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聖剣と魔王  作者: 叢雲ルカ
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第1章 リリーとルシファー

 剣と魔法とモンスターが溢れている世界。ジフート。

 ジフート暦305年、別の空間から黒い瞳に黒い髪が特徴の不老不死の悪魔が現れた。

 ジフートは混沌に包まれるかに思われたが……。

 実に友好的な悪魔だった。

 悪魔は共存を求めやって来て、人間は呆気なく同意した。

 それから30年後。悪魔の王、魔王の1人であるルシファーの異名を持つ、ルカと言う名前の男が飲み友達で、伝説の勇者ロランから聖剣を貰った。

 聖剣とは魔を断つ剣で、混沌に包まれたら、対悪魔用の最終兵器になった代物だ。

 しかし、不発に終わったので、今や悪魔退治ではなく、モンスター退治に使われた。

 その聖剣とよりにもよって魔王ルシファーの手に渡った。

 それをロランの娘リリーが奪り返す為にルカの前に現れた所から始まった。

 何故、ここから始まったか?

 魔王ルシファーは存外身近にいるもので、隣の村に魔王ルシファーがいたので、リリーが旅立って、一日で見つかったからだ。



 クロラと呼ばれる小さな村。

 そこにある唯一の食堂に魔王ルシファーである所のルカがいた。

 しかも、普通に世間に溶け込んでいる。

「貰い物を返すのは失礼だろう」

 悪魔特有の黒い髪に黒い瞳。

 黒い髪は長くて、邪魔にならないように後ろで結んでいた。

 眼鏡も男の特徴だろう。ちなみに老眼では無く、近視用の眼鏡である。

 長身で一見すれば青年の姿をした悪魔。それが、ルカだ。

 ルカは悪魔の中でも、その姿は人間に近かった。

 ルカは最もな事を言い、少し遅めの朝食を取っている。

「勇者ロランは私の父なのよ。大体、何で、貰ったのよ!」

 正面で水色のストレート髪のリリーが怒る。

 ぺったんこな胸と言葉遣いで、女の子から遠い少し残念な子だった。

 それが勇者ロランの娘リリーだ。

 リリーがルカのいる宿舎に押し掛けた。

 ルカは無理矢理起こされた形になる。

 元々あまり朝は得意では無い。

 悪魔だからではなく、ルカ自身の弱点であった。

「ああ、ロランの娘だったんだ。俺とロランはいわゆる飲み仲間だ。ロランに美味い酒ご馳走したら、代わりにくれたんだけど、何か問題か?」

「問題大有りよ、何で対悪魔兵器を持っているのよ。しかも魔王が!」

 ルカは魔王ルシファーと恐れられている悪魔だ。

 魔王だからって、基本的に国を統治したりはしていない。

 侵略者にそんな権利は無いし、そんな事をしたら、それこそ混沌とした世界になりかねない。

 同等の権利さえあれば、悪魔達はそれでよかった。

 それでも国を作りたい場合は更地を開拓した。

 例に西方の砂漠地帯にマモンが国を作っていた。

 更地なので、人間はとやかく言わなかったし、移住して30年経った今では、人間も今や利用している貿易都市になっていた。

 ルカはその気が無く、東方の豊かな土地の中で、人間に紛れのんびり30年を過ごしていた。

「それはロランに聞いてくれよ」

「惑わしたんじゃないの?」

「ああ、その手があったか、でもそれはリリスの専売特許だからな~やったら、怒られそうだな」

「出来るんかい!」

「魔王ですから」

 ルカはニヤリと笑う。

「だから嫌いなのよ」

 リリーは悪魔が嫌いだった。

 何故なら、モンスターの増加を悪魔の出現と関係していると思ったからだ。

 実際はそんな事実は無根で、悪魔はあくまで、種族を守る為の防衛手段として、世界にやって来ただけだからだ。

 悪魔は不老不死であったが、繁殖力があまり強く無く、一度戦争をすれば、種族は滅ぶ。

 その戦争が悪魔の星で行われ、死の星となった為、亡命したのだ。

 モンスターの出現は闇の属性が関係していた。

 人の心が黒く染まると、例外無くモンスターに変わる。

 リリーはその事実を知らなかった。

 勇者ロランはリリーに、冒険者になって欲しく無かった為、わざと教えなかったらしい。

「悪魔が邪気を出すね~それ、なかなか、面白いネタだよね。今度レイに話すか」

 そんな噂が立っている事にルカは動じる事は無かった。

 それが長生きの秘訣でもある。

 悪魔の神経は図太く、心臓に生える毛も毛根から繋がりとても太かった。

「少しは気にしなさいよ!」

「何で?」

「何でって、そりゃ……」

 返す言葉に困る。

「俺達はいわゆる侵略者だ。30年前に50人がこの世界にやって来て、快く受け入れたのは、人間達だろう。中には快諾しなかった人間もいるんだ。噂ってそれの表れだろう。その位は想定の範囲内だから気にしない事にしてる」

「何で快諾したのかしらね」

「戦争を恐れたからだろう。俺もやりたく無かったし」

「も、って、あんた一応聞くけど何歳よ」

「100歳位かな。これでも、こっちに来た悪魔の中では若い方だよ。魔王と呼ばれているけど。まあ、人間と悪魔の年の取り方が違うから、人間で言う所の百歳だよ。そうは、言っても、悪魔は青年期長いし」

「噂通りの化け物ね」

「それは心外だな。エルフだっているだろう」

 ジフートの世界では、エルフも悪魔と同様に食堂で人間に紛れて、食事をしていた。

「エルフは美人だからいいの!」

「それも心外だ。俺は美男子だと思っているもん」

 完全にリリーは偏見の目で悪魔を見ていたが、ルカは気にする様子も無かった。

「ナルシスト、バーカ」

「ばっ、バカ。俺はナルシストでも、バカじゃない」

「ナルシストは否定しないんかい!」

「うん。格好いいから。リリーも俺の女にならない?」

「絶対なりません」

 即答した。

「あはははっ、大丈夫。女に困って無いから」

 ルカは特に気にしている様子は無かった。

「あんたって無神経なのね。ともかくその剣を渡しなさい!」

「嫌だ。と、言いたいがロランの娘の頼みだ。いいよ」

「本当!」

「ああ、但し、ロランの許しが出たらだけどな。何も無しに返すのは良くないだろう」

「まあ……。そうだけど」

 リリーに勢いが無くなる。

「どうした?」

「父さん。しばらく行方をくらまして」

「ああ、俺もロランにはしばらく会って無いや、まあ、見つかるんでないか?」

「そんなのん気な事言って、もし、死んでたら……」

「そんなのまだ、決まった訳じゃないだろう。大丈夫だよ。勇者って強いから勇者なんだろう?」

「そうよね。悪魔に勇気付けられるなんて、よし、そうと決まれば善は急げ、ルカ、さっさと聖剣を渡して」

「えっ、何で?」

「父さんが私のお願いを聞かないとかしないわ。事後報告でいいじゃない。ほら、頂戴」

「って、言ってもな」

「何、無いの! 無くしたの!」

「いや、持っているけど、飯食っているから、今手元に無いし、それにな……」

 ルカが大事な事を言い掛けたが、邪魔が入る。

「ルカさん。いた!」

 30代の男性が現れた。

 手の中には傷だらけの女の子を抱えている。

「どうかしたか?」

「娘がモンスターに襲われて……」

「分かった。見せてみろ」

「はい」

 空いていたテーブルの上に女の子を寝かせる。

「大丈夫か?」

「ううっ」

 女の子は苦しんでいた。

「今、傷を癒やしてやるからな」

 ルカは何処からともなく分厚い緑色の本を出し浮かせ、そして、ページをめくりゆっくり、女の子の手を握る。

 すると、白い光が現れ、傷がみるみると治り出した。

「凄い」

 リリーが呟く。

「これが、魔王ルシファーの力……」

「これでいいだろう。後は目を覚ますだけだ」

 しばらくして、ルカは本を消し、手を放すと笑顔で答える。

「ありがとうございます。何て礼をすれば……」

「これ位腹ごなし丁度良かったさ。それよか、何でモンスターのいる所に足を運んだんだ?」

 村の周りにはモンスターを侵入しないように結界が張り巡らせている。

 村や街、人のいる所にいれば、あまり強力なモンスターが現れない限り安全であった。

「確かにそうね。今、強力なモンスターが近づいてきていないし」

「薬草……」

 女の子が目を覚ます。

「ルカお兄さんありかとう」

「薬草。そうか、君のお母さん。病気だったね」

「うん」

「病気位、魔王何だから治しなさいよ!」

 リリーが怒鳴る。

「それが出来たらとっくにやってる。俺にその力があればな」

「仕方ありませんよ。悪魔は病気と言う概念がありませんから、助けてくれただけでも……」

「よくない! 全然、よくない。何よ。役に立たない力。持っていても無駄じゃない。力は人を幸せにする為にある物よ。まっ、悪魔には理解出来ないかもしれないけど」

「あっはは。やっぱり、リリーはロランの娘だな。ああ、可笑しい。2人で同じ事言って、コイツは傑作だ」

「笑いすぎだ。クソ魔王!」

「クソは無いだろう。リリーが笑わせたんだから、ああ、笑った。笑ったから薬草を採りに行くか、場所分かるか?」

「はい。村の裏の山に咲いている。命の花です」

「ああ、あれか」

「あれかって知っているみたいね」

「実物は見た事無いけどな。本で読んだ。この星に移り住む上でこの星の事を知っておかないと失礼だろう。でも、そんな伝説の花がよく、あったな」

「何か、知らなかった私をさりげなくバカにしてない?」

「冒険者が噂してたの。それを聞いていても立ってもいられなくなって」

 リリーの言葉を無視して話が進む。

「そうか」

 ルカは優しく女の子の頭を撫でる。

「でも、約束してくれないか? 危ないと分かっていて突っ込まないで欲しい。もし、必要なら俺に相談してくれないか。そうだな。朝食1回分でやるから」

「お兄ちゃん……」

「へー、いいとこあるじゃない」

「何を言うか、俺はこれでもお人好しだぞ」

「自分でお人好しって言う?」

「違ったか?」

「違わないけど」

(ナルシスト、バーカ)

 今度は心の中で悪口を言った。

「うん。ありがとう。お兄ちゃん」

 女の子は笑った。

「よし、そうと決まれば早速行くとするか……あっ、そう言えば、ロラン探し、約束したけど、後ででいいか?」

「しょうがないじゃない。いいわよ。その代わり私も着いて行くわ。文句無いでしょう」

「まあ」

「大丈夫よ。私これでも魔法遣いだから、モンスターに遅れを取られたりしないわ。何だったら、私が戦うわ」

「そりゃ頼もしい事」

「ええ、あなたも丸焦げにしょうか?」

「いえ、結構です。モンスターの餌にしようとか考えているようなら、尚の事遠慮します」

「あら、どうして分かったの? テレパシーとかあるの!」

「ありません。そんな感じがしただけです」

「そう、残念。モンスターを一掃出来るかと思ったのに」

(本気でやろうとしたな)

「俺を喰ってもそうとう不味いと思うんだけど」

「そんなの分からないじゃない。モンスターの味覚何か」

「まあ、そうだが……」

「それに、不味くてもいいのよ。おびき寄せるだけだから」

「はははっ、そうですね」

 苦笑いした。

「さあ、行きましょう」

「あっ、ああ」

 ルカの心配を余所にリリーは気合いが入っていた。



 リリーとルカが店を出た後。

 店内のカウンターには白い鎧を纏った騎士がずっといた。

 騎士はリリーとルカの一連の話を聞いていた。

「店主。ルシファーはどんな男だ?」

 騎士が聞く。

「知らないのかい?」

「ええ、別の国から来たもんで」

「そうかい。いい奴だよ。愛想も良く、気さくでさ。少し女にダラシなく、ナルシストだが、その難点ですら、周りは許しているな」

「そうですか。ありがとう。ご馳走様」

 騎士は食事代を出す。

「あいよ」

 騎士は店を出る。

(魔王ルシファー。危険な感じがするな)

 騎士もそのまま、森に向かった。



 裏山の森の中。

 1年中太陽の光を浴びず薄暗く怪しいモンスターの鳴き声がする、一言で言うと不気味な場所である。

 ここを抜けなければ、命の花が手に入らなかった。

「何か不気味ね」

 リリーはルカにしがみ付きながら歩く。

「さっきの勢いはどうしたの?」

 ルカがからかう。

「だって、怖いんだもん。こんな薄暗い所だって思わなかったのよ。あんたは怖く無いの?」

「そこで怖いって言ったら、話が可笑しな事になるだろう」

「そうだけど、実際はどうなの?」

「そりゃ、怖いさ。今すぐ逃げたい位。でも、こうやってしがみついてくれている女の子がいるから、そこまでは感じないな」

「なっ、調子に乗るな!」

 リリーが蹴を入れようとしたが、ルカは軽々と避けた。

「当たってたまるか」

 ルカは森の奥へ進む。

「むきーっ、悪魔のクセに許さん!」

 リリーが追い掛け、2人はどんどん奥に向かった。



 しばらくして、ルカが立ち止まる。

「さあ、観念なさい」

 リリーも追い付く。

「後だ」

 ルカが真剣になる。

「ちょっと、今更許しを乞う何てって……大きい」

 目の前に牛が巨大化したモンスターがいた。

「あれ食うと美味いかな!」

「食うんかい!」

「いや、牛だし、焼いたらどうかな~って、ほら、リリーは魔法使いだし、丸焼きにするんだろう? 昼飯になるかな~」

「はいはい。呑気な事言ってないで、来るよ!」

「ああ……任せた」

 ルカは木の陰に素早く隠れる。

「って、手伝え!」

「怪我をしたら、治すから」

 ルカは木の陰から顔を出し、親指を立ててリリーを応援する。

「ヘタレ!」

「リリー、来るから」

「へっ、ああ」

 牛型のモンスターが拳で攻撃し、リリーが素早く避ける。

「このー!」

 リリーは腰に差していたロッドを取り出し、炎を出す。

「おお、すげぇ」

 ルカが手を叩き興奮する。

「だが、まだか」

 ルカは真剣になる。

「効いて無い。きゃっ」

 振り上げた拳に辛くも避ける。

 しかし、足が縺れ転んでしまった。

「リリー!」

 ルカが飛び出す。

「ファイヤー!」

 ルカは指先から炎を出す。

 いつの間にか、手には赤い本を持っていた。

 牛型のモンスターは怯んでいる。

「大丈夫か?」

 ルカが手を出す。

「最初から助けなさい!」

 手を叩き、自ら立ち上がる。

「だって、怖いんだもん。リリーが手間取るとは思わなかったし」

「余計なお世話じゃ!」

「それより、来るぞ」

 ルカがリリーをお姫様抱っこして、攻撃を避ける。

「こら、何してる!」

「いいから」

「良くない!」

「俺がいいんだ。遠慮するな」

「遠慮するわ、ボケ!」

 リリーが手足をバタつかせる。

「分かった降ろすから暴れるな」

「早く降ろせ!」

「はいはい、って」

 ルカが背後を見る。

 いつの間にか牛型のモンスターは巨大な斧を持っており、それを振り落とそうとしていた。

「ちょっと」

「もう少し、我慢だ」

 ルカは当たる寸前で避ける。

「んにゃろう」

 ルカは唇を噛み締めていると、背後から突風が吹き、白い鎧を纏った騎士が、牛型のモンスターを真っ2つに切った。

「凄い」

 リリーが興奮する。

「全く、魔王の監査で、やって来たが、こんなヘタレとは、私は白の監査員って、聞け!」

「やっぱり、美味そうだな」

「あんた。本気なのね」

「ああ、リリー焼いて?」

「自分で焼けや!」

「おい、魔王!」

 騎士がやってくる。

「いやー、強いね。俺はルカ。君は?」

「僕はコウ。貴方を監査しにやってきました」

「へー。もう、そんな時か、なあ、もう少し、小さく切る事出来る?」

「貴方、自分の立場分かっているのですか? 監査に響きますよ」

「でも、小さくしたいんだけど、食べ難いじゃん」

 ルカがねだる。

「ねえ、監査って何?」

「要は魔王の監視だよ。魔王が悪事を働かせない為にやっているんだ」

 リリーの質問にルカが答える。

「へー」

 リリーが納得する。

「監査に引っ掛かったら、最悪死罪です。分かっているんですか?」

「俺、体裁はいい方だよ。過去の報告書読んでいるだろう」

「ええ、承知しています。でも、僕は違う。覚悟なさい!」

「大体みんな言うんだよね」

「それも知っています。魔王ルシファー」

「ルカだ。ルシファーって呼ぶな」

 ルカはルシファーと呼ばれる事を嫌っていた。

「ともかく、これからしばらく貴方を監査するんで」

「分かった。分かった。早く切ってくれよ」

「僕は包丁ではありません。はあ……」

 コウはため息をつきながら、肉を食べ易い形に切る。

「これでいいですか?」

「おう。ありがとう」

 ルカが微笑む。

「そ、そんな笑顔に引っ掛かりませんよ」

「リリー。焼いてくれ」

「はいはい」

 リリーは仕方なく焼く。

「だから、聞け!」

 コウが叫んだ。



 30分後。

 骨と皮しか残っておらず、残りは全てルカの持っていたリュックに入れた。

「後は干乾しにして、保存食調達完了。ふう、なかなか美味かったな」

「確かに」

 リリーは認めたく無かったが、認めていた。

「当たり前です。元は牛だった。牛が変化したから、美味しいのは当然。この位常識だ」

「そっか」

 ルカはリュックに肉を詰め立ち上がる。

「さて、腹も膨れたし、薬草採りに行こうぜ」

「そうね」

「コウはどうする?」

「私は貴方の監査員だ。着いていくに決まっています」

「そうか、じゃあ、先頭はコウだな。一番勇敢だし」

「強いのは貴方でしょう。この場合は貴方が前に立って……」

「もしかして、怖いのか? 確かに俺は強いが、戦う勇気が無いから、又、リリーにやらせて、コウが止めを差すパターンだ。それより、いいんじゃない?」

「自分で強いって言っていたら、苦労無いから」

「貴方、本当に魔王ルシファーですか?」

 2人は呆れる。

「分かりました。僕が先頭に立ちます」

「そか、良かったなリリー、これで、無事に行けるな」

「本当に呆れた魔王ね」

「ん、どったの?」

「何でも無いわ」

「んじゃあ、出発ー」

 ぞろぞろと更に森の奥に進んだ。



「あった!」

 薬草を見つけたのはコウだった。

「何処?」

 リリーが聞く。

「ここだ」

 コウは崖下を指す。

「本当だ」

「ルカ。あったよ」

「本当か!」

 ルカも向かい、コウが指した方を見る。

「ここか」

「あんた、飛べないの?」

「飛べるよ」

「だったら、決まりね」

「そうか、流石に魔法使いでも飛ぶ術を取得していなかったか。仕方ない」

「余計なお世話じゃい!」

 ルカが漆黒の6枚の翼を広げる。

「立派な翼ね」

 リリーが嫌味混じりに言う。

「そうだろう」

 ルカは嫌味を誉め言葉と勘違いし、そのまま崖からゆっくり降りる。

「まさか、魔王がとんだヘタレだったとは、分からない。最強とうたわれている魔王ルシファーがこんな男だ何て」

「ルカが最強?」

「ええ、ルカは最強の力を持っています。それこそ、この世界を混沌に包む程の」

「でも、何でそんなのが分かるの? 戦争は起こらなかったのに」

「ええ、20年前、北の大地に大量のモンスターが現れました。それを1人で一掃させたのが、ルカ何ですよ」

「またまた、1人で何て、大量とか言って数匹とかでしょう?」

「いいえ。100はいたとの報告がありました。だから、どんな猛者かと思ったら、ヘタレだった。手合わせする気も失せます」

「悪かったなヘタレで」

 ルカがゆっくりと上昇し、着地する。

「俺は戦うのが嫌いな平和主義者なだけだ」

 漆黒の翼が消える。

 少し怒っていた。

「全く、ヘタレでいいじゃん。ヘタレの何が悪い」

 怒ってはいたが、完全は怒っておらず、怒鳴ったりする訳でも無く、ただ、振りでプンスカしていただけだった。

「全く、血の気があるのはいいが、それを俺に向けるなよ」

 ルカは歩きだす。

「さっ、薬草届けようぜ」

 しかし、とんぼ返りをし、リリーの背中に素早く隠れ引っ付いた。

「モンスターが出た」

「私にしがみつくな!」

 リリーが頭を叩いた。

「はう……」

「しかし、これはヤバイですね」

 大量の昆虫のモンスターが現れる。

 名前はカブトクワガG。

 その姿はゴキブリのような茶色さとテカリをもち、クワガタのようなハサミ、かぶと虫のような角もあった。

 よくも悪くもを、引き継いだ10センチ程のモンスターが大量に襲いかかると、恐怖と言うより、もはや気持ちが悪い部類となる。

「流石に虫は無理だから」

 かくいうルカが大の虫嫌いであった。

「はあ……」

 リリーは魔王である前に、異性として幻滅していた。

「2人とも頑張ってくれ」

 ルカは徐々に離れている。

「手伝えや!」

 リリーが怒鳴り散らす。

「言うだけ無駄です。ほっといて、ここを切り抜けましょう」

「それもそうね」

 リリーはロッド。コウは剣を構えた。

「援護お願いします」

「はい!」

 コウが先頭に立って、カブトクワガGに向かう。

「こんな気持ち悪いの燃やしてしまえ!」

 リリーが炎を出した。

 その頃、ルカは岩陰で図鑑を読んでいた。

「えーと、カブトクワガG。草食ではあるが、熱を好んで食べる……つー事は……リリー、タンマ! ああ、遅かった」

 ルカは頭を抱える。

 ルカが気付いた時には、リリーがカブトクワガGを燃やしていた。

「リリー。止めろ」

 ルカが急いで止める。

「何よ。ヘタレは黙ってって」

 カブトクワガGがドンドン巨大化していく。

「こいつらは熱を食って成長するんだ。つまり、俺達熱源を察知しやってきた。火も立派な熱だ」

「それって、かっこうの餌を与えた事」

「その通りだ」

「何で、今まで黙っていたわれ、あん!」

「知らなかったんだ。これに載ってた。モンスター図鑑初級編に、第一、それならあの騎士が指摘するだろう。俺より先にあいつを怒れよ」

「知らなかったのは悪かったと思いますが、今、痴話喧嘩しないで下さい」

 コウが戻る。

「そうね。おい、アホ魔王弱点は何だ?」

「仮にも俺の方が年上だろう。扱い可笑しくない?」

「いいから、答えろや!」

 その間にもカブトクワガGは近付き、3人は追い込まれる。

「分かった。熱の反対、冷だ。だから、凍らせると効果的なはずだ」

「そう、分かったわ。ついでに手伝え、いいな!」

「分かりました」

 ルカはリリーの脅しにビビり、泣く泣く水色の本を出す。

「行くわよ!」

「へーい~」

 ルカは指を出す。

「フロスト!」

 リリーが氷を放つ。

 しかし、巨大化したカブトクワガGには通用しなかった。

(やっぱり、氷は力が上がらない)

「ルカは?」

 リリーがルカを見る。

「……」

 ルカは詠唱していた。

 すると、カブトクワガG一匹ずつそれぞれ下に魔方陣が現れる。

「滅べ」

 ルカは詠唱を終えるとカブトクワガGの下にある魔方陣から、氷の魔法が放たれ、カブトクワガGは一気に凍る。

 コウは凍ったカブトクワガGを剣で砕き、粉々にし、全て倒した。

 リリーはしばらく茫然自失となり、カブトクワガGの死骸を見ていたが、次の瞬間、ルカの尻に蹴りを入れようとし、ルカに避けられる。

「いきなり、何するんだ」

「それはこっちのセリフじゃボケ! 何で強い事を隠してた!」

「いや、隠して無いから。ほら、一応魔王だし」

「じゃあ、何で非協力的だった!」

「だって、気持ち悪いから」

「おどれがやれば、問題無かったやろうが! こっち直れ、そのヘタレ叩きのめしてやる!」

「嫌だよ。厳しそうだもん。それに薬草届け無いとな」

 ルカはさっさと走り逃げる。

「こら、待て。ヘタレ魔王!」

 リリーが後を追う。

 コウはしばらく、カブトクワガGの死骸を見つめた。

(これが魔王ルシファーの実力なのか)

 コウは恐怖を覚え、監査を厳しくしようと誓った。



 夕方。

 女の子の家に行き、持ち帰った薬草を早速、医者に渡し、医者は薬草を煎じて、女の子の母親に飲ませた。

 すると、顔色がドンドン良くなっていった。

「お兄ちゃん。ありがとう」

「おう!」

「あんた、ヘタレてただけじゃない」

 リリーが悪口を呟く。

「あのね。報酬だけど」

「ああ、朝食な。リリーとコウの分もお願いな」

「うん。分かった」

 女の子が笑顔で言う。

「おう。それは楽しみだ」

 ルカが笑みを浮かべる。

「お兄ちゃん達。本当にありがとう」

 女の子は笑った。


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