序章1 少年は退屈していた
現実は退屈だ。
日常は特に代わり映えもせず繰り返す。いつもと同じ毎日をいつもと同じように過ごして、それでいて『今日は楽しかった』だとか『今日は疲れた』だとか感じているが、後から考えてみると普段の他の生活、日常となんら変わらない。
何年かに一度、人生の中で大きな選択をするときがあるが、それだって多くの――それこそ数えきれない程多くの――先人たちのなかを探せば、どれだけ自分と同じ道を進んでいる人が見つかるだろうか。きっと姿かたちが違うだけで自分と同じような人間は山のようにいて、まさに一山いくらのセールワゴンに並ぶほどなのではないか。
永世 文月はそう考えていた。
もちろん、すべての人が同じだなんて思っていなかったし、テレビのスイッチを入れれば簡単に、自分とは違う、『特別な人たち』を見ることが出来る。
しかし、そんな『特別な人たち』ですら結局は常識のなか、自分たちとそう大きくは変わらないルールに縛られて生きている。
結局のところ、世界に本当の意味での『特別』なんてものはないのだろう。
世界のどこか、文月の目の届かないところにはあるのかもしれない、あってほしい。しかし自分の周囲には、自分に認識できる範囲の世界には、もはや『特別』なんてものは存在しない。文月はそんな諦めを抱いたまま、多くの人と同じように変わらない日々を繰り返していた。
だから願った。もしも見られるのなら、出会えるのならば。今、自分が生きているこの世のルールや常識を超えた現象や存在に。
この諦めと退屈に腐りきった今の自分など、そしてその生活など、すべて捨ててしまっても構わないと。