5話 女の子
遅れてすみません!!
「何やってるの……?」
俺がどうするか悩んでいたら、背後から声が聞こえた。その声は、呆れたような声音で、はぁ……というため息までも聞こえてきた。後ろを振り向くと、そこにはリスアが立っていた。
「先行ったはずじゃ……?」
「貴方が来ないから戻って来たのよ……」
腕を組んで、こちらを見ていた。その様子はどこか疲れていて、まるで手のかかる子供を相手をしてるような……俺のことですねすみません。
「……何で来ないの?」
もっともな質問だ。街についていくと言った俺が、なかなか街に入らないのだ。不審がって当然だ。でも、それには理由がある。
「入る手段がない……」
「……は?」
リスアは何言ってんだこのバカは……みたいな表情になっている。やめて!そんな顔で俺を見ないで!!俺の数多のトラウマが本領発揮しちゃう!!
「冒険者カードは持ってる?」
「持ってない……」
「……持ってないの?!」
何故かリスアが珍しい物を見ているような表情をしている。おそらくさっきリスアが門番に見せていたのは冒険者カードと呼ばれるものを見せたのだろう。てか、冒険者というのが存在しているのか……。ここが死後の世界じゃない事は確かのようだ。
「……じゃあ通門許可証は?」
「……いや」
通門許可証というのは、さっきから門を通る人が出している紙のことだろうか?当然、この世界に来たばかりの俺は持っているはずがなく……
「貴方……本当にどうやって今まで生きてきたの?」
「うっ……」
もはや呆れを通り越して哀れに思われている。それは、リスアの表情で丸わかりだ。リスアってこんなに表情に変わるんだな……。まぁ、全て俺が原因だけど……。
「……じゃあ、あそこの受付に行って。あそこなら通門許可証を30Gで買えるから」
あ、売ってるんだ。これじゃ通門許可証の意味なくない?などの疑問は置いておこう。突っ込んだら負けな気がする。それにそもそも……
「俺……金持っていない……」
「はぁ!?」
とうとうリスアは声を荒げた。そりゃそうだよね〜……カードもない、許可証もない、金もないの三拍子が揃っちゃったからね。自分で言って救いようがないねこれ……。
「お金が無いって……貴方、本当に死んでないよね……?私だけにしか見えていないとかだったどうしよう……」
なんかいらない心配をし出した。多分、一回は死んだ。でも、今は肉体も精神もあるから、俺が今死んでいるとは思えないから多分生きている。……多分。
「はぁ〜……。仕方ないわね……私が買ってくるからそこでおとなしくしてしていてよね」
「はっ……はい……」
有無も言わせない口調に頷くしか出来なかった。まぁ、反論なんてないけどね。リスアがタタタッと向こうに見える受付と駆けていく。俺は、近くにあった木の根に座り、リスアの帰りを待つ。
(なんかリスアに助けてもらってばかりだな……)
口裂け瓜坊といい、今といいリアスには迷惑をかけっぱなしだ。俺に出来る事はーー何て考えてみるも、俺に出来る事すら限定される。リスアはしっかりしており、俺が出来る事なんてない。ん〜……と何をするでもなく、涼やかな風を浴びながらボーっとする。
『てめぇ!!何ヘマしてんだ!!』
『役立たずのお前なんかに払う金はねぇ!!』
「ん?」
そんな俺の穏やかなひと時を怒声によってかき消される。声のする方を見ると、冒険者と思われる男さんにが、囲うようにして、何かを蹴っている。男たちの中心を見てみるとーー
「ごっ、ごめんなさい……!許してください……!」
そこには、小学生くらいの女の子が蹲っていた。髪はショートカットだが、手入れがされていないのかボサボサになっている。服もボロボロで、靴下や靴などは履いていない。手首や太ももなどにある痣や傷などを見ると、男たちの暴行は今回が初めてではないのは一目瞭然だ。
「なんだよ……あれ……」
日本には馴染みのない光景。いや……日本でもあったはずだ。テレビや新聞などで取り上げられていた。それでも、ごく一部分。児童虐待……。俺は、どこか遠くの出来事だと無意識に思っていたのかもしれない。こんな事身近で起こる訳ない……そんな根拠のない考えだった。でも、その光景が今、俺の目の前で起こっている。まだ小学生ぐらいの子が、殴られ蹴られをされている。今、俺は何をすべきか……。このまま見て見ぬふりをするか?いや、違う筈だ。
『あんたは……本当に優しい子だね……』
「……」
一瞬、小さい頃の記憶が蘇った。……そうだよね……。見て見ぬふりなんて……母さんが認めてくれる訳ないもんね。この状況で俺にできる事……
「あの〜……」
「あん?だれだテメェ」
「いや〜そんな大した者ではないんですけど〜……」
俺は次の瞬間、右ストレートを相手の顔面に叩き込んだ。
「「……は?」」
後の2人は何が起こったか分からず、呆気にとられている。殴られた男は、顔を抑えながら蹲っている。よしっ!隙が出来た!
「君!早くこっちへ!!」
「あ、あの……」
「いいから!!」
俺は女の子の手をとり駆け出す。確かこっちの方向に……!!
『待てやゴラァ!!』
『ぶっ殺してやる!!』
やばいっ!!もう追いかけてきた!!女の子を連れている分こっちの走る速度があまり出ない。ヤバイヤバイヤバイ!!
「追いついたぜクソガキどもがっ!!」
「うあぁあぁぁ!!」
後ろまで追いつかれ、男は剣を振り上げる。もうだめだっ!!死ぬっ!!
ガキィン!!
「……へっ?」
「あん?なんだぁ?」
聞こえるはずのない音が聞こえ、音のした方へ振り向く。そこには、綺麗な髪がたなびき、後ろ姿だけでも凛々しいオーラが感じる。右手に握られている細剣で男の剣を受け止めている。
「こんな短時間に何でこうも問題を起こせるの……?」
彼女ーーリスアは呆れながらそう言った。