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光輝士セイグリッター  作者: なろうスパーク
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第3話「出撃、光輝士」

………いつまで待っても春香に最後の時は訪れなかった。


高架橋が破壊され、崩れてゆく音が響くばかりで、春香の意識は、それまで通りに存在していた。



「………えっ?」



どう優花はおそるおそる目を開く。


すると眼前に映ったのは、高架橋を破壊したアーマイゼと、破壊され瓦礫と化した高架橋。


さっきまであそこに居たはずなのに、いつの間にか春香は、それを少し高い所から見つめていた。



「………お怪我はありませんか?」



頭上から声が聞こえた。

彼女の知らない、子供の声だ。


咄嗟に、春香は顔を上げた。

そこには。



その顔は、見知った顔だった。


絹のようなサラサラした金髪も、

西洋人形を思わせる彫りの深い綺麗な顔立ちも、

くりくりした目に輝く、サファイアのような青い瞳も。


か細いながらも、丁度よく少年の骨格と肉付きをした身体。

それを、青を基調に金や白の装飾が施された帰属のような服が覆い、背中にはマントが靡いている。

そして腰には、RPGゲームで見るような宝石のついた剣。



「あなたは………」



いつもと違う、まるで童話の王子様のような格好をしている。


だが、間違いない。

毎朝見ている春香だから解った。


彼は、あの少年だ。

毎朝自分に元気をくれる、あの少年だと。



「………うえぇ?!」



そして春香は、自分の位置と肩の感覚から、彼が自分を抱き上げてる事に、数秒遅れて気付いた。

所謂、お姫様抱っこというやつだ。



「え?!あの、その………!?」



幸せと混乱が入り交じり、春香は何をどう言えばいいか解らなくなる。

そんな、あたふたと騒ぐ春香を、少年は優しく地面に降ろす。


よく見れば、自分が立っているのはビルの上だ。

ここから、街を破壊するアーマイゼの姿がよく見える。



「………しばらく、ここでじっとしていて下さいね」



そして優しく笑い、春香に言い聞かせる。

それに対し春香は、顔を真っ赤にして戸惑いつつも、



「は………はいい………」



と、あわあわとしつつも返した。


自分ではそんな乙女漫画染みた顔をするのは気持ち悪いと、春香は自覚していた。

だが今の春香に、それを自覚して無表情を装う余裕はない。



そんな春香に、少年はそれでいいと言うように頷くと、街を破壊するアーマイゼの方を向き、睨む。



「………行くよ、デオン」

『あの女性は?姿を見られましたが』

「それは仕方ないよ、後で説得する」



腰に挿した剣の、宝石部分がチカチカと光り、機械的な男性の声が響く。

まるで、あの剣が喋っているように見える。


何かの覚悟を決めるように、少年は深く息を吸い、吐き出す。


そして。



「………来い!セイグリッター!!」



天高く剣をかざし、叫ぶ。

するとどうだろう。剣から光が走り、天に向けて広がった。


そして夜空に現れる、見たこともないような文字が刻まれた円形。

言うなればそれは、魔術で使われるような魔方陣といった所か。



まるで、ファンタジーRPGのような光景が、そこに繰り広げられている。


連続する異常な光景に、夢でも見ているような感覚に陥る春香。


しかし、線路で転んだ足は今も痛みを発しており、眼前の光景が現実のそれである事を物語っている。


………そして、この非現実な光景は、これだけでは終わらなかった。



「………な、何アレ………」



空に浮かんだ魔方陣から、何かが現れた。


それは、白き騎士を思わせる、巨大なヒトガタ。


大きさはアーマイゼと同じぐらいだろうか?大体50mほどあるように見える。


白を貴重としつつ、各部は青く、所々に金の装飾が施されている。

どこか、あの少年が着ていた衣装に似ているようにも見える。


金の装甲の輝く胸には、緑色の発光体が輝いている。


背中には、剣豪のように同サイズの両手剣が、斜めを向いてマウントされている。


そして顔には、緑色に輝く人間のような二つの目と、王冠を思わせる二本の角。



「………ロボット?」



春香がその巨影を見て最初に抱いた感想は、それだった。


巨大ロボット。


勤め先が製作している「ハイパー特捜シリーズ」に登場するような、巨大化した怪人と戦うための巨大戦力。


ヒロイックでなおかつ機械的な意匠を持ったそれは、春香の目には巨大ロボットに見えた。



「はあっ!」



巨大ロボットに見とれていると、なんとあの少年がビルの上から飛び出した。


唐突の飛び降りに春香が驚いたのもつかの間。

少年は空中で光の玉になると、そのまま巨大ロボットの額に向けて飛び、吸い込まれた。



「………ど、どーなってんの、何から何まで」



非現実的な現象の連続に、春香に出来る事は、ただただ混乱する事だけである。





………………





巨大ロボットの額に吸収された少年は、その内部にある球体状の空間にいた。


ここは、この巨大ロボットの戦闘用のコックピット。


星を脱出する為に乗り込んだ場所は、いわば式典の為に追加された物。

本来の操縦はここで行うのだ。



「ブレード、セット!」



眼前の機械に剣を差し込む。

すると、たちまちコックピットの機材が起動し、少年の身体をスキャンする。



『同調完了です、シャルル様』



剣がスキャン終了を知らせると同時に、球体状の壁に、巨大ロボットの外部の光景が映し出された。


巨大ロボットを通した視界が、少年の目に映っている。

そしてその眼前に見えるのは、爪を構えてこちらを睨むアーマイゼ。



「まずは奴を街から遠ざける!」

『承知いたしました!』



少年が駆ける。

するとその動きをトレースするように、巨大ロボットもその歩を進め、アーマイゼに向けて駆ける。



『グオオ!』



アーマイゼは爪を振るい、巨大ロボットを切り裂かんとした。

だが。



「二度も同じ手が効くか!」



巨大ロボットは身を屈め、それを回避。

アーマイゼの爪は、虚しく宙を切る。



「どりゃっ!」



巨大ロボットは、レスリングのタックルのように、アーマイゼの懐に飛び込んだ。

そしてそのまま、アーマイゼの巨体を持ち上げる。



「デオン!どこに投げればいい!?」

『現在検索中!』



数秒の思考の後、彼が選んだ場所。

それは。



『後方100m、未整理地区!』

「解った!」



巨大ロボットは、背中と足のスラスターからライトグリーンのジェットを噴射し、空に舞い上がる。


アーマイゼを抱えたまま、その巨体は街の人々の頭上を通り越す。


そして。



「………どりゃあ!」

『グウウ?!』



抱えたアーマイゼを、眼下の廃墟向けて、投げつけた。

ズガア!と、アーマイゼは廃墟に突っ込む。


アーマイゼが投げつけられた場所は、未整理地区と呼ばれる廃墟の集まり。

以前は人がいたのだが、今や誰もいない廃ビルや廃屋の街。


ここなら、周りの被害を気にせず戦う事が出来る。



「よし、これで………」



大地に降り立つ巨大ロボット。

戦闘を続行しようと少年は前を睨む。


その時。



『グウウ………グオオ!』



破壊された廃ビルの粉塵の向こうから現れたのは、胸から銃口を………ビーム砲を展開したアーマイゼの姿。



『まずい!回避を!』



剣は、少年に回避を提案する。

だが。



「いや、シールドだ!」

『えっ?!』

「いいから展開しろ!」



声を荒げ、少年は剣の提案を却下した。


剣からすればそれは危険な道でもある。

だが、彼は少年の言うことに逆らう事が出来ない。



『………了解、エネルギーシールド、展開します!』



巨大ロボットが拳を構えると、そこから六角形を連ねたエネルギーの障壁が発生。

巨大ロボットの姿を丸々隠すその姿は、盾のようにも見えた。



『グオ!』



同時に、アーマイゼもエネルギーの充填を完了させた。

胸を張り、巨大ロボット向けて、血のように赤い破壊のエネルギーを吐き出す。



ズオゥ!



それは周囲の廃墟を破壊しながら、エネルギーシールドを展開した巨大ロボットに向け飛来し、着弾。


エネルギーとエネルギーがぶつかり合い、火花を散らした。



「ぐう………うううっ!」



少年の顔が苦痛に歪む。


ビーム砲の衝撃と痛みは、剣を仲介して少年にも伝わっている。


それでも、少年は動く事が出来なかった。

その理由は。





………………





春香は、眼前で起こっている事が信じられなかった。

巨大なロボット同士が、街中で戦う。

そんなアニメか特撮の中だけの光景が、眼前で繰り広げられていた。



だが、そんな混乱した脳でも、これだけは解った。

自身とアーマイゼの前に立ち塞がり、その身でビームを受ける巨大ロボット。

これは。



「………もしかして、私達をビームから守ってるの?」



巨大ロボットの背後にあるのは、自分と、今なお人々が行き交う街。

まだ避難し切れていない数えきれないほどの人命が、その場所にある。


もし、アーマイゼのビームを受けずに回避していれば、彼等はどうなっていたか。



巨大ロボットはバリアを展開しているようだが、苦しそうだ。


春香の目には、巨大ロボット………それを操縦しているであろうあの少年が、身を呈して自分を守ろうとしてくれている。


そう見えていた。





………………





「………もう少し、もう少しだ………!」



ビームの照射を受け続ける巨大ロボット。

エネルギーシールドによって弾かれてはいるが、それでも痛みは少年を襲う。



『エネルギーシールド、強度限界!あと少しで崩壊します!』

「攻撃用のエネルギーも回せ!あと少しだけ耐えさせろ!」



エネルギーシールドも限界が近付いていた。

エネルギーの障壁にパキリとヒビが入り、広がる。


しかし、少年が取った選択は、防御の続行。



「………もう少し………!」



そして、時はきた。



『グオ!?』



高出力のエネルギーを照射し続けていたビーム砲が、その熱に耐えきれずぐにゃりと融解する。


行き場を無くしたエネルギーが、アーマイゼの体内で暴走する。


そして。



ボワオッ!



アーマイゼの胸が爆発する。


ビーム砲が吹き飛んだだけでなく、どこか中枢もやられたらしい。

モノアイが、切れかかった電球のようにバチバチと点滅する。



「今だ!レーヴァテインッ!」



好機だ。


少年の声と同時に、巨大ロボットは、その切り札と呼ぶべき力を起動する。


背部にマウントされた両手剣が展開。

その持ち手を巨大ロボットの腕が掴んだ。



「レーヴァテイン………ブレイズアップ!!」



狙いを定めるように、その切っ先をアーマイゼ向けて構える。


するとどうだろう。


剣の刀身より、ライトグリーンのエネルギーの刃が展開。

そこから放たれたエネルギー波が、アーマイゼを拘束し、自由を奪う。



瞬間、巨大ロボットは剣を振りかざしたまま、スラスターからのホバー走行により、滑るようにアーマイゼ向けて迫る。



「だりゃあっ!!」



そして剣を大きく振り上げ、その一刃をアーマイゼ向け、叩き込む。



ズワァーッ!



たちまち、アーマイゼのボディはエネルギーの刃によって切り裂かれた。


強固な装甲は、まるでスライスされたチーズの ように、いとも簡単に真っ二つとなる。



『グオ………ギギギギッ………!』



切り裂かれたアーマイゼの前に立つ巨大ロボット。

構えた剣のエネルギーの刃が消失。

再び肩にマウントすると同時に、アーマイゼは大爆発を起こした。



ズワォ!



アーマイゼは、跡形もなく爆発・四散する。


炎の中佇むのは、敵を撃破した巨大ロボットの、雄々しい姿。

胸の金の装飾が、勝利を告げるようにキラリと輝いた。





………………





切り裂かれ、爆発したアーマイゼが燃え上がり、巨大ロボットはその剣を収める。


戦いは終わった。

巨大ロボットの勝利だ。


炎の中に立ち尽くす巨大ロボットを前に、春香はほっとしたように胸を撫で下ろす。



「終わった………の………?」



ようやく、この非現実の連続が終わったと。



「………あ………れ………?」



同時に、春香の視界がぐらぐらと揺らぐ。

強烈な脱力感と、眠気が襲ってくる。


緊張の連続から解き放たれ、押さえ込んでいた疲れと眠気が、一気に襲ってきたのだ。


もう座ってもいられない。

春香の身体は、前のめりに倒れてゆく。



「………あなたは………何者………?」



意識を手放す直前に見たのは、安全を確認するかのようにこちらを振り向く巨大ロボットの姿だった。



………この日、一人の女が、非日常に出会った。


これが、地球の運命をかけた戦いの幕開けになるという事は、まだ誰も知らない。


破壊されたアーマイゼの残骸が、開戦を告げるかのように、赤々と燃えていた。

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