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Act.06「Dungeon Attack !」#6

一挙二話掲載。

こちらは二話目です。




 閃く軌跡を間一髪で躱しきる。

 あと一センチもあればあの無骨な戦斧が私の顔を掠めていただろう。

 一、二……三!

 敵の動きを観察し、大振りの一撃を見越して懐に潜り込む。

 既に姿勢は滑り込むと同時にスキルを発動させるのに最適化している。

 裂帛の気合を内に籠め、鞘に納めていた刀を全力で抜き放つ。


「≪真一文字≫!」


 抜剣からの≪真一文字≫。

 敵の大振りが掬い上げで、胴体をがら空きにするので選択しているスキルだ。

 いま私が使えるスキルの組み合わせで、最も一撃の攻撃力に秀でている攻撃方法だ。

 金属同士がぶつかり合う音が周囲に重く響き渡る。

 敵の漆黒の鎧に、私の放った閃光が吸い込まれるように防がれている。

 じんとした痺れが刀を握りしめている右手に伝わる。

 これは、敵の高い防御力によってこちらの攻撃が防がれているというサインなのだろう。

 事実、敵の攻撃を時間を掛けて見切ってからは一切もらうことなく回避し続けているものの、こちらも有効打を導き出せずにいたのだ。

 多少なりともダメージは通っているのだとは思うが、どれほど効果が上がっているのかは皆目見当もつかない。

 連続攻撃で畳み掛けても、倒しきれないなら隙を晒すだけの結果になってしまいそうだ。

 私はそう判断したからこそ、千日手のようなこの膠着状況を未だに引きずっていた。

 他のメンバーのことを気に掛ける余裕はない。

 全力でこの敵を打ち倒す。

 それが私に与えられた、優先目標なのだから。




 カンデラさんの告げた情報に、一同は唸りを上げた。


「なぁ、本当なのか? 鉄騎士がモブとして出るっていうのは」


 モブとは雑魚を意味するらしい。

 つまり、ボスを取り巻く雑魚として鉄騎士と呼ばれるモンスターが出現するのだろう。

 鉄騎士は『始まりの洞窟』のボスとして登場した全身鎧の敵なのだそうだ。

 人型だけあって多彩な技を駆使し、硬い防御力と高い攻撃力が自慢の強敵だそうだ。

 ……そんな敵がわらわらと出てくると言われれば、確かに辟易としてしまうのも頷ける話だった。


「らしいぜ? で、パニクってるところをボスにドカーンと薙ぎ払われたんだとか」


 カンデラさんは身振り手振りを混ぜてそう語ってくれた。

 最初のイメージではフードを被った怪しい男というイメージだったが、段々と騒がしいだけのお調子者に見えて来たのだから面白い。

 鉄騎士の数は全部で四体。

 こちらのパーティの前衛は三人。

 マグナコートさんを足して丁度四人になるが、それだとボスを相手にできる戦士が居なくなってしまうということになる。

 それ以外の取り巻きも出るとのことで、それ以外の突発的な事態への対処も考慮しておかなければならないらしい。

 それもそのはずだ、情報をくれたパーティはそこで全滅してしまったのだから。

 手に入った情報以上の展開が待ち受けていてもおかしくないのだ。


「私が前衛として立ちましょうか」


 テンカイさんがそう発言するが、それはボルドーさんに却下される。


「申し出は有難いが、それだとバフ系のサポートが厳しくなるんじゃないか?

 それに、やはり魔法使いだと鉄騎士の攻撃をそう何度も受けれないだろう」


 バフとは、ステータスの強化など有利な効果をもたらす状態のことだ。

 テンカイさんはバフ効果を味方に付与する魔法を好んで使っていて、それらを戦闘中に管理してパーティの状態を有利になるようサポートする戦闘スタイルの人なのだ。

 更には破戒僧の様な見た目の通り、必要とあれば近接戦闘もこなせる優秀なサポート要員なのだが、鉄騎士はダンジョンのボスだけあってステータスが高く、その相手は厳しいそうだ。

 戦士系でもしっかりと装備を整えておかないと、鉄騎士の攻撃はかなり痛いのだと言う。

 ボルドーさんの指摘にテンカイさんも頷いた。


「確かに、私は鉄騎士を相手に余裕があるわけではないと思うので、サポートには回れなくなってしまいますね。

 それだと全体のバフ管理が難しくなりますし、戦力の低下になってしまうかもしれません」


 テンカイさんが居なくなれば、バフによるステータスの底上げが出来なくなる。

 それは、メンバーの少ないこのパーティにとって、大きな戦力ダウンを意味していた。

 彼を鉄騎士に当てることは出来ない。


「じゃあ、俺が二体受け持とうか? 俺なら、体力や防御力はこの中で一番高いし」


「防御なら俺に任せてくれ、勇者の名は伊達じゃない!」


「ちょっと待てよ、そんな面白い役は俺にだな……」


「お前らが待てよ、ボルドーさんも乗っからない。

 前衛三人が欠けることだけは絶対にダメだから、受け持つ人にしても基本は一体だ。

 それに、ボスも居るんだから一人にはそっちを担当してもらうことになる」


 ジンがそう言って前衛三人を諌める。


「そうすると、あれだな。

 俺様が鉄騎士を一体抑えるのは確定として……あと一人、抑えに出さないとダメってのは変わらないんだな?」


「あぁ、ビゼンにやってもらう」


「私?」


 いきなり話を振られたので面を喰らってしまう。

 みんなの話を聞いて、ゲームの戦略の立て方について参考にしていたのだ。

 ジンの言いたいことは分かる。

 四体の敵とボスを抑えるメンバーが必要で、戦士系のメンバーは私を含めれば丁度五人になる。

 みんなは敢えて初心者の私を外してくれていたのだろうけれど、ジンはそれを分かった上で私を推してくれているのだろう。


「さっきの奇襲に対応してるのを見て、問題ないと思った。

 鉄騎士を相手にやれるかどうかについては、実際に戦ったことは無いはずだけど……多分、鉄騎士なら大丈夫だと思う」


「鉄騎士なら、ね」


 ボルドーさんは納得したように頷いていた。


「それ、根拠はあるのか?」


「ある」


「なら、それでいいじゃねぇか?」


 カンデラさんもあっさりとジンの提案を受け入れた。

 アカツキとマグナコートさんは黙って見ていることにしたようで、成り行きを見守っていた。

 反対意見を上げたのは女性陣だった。


「ビゼンちゃんはまだ初心者でしょ、大丈夫なの?」


 アリエルさんが心配そうにこちらを見てくれる。


「ビゼンさんはどう思ってるの?」


 同じく、心配そうに顔を伺ってくるララァさん。


「怖いなら、無理しなくていいのよ?」


 気遣うように、優しい言葉を掛けてくれるアルテイシアさん。

 みんなの視線に応える様に、私は大きく頷き返す。


「大丈夫、別に倒さなくてもいいんでしょ? 抑えるだけでいいんなら、回避に徹すれば何とかなると思うし、さっきみんなの戦いを見て学んだからね!

 任せてくれて大丈夫だよ!」


 ちょっと安請け合いだったかもしれないが、これが攻略に必要なことだと言うのは理解できた。

 それに、ジンが大丈夫だと言ったのだ。

 アカツキもそれに同意しているから、黙したまま見届けてくれたのだろう。

 二人の期待に応えるためにも、それに何より、自分自身へ私は戦えるんだと証明したい!

 さっきの戦闘では結局、みんなに守られている時間の方が長かったのだ。

 今度は私が、みんなを支えてあげたいと思った。

 まだみんなと出会って時間も経ってしないし、パーティとしては初めての冒険だけど、仲間の一人として一緒に隣に立ちたいと、そう思えたのだ。

 胸の奥に静かに満ちていくこの感情が何かは分からないけど、きっとこの戦いを突破できれば分かるはずだ。

 だから、今は精一杯やれることをやり遂げてみたいと思う。

 気合を入れ直し、私は強敵に挑む決意を固めた。




 遠くで響く剣戟の音が、戦闘の激しさを物語っていた。

 この屋敷のボスは探し人の成れの果て、狼人間だった。

 彼は町を守護する騎士として、愛する者を守る為に命を賭して戦いに身を投じた。

 満身創痍になりつつも何とか彼が町に帰ると、衛兵から槍を突き付けられて驚愕する。

 必死にその場を逃げ、途中で自分の体が退治したはずの化物に変貌していたことに気付き、無我夢中で辿り着いたのがこの廃墟だった。

 以来、彼は人の訪れぬこの町にひっそりと住み続けていた。

 いつか、思い人に別れを告げるために。

 長い時の間に彼の体は人の姿を取り戻していたが、心が化物へと変じつつあるのを感じていた。

 ある日、気が付けば知らぬ間に町に居て、彼女の居るであろう屋敷に忍び込んでいる自分に気が付いた。

 手にしていた刃物を何のために使おうとしていたのか、それを理解した彼は逃げる様に町を去ったのだと言う。

 訪れた冒険者が彼に彼女からの言葉を伝えると、全てを悟った彼は身も心も化物へと変じて冒険者たちに襲い掛かって来た。

 そういうシナリオだった――。




 打ち合わせ通り、私が鉄騎士の一体を受け持つ。

 ボルドーさん、マグナコートさん、アカツキの三人が残りの鉄騎士を受け持ち、アルスさんが狼人間を相手する布陣だ。

 更には定期的に広場で出た様なゾンビやスケルトンが出ていたが、それらはカンデラさんとジンの二人で瞬く間に灰にしていた。

 鉄騎士と距離を取り、ちらりとパーティのステータスに目を向ける。

 一番HPを減じているのはアルスさんだった。

 狼人間の苛烈で多彩な攻撃を前に苦戦しているようだ。

 鉄騎士が突進しながら攻撃を繰り出す。

 この技は床の石材をも砕く威力があるが直線的な振り下ろし攻撃だ。

 しっかりと見切ってからステップで回避し、隙の出来たところを小手に一撃、二撃と叩き込む。

 ガリガリと金属同士が削れあう嫌な音が響き渡り、刀を握りしめる手に痺れが走る。

 幾度となく繰り返したやり取りの末に、微かな不安感が私の胸の片隅に生まれ始めていた。

 何だろう……この感覚の正体は分からないが、このままの状態が続くことは危険だということだろうか。

 いや、危険なんだ。

 直感がもたらした予感を、私はそう断定した。

 互いに膠着状態に陥っているという事は、一瞬の油断やハプニングで事態は簡単に変化するという事に他ならない。

 この状況で起こり得る最悪の事態は、私が鉄騎士に敗北してしまうこと。

 その場合、仮にテンカイさんが鉄騎士を抑えるのに回って状態を維持しようとしても、バフによるステータスの強化が途絶えるという事になる。

 そうなれば、パーティ全体の弱体化に繋がり、戦線は一気に崩壊するだろう。

 アルスさんでさえ、現状でギリギリの攻防を繰り広げているのだ。

 鉄騎士の抑え役は是が非でも成し遂げなければならない!

 かといって、防戦に徹するわけにもいかない。

 私はまだまだ未熟だ。

 剣術の稽古が技術として役に立つこの世界だからこそ、ゾンビウルフよりも数段格上の鉄騎士相手に形だけでも互角の勝負が出来ている。

 この後に退けない状況で防御に専念するということは、消極的に立ち回るという事だ。

 それは気持ちで負けているということ。

 気持ちで負けるということは、精神的な敗北を認めるという事。

 自分が敗北を認めた時点で、それは結果に結びついてしまう。

 道場での稽古でも精神の弱さをよく祖父に叱られたものだ。

 それに、この世界では私のイメージがアバターへと直接流れ込む。

 敗北のイメージを強く意識してしまえば、その恐怖によって、きっとアバターを満足に動かせなくなってしまう。

 そうならない為にも、強く心を持たなければならない!


「――ぃいやぁぁぁあああ!! ≪弧月≫!」


 敵の薙ぎ払いを潜り抜け、突き上げる様に技を放つ。

 先の戦闘の様な失敗はもうしない。


「≪スラッシュ≫!」


 二連撃。

 光り輝く軌跡の上を、激しい火花が駆け抜ける。

 袈裟切りの軌道で放った≪スラッシュ≫によって姿勢を整える。

 まだ終わりじゃない!

 タイミングを見計らって更なる技を繰り出す!


「≪巻き打ち≫!」


 三連撃。

 流れる様に前の技の軌道から引き継いで、素早く武器を構え直して斬撃を繰り出す汎用武器スキル≪巻き打ち≫。

 剣術の稽古で似た動きをしたことがあったのを思い出したので組み込んでみたのだが、どうやら無事に成功したようだ。

 派生前のスキルである≪スラッシュ≫が英語だったのが盲点だったというか、実戦で体を動かしてみて改めて思い出したと言うべきか……先の戦闘での経験は、思った以上に私を成長させてくれていたようだ。

 そして、これもまた終わりではない。

 この技の挙動は袈裟切りのような斜めに振り下ろす動きなどを利用しながら、円の形で武器を構え直して斬撃を放つもの。

 放たれるのは肩で担ぐように武器を構えてから繰り出す打ち下ろしの一撃。

 剣術に慣れ親しんだ私は面を打ち込む要領で≪巻き打ち≫の挙動を制御する。

 連続切りの残光を切り裂きながら、次の一撃を放つ。


「≪ストライク≫!」


 四連撃。

 鉄騎士の喉元、その隙間を狙い澄まして刀身を寝かし、僅かな隙間に滑り込ませる。

 重い反動を両手に感じるが、ぐっと握力を籠めて剣を取り落さない様に縛り付ける。

 そこからもう一つ、次へと繋げる!


「≪サークルブレード≫!」


 五連撃。

 鉄騎士の首を勢いよく斬り飛ばし、煌めく粒子を纏わせながら閃光が円を描く。

 私が持ち得る限りの全ての知識、全ての技術を籠めた最大の業。

 上手く決められたことに安堵しながらも、振り抜いた姿勢で相手を見据える。

 体を動かそうと思っても、技を放ち切った姿勢のまま動けないのだ。

 これが技後硬直で、それは普段よりも長く、強く私の体を縛り付けていた。

 最後に≪サークルブレード≫まで入れたのは失敗出たかもしれない。

 この技は硬直が長いというデメリットがあった。

 しかし、最大の瞬間攻撃力を叩き出すためにはこの流れしかなかったのだ。

 兜が床に落ちて乾いた音を立てる。

 鉄騎士は動かないがどうか……倒せたのだろうか。

 あぁ、失敗した。

 首を失った鉄騎士は、そのまま武器を構えて私に向かって情け容赦のない一撃を振り下ろしてきた。

 流石にそれを受け止めて無事でいられる自信は無い。

 観念して負けを認めようと思う気持ちもあったが、それでも最後まで見届けなければならないだろうと、凶悪な刃が振り下ろされる様を見届けようとして……私たちの間を隔てる何者かが現れた。

 ガシャンというガラスが砕ける様な大きな音と無数の粒子の煌めき。

 まるで私を包み込むかのように広がるローブ。

 その手にした杖からは、恐るべき存在感を放っている炎の剣が顕現していた。


「≪火剣ファン・ソー・ダ・ガーレ≫!」


 視界を染める真紅の炎が、圧倒的な熱量によって鉄騎士の鎧を、振り下ろさんとしていた戦斧を、それらの一切合切を瞬く間に両断していく。

 役目を終えたと言わんばかりに、炎の剣がその身を散らすと同時に、私が相手をしていた鉄騎士もまた、その体を淡い光へと変えていった。


「ジン……」


 私を助けてくれた人の名を呼ぶ。

 彼はその声に答えるように、こちらを振り向いた。

 その顔には感情の色は無く、鋭い眼光が私を射抜く様に見ていた。

 それも一瞬の事で、すぐに私の姿を見て普段の少し抜けた顔に戻る。


「おう、無事か?」


 にへらと笑う彼の顔からは、安堵したような緊張感のない感情が伝わってくる。

 戦闘中のはずなのに気が抜けたその表情は、私の肩からも力を抜いてしまった。


「お陰様で……」


 助けられたのは少し癪だけど、ここは素直に礼を言っておかないとケジメが付かない。


「本当に無事なのか? 刀、折れてるぞ」


 そんな気持ちも、その一言でどこかへ吹き飛んでしまった。


「あぁ、本当だ!? ……って、あんたもHPやばいじゃない!」


 刀身が半ばで折れた武器を確認すると、完全破損と表示されていた。

 あの連続技の最中で、それまでの戦闘で蓄積されたダメージによって壊れてしまったのだろう。

 武器が壊れてしまうのも初めて知った。

 道理で、あれだけの連続攻撃を前に大したダメージも与えられておらず、鉄騎士は姿勢を崩すだけの結果になったという事なのかな。

 嫌な予感と言うのは、手応えから感じていた武器破損の兆候だったのかもしれない。

 確かに、何らかの違和感があったのだ。

 知らなかったとはいえ、愛刀を失ってしまう結果になったのは剣術の道を歩む自分としては情けない結果だと言える。

 ごめんね、長船!

 ……って、それも一大事だけど、視界に入ったジンのHPもやばいことになっていた。

 さっきまで満タンだったはずの彼のHPは、何があったのか一割すらも残っていなかった。


「あぁ、鉄騎士の一撃を受け止めたからなぁ……『始まりの洞窟』よりも強いみたいで、結構危なかったみたいだな、ははは」


 あっけらかんと笑っていた。

 彼はポーションを使ってHPを回復しつつ、私にも一つ手渡してくれる。

 有難く使わせてもらう事にしよう。


「しかし、武器破損か……なければいい線いってたかもな、さっきの連撃」


「え、本当?」


「耐久度の低い刀とはあまり相性が良くなさそうだったけど、決められればスキルの五連撃なんだから、相当な威力が期待できたんじゃないか?」


 そう素直にジンが褒めてくれると、何だかむず痒い感覚がする。

 うぅ、普段はあんまり私のことを褒めてくれないから、何だか変な恥ずかしさが込み上げてくる。

 居心地の悪さから、私はさっさと話題を変えることにした。


「……そうだ、戦闘は!」


「あぁ、終わった……いや、もうすぐ終わるよ」


 ジンがそう言うが早いか、悲しい断末魔の叫びが屋敷全体に響き渡る。

 それを聞いて私も悟った。

 ここのボスである狼人間を無事に打ち倒せたのだ、と。


「鉄騎士との戦いに夢中で気付いてなかったんだろうけど、最後まで鉄騎士戦っていたのがここだったから、俺が援護に駆けつけたってワケだ。

 向こうの三人は先に片付けて、ボス討伐に加わってたからな。

 最初は終わるまで見守るつもりだったんだけど、旗色が悪くなったみたいだから援護に入ったってわけだ」


 見てたならすぐに助けてくれても……そうも思ったのだが、きっと彼なりに私が実戦を経験する機会を尊重してくれたのだろう。

 だから、私がいざピンチになった時には颯爽と駆けつけてくれたのだ。

 不器用な親切だが、そんな彼の心遣いも私は嬉しく思う。

 無理矢理に相手へと押し付けるのではなく、相手を尊重してくれているという証しなのだから。


「ま、ぶっちゃけると詠唱してる間に決着が付きそうで、安心して見てたら倒しきれないままに技後硬直に入ったから、慌てて間に入った結果がこのザマなんだけどな!

 いやぁ、本当に生きて残れて良かったわ……折角ここまで生き延びたのに、最後の最後でデッドエンドとかやっぱり面白くないもんな、ははは」


 ……本当に、乙女心が分かってないというか、何と言うか。

 裏表が無い性格も、空気が読め無い性格も、ここまでくれば一流の芸にすら思える。

 ちょっと助けに入ってくれた様が格好良かったとか、胸がときめいたとか、そんな感情の一切合切をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨ててやりたい。

 本当に、本当に、ほんっとーに! コイツって馬鹿よね!?


「死ねばよかったのに、馬鹿!」


「げ、ひでぇ!? ……は、ははははは!」


「……ぷ、ふふふ!」


 一丁前に落ち込んだ演技して、そのあと腹の底から馬鹿笑いして……そんな彼の様子に、私も釣られて笑いが込み上げて来た。

 緊張の意図が解けたからだろうか。

 なんだか、こんな他愛もないやり取りが堪らなく可笑しく思えたのだ。

 ひとしきり笑った後、みんなが私たちを呼ぶ声がしたので一緒に合流する。

 全員の無事とダンジョンの攻略を祝い、この後でキオッジャの町に戻ったらおしゃれなお店でも探して、ささやかながらも祝賀会をすることになったようだ。

 私はもちろん、その提案に大賛成だ。

 これで私の初めてのダンジョン攻略は大団円の内に終わりを――


「おーい、こっちにまだ先があるぞ?」


 能天気な声でそう告げたのはアカツキだった。


「お、じゃあ景気づけにサクッと攻略しますか!」


 腕をぶんぶんを振り回してやる気満々のボルドーさん。


「ヘヘッ、いいぜやってやんよ!」


 同じくやる気満々のマグナコートさん。


「いいねぇ、いいねぇ! 楽しくなってきたじゃないか!」


 カンデラさんもボス攻略で入手したアイテムの分配を取り決めながらノリノリだった。


「ははは、しょうがないですね」


 テンカイさんは笑って流していた。

 女性陣はにこやかに見守るだけだったが、多分内心では疲れているんじゃないかと思う。

 ……いや、どうかな?

 案外とここにいるのはみんなゲーマーだから表面上は大人しくしているけれど、内心ではわくわくしていたりするんじゃないだろうか。

 あ、ララァさんがちょっとそわそわしてる。

 アルテイシアさんも視線が落ち着かないなぁ。

 アリエルさんは耳ヒレがぴくぴく動いてる。

 意外と期待してるのかもしれない。

 今回の攻略中に何だかんだと言っていたけど、意外と彼らと彼女たちは同じ穴の狢だったのかもしれない。




 その後、屋敷の奥に居たスケルトンキングに私たちはボコボコにされて「死に戻り」をした。

 おかげでアルスさん以外の全員が第一の町にて復帰し、合流する為にまた一時間を掛けて馬車に乗ってキオッジャの町まで移動したのだった。

 祝賀会のはずが反省会になり、次回のスケルトンキングの攻略についての会議が始まった。

 あーでもないこーでもないと議論は巡り、お皿も巡り、分け合った財宝に一喜一憂したりした。

 最後に盛大に躓いてしまった感じは否めないが、楽しい思い出となったのは間違いない。

 いろいろあったけど、少なくとも私はこの雰囲気が好きだと思った。

 また、次の攻略がある時は、是非一緒に参加したいと思えるほどに。

 今まではひたすら剣術の稽古に割り振っていたが、これからは色々な経験を積むためにも歩き回って見るべきだと決心する、良い切っ掛けになったように思う。


 こうして、この世界での一日はあっという間に過ぎていくのだった。

実を言うと、本編がまだ始まっていないという恐怖。

とある思い付きで始めたβテスト編がまさかこんなに時間が掛かるとは予想外でした。

ちょっと加速して行きたいと思います。

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