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第一話 退屈少年と白昼夢の少女

ここからが本編?のつもりだと思います。



 「どういうことなんだ」


 その日も、文月の日常は平和に、平凡に始まるはずだった。


 朝、目が覚めて顔を洗い、朝食をとる。手早く朝食を済ませる学校へ行く身支度を整えて家を出るだけ。何も変わらないはずだった。


 ベッドの枕元にどこかで見た本を見つけるまでは。


 (おかしい。昨日古波さんの店を出るときにこの本は置いていったはず……)


 しかし、現状手元に本があることを考えれば、自分が持ってきてしまったと考える方が自然だろうか。納得はできなかったが他に説明も見つからなそうだったため、


 「まあ、今日もお店に行くんだし、その時に謝ればいいか」


 文月は思考を手放すことにした。


 準備していた通学カバンの中に緑のハードカバーも一緒にねじ込む。


 「痛っ」


 「ん?」


 何か聞えた気がしたが、忙しい朝のことだ。悩んでいる時間もない。最悪本が傷んでしまったら自分が買い取ろう。そう考えて文月は家を出た。




 学校での時間は、特に何事もなく過ぎていく。


 やはり理系科目は寝飛ばし、文系科目を待つ。いつもと同じように過ごしていると、あっという間に昼休みになってしまった。


 普段は昼休みも昼食をとること以外は、本を読んでいるか寝ているか。どちらかと言えば寝ていることが多かった文月であったが、今日の午前中科目は理系ばかり。もともと理系科目の多い日ではあったが、世界史の担当教諭が腰を悪くしたとかで急きょ、数学に代わってしまった。


 そのためか、普段以上に睡眠学習をはかどらせた文月は眠気を一切感じていなかった。


 (どうしたもんだろうか……)


 周囲を見渡すと、教室に残っているクラスメイトはほとんどいない。皆、食堂なり屋上なり、思い思いの場所で友人たちと昼休みを過ごすのだろう。環樹も例にもれず、クラスの女子たちと食堂に向かってしまった。


 (あいつはあれで人気者だしね)


 数少ない友人まで友達が少ないとは限らないのだ。文月は若干寂しい気持ちになった。それをどうにかしたいとは思わなかったが。


 そういう文月も、環樹しか友達がいないわけでは実のところなかった。しかし、貴重なもう一人の友人も、部活動があるとかで、昼休みが始まった途端いなくなってしまっていた。


 (こういう時は友達が少ないのも不便かもしれない)


 「……はぁ」 


 図書室にでも行って本でも読むか、と考えたところで自分の鞄から緑の本が噛みだしていることに気がついた。


 手に取る。


 (いや、読めないんだけども)

 

 しかし、昨日からどうにも気にかかる本であることだし、ページをめくって眺めてみるだけでも時間はつぶれるかもしれない。そしてそれは思いのほか名案のようにも感じられた。


 手に取った本を開く。やはりというか、文月には読むことが出来ない。それでも退屈な気分にはならなかったし、古ぼけた妖精や魔法使いのようなキャラクターたちの挿絵にはとても温かい気持ちになれた。童話、に近い優しい雰囲気の絵だった。


 (全く内容はわからないのにね)


 そのまま五分、十分と時が流れただろうか。不意に窓から風が入り込んで文月の顔を撫でた。


 その感覚に現実に引き戻された文月はふと、誰かの視線を感じた。


 顔を上げるとすぐ、目と鼻の先に一人の少女がほほ笑んでいる。


 淡い光を放つような白い髪。大きな深い緑色の瞳。およそ現実感のない愛らしい少女だった。 


 文月は目を疑った。教室には、もう自分たち以外誰もいない。残っていた生徒たちもどこかへ行ってしまったのだろうか。


 少女は何も言わずに微笑んでいる。文月も、何も言えなかった。

 それでも、意を決して何か言おうとした矢先、今度は強い風が吹いて校庭の桜の木から舞った花弁が文月の顔をなでまわす。文月はとっさに目をつぶってしまった。


 文月目を開いたとき、少女の姿はどこにもなかった。


 なぜか、きっとまた会える。そんな予感だけが残っていた。




 「さーて、今日も張り切っていきましょう!」


 放課後、二人で教室を出ると、環樹ははしゃいでいた。


 「ご機嫌だな」


 「んふふー。今日もね、また本読んでもらえる約束したの」


 「そっか。よかったな」


 二人で『寓話の森』を目指す。巻菜に返事をしなくてはいけなかったことに気がついて、文月は鞄から取り出してもう一度眺めてみる。昼休みにも眺めていたが、やはり不思議な優しさを感じる本だった。


 「あ! その本、持ってきちゃったの?」


 「うん、そうみたいなんだよ。なんか気がついたら家にあって」


 「いっけないんだー」


 「子供かよ…… ちゃんと今日謝るよ」


 そんな風に環樹と話しながら歩いていると、自分たちの向かいから誰かが歩いてくるのが見えた。大柄な体格からきっと男だろう、と文月は思った。2メートル近いのではないか。


 すでに四月にもかかわらず、黒い厚手のコートを着た、不気味な人物だった。醸し出す雰囲気も服装も、男の何もかもが平和な春の自分たちの日常には似つかわしくない、異物のように感じた。


 男は文月たちを気に留めた様子はなかったが、すれ違う寸前に文月にしか聞こえない程度の声で、


 「面白いモンを持ってるじゃないか」


 そう言って通り過ぎていった。


 文月が振り返ると男の姿はどこにもなかった。 

前回までがプロローグに当たる「einsatz」。ここからが本編のつもりですが、もう少し話を進めないといけませんね。


それよりもなんで格好つけてドイツ語なんか使ってしまったんだろう。

続きのサブタイトルがつらいじゃないか!

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