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穢れなき天使の愛し方  作者: 皇緋那
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第19話 怪奇!浜辺のUFO!?

 海へとやってきたのは天使たちだけではない。


 肌を露にし、無邪気に海辺ではしゃぐ少女たちは欲望の標的となるだろう。


 邪な視線を向ける者がいる限り、エーロドージアにとってもビーチは心地のよい場所なのだ。


 クシュシュ、バラバローズ、ネトリータの三人の少女たちも、水着姿で紛れ込み、天使たちがやってきたら攻撃をしかけてやろうとたくらんでいた。


「あー、涼し」


 ネトリータには、白と水色のボーダーのものが当たっている。

 来たばかりのときは海水浴客に対して色目を使っていた彼女だったが、はしゃぎすぎたのか暑さにやられ、すでに意気消沈ぎみであった。


 海の家の飲食スペースには、天使が来るということで野次馬に行った人々ばかりのおかげで誰もいない。

 悠々とくつろげる場所で、存分に涼んでいた。


 そんな中、バラバローズはせっせとかき氷器をまわしていて、暇を持てあましたクシュシュがぼんやりとそれを眺めている。

 バラバローズは襟元に紅薔薇のコサージュを着けてあるドレスめいたふりふりの格好で、一方のクシュシュは自らの触手を変じさせた包帯で胸と下半身を隠していた。


「バラバローズ。シロップは何にするつもりだ」


「美少女の血液」


「だろうと思った」


 まだ、たわいもない会話を交わすだけの気力はある。


 そのままだらだらと話しているだけでいたある時。

 ネトリータがあふっと思い出したように立ち上がり、陣取っていた扇風機の真ん前から退いた。


「そういえば、だぜ。このビーチ、出るらしいな」


「で、出るって、何がだよ」


「呪われたスクール水着の霊だ」


 クシュシュは首をかしげる。


「女の子の幽霊なのか?」


「いや、単体だ。スク水だけの幽霊」


 水着そのものが動くなんて信じられない。

 ゲレツナーなんてものを出しているクシュシュが驚くのは道理に合わないが、彼女はそう思ったことだろう。


 ネトリータはというと、勝手にどんな水着か妄想をはじめている。

 例えば、内部にくすぐり触手がびっしりだとか。


「……したいのか。できるぞ、私なら」


 クシュシュの手にかかれば、そのくらいは簡単である。

 手始めにネトリータの水着で、と提案しようとして却下され、クシュシュは舌打ちをする。


 せっかく女の子になったのだから、一度くらい触手に溺れてみるのも悪くないと、クシュシュだけが思っていたのだった。


 ◇


 こむぎが不意打ちや褒め地獄を何度も仕掛けてくるため、らびぃは彼女の相手をさりげなく後輩に押し付け、そっとひとりで逃げてきていた。

 胸の話は自分でも気にしているのだから、自慢の娘みたいに話すのは恥ずかしくてしょうがないのだ。


 浜辺を歩いていると、ときに貝殻が流れついていたり、面白い形の流木があったり、なぜかマネキンの首に海草が被さってロングヘアになっていたりする。

 ビーチでも端の方で、人が残していくごみがないかわりに漂着物がなかなか掃除されないのだろう。


 得体の知れない液体入りの瓶や、クラゲの残骸など触りたくないものもまじっている。

 そんな歩いているだけで珍しいものがたくさんある海辺で、らびぃは一際目立つものに目が留まった。


 忘れ物だろうか。水着である。

 めるくが着ていたものと似ているが、たしかこの落ちているものが旧式で、向こうが最新式のはずだ。


 ともかく、どこかの誰かがなくして困っていることだろう。

 拾って届けるべきだ。


 そう思って近寄っていくと、突然ぴくりと動いた気がした。

 なかにかにでも入っているのだろうか。

 らびぃが首をかしげていると、その隙をつき、なんとスクール水着は飛びかかってきた。


「ひえっ!? や、やぁっ、なにするのよ!」


 ひとりで抜け出してきたので、助けてくれる天使はあたりにいなかった。

 らびぃは成す術もなく、呪われたスクール水着の霊の餌食となってしまう。


 身にまとう水着に類するものを、すべて奪われてしまったのだ。


 ◇


 悲鳴をききつけ急行したのは、こむぎに加え、まひるとみなももであった。

 そこで見つけたのは、水着を取り去られ、かろうじて残ったパーカーのみで震えているらびぃの姿だ。


 エーロドージアの仕業かと聞いても彼女は肯定しなかった。

 水着がひとりでに動いて襲ってきた、ということしかわからないのだという。

 勝手に水着が動くなんて、と思うが、ゲレツナーの可能性は捨てきれない。


 その正体については三人そろって首をかしげていたが、らびぃはこむぎがテントに連れて帰るとのことで、現場からは離脱していった。


 事件はまだ終わっていない。

 仲良しふたりぐみは、犯人探しを決行しようとする。

 あたりになにか怪しい気配はないか、探ってみる。


 たしかにマネキンの首や中身不明の瓶詰めは怪しいが、水着を盗んでいく水着とは結び付かなかった。

 岩陰を調べてみたり、海にもぐってみたりしても、怪奇があらわれることはなかった。


「なにもないね。戻ろっか?」


「だな。犯人はもう逃げちゃったんだろう」


 まひるもみなもも、収穫なし、ということで済ませようとした。

 気が抜けて、隙が見えたときが一番危ないというのに、事件現場へ背を向けたのだ。


「……みなも、うしろっ!」


「へ?」


 何もないと思って気を抜いたせいで、背後から飛来するものに気がつかなかった。

 避ける間もなくまとわりつかれ、体を隠してきた布がいつの間にか取り払われてしまっていた。


 まひるはたしかに、それを実行したものの姿を見た。

 それは確かに、スクール水着であったのだ。


「おまえか……らびぃ先輩のことを襲ったのも!」


 犯人を捕まえようと奮闘するまひるだったが、危機を察知した標的は飛び去っていってしまう。

 残ったのは、悔しい気持ちでいるまひると、恥じらいで頭がいっぱいのみなもであった。


 ◇


 直後、最後のターゲットが、逃げていった水着に見つかっていた。


 絶対に奪おうとする気概をもって突撃してくる未確認飛行物体。

 旧式が最も許せないのは最新式であるのだ。

 全速力を出す水着が風を切る音を聞き、少女は身構える。


 ひらりと回避して、めるくは敵がそこにいることを認識した。


「……らびぃさんとみなもさんが襲われたというのは、これのことでしょうか」


 片腕でも速度の衰えないめるくと、すでにふたりを手にかけた通り魔。

 通り魔といっても衣服泥棒でしかないし、まずこの犯人は人でもないので手はついていない。


 速度を競い合うようにして突撃と回避が繰り返される。

 常人では肉眼で追うことも許されないスピードの戦いだ。


 そこへ現れる来訪者は、天使と無機物のあいだで繰り広げられる熾烈な戦いを目撃し、なんだありゃ、と呟いた。ネトリータである。

 彼女は噂についてより多くの情報を集め、ある結論に達していた。


 水着は着ているからこそすばらしいのだと。


 ネトリータの目の前で天使のひとりとスピード勝負を行っているのが、旧スク意外を許さない輩だろう。

 あやつはわかっていない。

 ネトリータは怒りをこめて、その性欲を解放させる。


「性欲、解放! やっちまいな、ゲレツナー!」


 ネトリータになってからの性欲解放は初回であったが、残念なことに出現するゲレツナーは小さくなっていなかった。

 現れたのは、下半身が魚であり、上半身は貝殻水着をしている女性の姿ながら、首から上が存在しない。

 さらに言えば、上半身もただの女性でなく、異様なまでに腕の長いマネキンだ。


 天使よりはるかに大きな身体で海に飛び込み、大きな水しぶきをあげる。


 水着とめるくからすれば、そんなことは二の次であったが、ほかの天使たちにはそうではない。

 よぞら、まー子、こむぎが駆けつけ、変身を試みる。


「いきます、変身!」


「させるかよッ!」


 ネトリータの指示を受け、マネキン人魚はその欠けている首のなめらかな断面から光線を噴射した。

 とっさのことでかわせる天使はおらず、まともに受けてしまう。


 しかしそれは、直接肉体に攻撃するものではなかった。


「……あれ? 変身、できない……?」


 その光線が持っている効果は、受けた者の衣装を水着に固定してしまうというものだった。

 水着から着替えることを阻止するための光線である。

 天使隊が戦闘服に転ずるのを、そのゲレツナーは許さないのだ。


 変身を封じられたいま、天使たちにはゲレツナーに対する戦力がないにも等しい。

 こむぎはよぞらとまー子に撤退を命じながら、マネキン人魚の攻撃をなんとか避けている。


 ──そこで、めるくはひとつの策を思い付いた。

 必要になってくるのは、先の飛び回るスク水である。


「……お願いがあります。私の水着を奪ってください」


 めるくが賭けたのは、ゲレツナーの衣装固定能力を、水着そのものであればすり抜けられるのではないかということだった。

 言われた通り、まとわりつくものがめるくから布を奪い去り、彼女の肢体を晒させる。


「これなら……いけます」


 衣装を分解する過程を必要とせず、天使の戦闘服を纏うめるく。

 エンジェル・クリアへと、問題なく変身できているようだ。


 ネトリータが驚嘆の声をあげる。


「なんだよそれッ! 抜け道にもほどがあるだろうがッ!」


「澄み渡る翼のクリアスカイ。エンジェル・クリア」


 クリアの右腕はいまだ使えないものの、左腕にはしっかりと剣が握られている。

 ここから、反撃が始まるのだ。


 ゲレツナーがその長い腕をもってクリアを捕らえようとし、作り物の指を落とされる。

 クリアを無理とみてよぞらたちを狙っても、すかさずクリアが助け出す。


 ゲレツナーの悪あがきは続くが、ことごとくが失敗に終わるのだ。


「めるくさん、これをっ!」


 よぞらがクリアに光を届け、確かに受け取った。

 それは光の輪『ヘヴンズフォーチュン』だ。


 起動した天命は天使による執行をより強く、より聖なるものとする。

 クリアのエネルギーがすべて注がれて、剣先が黄金に輝く。


「クールハート☆カリバー……ッ!」


 光がゲレツナーを飲み込んで、消し飛ばしてゆく。

 間一髪で回避したネトリータは覚えてやがれと逃げていくが、マネキン人魚は脱出すること叶わず浄化されていく。

 いつも通り、戦いの終わったあとの光景だ。


「終わりましたね、では──」


 めるくは変身を解き、そして自ら水着を奪わせていたことを思い出した。


「──そう、ですね。よぞらさん、まー子。その、と、取り返していただけませんか……?」


 必殺技を撃てば衣装のぶんまで力を使ってしまう、というのは敵を倒すためで、恥ずかしがっている場合ではないのだ。


 しかし今回はさすがに、このあと撮影もあるので、水着は取り返してもらわなければ困る。

 というか恥ずかしくて、撮影どころではない。


「おっけー、ばっちり捕まえてあげるから、安心してな!」


「よぞらちゃん、いくよ! 我らスク水捕獲隊、出発!」


「あっ、まきなさん、こむぎさん、置いてかないでください!」


 駆け出したまー子たちに追いかけられて、飛び回ってみせる水着。

 その姿はどこか楽しげで、夏の思い出の1ページとなりそうだった。


 ──けっきょくらびぃとみなもとめるくが水遊びに戻れたのは、撮影をしてくれる方々が到着するよりも後であったが。

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