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穢れなき天使の愛し方  作者: 皇緋那
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第41話 これからの天界社と、ふたりのライブ!

 イグジストへの覚醒から、日が明けてのこと。

 まず翌日に用意されたのは、ヒナタの葬儀だった。

 まきなやこむぎのようにひっそりと行われ、彼女が率いていたはずの少女たちも参列した。


 よぞらたちと顔を合わせても、ヒナタにとどめを刺した張本人だと知っていてもおかしくないというのに、脱け殻みたいにうつむいているだけだ。

 彼女たちとはひとことも話さないままに、ヒナタの眠る棺は炎に包まれ、そして地中に埋められていった。


 どれほどの間かはわからずとも、父親としてよぞらを育ててくれたのは彼女だった。

 彼女の顔を見て最後につぶやいた別れの言葉に乗せたのは、感謝の気持ちに違いなかった。


 こうして、これまでの数年間天界社の長を務めてきた女性、天世ヒナタはその生を終えた。

 最期は跡継ぎとして育ててきたはずのよぞらとの激闘の末に撃破され、その腕の中で息絶えたのだ。


 よって、いまの天界社は指導者を欠く状態にあることになる。

 天使隊リーダーのめるくはプリザーブドの負の力に魅入られ、天使ではなくなってしまった。

 そのうえで、影のリーダーともいえる存在のこむぎが先のエーロドージア侵攻戦において死亡している。


 現状、正式な天使隊の本隊では、去年なったばかりのらびぃが最も年長だ。

 ゆえに彼女が判断を下さねばならず、そのためにめるくとよぞらを呼び出し、話をすることとなった。


 らびぃの傷は癒えていないうえ、めるくもまた傷ばかりで治療が必要だった。

 ゆえに、重要な話であっても病室に皆を集めるほかなく、せれすとえりすも加え、ベッドの傍らで会議ですることになる。


「えっと、これからのこと、なんだけど」


 問題はいくつも山積みになっている。

 いままで隠してきたまきなたちの死も、公にするべきだろう。

 さらにヒナタがいないのだから、これからの体制も編成し直さなくてはならない。


 それらたくさんの課題を並べたあとに、らびぃはこう続けた。


「……正直、ね。こむ姉のいないあたしには荷が重すぎる。だから、ふたりに力を貸してほしいの」


 めるくも、よぞらも、彼女の力になりたいとは思っている。

 天使には戻れない身体でも、少なくともここにいるみんなはめるくを受け入れてくれている。

 そんな彼女と一緒に生きたいと言い出したよぞらは、もちろんその隣についていたい。


 ふたりで顔を合わせると、すぐに互いの意志がわかった気がした。

 よぞらとめるくが協力すると答え、らびぃは明るい表情をしてくれる。

 逃避行をしなければならなかったとき、助けてくれたのはらびぃたちだ。

 せめてもの恩返しになれば、とも思っていた。


「ありがとう……めるくさんは変わらず隊長として指揮をお願いできるかしら」


 前までのようなパトロールはできないだろうが、彼女の指揮なら安心できる。

 問題は続くよぞらの仕事だった。

 なにが回ってくるのかと待っていると、予想外の言葉が告げられたのだ。


「よぞらちゃんには、社長業務をやってもらいたいの」


「……えっ?」


 ヒナタがいなくなって、跡を継げるのは、確かに血筋でいえばよぞらしかいないのかもしれない。

 が、いきなり言われるとあせるし、第一事務仕事なんてやったことがないし。

 なにをすればいいのかを教えてくれそうな相手はいないし。

 よぞらがいきなり任されていいものとは思えない。


「大丈夫よ、慣れるまでサポートするもの」


 協力すると答えたのだから、頼まれたら頑張らないと。

 らびぃの助けがあればきっと大丈夫だ、なんて考えで、よぞらは社長代理を請け負ってしまった。


 そして、それから十数時間経った頃。


「ぶわぁ、やっと終わった……終わったよね、今度こそ」


 そうして訪れたのは大量の事務仕事だった。

 書類に目を通してはんこを押し、ときには押さず、またあるときは問い合わせたり問い合わせを受けたり。

 追われ続けて、山を切り崩し、やっとなくなったかと思うとさらなる山が運ばれてきた。

 なんでも、めるく討伐やエーロドージア戦でヒナタ自身が出撃することが多く、いつの間にか溜まっていたらしい。


 これだけの量をも涼しい顔でさばいていたと思うと、やはりヒナタは尊敬すべき人物だったと思い知らされる。

 が、よぞらは彼女の娘で、後継として生まれたのだ。

 いまはまだ未熟でも、いずれ彼女を追い越す勢いでいなければ。

 そう思って気合いを入れ直し、もう一山を攻略し、なんとか仕事を終えた。


 そして先程漏らした、安堵の息にのったうめき声は、やっとの思いで業務を終わらせたときの声だ。

 疲れきった身体で自室に戻るのも億劫になり、机で眠ろうと体重を預ける。

 さっきまで大量の書類で隠されていた天板はひんやりとして、よぞらを迎えてくれる。硬いのがたまにきずだが、この疲労度なら眠るくらいすぐだ。


 目を閉じて、やっと解放された喜びに意識を浸し、誰もいない社長室で自分の寝息だけが聞こえるようになる。

 眠りはすぐに訪れ、よぞらはかすかにひかる夢の中でひとときの安らぎを得るのだった。


 ◇


 一方、せれすとえりすは、よぞらが行った仕事の数々によって、天使隊による一夜かぎりの復活ライブを行うことができていた。

 今後ファム・ファタールを相手にする以上、戦闘の激化は避けられない。


 ゆえに、正式に休止を発表する場として組んでもらったのがこのライブだった。

 ファンとしてついてきてくれたみんなには申し訳なく思っている。けど、天使隊は戦わなければならないのだ。


 せれすもえりすも、まきなの死、めるくの衰弱、こむぎの最期と何にもできていないことを気にしている。

 だから、せめてと思い、出演者に立候補した。


 もちろん、ステージにあがる前は、ふたりで分けあわなければ押し潰されてしまうほどの罪悪感と責任感でいっぱいだった。

 それでも、こうして歌って踊っているあいだは、まるでファンのみんなと自分達で世界のすべてだと思える。

 せれすもえりすも、互いにせいいっぱいの笑顔を浮かべながら、将来の不安なんて考えないで、誰かを喜ばせるためにいられるのだ。


 ふたりで、訓練生時代から練習してきた演技をしてみせる。

 ふだん静かなえりすが主導して、せれすがついていく、なんて性に合わないとばかり思っていた記憶はあるけれど、ふたりの息は合っている。

 ピンマイクがはずれてしまいそうな後方宙返りや、まるでアクロバットな振り付けを経て、最後は間近で見つめあって、曲目のすべてが終了する。


 天界社へ呼び出されてからいろいろあったけれど、ふたりだけは変わらずに一緒にいる。

 きっと、いなくなるときも一緒なのだろう。このせれすとえりすのあいだにできた世界が崩れるのは、そのときだけなのだ。


 ライブが終わると、見計らったように敵が現れてくる。

 警報が響いて、エーロドージアの影が差す。


 現れたのは巨大な人影だ。顔があるべき部位にはどす黒い薔薇のつぼみがあり、両手は花束に変化している。

 振り撒く花びらが逃げ惑う人々を追い回し、突き刺さって身体に侵入していく。

 するとゲレツナーの両手に引き寄せられるように人々が歩き出し、魅了されたまませれすとえりすに向かってくる。


 それらの波をさばきながら、迅速に残る観客たちを保護し、増援が到着すると見習いたちに避難指示を引き継ぎ、戦闘体勢に入る。

 せれすはエンジェル・ハーベストへ。えりすはエンジェル・アップルへ。

 変身を終えた双子の天使は、体躯よりも大きなハンマーと凶悪な爪を従えて敵の懐目掛けて飛び込んでいく。


 全力でハンマーを振るうには、周囲に一般人が多すぎる。

 そういうときは、アップルはハーベストが連れていくのだ。

 小柄なハーベストを抱きかかえて、人々の群れの中に飛び込んで、一般人を抜き去っていく。

 肉の壁として使おうとしていたのだろうが、ゲレツナーに近づいてしまえば怖くない。

 アップルが腕を押さえつけ、ハーベストの槌が振り下ろされると、花束は潰れ、半数の人々の動きが止まる。


「せれすちゃん、もう片方もやっちゃおう」


「おっけー、いっくよえりすちゃんっ!」


 あの花束が人々を操作していることはこれで証明された。

 狙うなら、もう一方の腕しかないだろう。

 同様に飛び付いていこうとすると、同じ手を二度も食わないように動きはじめる。

 頭部の薔薇が開き、花弁を飛ばして攻撃してくる。アップルは爪で弾き返してハーベストを守り、金属音を響かせながら突き進む。


 ついにたどり着いた残る花束への攻撃は全力をこめて、おもいっきり振りかぶったもので食らわせた。

 派手な音をたててちぎれた腕が宙を舞い、消滅してしまうと、やっと全ての人々が目をさます。


 これで、ふたりの考えていたとおりの展開になる。

 自分がどんな状況に置かれているのか悟った彼らは避難をはじめ、ゲレツナーとの一騎討ちに持ち込むことができるのだ。

 あとは、乱入者がいなければよかったのだが。


「ちっ、てめーらの間に挟まりたい、なんて両手に花を夢見てる奴はたくさんいたはずなんだが……かくいう俺もそのひとりでね」


 ネトリータだ。その口振りからして、このゲレツナーを生んだのは彼女で間違いない。

 よぞらもらびぃもめるくも、きっとどこかで頑張っているのだ。

 ゲレツナーだけでもここで倒したい。


 ハーベストとアップルは手をつなぎ、おでこどうしをくっつけた。

 肌同士がふれれば、力が行き来してより強い力を生む。

 それをふたりとも武器に溜め込んで、ネトリータのほうへ向かっていく。


「っち、そこまでの必殺技は俺でも無理か! ゲレツナー!」


 ネトリータはすぐにゲレツナーに指示を出し、自分の盾になるように仕向けた。

 大規模に爆発炎上し、消滅していく薔薇の怪物。

 撃破を確信した双子の天使は、せれすがジャンプしてハイタッチをすると、続けて抱き合って喜びをわかちあった。

 煙の晴れたそこには、ふたりの予想通りなにもいない。


 少し離れた場所からネトリータがにやりと笑みを浮かべて見ていたが、それもすぐいなくなる。

 次は俺が抱いてやる、とかいう捨て台詞を吐きながら、だ。


 撃退には成功した。これから、活動停止の発表なんかの仕事が残っている。

 せれすもえりすも、それをこなせば少しは役に立てるのだろうか。


 立てるというなら。

 そんなに嬉しいことは──ふたりがいっしょにいられることくらいしか、きっとないのだろう。



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