魔法少女といやな大人。
「・・・・うん。なにかの間違いだよね。」
ぼくは小さくそんなことを言って台本を閉じた。
絶対ありえない。とゆうか何考えてんだあの人。おかしいんじゃないの・・・・?
台本の表紙にはいかにも女の子が好きそうなまるまるとしたフォントと、
その周りを飛び交う無数のハートとキラキラが描かれている。
何のじょうだん?
もうわけがわからない。
何度目になるかわからないけれど、もう一度だけって思い切り目をつぶる。
ぎゅーっと。
どうか、目を開けたらこの台本なんて消えていますように。
そんなことを願いながら目を開けても、台本はいつまでも僕の手の中にあった。
「・・・・流石にこれはひどすぎるでしょう・・・」
台本は、それはもう酷いものだった。
二時間前、突然家にやってきたマゼランさん・・・・じゃなくてマゼランPが訪ねてきた。
「最高傑作の作品ができたんだ・・・・!」と言いながら玄関を突き破って。
ぼくの父さんと同じくらいの年なのに、厨二病全開のおじさんが。
おかげで家の風通しがよくなっちゃったじゃん。
どうにかしてください。
あ。話がずれた。戻しますよ・・・。
出来ることならこのまま現実逃避をしていたいけどね・・・・。
そのマゼランPの最高傑作が、あー、なんというか、えっと。
魔法少女モノだったんだよ・・・・。
助けてください。本当に切実に。
もう勘弁してください。誰かわからないけど許してください。
いやだなぁ・・・こんなのあんまりだよぉ・・・・!
台本のはしっこに手を伸ばす。
こんなの酷い悪夢。台本を破っても覚める訳がないけども。
「ビリビリビリビリー」
うーん。あんまり気持ちよくはないなぁ・・・。この音。
なんか所々馬鹿にしたような音っていうか、性根が腐ってそうな音っていうか。
「てゆうかさっきの絶対マゼランさんですよね!?だってぼくまだ破ってないですもん!」
「気づいてるならそんなに傷つくようなこと言わないでくれないか?
ただのおちゃめーな冗談じゃないか。」
そのお寒い冗談を言ったのは、性根が腐った厨二病患者でおなじみマゼランさん。
ぼくの父さんの親友だ。たぶん。
「その台本の内容、面白くないかい?」
「いえ、そういう意味ではないんですけど・・・・・」
正直言ってしまうとこの魔法少女モノの台本、結構面白かったりする。
さっき「それはもう酷いもの」とか言ったけど、
内容に関してだけは続きを見たくなるくらい。
まぁ、それ以外は、うん、そうだね・・・・・・・・。
気持ち悪いかな・・・。
「そうか。そうかそうか!
よかったよ、主役の君に気に入ってもらえたようだね。
私も知恵と欲望振り絞って話を考えたかいがあるってものだ。」
聞いてねー。
もう、そんなところも流石父さんの親友。ほめてないけど。
日常的にこんな感じの父さんにツッコミをするタイタニックさんって、
ひょっとしてぼくが考えてるよりすごかったりするのかなぁ。
って、いかんいかん。
また現実逃避しようとしてる。
とゆうかなにマゼランさんに馴染んじゃってるのぼく。
おもいだすんだー!ぼく!あの時のことを!
二時間前、マゼランさんがやってきて台本を見せびらかし、
そのままぼくを拉致してきたことを!!
「ん?なんだその顔。いきなり般若みたいな顔になって。
大丈夫かい?どこか痛いところでもあるのかい?」
「おもにあなたのせいですけどね・・・・」
「ちっちっち。あなたじゃなくてマゼランP。そこんところしっかりしないと。」
うわぁ、いやな大人。
ぼくの名前は気づいてる人も多いと思うけど、キリスト。
マードック父さんとマリア母さんの子供。そしてタイタニックさんの弟子だ。
今、ぼくはとあるびるの鏡のたくさんある部屋に閉じ込められいる。
テレビで見る楽屋みたいな感じの。
うん、こんな周りの話言ってる方がつらいかな。
とりあえず簡単に言うと、
ぼくは魔法少女アニメの主人公を演じるためにここに連れてこられたらしい。
・・・・・自分でいってもむなしくなるなぁ。
「キリストさーん。出番ですー」
・・・・逃げようかな。
今ならまだ間に合うかもしれないし。
「あ、マゼランPが逃げたらツインテールも加えるって言ってましたよ。」
もう・・・・どうにでもなれ・・・・・。
ぼくはふわふわぴんくに手を伸ばした。