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第三話 現実が夢より嘘くさい

こういう感じの子がメインヒロインになります。

 朝、目が覚めた文月の頭は混乱の極みにあった。ここ数日、妙な体験が続いていたがさすがにこれほどの衝撃を与えられることはなかった。


理解の及ばない状況、加えて寝起きと合って、文月の思考はうまくまとまらい。そもそも、本調子であっても目前の現実は理解の範疇を超えていただろうが。


「……ん?」


 少女は不思議そうに首をかしげている。文月が慌てている理由がわからない、というよりもいったい何に慌てているのかすらわかっていなさそうな雰囲気だ。


 そんな少女を見ていると不思議と、そこまで慌てるような状況でもない気もしてくるが、そんなはずはない。大きく首を振って気を取り直す。


(目が覚めたら、見知らぬ女の子が自分のベッドに…… だめだ。全く理解できない。そもそもこの子は誰なんだ?)


「あれ?」


 そこまで考え、もう一度少女に目を向けたとき、目の前の人物には見覚えがあることに文月は気がついた。


「君は……」


 透き通るほど白い髪、深い碧色の大きな瞳。昨日教室で文月に微笑みかけていた少女であった。


 全く知らない、見覚えのない人物ではなかったことに文月は少し安堵したが、それでも少女が正体不明なことに変わりはない。誰なのか、という問題を置いておいたとしても、どうやって文月の部屋に入ってきたのか、という問題もあった。

 

 考えていても仕方がないので、当の本人に尋ねてみることにした。


「君はだれ?」


 まずは名前から。やはり、それがわからなくては話がしにくい。


「……?」


 少女はまた首をかしげたが、先ほどの『なぜそんなことを聞くのかわからない』という雰囲気ではない。むしろ答えようとして、自分でも悩んでしまったような顔をしていた。


「なんで俺の部屋にいるの?」


 スッと、少女が文月を指さした。


「え?」


「ふみつきが」


(……)


「連れてきた」


 おかしい、と思った。少女の発言が、ではない。勿論内容についても身に覚えのないものだったが、そんな事よりもさらに気にかかることがあった。


 文月は、少女に自分の名前を教えていない。


「……なんで、俺の名前を知ってるの?」


「?」


 今度は『なぜそんなことを聞くのか分からない』の表情だ。


「昨日の昼休みが『はじめまして』だよね?」


 少女は少し考えた後、


「ちがう」


 と首を振った。


「本屋」


 少女の言葉には少し心当たりがあることに気がついた。最初に『寓話の森』を訪れたとき、文月は不思議な声を聞いていた。もし目の前の少女があの時の声ならば……


「俺に声をかけたのは君だったの?」


 コクリ、とうなずいた。


「そう」


 たしかに、あの時に『寓話の森』にいたのならば、巻菜との会話などから文月の名前を知ることはできたのかもしれない。なぜその場で姿を見せなかったのかはわからないが、少女はコミュニケーションが得意な方ではなさそうだし出てこれなかったのかもしれない、と文月は思った。


「家は?」


「?」


「おうちの人は心配していないの?」


「……文月は心配?」


「うん? いや、まあ、心配、かな?」


「そう……」


 少女はすこし考え込むかのように目を伏せた。文月も一瞬少女から目を離して、


(親御さんのことでも考えてるのかな? 無断外泊、になるんだよな? もしかしたら俺も怒られるんじゃ……)


 そんな風な心配をする。

 

 と、突然がばっ、と柔らかい何かに文月は包まれた。


 少女の顔が目と鼻の先に迫っている。


「えぇ!?」


 本日二度目の容量オーバーの衝撃に文月は声を上げた。


「だいじょうぶ」


 少女の手は文月の頭を撫でていた。


「心配いらない」


 不思議なことに、それだけのことで自分のの心に余裕が生まれることがを感じる。


 しかし、余裕ができた心で少し目線を動かして彼女の肩越し、自分の勉強机が視界に入った時、生まれた余裕は影も形もなく消し飛んだ。


 正確には机の上の時計を見て。


「やばい」


(遅刻する‼)


 文月は迅速に行動を開始した。少女の腕の中から抜け出すと、部屋に人がいるにもかかわらず制服に着替えだす。恥ずかしい、なんて感じる余裕はとうになかった。


 朝食は抜き。顔も最悪学校で洗えばいい。そう判断したところで、正体不明の少女のことに思い至る。


「君、学校は?」


 ふるふる、と無言で首を振る少女。


「行ってない…… ってことはないよな。休みかな」


 そう勝手に納得して、


「じゃあさ、これ」


 そう言って勉強机からスペアのキーを取り出す。


「俺は急いで出ていかなくちゃならないけど、君はゆっくり身支度を整えてからでいいから、家に帰るんだ。鍵を閉めて出てほしい。……そうだな。いつでもいいから返しに来て。何なら本屋の女性に渡しておいてくれてもいいから」


 そう言って鍵を押し付けると返事も待たずに部屋を飛び出した。


 不用心極まりない話ではあったが、文月は少女が悪さをするとは思えなかった。


 部屋に残された少女は、手の中のカギを見つめてからスッと立ち上がった。

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