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聖剣と魔王  作者: 叢雲ルカ
3/5

第2章 美女とモンスター

 33年前、ルカがいた星にて。

「何でだよ」

 漆黒のスーツ姿のルカと同じ顔をした男の死体がゴロゴロ転がっている。

 恐怖、苦痛、憎悪……。

 あらゆる負の感情がルカの心を支配する。

「何で、こんな事になったんだ! もう嫌だ! 戦いたくない! 死にたくも……」

 背後から斬られ、持っていた剣と一緒にルカの左腕が地面に落ちる。

「うわぁぁぁ!」

 赤々とした鮮血が飛び散る。

 ルカは叫びを上げた。



「うわぁぁぁ!」

 それはルカの夢であった。

 叫びながら夢から覚める。

「何百回目だよ」

 途中から数える事を止める位頻繁に見ていた。

 ルカは布団から腕を出し、上体を起こす。

 上半身を裸で眠っていたルカの身体には、複数の縫い傷が生々しく残っている。

 左腕にも縫い目がある。

 悪魔が不老不死と言っても、怪我を負えば、死ぬのだ。

 怪我をしなければ、不老不死なだけなのである。

 左手を動かす。

 33年前のある日、ルカは左腕を無くした。

 今の腕は前の星のテクノロジーで作られた義手である。

 義手と言っても、ただの義手ではない。

 本物通りに動かせ、生活するのに支障は無い。

 ただ、気持ちの持ち用で、動きは変わったが……。

「ルカ。今日こそ聖剣を貰いに来たわよ!」

 瞬間、ノック無しに、リリーが入る。

「って、おどれは何つーかっこうしとる!」

 リリーの顔が少し赤い。

「裸だけど?」

「服着ろや!」

「いいじゃねーか、俺の部屋何だし、全裸で寝たって」

 欠伸をしながら、髪を掻き毟り、そのまま長髪も結んだ。

「全裸だったんかい!」

 リリーの顔が更に赤くなる。

「それよか、ノック無しで、入って来たのはそっちだろう。ギャアギャア騒ぐ方がどうかと思うよ俺は」

「五月蝿い。黙ってとっとと、着ろや!」

 バタン!

 捨て台詞と思われる乱暴な言葉と一緒に、扉が勢いよく閉められた。

「リリーは処女なのか?」

 ルカは起き上がり、クローゼットを開ける。

 漆黒のスーツに視線が行く。

「あれから、一度も着てねーな」

 ルカは昔の星では、スーツしか着なかった。

 その星では王と呼ばれ、その姿で無いと示しがつかないからだ。

 しかし、それも今や昔の話。

 ダボダボのシャツとズボンを着ていた。

 クローゼットから服を出し、閉める前に、真っ黒の本に目を向ける。

 魔方陣が表紙の本だ。

 この本はこっちの星に来た時、ルカが作り上げた本だ。

 本の名前は禁術。

 ルカが今まで使ってきたあらゆる危険な術を、使わないようにする為に自ら封じ、本にした。

 ルカは本を使う事でしか、魔法を使う事が出来ない。いや、出来なくした。

 昔から、本を扱って魔法を使っていたが、昔は本無しでも扱えた。そこから、更に封印を施したのだ。

 星を一度失ったルカはその力に恐怖したのだ。

 これは、その過ちを繰り返さない為の策でもあった。

 大きな力を持って生まれた者の宿命でもある。

「こら、いつまで着替えてる!」

 リリーの怒号が聞こえる。

「はいはい」

 ルカが呆れる。

 ルカはいわゆるアパート住まいである。

 永住はせず、色んな地を転々とするので、家を買うより、借りる方が都合いいのだ。

 ワンルームにベッドと収納家具。風呂とトイレがある部屋である。

 質素だが、家にいても特に何かする訳でも無いので、これ以上何かを増やそうとはしなかった。

 ちなみに、収入についてだが、ルカはニートではない。彼とて立派な魔法使いで、そこそこ長生きだ。

 彼の知識を欲する人間は少なくない。

 本を書いたり、時には知恵を与えたりして収入を得ていた。

 勿論、それは人間に戦争させない程度の知識である。

 その気になれば戦争位簡単にお越し、終焉に向かうよう仕向ける事も出来た。

 意味が無い事を知っていたので、教えるつもりは無い。

「こら、早くしろ!」

「いい、近所迷惑だな」

 確かにこれ以上待たせると本当に近所迷惑になるので、素早く着替え、黒ぶちメガネを、掛け扉を開けた。

「お待たせ」

「何じゃ、そのメガネは?」

「昨日はお洒落眼鏡で、何とかなったけど、俺、目があんま良くないんだよね。ああ、老眼ではないよ。これから、バイク運転するにはちょっと問題だろう」

 今日はロランの手掛かりを探しに、隣街まで足を運ぶ事になっていた。

「まあ、そうだな」

「それより、朝食が楽しみだな」

「そう、あんたはのん気でいいわね」

「惚れたか?」

「惚れる訳無いだろう!」

 ルカに蹴りを入れようとしたが、やはり、避けられる。

「ヘタレなら当たれ!」

 リリーは怒鳴った。

「痛いのはもう嫌だ。俺はMじゃねーしな」

「そうよねMじゃなく、Bよね」

「ヘタレはBじゃねーぞ」

「バカのBじゃ!」

 アパート内に叫び声が響き渡った。



「おはようございます。ルカさん」

 食堂に足を運ぶとコウがいた。

「みんな1日位で帰るのに、まだ、俺を疑っているのか?」

「勿論です」

「あっそう。まあ、いいけど、いくら探っても何も出て来ないしな」

 ルカはコウの正面の席に座り、リリーはコウの隣に座る。

 すぐに朝食が運ばれて来た。

 朝食が報酬なので、今日の朝食は少し豪華であった。

「おっ、秋刀魚だ。やっぱり、朝はパンより、ご飯だよな。納豆に目玉焼き。味噌汁に煮物。幸せだ」

 ルカは箸を割る。

「あんたって、簡単に幸せ感じるわよね」

「100年生きると、返って簡単な事で幸せ感じるようになるんだよ。そう言うリリーはどんな時幸せを感じるんだ?」

「そうね。今は聖剣を手に入れた時かな」

 リリーはトーストを口に入れる。

「聖剣?」

 コウが聞く。

「そうよ。私の父は勇者ロランよ」

「そうだったのですか、しかし、それなら、リリーさんが手にしてもいいはずですが」

「そうよ。聞いて、何だか分からないけど、父さんとあのヘタレが、友人でね。何を間違えたのか、父さんがヘタレに上げたみたいなの」

「なる程。誘惑させた可能性が高いですね」

「でしょう」

「誘惑してないから」

「でも、出来るでしょう?」

 リリーが質問する。

「出来るよ」

「これは、報告しなければなりませんね」

「おい、待てよ」

「ルカさん。貴方の発言一つで悪魔達の行く末が決まる事を肝に銘じといて下さいね」

「おいおい、久々に厳しい奴が来たよ」

「みんな、騙されているんですよ。貴方に」

「いや、騙して無いから、俺は至って優しい男だから」

「優しいって自分で言う。信用出来ないわ」

「私も同感です。勝手にやってきて支配欲が無いのは虫が良すぎる。何か企んでいないか考えてしまいます」

「はあ……なる程な。確かに言っていることは最もだな。正直な話。俺も君達位の方が信用出来るよ。はい。分かりました。と、言ってそのまま許可する方が俺はどうかと思ってる。でも、いきなり宣戦布告をするのも、能が無いだろう。そう言うのに限って勇者が現れ、勇者によって封じられるか、倒されるのが、お約束だ。こちら側としては、そうなって何が面白いんだ? 俺はこれでも、命を守る立場にあるからな。少数の悪魔を犠牲にしたくないんだよ。それに、戦争になった場合、多かれ少なかれ、人間側にも犠牲は出るんだ。それを回避したかったはずだ」

「それで和平に乗り出した。脅してまで」

「そうだ。まっ、その脅しに乗ったから、話は聞いてくれたけどな」

「何て話だ」

「だが、それはハッタリでもあったがな。あの当日まともに戦えた奴何てそんなにいなかったからな。俺も満身創痍だったし、一番腕の立つ奴にやらせただけだ。それでダメだったら次の手考えたが、力に臆したのはそっちだから、そのまま話を和平に持っていたって訳。悪魔が人間を滅ぼし、我々の星を作ります。何て旧時代の支配は、もう、悪魔達はしないんだよ。それに悪魔も平和を愛したっていいと思うんだ。悪魔も進化するんだよ」

「だから、和平交渉したの?」

「そうだよ」

(何つーか、勧善懲悪を真っ向否定しているな)

 コウはヘタレ悪魔に戸惑った。

「貴方の考えは分かりました。ですが、これも仕事です。逐一報告するので、そのつもりで」

「ああ、説得作戦失敗した」

 ルカは泣きだしていた。



 しばらくして、朝食を終え、ルカ達はコーヒーを飲んでいた。

「ルカさん。今日の予定は?」

「ああ、勇者ロランを探しに隣街に行くつもりだけど、同行するんだろう」

「勿論です。しかし、その前にお願いがあります」

「手合わせしろとか言うなよ」

「そうですが、問題ありますか?」

「あり過ぎだ! 平和主義者に何やらせるつもりだ!」

「噂ではかなりの達人と聞きますが」

「昔の話だ。それも向こうの星にいた時の話。酔った勢いで、監査の人間に話した事は否定しないが、30年以上も剣を握っていないんだ。無理だ」

「じゃあ、尚更何で、聖剣持っているのよ。使わないなら私に返して」

「返してって、あのな……」

「分かりました。そこまで、頑なに断るのでしたら、仕方ありません。昨日の事、聖剣の事、全て本部に報告します」

「それは困る。分かった。やる。お望み通り、腕を見せてやる。それでいいだろう」

「はい」

「はあ……参ったな」

 ルカは本気で困っていた。



「ここで、いいな」

 ルカが近くの空き地に連れて行く。

「はい」

 コウは剣を抜く。

「所で、剣は?」

 リリーが聞く。

「あるよ」

 ルカは灰色の本を開き、剣を出現させた。

 何処にでもある汎用的な剣である。

「なる程、そんな物まで、本に納める事が出来るとは、流石と言うべきかそれとも、何かを隠す為に本に納める必要があるのか……」

「余計な散策するな」

 ルカは右手で剣を持つ。

「確かに。それでは腕前確かめさせて頂きます」

 刹那、コウはルカに剣を振るう。

「うっ」

 ルカはコウの剣に押される。

(こいつ、強い)

 ルカはコウの一方的な攻撃を、受け止める事しか出来なかった。

「凄い。コウには負けるけど、ルカって強かったのね」

「分かりますか?」

 2人の戦いを見ていると急に背後から男の声がした。

「誰!」

 振り向くとバニラのソフトクリームのような、ヘンテコな帽子を被った小柄な男がいた。

「紹介が遅れました。僕はメフィストフェレスのレイです。帽子お一ついかがですか?」

 荷車に帽子を積んでいる。

 どうやら、帽子を売っているようだ。

「メフィストフェレス……悪魔か」

 リリーが苦々しい顔をする。

「ええ、悪魔です。そして、ルカの友人です。あっ、帽子お一ついかがですか?」

「いらないわ」

「そうですか? 残念です」

 レイは悲しい顔をしている。

「それで、何でここにいるのよ?」

 不本意ながらも聞かずにはいられなかった。

「ええ、ルカの様子を見に。あなたは、剣に詳しいようですね?」

「まあ、父さんが勇者ロランで、小さな時から、稽古させられたから」

「そうでしたか。貴方がロランさんの娘さんでしたか、って事はリリーさんですね」

「ええ、そうよ。あんたも父さんを知っているの?」

「ええ、僕も飲み友達でしたから。それで、どちらが優勢ですか?」

「あんた。分からないの!」

「ええ、僕は帽子屋であって、騎士でもなければ、ニートでもありませんから、戦いは分かりません」

「そう。コウが優勢よ」

「そうでしたか。やはり、と言うべきでしょうか?」

「何よ。何、企んでいるの!」

「いや、大した事ではありませんよ。コウさんに剣の手合わせを依頼したのは僕です。監査でルカも見ると聞いてね。ルカのケガの経過を確認したかったので」

「そう言えば、あいつの身体、随分と傷だらけだったわね。見たくも無い身体見たけど」

「ええ、戦争の時に大ケガをしましてね。その時の傷がまだ癒えていないのですよ。心も身体も」

「身体? ケガは確かに酷いけど、普通に動いているし、とてもそんな風には見えないわ」

「ええ、そう見えなくしているだけです。ルカは本来左利き何ですよ。昔の戦争で左腕を切断しましてね。今、あるのは義手ですが、医学が進歩していたので、本物と同じように動くはずなんです。後は気持ちの問題何です」

 ルカは手から剣を放した。

「参った!」

 ルカが降参する。

「分かりました。終わりにしましょう」

 コウが剣を納める。

「ちょっと待った!」

 リリーが割り込み、ルカに詰め寄る。

「ちょっとあんた、手加減しているじゃないよ!」

「いや、本気でやったよ」

「メフィストフェレスから話を聞いたわ。左利きが右で戦って何が本気よ!」

「レイと呼んで下さい。名前長くて噛みますよ?」

 レイがリリーの言葉に突っ込みを入れた。

「余計な事を」

 ルカがレイと目を合わせた。

 レイはルカに微笑む。

「もう、動かせるなら、動かしなさい!」

「だから、俺は……」

 リリーの言葉に押されている。

「リハビリって、言葉知ってる。コウはわざわざ、リハビリに付き合って上げているの。治っているのに、使わないとか、周りを心配させるだけでしょう!」

「はあ……」

「はあ、じゃねー! やれやカス!」

「カスって、何かどんどん酷くなっているし……」

「あん。何か言ったか!」

 リリーが胸ぐらを掴む。

「別に……」

 圧倒され、反論が出来ない。

「ともかく、やれ!」

 リリーは手を離す。

「はあ……つー訳だ。コウ。もう1回お願い」

 ルカは剣を拾う。

「分かりました」

 ルカは剣を左手に持ち構える。

 自然と持つ手が震えた。

(怖い。悪魔じゃない。相手は人間だ。いくらリハビリでも……)

 リリーはレイの所に戻る。

「全く、世話のかかる男だ!」

「ははっ、ありがとうございます。ルカには越えて欲しいのですよ。過去を。ルシファーと名の付く悪魔は優秀とされていまして、ルカはあれで、エリート何ですよ。ただ、戦争で心に大きな傷を受けた。優し過ぎたんですよ。ルカは」

「魔王のクセにだらしない」

「ですが、そんな彼に我々が着いて来たのも事実。魔王としての資質は無いのかも知れませんが、命の尊さを分かっている。お陰で僕も、嫌な仕事を辞め、帽子を売って歩く事が出来るのだから、ルカには感謝しています」

「あんた、帽子屋の前は何やっていたの?」

「ええ、医者ですよ。あの腕は現役時代の僕の最高傑作です」

「もしかしてあんた、自分の作品の出来が見たかっただけじゃないの」

「まさか、ルカの心配もちゃんとしてますよ。友人ですから、一応」

「そうよね」

 お互い乾いた笑いをした。

(レイの方がよっぽど、悪魔ぽいや)

 ヘタレ魔王を見て思った。



(殺しちゃいけない……手加減は1番、難しいんだよな)

 左手に持った剣が妙に馴染む。

 懐かしいと思いたくない感触だが、とても、しっくりくる。

 左腕を失い、全てを右でやらなければ、ならなかったが、不便に思えたのは、初めだけで、右でも割と普通に生活が出来た。

 夢を見て左腕が義手に代わった事を思い出す。

 それだけ、今の生活が大変で無いのだ。

「コウ。動くなよ」

「えっ?」

「断裂斬」

 ルカは剣を振っただけであった。

 しかし、空気が一瞬裂け、空間が揺れた。

「確かに、前と同じように動く……」

 ルカは剣を構える。

「悪い。コウ。改めて頼む」

「あっ、はい」

 コウは呆然としていたが、ルカの声で自分を取り戻す。

「やっと本気になったようだ。うん。いい出来だ」

 レイが呟く。

「あんた、本当にルカを思ってる?」

「思っているから、腕を提供したんだよ」

「そうよね」

「誰しも運命を持っていて、それを受け入れなければならない。ルシファーとして生まれたからには、その大きな宿命を背負わないといけない。僕はルカに比べてまだ、楽ですが、僕もルカも何も知らずに笑っていた少年期に戻れたら、どれだけ幸せか、そう思いますよ。だから、ルカには昔のように、腕を使って欲しかった……」

「昔の星で何があったの?」

「僕よりも、ルカに聞くといいよ。星の全てを知っているから、どうやら、ルカの腕はくっついているようだ。ちゃんと動かしてくれて安心したよ」

 手合わせを終えたルカとコウがやって来た。

「やあ、ルカ。新作の帽子買わない?」

「レイ。帽子は買わないぞ」

 少し機嫌が悪かった。

「えーっ。今回の新作は胃をデザインした帽子だよ」

 レイは気にせず、胃の形をした真っ白な帽子を見せる。

 被る所は胃の出入口ではなく、胃の下の部分に穴があいており、そこから被る形となっていた。

「レイは帽子を売りたいのか? それとも、内臓を見せて驚かせたいのか、どっちなんだ?」

「勿論、帽子を売りたいんだよ。医者の知識と帽子との夢のコラボ。この帽子は自信作だし、サラも笑顔で作ったよ」

 レイは真剣に言っている。

「そうでなきゃ、レイの奥さんは務まらん」

「えっ、結婚しているの?」

 リリーは驚く。

「ええ、こっちに来て30年悪魔とて、結婚はしますよ。30年いれば、どんな悪魔でも好きになる人間はいると思います。違いますか?」

「まあ、確かに」

「中にはいつまでも独身貴族を貫こうとしている悪魔もいますが、大体の悪魔は、一度は結婚してます」

「レイ。喧嘩売っているのか!」

「いいえ」

「ああ、やっばり、モテるって言うのは嘘何だ!」

「やっぱりって何だ!」

「ルカはモテますよ。僕も羨む位。でも、それが仇となるんですよ。ルカの場合は1人に選んだ瞬間、醜い争いが始まります。そして、嫉妬心が膨れ上がったリリスがルカに……」

 レイが真っ青な顔をして言う。

「リリス恐ろしい」

 コウが身震いする。

「ってか、それなら、リリスと結婚すればいいじゃない」

「嫌!」

「僕もそんな事になるのは居たたまれないです。友人として、僕は止め無くてはいけなくなります」

「何で?」

「リリスは悪魔名。本名はタケル男何だ」

「お、男!」

 リリーが驚く。

「嘘だ。あんな美しい男がいるはずがない!」

 コウが騒ぐ。

「監査で会った事あったんだな」

 ルカが苦笑いする。

「証拠はありますか?」

 コウが疑っている。

「僕、写真持っているよ」

 ソフトクリームの形をした帽子を頭から取り、手を入れる。

「あった。これだよ。このぽっちゃりしているのが、タケルだよ」

「おっ、懐かしいな」

 ルカが笑う。

「見せて」

 リリーが見る。

「このやんちゃ坊主がルカだな」

 真ん中にいるルカを指す。

「はい。それで、この素晴らしい帽子を被っているのが僕です」

 そう言って、向かって右にいる、ハリネズミのはり山のようなトゲをイメージした帽子を被った小さな男の子を指す。

「へー。ルカとレイは変わらないのね。つーか、リリスさんが誰だか分からないけど、コウの落ち込み用だと相当な美女なのね」

「まあ、綺麗だな」

「うん」

 レイは帽子の中に写真をしまう。

「綺麗だけじゃありません。僕に美味しい手料理をご馳走しました。そんなリリスさんが、よりによって」

「完全にリリスの毒にあてられたな」

 半泣きまでしているコウにルカが言う。

「これは、本部に報告して、処罰を……」

「まあ、無理だな」

「無理だね」

 レイがルカに同意する。

「何故です!」

「本部の連中も恐らくあてられているからさ。本部の連中も大体一度は俺達に会っているだろうから、その時に、コウみたいに、あてられるんだ。まあ、悪い奴じゃないし、あてられる事以外は実質無害なんだしな」

「僕も思います。悪い人じゃないんだけど、ただ、男を好きになっただけで」

「しかし、ルカの何処がいいのかしらね」

「簡単な話ですよ。タケルはこの頃、虐められていて、やんちゃ坊主のルカが守っていたんです。ほら、よくある話でしょう。普通なら、目標にする所を恋愛対象になっただけです」

「まあ、無くは無いわね」

「今はヘタレですが、昔はそこそこ格好良かったんですよ」

「ヘタレで悪かったな。どうせヘタレの独身貴族ですよーだ」

 今度はルカがすぬた。

「根に持っていましたか」

 レイは性格が歪んでいるのかクスリと笑う。

「大体、何でここにいるんだよ。俺の腕を見に来た訳でも、からかいに来た訳でもないだろう」

「ええ、帽子を売りに出張に来たのですよ。この村まで、そのついでに腕の調子も見に来ました。しかし、何故でしょう。全く売れないんですよね。やっぱり、サラが売らないとダメですかね。僕の村でも割と売れているのに」

「村の連中も毒にあてられたな」

「何か言いましたか?」

 レイは毒を出している事に気付いていなかった。

「いいえ」

 ルカはレイを怒らせないよう、あえて黙る。

「それではルカ。僕は帽子を売りに回りますので、今度は美味しいお酒を一緒に飲みましょう」

「分かったよ」

「では」

 レイはお辞儀すると、パッと姿を消した。

「流石ね。って、毒って何じゃい!」

「人に影響を与えるオーラだ。人間にだって持っているだろう。この人の本に惹かれるとか、要はカリスマ性だな。まあ、実質無害だよ」

「魔王が無害って言っても説得力ありませんよ。確かに、ジフートへの影響はそれ程ありませんが」

 コウが付け足す。

「それにしても、あんたはそのオーラが無いわね」

「確かに、今頃リリーさんはルカさんの虜となっているはずですが」

「何で私が虜になるのよ!」

「オーラを封じているんだよ。俺が出した日には、人間が死滅する恐れがあるからな」

「封じるって……」

「嫌だろう。俺みたいな平和主義者が負のオーラ出したら、つーか、俺が嫌だし」

「自分で言うか」

 リリーが呆れていた。

「それより、そろそろ隣街に行くとするか」

「そうね。早くあんたとの縁も切りたいしね」

「酷いな~俺、リリーが好きなのに」

「五月蝿い。セクハラで訴えるわよ」

「酷い」

 ルカは半泣きした。



 この世界での移動手段はバイクが多い。

 魔力を動力源にして走っているエコバイクだ。

「リリー、どうする? 運転する?」

「いいよ。あんたが運転して」

 リリーは嫌々バイクの補助席に座る。

 ルカはぷらっと何処かへ長旅をする事が多い為、荷物置き用に補助席を付けていた。

「そうか、嬉しいよ。隣はいつも荷物でさ。女の子を乗せて走る方がバイクも幸せだよ」

 ルカは機体の調子を確かめ、エンジンを入れる。

「好きで乗る訳じゃねー!」

「スミマセン。1人乗り用で」

 コウが謝っている。

「コウは悪く無いわ。悪いのはそこのヘタレ魔王だから」

 リリーがコウにフォローする。

「ヘタレ……はあ……」

 ルカはリリーに散々言われ、落ち込んでいた。

「どうしたの? 何、落ち込んでいるんだ。ヘタレ!」

「ヘタレ。ヘタレって連呼しないでよ」

 ルカのバイクはルカの魔力を動力源としている為、エンジン音が弱くなり、止まってしまった。

「どヘタレ!」

「ごめんなさい」

 ルカは泣きながら謝った。



 隣街ルター。

 水の都とも呼ばれるこの街に3人は足を運んだ。

「さて、まずはギルドだな」

 ルカはギルドに寄ろうとする。

「ちょっと、場所分かるの?」

「ああ、4年前まで住んでいたから。後でデートしない? いいスポットがあるんだ」

「お断りだ!」

「ちぇ」

 ルカはがっかりする。

 しばらくしてギルドに着いた。

 ギルドの中はいつでも人で賑わっている。

 ルカ達は一番奥へと進んだ。

「ルカ。久しぶりね。元気そうで何より」

 店を切り盛りする美女がルカに近付く。

「ああ、そっちこそ」

 再会の抱擁を2人はする。

「今日はどうしたの? あっ、とうとう結婚でもするの? そこの可愛らしい子と」

「だと、いいんだがな」

 ルカが苦笑いする。

「何だ。てっきりその子が新しい彼女かと思ったけど、違ったの?」

「違います!」

 リリーがキッパリ否定する。

「ほらな」

「ってか、この女は誰よ!」

「紹介が遅れたわね。私はアナスタシア、ルカの元彼女よ。ここのギルドで情報提供をしている情報屋よ」

 アナスタシアが手を差し伸べると、リリーも手を出し、握手する。

「はあ、元ですか……」

 リリーは複雑な顔をする。

「貴女、お名前は?」

「リリーです」

「あら、ロランさんの娘さんだったのね」

 アナスタシアは驚く。

「私がロランの娘だって知ってるの?」

 リリーも驚く。

「ええ、ロランさんにはよくして貰っていてね。娘さんの話もよく聞いたわ」

「はあ、ありがとうございます」

「んで、こっちの騎士はコウだ」

 ルカが今度はコウを紹介する。

「ど、どうも」

 コウは美女に会って少し緊張していた。

「それより、どのような要件?」

 アナスタシアが質問する。

「そうだった。勇者ロランの居場所を探して欲しいんだ」

「ロランさん。確かに最近見ないわね。分かった。探して見るわ」

「おう、サンキュー」

「ねえ、ルカ。情報が見つかるまで暇よね?」

「まあ、確かに」

「ルカに頼みがあるのよ」

「俺に?」

「そう、何て言うか知恵を借りたいのよね。ちょっと、難しい問題があって」

「分かった。俺の知恵が役立つか分からないが、話を聞かせてくれ」

「うん。ありがとう」

 4人は席に着く。

「それで、問題って何だ?」

「うん。この依頼書何だけどね」

 アナスタシアはシリアスな顔をして、依頼書を出す。

 ルカ達はそれに目を通す。

 内容は古い洋館の調査であった。

「なる程な。確かに可笑しいな」

 ルカは目を細める。

「ねえ、何が問題なのよ?」

 素人のリリーは普通の依頼書だと思ったようだ。

「差出人は?」

「分からないの。いつの間にかあってね」

「あっ、確かに記載が無い」

 リリーがすみからすみまで見直すと確かに、誰からの依頼か分からなかった。

「そうか」

 ルカは更に目を細める。

「それに、洋館捜索にしては、随分、報酬が高いです」

 コウも指摘する。

「どうして、分かるの?」

 リリーがコウに聞く。

「ええ、僕も冒険者業はやった事ありませんが、悪魔探しにギルドを利用していまして、その時に依頼書を一通り見るのですが、この位の仕事なら、3万Gがいい所。5万Gだと、少し、危険があると見ます。しかし、10万Gはしません」

「そうなの。報酬も、もう貰っていてね。依頼書があって、報酬も割高だから、冒険者が食い付いたのよ」

「まあ、そうだろうな。被害はその冒険者達って所か?」

「そう。依頼を受けた最初の冒険者は1ヶ月以上経っても姿を現さないのよ。たかが洋館捜索で、可笑しいでしょう?」

「確かにな」

「急いで依頼書を下げたけど、でも、このままにはしていられないし」

「悪魔の仕業よ!」

 リリーが推理する。

「いや、それは無いな」

 ルカが言う。

「僕もそう思います」

 コウもルカとは同意見だった。

「何でよ」

「もし、悪魔の仕業なら、俺が黙っていないから、この辺りなら、俺の目が光ってる。俺で無くても、レイやリリスも近くにいる。俺より行動範囲が広いレイが、さっき何も言ってこなかったんだ。考え難い」

「それに、この時期は監査もあります。1ヶ月前から動き出していますから、監査に響く事を考えると、今の時期は難しいです」

「じゃあ、誰よ!」

「人間だな」

 ルカが結論付ける。

「そうですね。そう考えるのが自然ですね」

 コウも納得している。

「やっぱり、そうなるか」

 アナスタシアも気付いていたようだ。

「ちょっと、何で、人間になるのよ!」

 リリーだけが、納得していなかった。

「人間がこんな事しても、何も特しないわ」

「そいつは分からないだろう。人間が何を考えている何て、誰にも分からないだろう。それこそ、心を読まない限り、人間だって、汚い奴は沢山いるよ」

「悪魔が言わないで! 私は人間を信じるわ。いいわ。その依頼受けるわ!」

「えっ、知恵を出すだけでいいって……」

 ルカは驚いている。

「やるの! テメーの言った事、証明しろや!」

「リリーさん。怖いです」

 胸ぐらを掴み、ガンを飛ばしたリリーにルカが半べそをかいた。

「あん。いいだろう!」

「はい……」

 ルカは渋々返事をした。

「コウもいいよな!」

 リリーはコウにも言う。

「まあ……」

 流石にコウも逆らえなかった。

「ロランさんの娘さんって、厳しい方だったのね」

 アナスタシアが苦笑いした。

「貴方も大変ね」

 そして、困っているコウにアナスタシアが声を掛けた。

「まあ、悪い人じゃないし、見ている分には楽しいんですがね。こう振られると、ちょっと困りますね」

 コウも苦笑いをしていた。



「嫌だな~ああ、本当に嫌だ」

 ルカ達3人は何だかんだと依頼を受け、街からバイクで30分の街から外れた所にある、例の洋館の前に立っていた。

「ねえ、いかにもって場所だよ。リリー、止めよう。命は大事だよ」

「つべこべ言うなヘタレ、行くぞヘタレ!」

「ヘタレか……」

 3人は怪しい白塗りの壁の洋館に入った。

 簡単に扉は開き、中に入った途端、扉は急に閉まった。

「なっ、何?」

 リリーが驚く。

「コウ、もしやとは思うんだが……」

「奇遇ですね。僕も丁度同じ事を考えていました」

「何を考えていたのよ!」

 2人は一緒に退路である所の入り口を開けようとした。

 しかし、鍵は掛かり、力ずくでも開かなかった。

「退路を断たれた」

「何か問題でもあるの!」

「あり過ぎ。どうやって出るんだ」

「窓から」

「こう言うのは相場決まっているんだよな……」

 ルカがため息をつく。

「何が?」

 訳の分からないリリーだった。

 部屋に入り、一応窓を調べる。

「って、何これ!」

「結界が張り巡らされているんだ。だから、出られなくなったんだ」

「はあ!」

「だから、止めようって言ったんだ。アナスタシアだって、強制してなかったんだしさ」

「五月蝿い。結界位壊しなさい! 悪魔でしょう」

「無理だよ。今、そんな力は備わって無いから」

「だったら、力を持ちなさい」

「無茶だよ。外に出られないんだから」

「もう、どうするのよ!」

「と、とりあえず、中を散策しましょう。何か出られる方法があるかも知れませんし」

 コウが間に入る。

「そ、そうだな」

 ルカも頷く。

「もう、役立ずの悪魔が!」

「……はあ」

 ルカはリリーの文句に大きなため息をついた。



 1時間後。

 3人は屋敷の入口に戻っていた。

「何も無いじゃない!」

「そうですね」

 リリーの文句にコウが相槌を打つ。

 一通り部屋を見て周り、玄関に戻っていた。

「ルカさん。何か分かりますか?」

「分かるって言うか、不気味過ぎて嫌だ」

「不気味なのは分かるわよ」

「いや、分かって無い。だって、あの絵、絶対目が動いているもん。あれは、手が左右組み方変わってる。ああ、あれは……ここ、絶対、可笑しいよ~」

 ルカが言う。

 この洋館には無数の絵画が飾られている。

 ルカは男性の絵を指し、目の位置が変わっていたり、女性の絵画を指し組んだ手が変わっていたりと指摘した。

「そんなの妄想でしょう。絵が動く訳無いじゃない」

 リリーは否定した。

「動いているったら、いるって」

 ルカが必死に訴える。

「強ち嘘じゃ無いかも知れませんね」

「コウまで」

「いや、ルカさんの全てを肯定する訳ではありませんが、ルカさんは一応魔王です。何か特別な物を感じているのかも知れません。人間が感じ得ない何かを……」

「そう? ヘタレているだけじゃないの?」

「かも知れませんね。では、こうしましょう。ルカさん」

「何?」

「魔力が固まっている所、探す事は出来ますか?」

 コウが提案する。

「そんな事出来る訳……」

「出来るよ」

 リリーが否定した所を食い気味に肯定する。

「出来るんかい!」

「うん。情報集めるのはそこに住む上で、必須だからね」

「あんた。本当に何でもありね」

「でも、探してどうするんだ?」

「これだけ手掛かりが無いのです。強い魔力が指し示す所に行けば、もしかしたら、行方不明者も見つかるかも知れません。そうでなくとも、何だかの手掛かりが見つけられるかも」

「なる程、それ、乗った」

 灰色の本を出し、そこから、両手で覆い被すより少し大きい水晶玉を出す。

 そう。占いをするあの水晶玉と物は同じだ。

 ルカは水晶玉を宙に浮かせ、目を瞑る。

「本当に大丈夫?」

「ここは静かにするべきです」

「まあ、そうね」

 しばらくすると、水晶玉の中から『⇒(右)』矢印が出てきた。

「あっちみたいだ」

「って、何これ!」

「何って、場所を指し示しているんだよ」

「ほら、もっと、神々しく光ったりしないの?」

「しないよ。そんな光っても俺が場所分からなければ意味無いだろう」

「そこは、リアルな物の考えをしているんだね」

 リリーは呆れる。

「これは、魚群探知機ならぬ。魔力探知機。名付けて魔力探知くん2号改だよ。ちなみに、くんは平仮名のくんね。ほら、よく魔法アイテム屋で売っているだろう」

「ああ、あの怪しい店ね」

 リリーは見るからに胡散臭いお店を思い出す。

 まだ、中に入った事が無いが、あまりに怪しいので入る気が起きないのだ。

 魔法アイテム屋は確かに胡散臭いお店が多い。

 正規のルートで集めたアイテムを売る店で無い事が少なくないからだ。

 ガラクタや偽物もあり、冒険者達を困らせるお店でもあった。

「2号って1号は?」

 コウが素朴な疑問をする。

「魔法アイテム屋で、2号を買ったから1号は分からないけど、改は改良型の改ね」

「知っとるわ! で、誰が改良したの?」

「俺だよ。壊れていたから、直したんだ」

「それ、信用出来るのかしらね」

「明らかにガラクタを買わされただけでは? しかし、それを直してしまうとは、恐るべし魔王の力」

 コウが感心する。

「違うよ。俺の趣味だよ。アイテムいじるの楽しいからね。知り合いの店はいいガラクタしか置いて無いから、楽しいんだよね。あっ、そろそろ見に行かないと」

「ガラクタって分かっていて、買ったんだ」

 リリーは、ルカの趣味に思わず引いてしまった。

「やはり、恐るべし魔王」

 コウはルカの考えに理解が出来ず引いた。

「さっ、行こう。あっちだ」

 ルカを先頭に屋敷の奥へ再び向かった。



 書庫に3人が着く。

 そこには古い蔵書の数々が並べられ、それに目を光らせたのは……。

「はあ、これ、凄い!」

 そう。ルカだ。

「確かに、さっきは気付きませんでしたが、凄いですね」

 コウも興奮していた。

「あんた達ね。捜索はどうするのよ?」

「休憩も必要だよ」

 ルカは何処からともなくクッキーを取り出し、ソファに座り食べだす。

「確かにそうですね」

 コウも立ち読みをしていた。

 リリーだけは取り残されている。

「大体、何で、魔王がこっちの本に興味があるのよ!」

「失礼だな。俺はこっちで暮らすと決めた時に、こっちの歴史はちゃんと学んだんだ。暮らす上で常識だろう。それに、俺は作家で生計立てているんだ。知っているに決まっているじゃん」

「何それ。まるで、私がバカみたいじゃない!」

「そんな事言って無いけど、そうなの?」

「違うわ!」

 リリーは本を投げる。

 ルカは本を読みながら、投げられた本をキャッチする。

「ダメだよ。本は悪くないよ」

 ルカは元あった所に本を戻そうとしたが、手を止める。

「どうしたよ?」

 リリーが気にする。

「いや、何か、本の奥にスイッチがあったから」

「怪しいですね」

 コウも手を止め、ルカね言われた所を見る。

「ああ、確かに」

 ルカも同意する。

「この場合どちらかだな」

「ええ、どちらかですね」

 コウも同意した。

「ちょっと、私が本を抜かなかったら分からなかったのよ、私を差し置いて話を進めないで!」

「スミマセン。このスイッチが罠か手掛かりかって事です。手掛かりだった場合例えば、この部屋の何処かに、ゴゴゴッと音がして地下へ続く隠し通路が出てきたり、ゴドンッと音がして、上と続く梯子が出てきたりします」

「そんな事ね。忘れていたけど、ルカのあのガラクタはどっち向いているのよ」

「ガラクタじゃなくって、魔力探知くん2号改だ。スイッチとは逆の本棚を指しているぞ」

「じゃあ、そっち調べてみるべきね」

「確かに。罠だった場合、スイッチ押して床が抜けたり、毒矢が出て来たりしますしね」

 コウは正面の本棚の本を抜く。

「何もありませんね」

「じゃあ、押すしか無いわね」

「そうですね。ルカさんお願いします」

「えっ、俺!」

「ええ、例えば罠で床が抜けたとしても、空を飛ぶ翼があります。毒矢が飛んで来ても、魔王ですから大丈夫でしょう」

「はっ、毒矢は無理無理。下手したら死んじゃう!」

「避ければいいでしょう?」

「いや、そんな反射神経無いから」

「じゃあ、当たれば? 遺体は仕方ないから拾って帰るわ安心して」

「安心出来るか! はあ、仕方ないか。騎士(コウ)にやらせる訳にもいかないしな。何かあったら、監査に引っ掛かりそうだし」

「よく、分かりましたね」

 コウは笑顔で言う。

「はあ……」

 ルカはスイッチの前に立つ。

「リリーさん。僕達は扉の前へ」

「ええ、いつでも逃げられるようにするのね」

「はい」

 二人は出入口の前に逃げる。

「んにゃろう」

(コウ覚えておけよ。悪魔の呪いは専売特許で強いんだからな)

 ルカはポチンとスイッチを押した。

 すると、ゴゴゴッと音がし、正面の本棚が割れ、地下に続く階段が出て来た。

「どうやら、罠じゃなかったみたいですね」

 コウが一安心する。

「何だ。罠じゃなかったのか。ちぃ」

 リリーが舌打ちした。

「女の子が舌打ちしちゃダメだよ」

「ルカさん。その前に自分の命の事を突っ込むべきでは? 気にしてませんね」

「さあ、行くぞ!」

 リリーは先に地下へ続く階段に降りた。

「僕達も行きましょう」

「ああ、うん」

 コウとルカも後に続いた。



「コウ!」

「はい」

 ルカは後ろに下がり、コウが先頭のリリーの前に立つ。

「どうしたの?」

「誰かいる。誰だ!」

 コウが吠える。

「その声はコウ?」

 女性の声がする。

「あっ、あの、声は……」

 ルカは慌てながら、リリーの後ろに隠れる。

「二人供、知り合い?」

「この匂いはルカ~」

「タケル」

 ルカは思わず、リリーを盾にする。

「こら! 甘えるなヘタレ!」

「ルカ。会いたかったよ~って、何、この女!」

 タケルと呼ばれた女性が、姿を現し、リリーを見るなり、凄い殺気で言う。

「あんたにこの女って、言われたく無いわ。あんたこそ誰よ!」

 そこで引かないのがリリーだ。

 リリーも凄い剣幕で答える。

「何か、怖いんだけど」

 ルカはコウの後ろに隠れる。

「だからって、僕の後ろに隠れ無いで下さい。僕も怖いんですから」

 男2人は女の争いに恐怖していた。

「すっ、スマン」

「失礼ね。私はリリス。冒険者よ。あんたこそ誰よ」

「私はリリーよ。リリス? タケル? 悪魔じゃない!」

「タケルと呼ばないでよ」

 昔の名前で呼ばれ、機嫌を悪くする。

「ルカ。ほら、やっぱり、悪魔が絡んでいたじゃない!」

 リリーはルカを攻める。

「いや、何かの間違いかと……」

「じゃあ、何で、ここにいるのよ!」

「悪魔を毛嫌いしているのは、何となく分かるけど、リリー。少しは私の話を聞いたら?」

「そうだ。何でここにいるんだ。タケ、いや、リリス?」

 ルカは昔の名前を口づさむ所を我慢する。

「依頼よ。依頼。ここの調査依頼。依頼料が良かったから受けたのよ」

「信じられ無いわ」

「いや、本当のようですよ」

 コウは自身と同じように白い鎧を纏った、巨漢の男に話を聞いていたようだ。

 リリスに気を取られていたが、リリスにも付き人がいた。

 名前はロウ。コウと同じでリリスの監査をしていた。

「ほらね。私はルカを裏切らないと決めているの。これも愛ね。あなたはどの位ルカを愛しているのかしら?」

「こんなヘタレ愛せるか!」

「ヘタレ何て失礼じゃない。あんた、人間のクセに何様よ!」

「まあまあ、2人供、話が逸れているから、ここはどうなっているのか、状況を整理する方がいいんじゃ……」

「黙れ、どヘタレ!」

「ルカ。口を出さないで、ここは大事な時なの!」

「はい……」

 ルカは2人の迫力に負け、小さくなる。

「ここは大人しくしてましょう」

「そうだね」

 ルカはため息をつきながら、コウと一緒に巨漢のロウの所に向かった。

 男達はその間に情報交換をしていた。

「どうやら、強い魔力とは、リリスさんの魔力みたいですね」

「だな」

 ルカは探知機くん改の矢印を見て、返事をする。

「この地下には何がありましたか?」

 コウがロウに質問する。

「実験室のようで、巨大な試験管がありました。その中に人が入っていて、試験管から外に出しました。命に別状が無いにしても衰弱していて動けないので、横に寝かせ今、外に出る方法を探していました」

「恐らくそれが、僕達が探していた冒険者達になると思います。僕達も外に出る方法を模索していますが、魔王ルシファーがもう少ししっかりしていれば……」

「ルシファーじゃない。ルカだ。それに、俺は至ってしっかりしてる」

 ルカは言い返す。

「じゃあ、何か力を使ってここから脱出する方法を考えて下さい」

「考えているさ。ちゃんと。今の状況を楽しんで何かいないさ」

 そうルカはいつもとは違い真剣になっていた。



 30分後……

「そうよ。ルカが私の物になれば、そもそもこんな事にはならなかったのよ」

「それもそうね」

「えっ、俺!」

 話の矛先が何故か、ルカに向かった。

 ルカは目を丸くし、2人を見ると引っ掻き傷が出来ていた。

「だから、こんな女が着いて来るのよ」

「いや、リリーは俺の持っている聖剣が欲しいから着いて来ているだけで、それ以上の扱いは、ってか、結婚は絶対嫌!」

「あら、聖剣が欲しいからいるだけ? 何だ。初めから、そう言いなさいよ。てっきり、この子が好きになって、無理無理振り向かせようと、ルカが着いて来ているの思っていたわ。ごめんなさい。リリー」

 リリスが呆気なく謝る。

「まあ、間違いを認めるならいいわ」

「えっ、いいのかよ」

「うん。見た所悪そうな悪魔じゃないし」

「ついさっきまで、引っ掻き合う、喧嘩してただろう。第一、悪魔が嫌いなクセに」

「美人は別」

「そう言えば、エルフは好きだったな。俺も美男子何だがな」

 ルカが嘆く。

「それに喧嘩は一種の愛情表現よ。ほら、殴り合って確かめ合うって話あるでしょう」

「そりゃ、男同士の不器用な認識方法で、リリスはともかく、リリーは女だ」

「私はそんな認識方法好きだよ」

(そりゃ、リリーが武力で言う事利かせるタイプの人間だからな。リリーも十分不器用だよ)

 ルカは呆れる。

「そんな事言って、ルカそれ男女差別よ」

「そう言うリリスは性別その物が可笑しいよ」

「失礼しちゃう。私はれっきとした女よ。心も身体も」

「そりゃ、レイの整形技術の賜物だろう」

「そうよ。でも、どうして辞めたんだろう。こっちでも帽子売るよりずっと、富を築けるのに」

「そりゃ、リリスの身体を見て居たたまれなくなったからだよ」

「何で?」

「幼なじみの親友の1人が、本物と大差無い位の美女にしたからだ。親友を完璧な女にして後悔しているんだよ」

「それって、つまりレイは私の事を好きになったのね。奥さんいるのに、良くないと思ってそんな事を。分かる分かる」

「絶対それは違うと思うぞ」

「もう、ルカは否定ばっか、私の事が嫌いなの?」

「前も言ったが、友達として付き合えるが、異性としては見れない。タケルだろう」

「タケルって言わないで、リリスだから」

「はあ、どっちでもいいよ。もう」

「良くない!」

 リリスはルカに抱きつこうとしたが、軽々とよけた。

「もう」

 リリスは口を膨らませる。

「それより、これからどうしますか?」

 コウが聞く。

「そうだな。やっぱり、力が足りないからな」

「何、ルカでも出られ無いの?」

 リリスが驚く。

「まあな。本来の力が使えたら、ここから出るのは雑作も無い。が、今の力だったら、リリーとリリスを出すので精一杯だ。それでも、リリスの力を使ってだけど、ここから出てそれからどうするかが問題だ。リリス。何かいい考えあるか?」

「そうね」

 リリスが考える。

「ルカが本来の力を取り戻せば解決するじゃない!」

「嫌だ」

「嫌だ。じゃない。何よ。過去ばっか引きずって、この間もそう。そんなに自分の力が嫌いなの?」

「うん。嫌い」

「なっ」

「嫌いに決まっているだろう。力があったから、俺は世界を破壊しなくちゃいけなかったんだ」

 ルカは苦々しく言う。

 流石にはっきり、嫌いと言われると、リリーも言い返せない。

「でも、ルカ。そうも言ってられないでしょう。この屋敷が何なのか、あなたは気付いているはず、違う?」

 リリスが諭す。

「まっ、まあな」

「えっ、分かっているのですか?」

 コウが驚いて目を大きく見開く。

「それで、これは何なのよ!」

 リリーが強く聞く。

「うん。そもそも、ここには、高名な、いや、俺からすれば、愚かな魔法遣いが住んでいたんだ」

「分かった。犯人はその魔法遣いね」

「いや、魔法遣いはとっくに他界している」

「回りくどいわね。どうして、分かるのよ」

「それが、こうなったそもそもの原因に繋がるからだ。本棚にあった魔法に関する書物や、ここの家主の日記からして、家主は合成獣の研究をしていたみたいだ」

「合成獣?」

 リリーが首を傾げる。

「キメラ。要は魔法の力で豚と牛をくっつけて、別の動物を作り上げる実験よ。試験管はその道具ね」

 リリスが納得する。

「恐らくな。合成獣はその実験から非人道的と言われ、この世界では昔から禁忌とされている。だから、禁忌を隠すべく、家主はこの屋敷にある魔法を掛けた。それが、この事件の始まりになった」

「その魔法って?」

「ステルス魔法と言うべきかな。この屋敷を周りから見えなくする魔法だ。こうして実験は家主が死ぬまで誰にも気付かれずに行う事が出来た。ただ、ここで問題が起こった」

「家主の死ですね」

 コウが言う。

「そうだ。恐らく家主は実験中の不慮の事故無いしは、予期せぬ事態に直面し死んだと思われる。死んだ事によりこの屋敷は何年、何十年と放置された。誰にも気付かれ無いままな。家主の魔力が屋敷に留まったまま時が過ぎ、魔力を感知した邪気が、屋敷その物に入り込んだ」

「つまり、屋敷その物がモンスターとなった。と、言う事ですか?」

 コウが結論を出す。

「ああ、そうだ。屋敷はモンスター化した事により、知識が生まれた。ここの家主のよこしまな知識がな。恐らく、家主にも合成獣の実験を行う位の邪気があったので、モンスターとなった屋敷は家主と同じように実験を行おうと考えた」

「でも、たかが家よ。依頼書何か出せないわ」

「いや、可能だ。アナスタシアはいつの間にか依頼書があったと言っていた。屋敷その物は移動出来ないにしても、この屋敷には絵画何かが沢山ある。魔力で絵画を動かし、人が見ない内に依頼書を出した。そして、まんまと罠にハマった冒険者を同じように絵画を動かし、襲いかかり、実験室に運んだ。俺達、いや、リリス達がまだ襲われ無かったのは、時間を費やし、弱らせるのを待っていた為、いくらモンスター化して、この中が有利な状況でも、強力な魔力を持った魔王には勝てないと判断したのだろう。俺達が襲われ無かったのは、リリスと言う抑止力があったからに過ぎ無いんだ」

「そっか、今のルカはあの時の一/四しか魔力が出せないもんね」

「まあな……」

「その封印はどうやったら、解けるんだ?」

 リリーが聞く。

「解いたら、封印した意味無いから」

「今、それが言える状況か!」

「いや、言えませんけど」

「だったら、解けや!」

「そんな~」

「ルカ。聖剣は使えないの?」

「あっ」

 リリスの案にルカが思わず声を漏らす。

「考えに無かったのね……昔から、ルカはそうよ。頭は好いけど詰めが甘いの。周りがフォローしていたからいいような物だけど」

 流石にリリスも呆れてしまった。

「聖剣。聖剣♪」

 リリーが鼻歌を歌っている。

「そんなに嬉しいか?」

「ええ、どんな物か、見てみたかったからね。いずれ、ううん。今日にも私の物になるのよ。早く欲しいのよ。さあ、使いなさい!」

「はあ……」

 ルカは灰色の本を出す。

 ページを開き、本が光りだすと、本の中から剣の鞘の部分が出てきた。

 ルカは鞘を掴み、ゆっくりと抜く。

 すると、何処にでもある剣が現れた。

「って、これが聖剣!」

 リリーが騒ぐ。

「そうだよ。と、言うか、聖剣つーのが、そもそも実体を持たない特別な剣なんだ。剣の形を為す時はその使用者の心を写す訳で、俺はどうやら、何処にも特化していない平凡な心みたいで、聖剣もこうなったんだ。ちなみに、ロランはバカデカい剣だったよ。装飾も豪華でさ」

「魔王が平凡とか言うか?」

 リリーが突っ込みを入れる。

「全くです。僕も剣士の端くれ何で聖剣には興味があったのに、これじゃ……」

 コウも幻滅していた。

 この数日でコウは魔王に対する考えも、聖剣に対するイメージも変わった。

 これもそれもルカのせいだが、ルカは何も間違っていないので、コウはリリーみたいに責める事が出来なかった。

「それよりもだ。ここぶったぎるから、安全な所に移動してくれないか?」

 ルカが頼む。

「そうね。コウ。冒険者達をロウと一緒に運んで」

「分かりました」

 コウとロウは地下室に向かった。

「私とリリーちゃんは外で待っているわ。ねっ、ルカ。脱出お願い」

「あのな。せっかくこれから、ぶったぎるのに、疲れさせる気か?」

「あら、切るだけなら、魔力は必要無いでしょう」

「リリスは後の話を聞いて無いだろう」

「いいじゃない。それに、美女2人が埃だらけになるのよ。男としては避けるべきでしょう」

「いや、リリスは男だから」

「いいから、やりなさい!」

 リリーが叫ぶ。

「分かった。リリス、リリーと手を繋いで」

「ルカ。何かあったら、リリーちゃんと一緒に命をかけて助けに行くから」

 リリスがルカに誓う。

「タケル……ああ、頼んだ」

 ルカはリリスの肩に手をあてる。

 刹那、二人はルカの前から姿を消した。

「ルカさん。こっちはもう少し掛かります」

「そっか、丁度良かった。俺、精神集中すっから、終わったら呼んでくれるか?」

「分かりました」

 ルカはそう言い、玄関に向かい深呼吸する。

(こんな状況になるのは、いつ振りかな。身体からビシビシ、ヤバイ空気か流れてくる)

 抑止力となるリリスがいなくったからだろう。

 急に殺気だった空気が流れ込んでいた。

(こりゃ、早々にケリつけないとな、元の俺に戻りそうだ。それだけは避けないと……)

 ルカの手が震えており、興奮している。

(いけないな。抑えろ)

 ルカは不意にロランの事を思い出す。

 聖剣を手に入れた時の事だ。



 とある歓楽街にある薄暗い、レトロな雰囲気のバー。

 ルカとロランは2人で飲んでいる。

「魔王ルシファーも飲み屋で見ると、只のあんちゃんだな」

 無精髭を生やした白髪の男が笑いながら言う。

「そりゃ、飲み屋ですから」

 ルカはお酒を飲み干す。

「しかし、いくら、力を抑えていても、底から闇を感じるのは、やはり、王だな」

「えっ、感じるの?」

 ルカは驚く。

 隠しきれていると思ったからだ。

「ああ、かなり強い闇を感じるよ。それは、隠そうと思っても、なかなか隠せない物だよ。特にプロにはな」

「そうか……」

 戸惑っていた。

「だが、面白い男だよ。これなら、任せられるな」

「何だ。面倒事なら勘弁してくれよ」

「それが面倒何だ。飛びっきりな」

「一応、話は聞くが、断ってもいいか?」

「断っても構わないが魔王の底が知れていると、俺は世間に言い回すぞ。さぞ冷たい視線を感じるか。それが一時的ではなく、未来永劫に、俺が主役の伝記に書き記すからな」

「俺に生き恥をさらすつもりか!」

「お願いを聞かなければ、そのつもりだが、魔王は長生きだからな。伝記が出来上がったら、それはそれは長い事、恥を背負わなくてはならなくなるな。仲間の悪魔達も知ってしまうし。形無しだな」

「それはそれは長い事って、人生の九割以上、恥で染まるわ!」

 悪魔は何事も無ければ、千年、二千年は軽く生きる。

 その中でルカはまだ、百年程しか生きていない。

「そんなに長生きするのか。脅す物だな」

「あっ」

 たかだか半分しか生きていない人間の脅しに、ルカは恐れをなした。

「聞いてくれるか?」

「分かった。聞いてやるよ」

 ルカは顔を膨らます。

「そうか、ありがたい。流石、魔王だ」

 逆にロランは微笑む。

「それで、頼みって、何だ?」

「聖剣を預かってくれ」

「はあ!」

 それが、聖剣を預かるきっかけであった。



 リリスとリリーは屋敷の外に出ていた。

「ちょっと、何であんな約束したの!」

 リリーがいきなり怒鳴る。

「何の事?」

 リリスがとぼける。

「命をかけて助けに行くって、事。大丈夫何でしょう!」

「そう思う?」

「思うわよ。だって、聖剣を使うのよ。あれが頼りないのは、否定しないけど、でも、魔王で聖剣を持っているのよ」

「魔王でも、絶対は無いわ。喩え、聖剣を使うのが、勇者ロランでも同じよ。聖剣を使って、モンスター屋敷を切って、絶対破壊出来るって、誰が言える? 可能性の問題よ。万が一失敗しても、私達なら、助けに行けるでしょう?」

「まあ……」

「プレッシャーを少なくするのも、私達の仕事よ。ルカって、やる時はやるけど、基本がビビりだからね。打つ手が多くなれば、彼の緊張も軽減するでしょう。だから、無理してでも、こうする必要があったの。分かった」

「はい。何となくは」

「そう。良かったわ」

 リリスは優しく微笑む。

「それより、リリスさんはルカの何処が好き何ですか?」

「ルカの? そうね。全部かな」

「えっ、全部ですか?」

「ええ、ヘタレていても、浮気をしていても、それがルカだからね。私はいつかルカを手に入れるわ。そして、純白のウェディングドレス。早く着たいわ」

 リリスは興奮する。

「はっ、頑張って下さい……」

 リリスの熱意にリリーは思わず引いた。



 モンスター屋敷の中。

「ルカさん。準備出来ました」

 コウがルカを呼ぶ。

「ああ、分かった」

 ルカは剣を構え、目をつぶり、ゆっくりと深く呼吸をする。

(こいつを本格的に使う日が来るとはな)

 再び飲み屋での、聖剣継承を思い出した。



 ルカは目を丸くして、反論する。

 そんな頼みをしてくる何て、想像出来なかったからだ。

「ぬかせ。仮にも俺は魔王で下手したら敵になっていた男だぞ。簡単に悪魔の脅威である聖剣を手放して、悪魔に渡していいのかよ」

「普通に考えたら良くないな」

「その位の良心があるなら、預ける何て常軌を逸しているぞ」

「そうだな。普通じゃないな。だが、悠長に継承者を待つ事も出来ないんだ。ルカは私の戦いを見たよな?」

「ああ」

 そもそもの出会いは、勇者ロランがルカに興味があり、ロランがルカを飲み屋で見付けたのだ。

 何故、興味があったか、やはり、勇者として魔王の存在を軽視する事が出来なかったからだ。

いい意味でも。悪い意味でも。

 だから、他の悪魔達も同じように、ロランに出会っていた。

 こうして、善悪を見極めていたのだ。

 ロランはルカと出会って後悔する所か、友人になれて、感動さえしていた。

「戦いを見てどう思った?」

 ロランは無理矢理ルカに、モンスター退治の手伝いをさせた。

 魔王への興味は力の有無も含まれていたのだ。

 半ば強制的にモンスター退治に連れ出され、ヘタレていても、身を守るよう。言われたので、仕方なく身を守った。

 その時にロランの実力は見ている。

 それを知って、ルカに聞いたのだ。

 今思うと、ルカに戦い方を見て欲しかったのかも知れない。ロランのここでの発言でモンスター退治は布石だと、感じざるを得無かった。

「どうって、そうだな。人の事は言えないが、年長者として、はっきり、言うなら、あんたの戦いは危険だ。諸刃の剣と言うべきか、その内、死ぬな」

 危なかっしいので、いざとなれば、助けなければならないと、頭では分かっていたし、本当に危なければ、助けていた。

 魔王と言われていたが、お人好しを売りにしている上、助けないとなると、罪の十字架を背負わないといけない。酒も当分は不味くなるだろう。

 弱い人間を見殺しにしないに超した事は無いのだ。

「そうか、やはり、見破っていたか、伊達に倍は生きていないか」

「伊達にって、事実だし、あんたの何十倍も長生きするつもりだ」

 白髪混じりの明らかに中年の男と、20代の青年にしか見えない男の会話だ。どう見てもロランの方が年上に見える。が、やはり、ルカの方が、年上だった。

「そうだな。だからこそ、ルカに頼みたいんだよ」

「何だよ。それ」

「力だ。ルカには力がある」

「あんたもあるだろう?」

「だが、ルカには到底及ばない。それに、気付いているだろう。私はもう限界にきている」

 魔王であるルカは、まだ限界と言う言葉を使わない。長生きな悪魔の、青年期に使う限界は、つまり諦めに繋がる。

 しかし、人間は違う。勇者ロランが使う限界と言う言葉は、つまり衰退を意味した。

 悪魔であるなら、この場合、ルカは一喝するが、相手は人間だ。

 人間の中年相手に諦めるなと、悪魔と同じように言うべきものか、言った所で、悪魔のクセにと言い返され、説得力に欠けるような気さえして、ルカには一喝出来なかった。

 恐らく、この質問はルカの頭を一生悩ませるだろう。悪魔と人間は共存しても、所詮は別の動物なのだ。

「だから、俺か?」

「そうだ」

「それでも、俺は納得出来ねーな」

 ルカは目を細める。

 限界だから、ルカに聖剣を渡すのは、あまりに、話が飛躍していた。

「大体、あんたには目に入れても痛くない娘がいるだろう。娘に継承すればいい」

 一応、娘に渡す案を出す。

「リリーには冒険者の心得を教えていない。そんな危険な仕事に就いて欲しく無いからな。だから、リリーは魔法学校へ通っている」

「魔法遣いから冒険者になるかもしれないだろうが、それに、親父の跡を継がせたくないと、俺からは言えないだろう」

「そうだな。だが、リリーにはなって欲しく無いんだ」

「だから、聖剣を渡したく無いのか?」

「そうだ」

「俺が継承させるかも知れないぞ」

「それでもいいさ。リリーに出会うと言う事は、リリーも任せる事が出来るからな」

「何、死にそうフラグを自分で立てているんだよ。あんたは死なない。違うか?」

「そうだな」

「まあ、これも何かの縁だ。あんたがそこまで、俺に聖剣を預けたいなら、預かってやる。但し、どう処理するかは、俺の勝手だ。いいだろう?」

 その聖剣を闇市に売りさばく事も視野に、ルカは入れていた。

「ああ、いいとも。ありがたい。これで、何かあった時は……」

「バカな事言うなよ。俺が死を背負うのは仕方ないが、簡単に何かあるとか言わないでくれ、残される方は辛いんだから」

 ルカ本人はともかく、リリーを気にしていた。

「そうだな。確かにルカの言う通りだ。悪かったな」

「分かればいい。分かればな」

 ルカは高いお酒を頼む。

「さあ、飲もうか。今日は俺の奢りだ」

「いいのか?」

「俺はこれでも売れっ子作家だ。少しは金を持っているよ。まっ、聖剣を貰うんだこの位はさせてくれ。何も理由無く、聖剣を貰った。ではなく、俺は酒を奢ったから貰った。って事にするから」

「分かったよ」

 ロランとルカは笑い合った。

 それから、しばらくして、ルカはロランと別れ、更にしばらくして、リリーに出会ったのだ。



 ルカはコウとロウを見る。

「なあ、コウ。ロウ。冒険者達を守るだけの力はあるか?」

「はい。まあ、二人ならある程度は、でも、何故ですか?」

 コウの隣にいたロウも頷く。

「この屋敷。タケルがいなくなってから、凄い殺気がするだろう?」

「ええ、まあ」

「守るのは大変かも知れないが、俺が攻撃専門で動く。そうなると身を守れ無い冒険者達がヤバイことになるから、守りに専念して欲しいんだ。かなりの魔力を感じるからな」

「分かりました。僕達は全力で人命警護します」

「ありがとう。んじゃ、ここを切るぞ!」

 ルカは剣を一振りする。

 すると、玄関が割れ、外が見えた。

「今の内に外に出ろ」

 ルカが叫ぶ。

「ルカさんは?」

「俺は他にやる事がある」

 ルカの背後から炎の玉が飛んで来た。

 咄嗟に聖剣で真っ二つにする。

「加勢します」

 コウが剣を構える。

「さっき、言ったよな。コウは人命救助を優先しろって」

 いくつも飛んで来て、ルカは全て切り込む。

「しかし……」

「はっきり、言おう。足手まといだ。ここは俺、1人で十分だ」

「ルカさん」

 ヘタレのルカから、思いもよらない言葉が出てくる。

 コウは驚いたが、同時に魔王である事を思い出す。

 加勢を拒むのだから、本当に足手まといと感じているのか、あるいは、コウ達の身を思って言ったのか、真意は分からないが優しさは含まれていた。

「分かりました。お任せます」

 しかし、今は考えていても仕方ない。言われた通りにするしかなかった。

「ああ、任された」

 ルカははにかんだ。

 二人は素早く冒険者達を運ぶ。

「ルカさん。これで最後です。逃げましょう」

「いや、俺はケリを着ける。先に行け!」

「わっ、分かりました」

 コウとロウが屋敷を出ると、入り口は塞がれた。

「さてと……」

 ルカが辺りを見回すが、不意を打たれる。床が揺れたのだ。

 ルカはバランスを崩し、尻をついた。

 その後から、槍やナイフが飛んで来る。

「こら、待て」

 ルカは聖剣で上手く弾き、避けながら上手く態勢を立て直す。

「全く、バカにしやがって、タケル並みの魔力が無いから、攻撃しているのか? それなら、その愚かな考えを悔い改めるといい。最も、悔いる時には、この屋敷は大破しているけどな」

 ルカは複数冊色んな色の本を出す。

 本はルカの周りで浮き、一斉に本が開いた。

「行けぇ!」

 ルカの合図で炎や氷等の攻撃魔法がいっきに飛び出し、屋敷を破壊した。

 屋敷は守りに撤するが、間に合わない。

 屋敷はどんどん、ルカの手によって、破壊していった。



 コウとロウが外に出ると、開いていた屋敷が塞がった。

「コウ。あいつは?」

 待っていたリリーが聞く。

「まだ、中です」

「何だって、助けに行けや!」

「いえ、それはしません。僕はルカさんと約束しましたかは、僕は、僕に出来る最善を尽くすまでです」

「よく言ったわ」

 リリスが馬車を持って来た。

「じゃあ、何するか分かるわよね」

「はい」

 コウとロウはリリスが持ってきた馬車の客席に冒険者達を運ぶ。

 リリーは1人取り残された。

「私は……」

 言い掛けて、リリスと目が合う。

「リリーちゃんはここにいて」

「でも……」

 リリーは弱気になっている。

「何も出来ない事が歯がゆいの? でも、ルカを待つのも立派な仕事よ。まあ、今、ルカしかいないし、ルカの心配をするのも野暮かも知れないけど、ルカを独りにさせたら可哀想でしょう。だからいて上げて、それが、リリーちゃんの仕事よ」

「わっ、分かりました」

「じゃ、よろしくね」

 リリスは馬車に跨る。

 既に乗せ終わっていた。

 馬車は走りだし、リリー1人になる。

「まあ、あいつに何かあったら寝覚め悪いし、心配何かしてないわよ」

 と、自分に言い聞かせ、リリーは祈っていた。



 屋敷の中。

 ルカとモンスターとの攻防は続いていたが、ルカの身体に異変が出ていた。

「全く、本当に悪いモンスターだな。お陰で隠していたもん。出てきちまったじゃないか」

 ルカの本は燃やされている。

 そのあとから、徐々にルカの瞳は赤くなり、八重歯は長くなり、黒い刺青が現れた。

 そして、聖剣は禍々しい漆黒の色に染まっていた。

「まっ、誰も見てないからいいか」

 ルカは聖剣を左手に持ちかえ、禍々しい闇のオーラを放つ。

 すると、屋敷が吠えだす。

 屋敷が恐怖で脅えているのだ。

「お前にも分かるか。だがな。もう遅いよ。一度開いた力は発散するまで収まらないんだよ。おりゃあああ!」

 ルカは聖剣と呼ぶには程遠い剣を振る。

 同時に魔力も一気に放出され、屋敷は放出された黒い魔力に寄って破壊されていった。

「どうした抵抗しないのか? さっきの威勢はどうした。あん? もう少し手応えがあると思ったんだがな。残念だよ」

 ルカの合図で屋敷はドドドッと、音を立てて崩れだした。



 ドドドッ!

 リリーも屋敷が崩れる音を外から聞いた。

「なっ、何!」

 驚くと同時にルカの事が気掛かりになる。

「まさか、死んで無いよね?」

 砂煙が舞い、リリーはむせる。

「ちょっと」

 その間に屋敷は幻だったかのように、姿を消した。

 そして、砂煙が晴れると、漆黒の剣が見えた。

 ような気がする。

「疲れた」

 ルカが仰向けに寝転がる。

 ルカの姿は元のヘタレの姿で、聖剣も平凡になっていた。

「あれは、気のせい?」

 リリーは疑問に思うと、ルカがリリーに気付く。

「よう。リリー。心配してた?」

「別に。聖剣に何かあったら、困るから、見てたのよ。自惚れないでヘタレ」

「グスン。酷い」

 ルカはリリーに近付く。

 その間に聖剣は本に戻した。

「酷いじゃないわよ。全く、でも、やれば出来るじゃない。一応褒めてあげるわ」

「褒めてくれるなら、俺の頼みを聞いてくれない?」

「嫌に決まっているでしょう。調子に乗らないでよ」

「やっぱり、そうだよね」

「でも、何を頼みたいのかは、気になるから聞いて上げる。絶対断るけど」

「断る前提で話したら、言いにくいんだけど!」

「嫌なの? 聞いて上げるんだから、ありがたいと思いなさいよ」

「分かったよ。なあ、膝枕してくれない?」

「誰がするか、調子に乗るな!」

 リリーの回し蹴りが、ルカの顔面に直撃する。

「はうぅ~」

 ルカはそのまま、仰向けに倒れた。

「ちょっと、いつもみたいに避けなさいよ」

「いや、もう、避ける力が残って無いから」

「それは、ゴメン」

「じゃあ、膝枕して」

「調子に乗るな!」

 ルカの顔面にリリーは頭をひっぱたく。

「ううっ~」

「まあ、今回、私は何もしていないし、仕方ない。今回だけいいよ」

 リリーは正座をして、ルカの頭を膝に乗せる。

「ありがとう。リリーの膝は柔らかいや」

「やましい事考えるな!」

「ゴメン」

「全く、あんたが、何を考えているか、本当に分からないわ。戦うのが嫌いとか言いつつ、あの屋敷を簡単に倒すし」

「簡単には倒していないさ。久しぶりに魔力を大量の魔力使った訳だし、何を考えているか……俺だって、色々考えているさ」

「例えば?」

「俺はリリーが好きだよ。今はリリーの事しか考えていないな」

 何事も無かったかのようにルカが言う。

「ば、バカな事言わないでよ! 私は悪魔が大嫌いなのよ」

 リリーは混乱していた。

「知っているよ。別にそれでもいいと思っているし」

「第一、女には困っていないんでしょう。私じゃなくていいじゃない!」

「困ってはいないが、それと、好き嫌いはイコールにはならないだろう。俺はリリーと一緒にいたいんだよ。それに、嘘も偽りも無いよ」

「ド変態。私の何処がいいのよ。あまり変な事言わないで、怒るわよ」

「それで、俺の腹を思いっきり押さないでくれないか。苦しい……」

「ゴメン。つい……」

「本当にいい子だよ。会えて良かった」

 ルカは寝息を立てて眠った。

「何よ。口説いても何も出ないんだから、無理に口説かないでよ。気になるじゃない」

 リリーはやはり怒っていた。



 1時間後。

「リリーさん。って、何しているんですか?」

「見て分からない。膝枕よ」

「ええ、分かります。何故しているのか、ですが……」

「余計な詮索しないで!」

 リリーは顔を真っ赤にしてコウを睨む。

「はっ、はあ……」

 コウは威圧され、それ以上は聞かなかった。

「全く、ルカが軟派男なのは知っていたけど、ここまでとは思わなかったわ」

「何か言われたみたいですね」

「ええ、言われたわ。好きだ。って」

「そう言う事か……」

 話しの筋道は大体分かった。

(リリーさんって、この手の話、苦手そうですもんね)

 その上でコウは適当に相づちを打つ。

「普通、こんな所で、冗談で言わないでしょう。全く、信じられない」

「リリーさん。ルカさんの代弁でスミマセンが、本気何じゃないですか? そうで無ければ、早々に聖剣を渡すと思います」

「でも、父さんに許しを乞わないとダメだって」

「何か大事な事を隠しているとは思いますが、ルカさんはリリーさんが、ルカさんに会いに来る事を予期していたと思いますよ。リリーさんの存在も把握していましたし、何より面倒事を嫌うあの人が、面倒事の原因になる聖剣を持っているのです。そんなルカさんが、聖剣を手放さないのです。リリーさんに対する気持ちは本物ですよ」

「そっ、そんな事、事実であっても、言われて困るわよ」

「そうですよね。それより、僕はここのモンスターを一人で破壊した事が気になります。あの力、危険ですね。一度本部に連れて行かなければ」

「ちょっと、本気!」

「ええ、今まで報告があまりありませんでしたから、ルカさんが、危険かそうで無いかは、本部の判断に委ねる事にします」

「そんな」

 コウはルカの腕に手錠をはめる。

 リリーは止められず、じっとこらえるしかなかった。

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