6話 ファールゼルベルク
遅れてすみません!
「リスア!?」
間一髪のところを助けてくれたのは、先程証明証を買いに行ってくれたリスアだった。腰を屈め、男の剣から俺……というか俺が助けた女の子を庇うようにしている。
「なんだテメェは!?ガキの仲間か!?」
「ただの知り合い」
ピシャリと言い放つ。期待はしていなかったけど、ここまでキッパリと言われると結構へこむ……。
「だったら何故助けるんだ!?」
「この男の人はどうでも良いけど、女の子に手を挙げるのは我慢ならないから」
俺はどうでも良いらしい……泣きたい。俺が落ち込んでいる間にも男とリスアの鍔迫り合いが繰り広げられている。リスアは腰を屈めているのに加え、咄嗟のことで態勢が安定していない。そんな状況で大人の男の剣を右手の受け止めている。どう考えても長くは続かないだろう。俺は“そう思っていた”。
「……!!」
「横……がら空きだよ」
ベキッ!
嫌な音が鳴る。リスアが左手に持っていたスピアによる横薙ぎが男の脇腹に直撃し、男はその場で倒れ込んだ。絶対骨までいっている……。そんな男の様子を見てもリアスは平然としており、その目には同情の色はなかった。
「て、てめぇ!よくもやりやがったな!!」
「女だからって容赦しねぇからな!!」
他の冒険者二人が状況に気づき、リスアに詰め寄る。リアスは強いが、流石に男二人は辛いだろう……。二人がリスアの前後に立ち、リアスはそれを警戒する。俺は、女の子を安全な場所に連れて行き、リスア達の様子をゴクリと息を飲み見ている。そして、リスアの後ろの冒険者が動き出してーー
『ぎゃあぁぁあぁ!!』
『こ、こっちに来るなぁ!!』
そんな今にも勃発しそうになった戦闘を、何処かからの声により強制的に中断される。周りを見渡しても、その声の主は見えない。だとすると、声の場所は……
「街の方から聞こえていないか……!?」
「嘘だろ!?こんな守りの硬い防衛を抜けてか!?」
ここにいる皆に不安や恐怖が広がっていく。そしてリスアは……
「……っ!!」
「リスア……!?」
リスアは周りなんて気にもとめず、門から街の中へ入って行く。これが冒険者の性というやつなのだろうか?俺も街の中へ行きたいが、入る方法がない……。何か入る方法は……
「……!これって……」
俺はあるものを手にした。
◇ ◇ ◇
ーSideリスア
何でモンスターが街の中に……!?あたりを見渡すと、ゴブリンやオークなどが蔓延っている。見るからに地獄絵図だ。
「うわぁぁぁあぁ!!」
「ぐがあぁぁぁあぁ!!」
「……っ!」
オークに襲われそうになっていた男性を助ける。スピアでオークの頭を突き刺し、そのまま横薙ぎでスピアを抜く。オークは頭を貫かれた事でそのままその場で崩れ落ちる。オークの血で汚れてしまったスピアを一振りし、血を飛ばして綺麗にする。男性は怯えきっているが、悪いけどそこまで構ってられない。
「原因は何……?」
モンスター達では、この街の防衛は突破できるはずがない。門の前で門番に討伐されるからだ。だけど、実際街の中までモンスターが侵入してきている。考えられる可能性は……
「悪なる者、我の劔となりてその身を捧げよ」
やはり召喚士か……外側から無理なら内側から襲わせればいい……単純な事だ。でも、奴はどうやってこの街に入った?証明証は入り口で買えるけど、冒険者カードか行商人カードがなければ発行されない。どちらかのカードを持っている?でも、悪行を重ねるとカードは没収されるはずだ。この手際……初めてだとは思えない。ならどうやって……
『きゃあぁぁあ!?』
「っ……!」
先程召喚されたモンスターが女性を襲っている。私はモンスターの心臓を突き刺し絶命させる。今は考えている場合じゃない……とにかく街の人達を助けなきゃ……!
ーーーー!!
お突如として聞こえた咆哮によって私の思考が一瞬止まる。私は思わず耳を塞いだ。他のモンスターの叫びとは比べものにならない大きな咆哮。その大きさによって大地が少し揺れる。そして、その咆哮を出しているのがーー
「あ、あれって……」
「嘘だろ……こんなの……」
禍々しく光る紅い鱗、トカゲのような体、背中には広げたら2mはあるだろう翼が付いている。見間違えるはずがない。ギルドから出されているクエストの最大難易度の一つ……
「ファールゼルベルク……!?」
何でこんなところに……!?ファールゼルベルクの住処はここから遥か遠くの筈だ。間違ってここに迷い込んだのは有り得ない。
(まさか……これもアイツが!?)
モンスターを呼び出している召喚士が脳裏に浮かぶ。でも、一人でこんな事可能なのか?もしかして複数いるのか……?くっ!考えても答えが出そうにないものは考えるな!今は、ファールゼルベルクをどうにかしする事だけ考えろ!!
ーーーーー!!
くそっ!空じゃ私の攻撃は届かない。どうにかうち落とせれば……!何かないかと周りを見渡す。そこにはボロボロの木箱に、ゴミと化した板やレンガの山。攻撃魔法を使える人がいないか探す。杖を持っている女性がいたが、装備からしてまだ初心者だろう。飛び魔法は期待できない。
(何か……なにか……!!)
「今すぐ板と木箱を集めてください!!」
「えっ……」
焦りを感じていたリスアの耳に聞き慣れた男性の声が聞こえる。白い布の服に、青い布のズボン。見慣れない服だからすぐに分かった。声のする方で立っていた彼はーー卯月誠だった。