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 凛くんはショートケーキをどかしてアタシの目の前に風呂敷包みを置いた。きれいな仕草で包みを解く。桐の箱だった。

 凛くんは箱をそっと開ける。


 ぶわっと花びらが溢れた。


 溢れたように見えた。箱の中身は大きなお皿だった。真っ白で灰色の点点が花びらに見えたのだ。その時、軽くツインテールを引っ張られた。誰かと思って見上げると。



 真っ黒の長い髪の毛。着物を着た女の人。

 隙間から見える目も真っ黒。

 アタシを優しく撫でる左手は灰色だった。


 この手は。


「行け」

 凛くんの冷たく響く一言に灰色の左手が反応した。

 灰色の左手は女の子の首を掴んだ。



 これはみんなに見えているのだろうか。女の子は膝から崩れて床に倒れた。霧都はアタシのときみたいに助けたりはしなかった。霧都に刺さったように見えたナイフがフォークみたいにカランと音を立てて転がった。ナイフには血もついていない。刺さっていなかったのだ。


「霧都、刺さってないのか?」

「大丈夫、これ着せて貰ったから」

 店員に聞かれた霧都が、ティーシャツを捲ると黒いベストが見えた。スーツの人が答えた。

「ケガしてからでは大変ですから、一応と言って着せたのは正解でしたね」

 警官だったのか。スーツの人は女の子に近づいて、殺人未遂で逮捕しますと言った。女の子は頭を打ったのかぐったりしている。

 凛くんは澄ました顔で桐の箱をしまい、丁寧に風呂敷で包んだ。ひらひらと花びらが零れていた。いつもと変わらないきれいな色っぽい手つきに見とれてしまう。


「凛くん」

「バカ夏織め」

「ごめんなさい」

 そういえば痛みが引いた。灰色の左手に撫でられたときからだ。

「玲は葎が迎えに行った」

「本当にごめんなさい」

 貰った三万を返そうとしたら、いらないと言われた。

「でも」

「たまには自分で服を選べよ。杏の着せ替え人形じゃないんだから」

「杏が買ってくるけど、杏はアタシの好みを分かってるよ」

「バーカ」

 ポンポンと頭を叩いて店を出ていく。凛くんはあの警官と知り合いのようで、ありがとなと言うのが聞こえた。

「何なのよ」

 潰れた苺。かわいかったのに。食べたかった。


「痛みは? 痛み止め飲む?」

 霧都はごそごそとベストを脱ぎ警官に返した。

「平気、多分」

 女の子は警官に抱えられてパトカーに乗せられていなくなった。見回したが生き霊はいないようだった。

 霧都は向かい側に座った。清々した顔をしている。

「何だよ、あっち行けよ」

 アタシにではなく、ちらちらと隠れていた店員に言った。

「霧都」

「ん」

「ありがと」

「こちらこそ。ケリがついたよ。もう見えない?」

「うん、いないみたい」

「よかった」

 よかったとふわりと笑う霧都。こんな顔もするんだ。

「うん」

 何だか嬉しくなって笑ってしまう。

「夏織さ」

「なあに?」

「また、遊ぼうか」

「また、また今度?」

「うん」

「いいよ、嬉しい」

 霧都は手で何かを払った。何かと思ったら、散ったはずの店員たちがまたアタシたちを見ている。

「ああ、もう」

「そうだ、手話って習えるの?」

「え、ああ。今日さ、恐竜見たら連れていくつもりだった。病院のボランティアだけど。小さい子どももいるし、玲くんも喜ぶかなって思ってさ」

「うわ、行きたかった」

「あのさ、夏織」

「うん、アタシ、いつでもいいよ」

 クスクス笑う声がする。店員たちが笑っているみたい。


「今日、会ったばかりで、生き霊くっついたり、骨折したり大変だったのは分かってるんだけどさ、言っていい?」

「うん」

 なんか、心臓がパクンパクンしてる。


「俺と付き合わない?」

 耳が赤くなる。

 霧都から目が離せない。


 二人が同じものを見てたら安心するだろ? と言った霧都が思い浮かぶ。



「どうぞ、クールな霧都を落としたかわいいお嬢さん」

 店員がケーキを持ってきた。置かれたお皿にはチョコレートで花びらが描かれ、一言書いてあった。アタシはそれを読んだ。


「ありがとう」

「どっちだよ、それ」

 ふふふと笑う。だって嬉しいから。

「また生き霊が出たらどうするの?」

「一緒に退治するんだよ。俺だけじゃダメだったし、夏織は骨折するからな」

「痛いのよ?」

「あ、痛み止め飲む?」

「平気、嬉しいから」

「飲んでおけよ、心配だから」

 小さな粒を二つ、アタシの手のひらに出してくれた。

「怖かったな」

「俺も。あの先生はマジで」

「えー、そっち?」



 


 







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