終章 終わりと旅だち
ジフート暦385年のある日。
ルカはゆっくりと目を覚ました。
「ここは……」
知らない場所にいるので、状況が飲み込めず、辺りを見る。
『ジフート暦385年』
カレンダーが親切にも置いており、目を細め凝視する。
そして、目を大きく見開き驚く。
「そうか、俺は50年も眠り続けていたのか」
独り言だ。
「久しぶりだね。ルカ」
騒ぎに気付き、レイが現れた。
レイはルカの為に手を差し出す。
「ありがとう」
ルカは長い年月変わらなかった義手である左手を出し、レイの力を借りて、ベッドに何とか座る。
「なあ、リリーは?」
「リリーさんに会いたいですか?」
「当たり前だ!」
立ち上がった。
「あんな事があったのに?」
「俺が50年眠ったからこそ、余計リリーに会いたい。俺はリリーが大好きだから」
レイが持ってきた服にルカは着替える。
「はあ、分かりました。ルカがそう言うのは、分かっていたけど、ここまで、本気だとは思わなかったよ。はい。ここにリリーさんがいます。分かっているとは思いますが、人間は悪魔と違って人生が短いです。手遅れかも知れませんが、覚悟して下さい」
「ああ、分かったよ」
ルカは左手で紙切れを受け取る。
「じゃっ、行ってくるよ」
ルカは走って部屋を出た。
人気の無い山あいに建つ一軒の小屋がある。
白髪混じりのリリーは、ベッドから起き上がる。
「リリー様ダメです。寝ていて下さい」
女性の美しいエルフが起き上がるリリーを止めた。
リリーの顔は青白く、エルフの世話がなければ動く事もままならなかった。
リリーは病気で、余命いくばくも無い。
それでも、リリーは残りの人生を一生懸命生きなくてはならなかった。
ルカの為に……。
結局、呪いを解く事が出来なかった。
だから、会わなければならなかい。
リリーの意志が固かった。
「大丈夫よ。今日は調子いいの。天気がいいからかな」
ここ最近、まともに起き上がる事も出来ない程、衰弱していた。
リリーは起き上がり、窓を見る。
「ねえ、お願い、少し外に出たいわ」
「分かりました」
エルフはリリーを車椅子に乗せ、外に出た。
風に当たる。
気持ちのいい風だ。
「今日はいい日ね」
リリーが微笑む。
「はい」
リリーとエルフが空を見上げると、黒い物体が近くで着地した。
明らかに鳥では無い。人だ。
リリーは目を見開く。
「お願い、あそこに連れて行って!」
リリーが叫ぶ。
「リリー様。叫ぶとお体に障ります」
リリーはエルフの忠告も聞けず、咳をした。
「リリー様」
エルフは背中をさする。
その間に目の前にルカが現れた。
「リリー」
ルカは優しく笑う。
「ルカ。ルカ!」
リリーは立ち上がるが、身体が弱っているので、バランスを崩す。
エルフがリリーを支えようとしたが、その前にルカがリリーを抱いた。
「リリー。ただ今」
ルカは抱き締めて、リリーに言う。
「もう、遅いよ。でも、お帰り」
温かいルカの鼓動を聞く。
会えないと思ったルカがいる。
「ありがとう」
50年を経てようやく言え、リリーは幸せだった。
それから、3日後。
リリーはルカに看取られ静かに息を引き取った。
「これから、どうするのですか?」
エルフがルカに聞く。
「ああ、リリーの遺志を継ぐつもりだ」
手には数冊の日記帳を持っている。
ルカは本格的に旅を始める事にしたのだ。
目的は一つ。
リリーの痕跡を辿る事。ルカはリリーの知りえた世界を知る旅に出たいと思ったのだ。
「何つーかさ。やっぱり、リリーが好き何だな。リリーの事が知りたいから」
「そうですか……」
「さて、出発するか」
ルカは最後にリリーの墓を見て、歩き出した。
終わり。
読んで下さった皆様誠にありがとうございました。
損した気分になった方は申し訳ございませんでした。
とりあえずはこれにて完結になります。