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宝石のような瞳  作者: ふゆしろ
9/13

禁忌のルビー

風紀室。

やる気なくソファに沈んでいたヴァサリエが視線を寄越す。


「お前はなんで入学式来なかったんだ?」


ノルは微かに眉根を寄せた。


「…実家で重要な協議があったからだ」


「ふぅん?まぁ、お前らが来なかったお陰で某腐れ縁にも恋の芽が出たんだけどな」


ノルにとっては実にどうでもいい話である。


委員会の副委員長であるヴァサリエは、ヴァンパイアらしい人智を超えた美貌の青年で実に話し掛け難い雰囲気を放っているのに、予想を裏切る気さくさで親しみ易い人物なのだ。

ちなみに委員長も人嫌いと言われているわりには紳士的で話しやすい。


そこでノルはふと思い出したかのようにヴァサリエへ目を遣った。


「来週の当番の日、ここ空ける予定があるんだけど」


「あいよー」


何とも適当な返事である。

後で委員長にも話しておこうと彼が決めた時、視線の先でオクスブラッドの瞳が不意に深まった。


「精々気張って来いや」


用事の内容はノルの存在意義に関わるもの。

ヴァサリエはまさかそれを知っているのだろうか?彼は悠久の時を生きるヴァンパイアだから有り得ないとは言い切れないが…。


「…おう」


どっちでも構わない。


ノルの決意は既に固まっていた。



 χχχ



予期せぬ星が流れたのは突然だった。


アスールの家に誕生した後取りに一家が祝賀ムードに包まれようとしていた、まさにその時。


「その子は太陽を呑む宿命にある」


星詠みの言葉を聞く前に、赤子を目にした人は皆一様にそれを悟っていた。


赤子の瞳はルビーのように鮮やかな赤だったのだ。

七家の中で代々青を伝えてきたアスールにおいて何故。


禁忌の赤子はすぐに命を奪われてもおかしくない。

しかし慈悲深い彼の家族は無垢な瞳を前に残酷な判断を下せるはずがなかった。


「対の者を探そう」


赤子の宿命を変えられるのは対の星を持つ者のみ。


その子は意外な場所で見つかった。


孤児院。


「門の前で泣いていたんですよ。可哀想にねぇ。まだ産まれたばかりだったのに」


血縁者は不明。

生粋の血族は誰一人として心当たりはないと言った。…その子は深いサファイアのような瞳をしているのに。


存在する筈のないもの。鍵となる存在。可能性は空。


子どもに与えられた名はノルだった。



一方、禁忌の赤子は厳重なバリアの施された湖の真ん中に浮かぶ孤島にある塔で育てられることとなった。

大人と認識される12才まではそこで使用人たちに育てさせ、それから先は使用人も引き上げ孤島に独り、取り残されることになる。

或いはその時の判断で命を絶たれるかもしれない。


鍵となるのはノルだ。その時、全ての判断は彼に任される。



 χχχ



高い塔をひたすら登る。

その子の部屋は塔の天辺にあった。


広がる青と蒼。

白い鳥が飛んでいる。

灰色の塔は島唯一の建造物だ。


幾重にもバリアが張られている扉へ手を翳す。

外へ通じるこの扉が開かれるのは実に12年振りのことだった。


バリィン


何かが砕け散る音がして扉の仕掛けが次々に外れていった。


ノルは観音開きの扉を両手で押し開く。


灰色の室内。

開かれた窓。

窓枠に片足を乗せ腰掛けて本を読んでいた少年がゆっくりと顔を上げ、扉の方を向く。

鮮やかなピジョンブラッドがノルを捉えた。

途端に片方だけ口角が持ち上げられる。

揺れるダークブラウンの髪。

風が彼の右手に収まる本の頁を捲った。


ノルは根が生えたかのように入り口から動けない。


コイツは死を覚悟している


まだ12才の、自分より一つ下の子どもが大人びた表情で笑うのだ。


「どうした?俺を殺しに来たんだろう」


禁忌とはいえ、七家の後取りとなる筈だっただけのことはある。

優雅な仕草で床へ着地した彼は窓枠に本を置き、ラフに立って見せる。

殺るなら早く殺れとでも言いたげだ。


そこでノルはようやく金縛りが解けたようだった。


「今殺す気はない」


「なに…?」


「お前が何もしないなら殺す必要もないだろう」


鋭い眼差しのノルにもその子は怯んだりしなかった。それどころか嘲るように肩を竦めてみせる。


「いつ狂うとも知れないのに」


ノルは最早射抜くような眼差しだ。


「だから俺がお前の側にいる。そんで、お前が狂ったら殺してやる」


「…できるのか?」


ピジョンブラッドが冷たく煌めく。

ヴァサリエのように血を連想させる赤ではなく、静かに燃える焔を連想させるような色だった。


「お前に俺が止められるのか」


「…必ず止める」


瞬きもせずに、全てを見透かすように投げられる視線。自分より背の低い彼がまるで君主のように感じられた。

それでもノルは全身全霊をかけて己の強い意志を伝えようとする。


永遠のような数秒の後。


「監視つきとはいえ、この狭い場所から出られるとはな」


ふっと視線を外した彼は、開け放たれた窓の外へ目を遣った。


「しばらくは学舎に通うことになる」


「…ああ、そんな制度もあったか」


「故郷へ寄ってくか?」


「必要ない」


振り返った彼は冷めた眼差しをしている。


「俺の名はロゼ。命を奪う者の名は?」


「…ノルだ」


ノルはロゼのよく言えば気高い、悪く言えば高飛車な態度にヒクリと頬を動かした。



 χχχ



斯くして共に過ごすことになったロゼは実に気高く時に高圧的だった。

彼のためにノルは留年したのだと明かせば年上だったのかと言われ、学舎について教えようとすれば冊子を読んだから必要ないと言う。

失われた筈の赤い瞳を持つ人間の彼に学舎中が沸いたが、本人は気にすることもなく、出地について問われようものならトラウマになりそうな程冷えた眼差しで背の高い相手までをも見下した。


まだ12才で、実に整った容姿ながら子どもらしい顔つきなのに、纏う空気は達観していて表情は大人のよう。

ロゼはヴァサリエよりヴァンパイアらしいと真しやかに囁かれるようになった。


まるで女王様のようだとノルはこっそり思う。つうと向けられた冷たい視線に顔が強張った。



「いや〜確かにありゃ仲間っぽい雰囲気だった」


風紀室にてからから笑うヴァサリエ。

ノルは机にぐったりとへばりつく。


「番犬も大変だなぁ」


「番犬…?」


「女王様をお護りする忠実な番犬。けっこう有名だぜ?」


ノルは眉間にシワを刻んだ。

ロゼは確かに女王様みたいだが番犬はないだろう。


しかもどちらかといえばノルが護っているのはロゼではなく相手の生徒の方だ。

容赦のないロゼを怒らせたら生徒は一生立ち直れない傷を心に負うだろう。


「そんな顔すんなって。お前ら、結構お似合いだぞ」


「そんな気ねぇよ!」


つい怒鳴ってしまうノルだった。

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