9話 俺の主人公
遅れてすみません!テスト期間中の身なので、大目に見てもらえると助かります……。
ーーーー!!
先程から変わらずドラゴンの咆哮が聞こえる。広場の方からモンスターが窓ガラスなどを割っている音や、モンスターの声がする。リスアが公園の警備をしてくれているお陰でモンスターの侵入を防いでくれている。でもーー
「くっ……!まだ出来ないの!?もう抑えるのも限界よ!?」
リスア一人では限界がある。幸い、公園の入り口は一つしかないから、一つの入り口さえ守れれば大丈夫だった。近くにいた冒険者も一緒に守っているが、そろそろ防衛も限界だった。
「あと……少し……!!」
あとは、この蔦をこの細い木に引っ掛けて……出来た!あとは……!
「そこの魔法使いさん!!お願いします!!」
「は、はい!」
魔法使いの少女は、俺には理解できない言語で何かを唱え始める。恐らく呪文だろう。呪文と比例しているかのように、魔力が杖の先に凝縮されていく。
「行け!ファイアストーム!!」
魔法使いがそう叫ぶと、杖の先にあった魔力の塊が、一瞬にして炎と化する。その炎が飛んで行く先は……
パチンコに取り付けられていた木箱だった。飛ばされた炎が木箱に直撃し、一瞬にして木箱が炎に包まれる。チャンスはこの一度きり……。この木箱を置いているのが、よく曲がる板だから木箱同様に炎が回る。この板をまた付け直すには意外と手間がかかり、その間にモンスターなどが押し寄せてきてもおかしくない。
「皆さん!思いっきり引っ張ってください!」
俺の指示で、国民の皆が一斉に板を後ろに引っ張る。パチンコの仕組みはいたって簡単だ。二本の蔦を二つの細い木に結びつける。簡単に取れないようにしっかりと。次に、結んだ蔦の逆側に板を結びつける。何気にこれが難しかった。穴をかけても良かったが、引っ張った時に割れてしまいそうだったから、板全体に結んだのだ。あとは、そこに球(木箱)を乗っけて完成。
(そろそろだな)
パチンコをギリギリまで引っ張る。これで飛距離は問題ないだろう。でもこのパチンコは、操作性がないからタイミングよく球を飛ばさなければならない。一応板に火が回らないように板を水で湿らせたが、いつまで保つかわからない。
ーーーーーー!!
咆哮が近づく。あのドラゴンが、この公園の上を飛んだ時が勝負だ。鼓動が早くなり、手汗も滲んできた。……こんな緊張感、いつぶりだっただろうか……。そんな思い老けていた。その時……
ーーーーーーー!!!
公園の上を紅いドラゴンが横切った。
「今だ!!」
俺の合図で、皆は引っ張っていた板を離す。すると、木箱はドラゴンに向かって一直線に飛んでいった。国民達も飛んでいっている木箱を眺めている。皆は、ちゃんと当たるか緊張した面持ちだ。
「だめだ!!あのままだと羽にあたらねぇ!!」
ひとりの男がそんな事を叫ぶ。木箱の速さは十分だが、コースが少しズレている。確かにこのままでは当たらないだろう。“このままだったら”……ね。
「次の魔法、お願いします!!」
「は、はいっ!ラーフトルネード!!」
俺の一言で、魔法使いの少女は杖を構えると、杖の先に風が巻き起こった。その風は徐々に大きくなっていき、小さな竜巻になった。その竜巻は、ドラゴンに向かってーーではなく、真上に向けて放たれた。そしてーー
「リスア!」
その竜巻を踏み台にしてリスアが大きく空へ舞った。空へ舞ったリスアは、そのまま木箱の方へ近づく。そしてーー
「はぁぁぁ!!」
木箱をスピアで思い切り突き上げ、コースを変更した。コースの変わった木箱は、今度こそ羽に向かって向かっていく。速さもコースも殺傷能力も申し分ない。
「「行っけぇぇぇ!!」」
俺やリスア、国民全員が叫んでいた。木箱は速度を落とさないまま空高く舞い上がっていき、そしてーー
ドスッ!
木箱は見事に羽に直撃した。ドラゴンの羽には大きな穴が開いてしまい、バランスが取れなくなったドラゴンがぐらついていた。片方の翼がバランス取れなければ、もう片方もバランスが取れなくなってしまう。飛行機と同じ現象だ。
ーーーーーーーー!!!?
バランスを取れなくなったドラゴンは、そのまま地面に吸い寄せられるように落ちていく。公落ちてきたドラゴンにより、公園のベンチや噴水などが吹き飛んでしまった。しかし、ここは家などがあまり密集していないこともあって、被害は最小限に抑えられた。
ガァァァァ!!
ドラゴンは、その場で起き上がると俺達を威嚇するように咆哮する。空は飛べなくなったが、それ以外にダメージを負っていないから、本当の戦いはこれからだ。今したのは、ドラゴンを地面に引きずり落とすための過程に過ぎないのだから。
(本当ならここでドラゴンと戦うのが俺だったらカッコいいんだけどな……)
そう思いながら苦笑する。しかし、俺にはこの役目は役不足だ。何故なら、俺はそんなに強くない。アニメや漫画、ラノベの主人公ではないのだから。
(だからここは……)
俺は知っている。この世界の……と言ったら話を大きくさせ過ぎかもしれない。でも、俺の中では“彼女”こそがこの世界の主人公なのだ。
「だから、後は頼んだよ」
俺は国民を守るように、ドラゴンと相対している主人公を見て、不敵に笑った。
「リスア!」