第40話 イグジストの戦い!決着、私とお父さん!
少女は、その煌めきのなかに、亡くしたはずの大切な人を見た。
自分を置いてきぼりにしてしまった、自分勝手で、でも仲間想いで、こんな自分とでもいっしょに居てくれた彼女。
ほんとうのお姉さんであるかのように接してくれて、居場所を与えてくれた彼女。
ふたりで紡いだ記憶の断片がよみがえってきて、気がつけば頬を雫がつたっていた。
泣いてばかりだったら、また『らびぃちゃんは泣き虫なんだから』とからかわれてしまうかもしれない。
でも、押さえきれない感情が溢れ出して、思わず呟いた言葉があった。
「……こむ姉ってば。そこに、いてくれるのね」
煌めきのなかには、こむぎだけじゃない。らびぃだって届けたものがある。
また一緒に、肩を並べて戦っているんだ。
そう思うと嬉しくて、涙は止まっていないというのに、らびぃはつい微笑みを浮かべていた。
◇
明星よぞらはトゥインクル・イグジストへと覚醒した。
天使となって過ごしてきた日々を経て、真っ白な部屋でひとり外界に想いを馳せていた、ヒナタの駒などではない。
ひとりの少女として、ここに降り立ったのである。
その光をまとった姿に圧倒されつつも、ヒナタは刃を構えるしかない。
動揺からか、大雑把にも真っ正面から切りかかっていく。
よぞらは武器を手にしていない。だが、回避に動くこともなかった。
手のひらに光を産み出し、それらが翡翠の色に輝いて、結晶の武器を産み出した。
ゆえに、避ける必要も、斬撃を受けることもないのだ。
ヒナタの妖刀とぶつかりあうのは、光によって産み出された剣だ。
形状はめるくの持つ武器そのままであり、よぞらの記憶が作り出したもので間違いない。
だがイグジストの光は強力だ。血を吸った妖刀にも負けじと押し返し、むしろその刀身を曲げてしまおうとまでしている。
さすがにヒナタも不利であると気づいたのか大きく後方に飛び退き、しかし隙は与えず飛び込んでくる。
よぞらは剣に力をこめ、結晶をコントロールする。
光に還った剣は簡単にその姿を変え、次に現れたのは二挺の拳銃だ。
弾丸がヒナタを襲う。はじめはどうにか対応して弾いていたが、しだいに追いきれなくなり、一発が被弾したのを皮切りに何発も受けてしまう。
表情をゆがめるヒナタだったが、その程度では止まらず、再び近接戦闘に持ち込んでくる。
近接戦闘であれば、最も軽量で、最も響く一撃を食らわせるための武器があった。
まきなの扱っていた、拳である。
光を握った拳にまとわせ、妖刀の振るわれる中をくぐり抜けていくよぞら。
扱い方は、思い出が教えてくれる。そして、まきなの光が教えてくれる。
迫ってくる刃にそっとふれて軌道をずらし、最低限の回避で懐へと潜り込む。
気がついたときにはもう遅い。構え、あとは振り抜くのみなのだ。
ヒナタの身体が強い衝撃を受け、容易く吹き飛ばされていく。
包帯が宿すまきなの力によって強化された一撃は、ヒナタになにが起きたか理解されるよりも早く彼女を壁に叩きつけた。
追撃に移るため、よぞらはさらに武器の形状を変えさせる。
今度扱うのはらびぃの武器。注射器だ。
度重なるダメージにより体力も気力も底が見えはじめてきたヒナタ。
起き上がってきた彼女だったがその太刀筋は読みやすく、よぞらの調子に呑まれている。
刃を弾き、その大きな外筒を盾として扱いながらときに針を突きだし、滴った薬剤を爆裂させることで相手を追い詰める。
このままでは押しきられてしまうとなれば、出てくる選択肢はいくつかしかない。
ヒナタはそのうち、めるくを狙うことを選びとった。
確かに、今までよぞらはヒナタの動きを追いきれていなかった。
だが、ヒナタの計算にないイグジストの力を宿した事実が彼女の見立てを狂わせる。
いまならめるくを狙えたはずだった。
のに、ヒナタの身体には鋭い痛みが走った。
脚を地に縫い付け、肩を動かす力を奪うもの。
すなわち、トゥインクルが扱っていた矢が、彼女の動きを止めてしまったのだった。
四肢がやられ、動くこともままならず地に膝をつく。
そこへよぞらがゆっくりと歩み寄り、弓を手にしてヒナタを見下ろす。
消そうとしていた相手だというのに。どうして自分が見下ろされているのか。
理解できない憤りから刀を振るっても、うまく力が入らないためよぞらへの反撃にすらならず、刀を持つ右手ごと掴まれてしまう。
もちろんヒナタだって抵抗はするが、少しひねることで手首がへし折られ、さらに結晶から作られためるくの剣が手首を切断して、刀はついにヒナタのもとを離れた。
天世の女の血を啜ってきた妖刀は、再び持ち主にその切っ先を向けることになる。
また、イグジストの影響下におくことで、妖刀はその姿を変えていく。
武器を形作っていた結晶のような翡翠色を刀身へほのかに宿し、持ち主がよぞらとなったことを示している。
その刀を動こうともしないヒナタに突き立て、よぞらは口を開いた。
「もう武器もありません。抵抗はできないはずです」
「殺すのか」
「そうなると、思います。みんなのために、あなたを、殺さなきゃいけない」
「あぁ、そうか。じゃあ、しょうがないな」
ため息まじりの答えには、自分がどうして負けたのか理解した結果、諦めるしかなくなってしまった彼女の心情が詰め込まれていた。
ヒナタはたったひとりで、天世の女であれと作られた。
よぞらはみんなに囲まれて、虹色に染められながら、自分でみんなといようと決めた。
その差であることは明白であり、だからこそこれ以上戦っても越えられないと抵抗をやめたのだ。
ヒナタ自身には、死を前にして恐怖を抱いていないとみえる。
よぞらは刃を突き刺す前に、せめて未練だけでもとこうたずねた。
「あの。言い残すこととか、ありますか」
「そう、だな。わがままでいいのなら、ひとつだけ、いいだろうか」
よぞらは頷いた。
「……お父さんって、呼んでくれないか。最後くらい、娘に看取られてると思いたくて」
彼女は娘のことを信じていたのは事実である。道を違えたとしても、自分から産み出された少女であるよぞらには、特別な感情があったのだろう。
それに、ずっと閉じ込めていたことに罪悪感があったのも知っている。
よぞらは思い出した。初めてヒナタに出会ったときから、親子らしいことも、態度も、なにもなかった。
ただ、社長の娘である事実がよぞらを苦しめ、やがてヒナタ自身が障害となっていくばかりだった。
だから、最期の願いは、聞かなければならないと思ったのだった。
「さよなら、お父さん」
刃をそのまま降ろし、彼女の身体に侵入していく手応えを知る。
続けてゆっくりと腹を引き裂き、やがて白い床には鮮血の水溜まりができていく。
痛みに呼吸が荒くなるヒナタ。それでも必死に絞り出した声で、なにかを告げようとしている。なにを言おうとしているのかは、よく聞き取れない。
結局、最期の言葉がなにかはわからないまま、よぞらが刃を止めたころにはすでに絶命していた。
天使の宿敵となってしまった相手は、これでいなくなったのだ。
素直に喜べることではないにしろ、よぞらは安心から深い息を吐いた。
緊張の糸がほぐれてしまったからか、ついよろめいてしまう。
めるくとらびぃがなんとか立ち上がり、よぞらのことを支えてくれて、なんとか立って歩けるようにはなった。
激しい戦いだったのだから、仕方のないことなのかもしれない。
これからは、エーロドージアという敵も活発になってくるだろうと思われる。
天界社はヒナタ抜きで戦っていかなければならないのだ。
充分に休息をとって、いつでも戦えるようにしておかなければ。
ヒナタの弔いもしたいし、課題はたくさん積まれている。
それでも、よぞらはめるくとらびぃの肩を借りながら、またまきなとこむぎに背中を押されながら、前に進む。
それはみんなと過ごせる毎日を守るためであり、もう空白ではない自分のためでもあることだった。




