7話 誠の行動
「これって……」
リスアが去った後、地面に何かが落ちている。そこには白い紙が一枚落ちている。先程まで無かったからリスアが落としたのか……?それに、この白い紙どこかで見たことあるような……。俺は紙を拾い上る。
「これ……通門許可証!?」
その紙は、リスアが俺に買ってきた通門許可証だった。商人が門番に渡していたのと同じだから間違いないと思う。
「勝手に使っていいのかな……」
リスアが落としたと限らないものだし……。どうしようか悩んでいる間にも、街の方から悲鳴や咆哮が聞こえる。リスア大丈夫なのか……?俺も加勢に……!いや、最悪足手まといに……。
「えぇい!!もうヤケだ!!」
色々と考えたが、答えが出る気がしない。それにリスアはたしかに強いけど、モンスターを大勢相手にするのは無理だ。ここで逃げたら男じゃなくなる気がする。俺は半ばヤケに紙を拾い上げ、受付の男の人に渡す。
「君、正気かい!?今、この街で何が起きているか分かっているのか!?」
「この中に知り合いがいるんだ!!早くしろ!!」
受付に少し怒鳴り気味に言ってしまった。受付の人は、少し萎縮したようにスタンプを押す。その紙を取り、すぐさま走り出す。門を潜ると、中世ヨーロッパモチーフにしたレンガ造りの家が多く並んでいる。もはや異世界の定番ーーテンプレだ。その街は既にモンスターで埋め尽くされており、逃げ惑う住民で溢れかえっている。
(くそっ……!リスアはどこだ……?)
土地勘が無い上に、モンスター登場により大パニックになっている街で、少女一人探すのは至難の技だろう。でも、俺は諦めずに辺りを見渡す。彼女はいい意味で目立っているから、すぐ見つかると思ったんだけどーー
ーーーーーーー!!
「っ……!?」
どこからともなく咆哮が聞こえる。反射的に耳を覆ってしまうほど大きい咆哮。今、人々を襲っているモンスターの咆哮ではないとすぐに分かった。でも、一体誰がこんな咆哮を……?
「おい!?なんだよあれ!?」
「でかいぞ!?」
住民が空を指差して驚いている。俺は不審に思い。住民が指差している方を見ると……
「何あれ……ドラゴン……?」
それはゲームやファンタジーなどでの定番、ドラゴンが大きな羽を羽ばたかせ、飛んでいた。ざっと見積もっても体長5mくらいはある。そんな巨大なドラゴンが飛んでいるのだ。住民達が愕然とするのも無理ないだろう。
「マジ……かよ……」
街には大勢のモンスター、空には巨大なドラゴン。その中に、なんの武器も防具も能力もない男が放り出されたら、もはや詰みだろう。もしこれがゲームなら、無理ゲーかクソゲーの類だ。
「リスアは……どうなった……?」
そこでふと、探し人の事を思い出す。出会って間もないが、色々と世話してもらった。迷惑もかけてしまった。でも、何だかんだ言って助けてくれた。もし、ここで逃げ出したら俺は、一生自分を許せないだろう。いや、許さないだろう。だから……!
「っ……!」
俺は恐怖で震えた足を無理矢理動かして駆け出した。世話してくれた彼女に恩を返すために。俺はラノベや漫画の主人公じゃない。自分ができるなんてたかが知れてる。それでも、俺は彼女に恩を返したい。
(見つけて外に逃げれば……!)
リスアを見つけ出し、この街の外に出るというのが俺の計画だ。この街の外も安全とは言い切れないが、この街の中よりは幾分マシだろう。
『嘘だろ……こんなの……』
すると、公園の前に人だかりが見えた。全員ドラゴンに方を向き、愕然としている。しかし、一人だけ一生懸命に何かを探している人物がいた。透き通るような金髪にエメラルドグリーンの瞳、異常に整った顔……それは、俺がこの世界の中で一番よく知っている顔だった。
「リスッーーっ!?」
探し物をしているルシアの顔は、真剣そのものだった。しかしその心中には焦りがあるのか、眉間にシワが寄っていた。この状況を見れば、俺でもわかる。おそらくリスアは、住民を守ろうとしている。そのために、ドラゴンの討伐は必須だ。しかし、空を飛んでいるドラゴンに刃を当てるのは無理だろう。“今の状況”なら。
(多分この世界にはいる筈……いた!)
俺が注目したのは、杖を持った初心者らしき装備をまとった女性魔法使いだ。杖も持っているし間違いないだろう。
「すみません」
「はい?」
「あの〜……ーーーって使えます?」
「使えますよ!基本的な魔法ですから」
よし、これで準備万端だ。ここで俺の知識が役立つ……。
◇ ◇ ◇
「今すぐ板と木箱を集めてください!!」
俺は出来るだけ住民が俺に注目するよう大声で叫んだ。突然の俺の登場にリスアは困惑顔をしている。でも、状況が状況だから説明は後で話そう……。
「君はいったい誰なんだね?」
ひとりの高年齢のおじいさんが話しかけてきた。それは、怪しむというよりも、純粋な問いのように感じた。
「説明は後で。それよりも板とレンガを!早くしないと取り返しのつかない事になりますよ!!」
皆は疑問はあるものの、反論はしてこない。よしっ、ここまでは順調だ。そのあと俺は、リスアに近づく。リスアは少し緊張した顔つきだった。そして俺はリスアの耳元で作戦の要を告げる。
「……分かった」
リスアは緊張が解けていない顔で、そう答えた。