめている。


炎の揺らめく中に鎮座する巨大ロボットに、あの少年の姿が過る。

毎朝、自分に元気を与えてくれる、あの少年が。



「これは………夢?それとも………現実?」



春香には、解らなかった。

目の前で繰り広げられている光景が、夢なのか現実なのか………。





………………





「………ッ!」



目が覚めた。


いつものように、春香は自宅のアパートの部屋にある、自分のベッドの上で、目を覚ました。


どうやらスーツのまま眠ってしまったらしく、掛け布団の上にそのまま寝転がっていた。



「………今のは、夢?」



半身を起こし、頭をかかえる。

脳裏に甦るのは、昨日の光景。


街を破壊する巨大ロボと、別のロボットが死闘を繰り広げる。

そして、そのロボットを操る、あの少年の姿。



「………夢、だよね、うん」



少し考えた後、春香はそう結論付けた。


昨日のあの出来事は、きっと夢だと。

疲れて眠ったので、変な夢を見たのだと。


考えてもみれば、突然謎の巨大ロボットに襲われて、そこに憧れの王子様が駆けつけるなんて展開、今時下手なライトノベルや少女漫画でも見られない。


むしろやったら一日も経たぬうちに悪質まとめブログやハイエナのようなMAD制作者の玩具にされるのがオチだ。


………もっとも、その王子様を毎朝なめ回すように鑑賞している春香も春香なのだが。



さあ今日も、長く苦しい一日が始まる。

奇妙な夢に浸るのはここまでにして、今日も起きよう。


いつものように春香は起き上がり、朝食のパンを食べようと台所へ向かう。



「あ、おはようございます!」



………聞こえたのは、ソプラノのような美しい少年の声だった。


夢で聞いたものと変わらないその声色に、初めて聞くハズの声に、台所にやってきた春香の身体は凍りつく。


もう長いこと使っていない台所のコンロに、火がついていた。


そこにフライパンを乗せ、特売日に買ったタマゴを目玉焼きしているのは、本来なら毎朝の公園でしか出会わないハズの、あの少年。


毎朝公園で見る格好と、同じ姿をした、あの少年。


西洋人形を思わせる綺麗な顔も、か細いながらも少年らしい骨格をした体つきも、夢や毎朝見た通り。


本来なら彼とは言葉すら交わした事もないハズなのに、

当たり前のように自身の家にあがり、元々の主のように、慣れた手付きで料理をしている。



「あ、勝手に上がらせてもらった上に、台所使っちゃってすいません、折角だから朝ごはんでもと思ったのですが………」



申し訳なさそうに、少年は無断で春香の家に上がった上に台所を使った事について、謝罪をする。

しかし、春香は固まったまま動かない。


夢だと思っていたハズの非現実の世界が、こうして続いている。

その事実を脳が処理できず、フリーズしてしまったのだ。


固まったままの春香の前で、目玉焼きはジュージューと美味しそうな音をたてるのであった………。





………………





その日の春香の朝食は、目の前に座る少年が自分の為に作ってくれたのだという、目玉焼きを乗せたトースト。


一口食べてみる。

パリ、と心地のよい音がする。


春香は自分でもたまにトーストを焼くのだが、心なしか自分が作るよりも美味しく感じる。



「………うん、美味しいよ」

「そうですか!よかったぁ………」



ぱああと、笑顔を浮かべて喜ぶ少年。

まるで天使のようなその笑顔に、春香の顔もほころぶ。



「(………やばい、こりゃ天使だわ)」



まるで天国にも昇る夢心地だが、ぶんぶんと雑念を振り払う。


たしかに笑顔の彼は魅力的だが、今はそれに浸っている場合ではない。



「………あの、さ」

「はい?」



父親と上司以外に話しかけるのは初めての春香だが、そうでなくても彼に話しかけるのは緊張する。



「えっと………私は春香、浅倉春香………君は、一体何者なの?」

「………ああ!そうでした、自己紹介を忘れてました!」



ハッとし、謝る少年。

その様子も可愛らしい。

美少年は何をやっても可愛らしいのだ。



「えっと………はじめまして、僕はシャルル、シャルル・ルイス・アマデウス、14歳です」



優しく微笑み、名乗る美少年………もとい「シャルル・ルイス・アマデウス」少年。

ずいぶんと荘厳な名前だ。外国人だろうか?

春香がそう考えていると。



「それでこっちが………」

『私はデオン、シャルル様のサポートデバイス………執事のような物だ』



遠目では解らなかったが、シャルルのかけていた赤い宝石のついたペンダント。

その宝石が信号のように点滅し、そこからノイズのかかったような凛々しい男の声が響く。



「ペンダントがしゃべった!」

『………君達の言葉で言う所のコンピュータAIのようなものと思ってくれればいい』

「は、はあ………」



驚いた春香に、ペンダント………「デオン」は少々不機嫌そうに答える。

春香も、失礼だったかと頭を下げた。



「………所で、どうやって私の部屋が解って、中に入れたの?」

『勝手ながら、君の頭の中を覗かせてもらった、鍵も私が開けた、それぐらい容易い』

「ごめんなさい、あの場所に放置する訳にもいかず………」



前言撤回、あっちも十分失礼だった。

申し訳なさそうなシャルルはともかく、デオンの態度は失礼のそれだ。

確かに、ビルの上に放置されるよりは良いが、それでも言い方という物がある。



「………まずは、僕が何者かについて話しますね」



シャルルが、話を進める。

穏やかに話すシャルルは、どこか寂しげで、まるで辛い思い出を語るかのようだった………。





………………





「………僕が生まれたのは「惑星アマデウス」、この地球から3000万光年離れた場所にある星です」



惑星アマデウス。


その星には、地球のような知的生命体と、地球のような文化。

そして地球を越えた文明が栄えていた。


更にその上で、アマデウスの文明は自然界との完全共生に成功していた。

太古の昔に惑星統一の為の大戦争があったと歴史にあるものの、今は争いのない平和な惑星。


草木は生い茂り、花々は咲き乱れ、空には鳥や空気を汚染しない飛行マシンが舞う。


そんな、楽園を体現したような星だった。



「僕はそのアマデウスの、王室の177代の、二人目として生を受けました」



アマデウスを代々統治してきたのは、惑星と同じ姓を持つ王の一族。


その176代である国王「オーギスト・グレン・アマデウス」と、

その妻であり女王の「マリアンヌ・ルイス・アマデウス」の二人目の子供。

次期の国王となる兄「ブライ・グレン・アマデウス」の弟として、シャルルは生を受けた。


世継ぎはブライであったが、シャルルもブライと変わらぬ、王族に相応しい人間として育てられた。


清き心を。

真っ直ぐな正義を。

弱い者をいたわる優しさを。


敬愛する両親と、憧れの兄。

そして多くの人々に愛され、彼もまた多くの人々を愛した。


そんな日々が、続くと思っていた。



「………あれは、僕が12歳の誕生日を迎えて、しばらく経ったぐらいの事だったと思います」



そう。

あれは忘れもしない、シャルルの遠方への留学の話が進んでいた頃の事。


アマデウス付近の宇宙空間に、突如として宇宙船団が現れた。

何の前触れもなく、千を越える宇宙船がアマデウスの前に現れたのだ。


直ぐ様、アマデウスは彼等に対して通信によるコンタクトを行った。

返答は、以外に早く帰ってきた。


彼等は自らを、宇宙を放浪して回る移動国家のような物と語った。


彼等は、どういう訳かアマデウスの国家体制や文化について詳しく聞きたがった。

………思えば、この時から疑うべきだったのだ。

彼等が、善良な訪問者ではないと。



「………そして、アマデウス政府は彼等との数度に渡る通信による話し合いの末、彼等との間に、親睦のパーティーを開く事になりました」



そして迎えたパーティー当日。


会場に選ばれたのは、アマデウスの南部にあるリゾート地の島・ロモココ。

遠い星からの客人をもてなすには、最良の場所と言えた。


そして、多くの人々の見守る中。

島に、船団の宇宙船が降り立った。


その場にいた誰しもが、未だ見ぬ宇宙の彼方からの友人との出会いを期待した。

過去の時代より夢想し続けていた、星を越えた絆を。


そして宇宙船の扉が開き、彼等の前に現れたのは。



「皆、善良で友好的な客人が来ると考えていたのです………しかし、実際に現れたのは、兵器で武装し、その銃口を僕たちに向ける兵隊でした」



信じられない出来事であった。


通信を挟んで、善良な訪問者として認知されていた彼等は、

アマデウスに到着するや否や、その残虐な本性を露にしたのだ。


その場にいたアマデウス政府の高官やパーティーのスタッフ、そして訪問者を一目見ようと駆けつけたアマデウスの国民。


その多くが、訪問者達の放った銃弾の前に犠牲になった。



アマデウス始まって以来のこの事件は、後に「ロモココの惨劇」と呼ばれた。

混乱に陥ったアマデウス政府に対し、訪問者達は声高らかにその真の名と本来の目的を告げた。



“惑星アマデウスを支配し、人々を苦しめる悪の王族・貴族に告ぐ”

“我々は「銀河革命正義団・ウィーズ」”

“この宇宙の権力と支配に抗う者”

“我々は我々の正義に従い、この星の王族に宣戦布告する”



その本性を現した訪問者ことウィーズは、ロモココを拠点に軍を展開。

アマデウス政府に対して、攻撃を開始した。


そうやって、いくつもの惑星とそこの権力者に戦争を仕掛け続けたのだろう。

強力な兵器で武装した兵隊やロボット兵機は圧倒的な戦力を誇っていた。


アマデウスにも、惑星と人々を守るための軍隊はあった。

しかし、長い平和の中、式典のパレード以外では演習を繰り返すだけだったその軍隊は、

それまで何度も戦争を続けてきたウィーズの前では、ほぼ無力に等しかった。



「………僕が次の誕生日を迎える頃には、惑星のほとんどがウィーズの勢力下となってしまいました」



国王オーギストは戦乱の中命を落とし、残された兄ブライと母マリアンヌは、せめてシャルルだけは逃がそうとした。


長きに渡り、アマデウス王都の神殿に祀られていた超古代の遺産。

太古の戦争を終結させたと云われている「光輝士(こうきし)」と呼ばれる、鉄の巨人(スーパーロボット)「セイグリッター」。


王族の象徴にして、アマデウスの守護神として鎮座し続けてきたそれを脱出艇代わりにする事で、シャルルは滅び行くアマデウスから一人脱出した。


しんがりを買って出た兄と、自ら囮になる道を選んだ母を残し、

シャルルはただ一人、生き残った。



そしてその日、惑星アマデウスの歴史は終わりを告げた。





………………





「………そして僕は放浪を続け、2年前にこの地球にたどり着いた、という訳です」



シャルルの壮絶な過去を前に、言葉を失う春香。


目の前の、毎朝自分を癒してくれる王子様が本当の王子様だっただけでなく、故郷を失った宇宙人だった。


普通なら「そんな馬鹿な」と一蹴する所だが、昨日の出来事を考えると、嘘とは思えない。



「………しかし、ある問題が発生しました………僕が地球に逃げ延びてから一年後、ウィーズが地球を次のターゲットとして定めてしまったんです」

「じゃあ、昨日戦った黒いロボットが?」

「はい、あれはウィーズの使用する戦闘ロボットです」



それを聞き、春香は戦慄した。

なんと昨日シャルルがセイグリッターで撃退したあのインベイドベム・アーマイゼは、そのウィーズの送り込んだ尖兵。



「今は大々的な行動は起こしてないのですが………恐らく、本格的な侵略行動が始まるのも、時間の問題でしょう」

『シャルル様はそれを阻止する為に、影ながら奴等の送り込む刺客と戦っていたのだ』

「巨大ロボット兵器………インベイドベムまで出して来ましたからね」



自分の星が知らぬ間に侵略を受けていた事。

そしてそれを阻止する為に、目の前の年端もいかぬ少年が一人戦っていた事。


まるで漫画のような話だ。


だがそれを嘘だと決めつける証拠はなく、春香自身その“現実”の断片に巻き込まれている。



「………私が知らない間に、そんな事が起きていたなんて………」



自分の知らぬ場所で、侵略戦争が起きていたという事実。

春香はただただ、呆然とするしか無かった。

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