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Act.05「PvP」#1


 最新のVRMMORPG『Armageddon Online』のクローズドβテストは段階的に環境を公開していくテスト方式を採用している。

 細かな問題点や即日修正が可能なものは随時、テストスケジュールの行程は順序立てて進めることで無駄な混乱を少なくし、テストプレイヤーはそれぞれがテストを強く意識して行動することが出来るのだ。

 もちろん、テストを意識せずに遊んでるプレイヤーも多いだろうが、そういう層も欠かせないファクターだと言うのは間違いないだろう。

 俺がどちらかと言えばテスターだと意識して積極的に参加しているというだけだ。

 今回解放されるのは『PvP』と呼ばれる要素だ。

 日本語で表せば『対人戦』、つまりプレイヤー同士のバトルのことを言う。

 ただ、一口に「PvP要素」と言ってもそのスタイルは多岐に渡る。

 例えば、試合として対人戦を用意しているものから、所構わずプレイヤー同士が戦うものもある。

 前者は遊びの一つとして用意され、競技としての側面が強いものでスポーツといった印象だ。

 後者は世界観の一つとして用意され、倒した相手の装備や金銭などを追い剥ぎしたりもできることの方が多い。

 日本では昔から後者のシステムは嫌われる傾向がある。

 国民性とでも言うべきなのだろうか、ゲームの世界であっても物取りや殺人というのにはあまり良い印象を抱いていないと言えるだろう。

 そんな側面を知らず、安易にそういう要素があるゲームを遊んでいるというだけで、最近の若者の人間性や性格がどうとか語る「自称有識者」の話は聞くに堪えない……と、カツキはいつも熱く語っている。

 アイツは偏見とか差別とかが大嫌いだから、そういった曲がったやり口は許せないんだろう……まぁ、ピーマンは大の苦手で奴とは一生和解できないと豪語しているのだが。

 俺も概ね同意だが、そんな奴は自分にとって毒にも薬にもならないので無視を決め込む。

 ある意味、「お前なんて存在してないよ」という風に扱う方が、面と向かって拒絶するよりも酷かもしれないな。

 さて、話は戻ってPvPだ。

 実は『Armageddon Online』のシステムは先ほどで言う後者のタイプだ。

 フィールドでのプレイヤー同士の干渉が存在し、互いに互いを害することが出来てしまう。

 例えば、今までは範囲攻撃に巻き込んでしまってもノーダメージとして処理されていたが、今後はフレンドリーファイアとして扱われるようになって当たればダメージが入るようになるわけだ。

 これだけ見ればPvP要素にはデメリットしか存在しないと思うだろう。

 更に言えば、PvP要素の解禁に伴って蘇生の処理にも変更が行われている。

 今までは冒険者は死亡後すぐにドミナの町の中央広場に蘇生していたのだが、今後は最低で一分間はその場に死体を晒すことになってしまう。

 これは、追い剥ぎ要素を追加するにあたって必要な処置として導入されたものだ。

 ただ、負けた側は全てを奪われるのかと言えばそれは違う。

 冒険者が死亡時に奪われる可能性があるのは、武器防具やポーチなどに入れておいたアイテム類といった、既にオブジェクト化しているものに限られる。

 なので、冒険者カードに貴重品の類はしまっておけば安心と言うわけだ。

 ただそこで注意しなければならないのは、冒険者カードをオブジェクト化している時には、冒険者カード自体が盗まれる可能性があるということだ。

 PvPが可能なエリアでは冒険者カードを使ったやり取りは推奨できないということだろう。

 一応、町の中ではPvPがシステム的に抑止されているので安全なのは変わりがない。

 公式も発言していたが、今回は一種のストレステストだと言っていた。

 VR機器は使用者のコンディションも逐一判断が可能だ。

 最終的に、この世界ではプレイヤー同士の大規模バトルコンテンツ『戦争』を目的として全体が構築されている。

 つまり、遅かれ早かれPvPは避けて通れない道として明示されている。

 その上で、競技としての戦争やPvPなのか、世界観の一部としての戦争やPvPなのか、そこが開発陣の中でも調整が難航しているポイントなのだと言う。

 彼らの理想としては、VRの魅力を最大限に引き出すためには「世界観としての戦争」を意識して構築していきたいと考えているそうだ。

 多くのプレイヤーが仮想の世界でリアルな体験をするのがVR世界の醍醐味だ。


「戦争とは悪かと問われた時に、人はどう答えるだろうか」


 開発者の一人がインタビュアーに告げた言葉だ。


「やはり……悪だと答えると思います」


「でしょうね……それは間違いではないでしょう。

 戦争では多くの不幸や悲しみがあり、そのイメージは悪そのものと言えます。

 しかし、戦争と言うのは何も人を殺したいから、悪事を働きたいから始まるわけではありません。

 欲を満たす戦争もあれば、一方では大切なものを守る為であったり、互いの信念をかけてぶつかりあう神聖な戦争もあったことでしょう。

 人がいればそこに戦争が起こったのは歴史が残しています。

 ならば、VRMMOの世界においても戦争というのは避けて通れない歴史の一つとして、確かに存在する要素なのだと私たちは考えているのです。

 今までよりも更にリアルな仮想世界を提供する為の試みとして、システム的な面だけではなく、雰囲気として肌で感じてもらえる世界観を作り上げることも重要だと」


 リアルな仮想世界を作りたい、それが開発陣の願いなのだと彼は語っていた。

 さらに、彼はこうも続けていた。


「もちろん、戦争が発生してもプレイヤー全員が争い合うことを強制されるわけではありません。

 ゲームとして、戦争とは一つのイベント、天候や災害のようなものだと捉えてもらっていいです。

 そのイベントに参加しても良いし、参加しなくても良い。

 ただ、戦争中には普段できたことが出来ない場合や、逆にできることが増えたりする。

 商売では商機が到来したり、普段とは違う依頼が張り出されたりと様々な変化があります。

 そういったゲーム的な面でも、『Armageddon Online』で活動する冒険者全員を楽しませてくれる要素となるのが『戦争』なのです」


 そう言って、インタビューは一旦締めとなる。

 一貫して言えるのは、彼らが真摯な姿勢で物事を捉えていて、それに対して全力で取り組んでいるということだろうか。

 今回のPvP要素のテストはゲーム内の戦争におけるデモンストレーションで、世界観としてどこまでが許容されるのか、されないのか、その辺の線引きを含めて行いたいという事だろう。

 シノブ辺りはあまりいい顔をしていなかったが、彼女も他人と競うスポーツを嗜んでいるので、その方面から理解はしてくれていたみたいだった。

 カツキの方は昔の部活でのレギュラー争いで熾烈な争いを繰り広げていた過去があるので、むしろこういう要素はかかってこいと構えているくらいだ。

 俺もそこまでマイナスイメージは無い。

 現実では殺人や強盗といったことへのイメージは、良識的に考えても、自分自身の性格的にも断じて許されるべきではないと思っている。 当然だ。

 俺の場合はゲームの中だから別に構わない……と言うよりは、そういう世界観で活躍する冒険者という主人公としてどう動くかを意識することなので、良し悪しとは関係のないことだと捉えている。

 むしろ、ゲームでその手の事を必要以上にネガティブに捉えている場合は、大抵後ろめたい思考が己を蝕んでいることへの、自分自身に対する嫌悪感なんじゃないかと思う。

 逆に考えれば、そういう野盗ロールプレイが遊べるだけゲームの幅が広いとも言えるし、それを退けるための協力プレイや、正義の味方ロールもできるんじゃないか、とプラスに考えられそうなのだが……ま、やっぱ最後は人それぞれだよな。

 そういう要素を採用した結果がどうなるかっていうのは、まさに今回のテストから結論を導き出すわけなんだし、とやかく言っても始まらないだろう。

 アップデートが完了したことを確認し、閲覧していた各種ウェブサイトを纏めて閉じる。

 軽く肩を回してから、俺は『Armageddon Online』の世界へと意識を深く潜り込ませていった。




 ――さて、今日も一人だ。

 カツキもシノブもリアル事情が忙しい。

 その点、俺の周囲はサッパリしたものというか面倒事が一切ないので助かる。

 首を突っ込もうと思えば幾らでも忙しくはなるのだろうが、自分で言うのもなんだが生憎その辺はドライな性分なんだ。

 リアルを蔑ろにしたいわけではないが、優先順位を付けるならばVRMMOが必然的に高くなってしまうと言うだけの話だ。

 PvPが実装されたことでは特にこれ、というような目立った変化は無いようだ。

 冒険者の様子も穏やかなもので、ピリピリとした空気が漂っていたりだとかはしていない。

 ただ、時折ギラついた目つきで通り過ぎる冒険者がいたりしたので、彼らはPvPについて並々ならぬ感情を抱いているんじゃないかとは思う。

 要素としてはPvPと言われているけれども、実際に一番大きなのは戦闘面での配慮、戦術や戦略の変化が大きいと俺は思っている。

 実は、今までも味方に攻撃魔法を当てない様に使ってはいたのだが、当てるとどうなるかと言うと、特にこれといったデメリットがなかったのだ。

 精々が敵の盾になって詠唱した魔法が無駄になるくらいで、魔法使いはバンバン魔法を撃てばいいと言う風潮があった。

 範囲魔法も巻き込みお構いなしにバンバン使っていた冒険者もいたようで、何とも風情がないと言うか……一種異様な戦術が一部では流行っていたようだ。

 一応、デメリットとしては音や爆発と言ったエフェクトは発生するので、巻き込み前提の戦い方は前衛にとってはいい迷惑だったとは聞いている。

 そりゃそうだ。

 今回のPvP実装で変化するのは、やはりフレンドリーファイアが発生することでの魔法の使い方の変化だろう。

 初日からの魔法優勢ブームとでも呼ぶべき流れは、今日まで根強く続いていた。

 おかげで、スキルの強化や検証、戦闘スタイルの開発といった研究や研鑽は全くと言っていいほど進んでいなかった。

 有志や個人で進めている所はあったが、やはり少数過ぎるのか意見交換も思うようには進んでいなかったらしい。

 特に、冒険者が複数のスキルを組み合わせて生み出す『奥義』については開放すら誰も成し遂げていないのだ。

 これは流石に予想外だったのか、開発が「スキルにはかなり強力なものもあるので、是非探してみてください」とかブログで言ってしまう程だ。

 テスターの意識が魔法に行き過ぎて、スキルの利用率が極端に低い状況だったのだろう。

 まぁ、その魔法ブームの火付け役を担ったのも開発なので身から出た錆とも言えるが。

 こんなことなら、俺もマギエルじゃなくダンクェール辺りで始めておけば良かったと後悔してしまう。

 スキルの検証や開発も中々に面白そうなのだ。

 ダンジョンに突入した際に、ミスター勇者ことアルスの戦い方を見て、スキルを活用することで近接戦闘において大いに活躍できることが実証済みとなっている。

 彼のスタイルは基本的なスキルを中心に、体術を駆使したものだった。

 マグナと戦闘訓練をした時もそうだが、スキルとは基本的なものは相当扱いやすいようにできているのだ。

 魔法と比べれば、使うか使わないかで劇的に効果があるというものではないが、適切なタイミングで素早く差し挟んでいけるのは魔法にはないメリットだ。

 特に、魔法だと『詠唱時間』が致命的な弱点として存在するが、スキルにはそれがないのだから大きなアドバンテージと言えるだろう。

 ……あー、そう考えるとPvPだと魔法メインの俺は厳しそうだな。

 今までも近接戦闘をしながら詠唱したりとか、手頃なモンスター相手に練習を行ったりもしてきたのだが、これに関してはいまひとつ精度が上がらないんだよなぁ。

 近接戦闘は相手と自分のリズムがある。

 主導権を自分が握っていれば、自分の好きなように思うように戦うことが出来るだろうが、相手が主導権を握っていると、思うようには戦わせてもらえないだろうし、どうしても受け身にならざるを得ない局面が多くなるだろう。

 そのリズムの奪い合いや押し付け合いが、魔法詠唱に大きく悪影響を及ぼしているのは間違いないだろう。

 魔法の詠唱をスムーズに行うコツの一つが、自分なりに詠唱にリズムを付けることで、歌うように読み上げるというものだからだ。

 二つも三つも異なるリズムを維持したり、調節したりと言うのは難しいだろう。

 バンドで言えばドラムのような感じとでも例えればいいのだろうか。

 手足を全て別々に動かす感覚だ。

 直接操作という高難易度のマルチタスクな思考処理ができる癖に、どうにもこうにも、この手のリズム感のようなものを掴むのが俺は苦手なようで、練習してはいるのだが中々上達しない。

 思えば、小さい頃から流行の歌とかとも親しみがなかったのもあってか、音楽に対して関心が薄い部分は否定できないだろう。

 そのせいだと言われれば、なるほど確かにそうなのかもしれない。

 関心事が上達の糧になるというのなら、それは信じるに足る要因だと俺は思う。

 デジタル機器やゲーム、VRという世界に興味があったからこそ、人よりは多少そういったものに接する技術があるのだから。

 ――ともあれ、対人戦が今後あると想定した場合、魔法を主体とする自分では近接戦闘を得意とする相手への対処が難しそうだということを念頭に置いて、それら対戦における対策を早急に模索しておくべきかもしれない。

 何かあってから対処方法を考えてもそれは既に遅いのだから。

 差し当たって俺がやるべきことは、


「……魔法屋に行くか」


 とりあえず、アップデート後の世界を楽しむことにする。


 わりと足繁く通っていることもあってか、店内に入った瞬間にラインナップの変化が手に取るようにわかった。

 この『Armageddon Online』のテストでは段階ごとに要素の開放を行う時に、ゲーム世界自体の開放も同時に行っていっている。

 そのため、毎日何かしら変化していたりするのだが、今回のように一つ一つの節目のタイミングではそれなりの規模での更新が行われる。

 例えば、武器防具の追加は当然として、回復アイテムの上位バージョンが解放されたり、スキルや魔法の追加、ギルドの依頼やサブイベントの追加などがある。

 今回はPvP要素の解放だけあって戦闘面でのアップデート、装備の追加などがメインとなっている印象だ。

 魔法の媒体で言えば、性能が今までの五ランクは上の商品が展示されるようになっていた。

 初日の品ぞろえでは、精々一つのカテゴリで三種類程度だったことを考えると、今回のアップデートだけでその規模を軽く超えていることになる。

 そう言えば、まだ『魔法陣』は触ったことが無かったな。

 展示されている商品を眺めつつ、ふとそんなことを思い出す。

 気が付けば初期装備だった長杖を極める方向で動いていたように思う。

 長杖でいかに敵と戦いながら詠唱を完成させるかを特訓していたと言うのは、まさに長杖での動きを突き詰めていった結果にどういう戦術になるのか、という話だし。

 何も長杖一本に拘る必要は無いんだった。

 指揮棒タクトを複数本用意しても構わないし、魔道具による直接、間接的な攻撃手段だって幾つも存在しているのだ。

 ……ふむ、それは面白いかもしれない。

 魔道具をばらまいてその隙にこちらの体勢を整える。

 使える魔道具にもよるが、魔法主体の自分と簡易に使えるアイテムの相性は良いはずだ。

 考えを頭の中でざっくりと纏めてみると中々に妙案なのではと思えて来た。

 目ぼしいアイテムを早速手に取り、どういうことが出来るか思考を巡らせてみる。

 新たな戦術を模索していると、見知った顔が俺に声を掛けて来た。


「よう、ジンじゃねぇか!」


「あ、マグナ」


「へへ、奇遇だな!」


 小さく笑みを浮かべているのはダンクェールの魔法剣士だ。

 銀髪金眼は種族の特徴だが、燃える様な赤いバンダナはマグナの個性を表している。

 その鋭い視線から、俺はいつも内側に秘めた強い意志を感じさせられる。

 光の加減などではなく、内側から溢れてくる気迫によってギラついた印象を受ける冒険者だ。

 実際、腕の方もかなり立つようで、クローズドβテストで出会った冒険者の中でも上位にランクインする実力者だと思っている。

 アバターの見た目は女性のような線の細さもあるのだが、抱えている膨大な熱量がそのまま爆発的なエネルギーとして体を突き動かしているような、隙と見れば烈火の如きラッシュを躊躇うことなく繰り出す、超攻撃的な戦闘スタイルをしている。

 カツキ辺りが似たようなスタイルだから、合わせてみれば話が合うかもしれないな。

 ――そんなことを考えながら、俺は彼女に相槌を返す。


「だな、そっちもやっぱりアップデート後の調査をしてる感じ?」


「武器屋は目当てを絞ってるからな、ざっくり目を通してサッと抜けて来たんだ。

 どちらかと言えば、魔法の方が比重が大きいからな……いい加減、伝授や装備の新調をしていかないと戦術の幅が増えないってのも大きい」


「確かに」


 マグナとはあれからもちょくちょく一緒に狩りをしたりしていたのだが、基本的な戦闘スタイルは殆ど変化していなかった。

 俺みたいに魔法のバリエーションを増やすでもなく、カツキやシノブ……アカツキやビゼンのように違う武器にしたり、新スキルを習得したりということを積極的にしていなかった。

 最初にベースとなる戦術を組み立てておき、それをモノにしてから徐々にその幅を拡張していくというスタイルだ。

 付け焼刃を良しとしない、粘り強い鍛錬の仕方だ。

 マグナがたまに漂わせる刃物のような雰囲気は、こうして磨かれてきたのかもしれない。

 自分の場合は、バリエーションを豊富に用意して対応できない状況を減らすことを優先する。

 器用貧乏になりやすい育成方式とも言えるな。

 今回は≪火矢の呪文≫をメインに据えているので、一極集中+汎用のハイブリッドとこれまた中途半端な育成をやっているのだが、どれもこれも切り札に成りえないということはないだろう。


「……見た感じ、アイテムを組み込もうとしてるのか?」


「あぁ、PvP解禁によって魔法の扱いがどう変わるか分からないからな。

 ちょっと考えてみたんだが、詠唱の隙とスキルの相性に対抗する手段として使えないかな、と」


「へぇ、流石ジンだな。

 早速PvPのことも視野に入れてるとは」


 瞬間、一際強くマグナの目が輝いたように見える。

 ギラリとしたその視線を気付いていないフリをして話を続ける。


「PvPが格別にやりたいわけじゃないけど、一考の余地はあるかと思ってね。

 いい機会だし、あまり消費アイテムって使われてるイメージ無いからね。

 新天地の開拓でもやってみようかと」


 思えば、テスト開始から殆ど戦闘に終始していたので視野が狭かった気がする。

 戦闘においても魔法をいかに活用するか、どのような理屈で動いているのかを自分なりに理解しようと意識していたから、他の事がだいぶおざなりになってしまっていた。

 戦闘以外では一切触れていない要素もかなり多いはずだ。


「……ってことは、クラフターにも手を出すのか?」


「あー、そこまでは考えてなかった。 それも確かに面白そうだ」


 マグナの口から早速、思考の外にあった可能性が提示される。

 確かに、生産職がどういうことができるのか、どういうものが作れるのかとかは気になるな。

 有用性があれば、それも含めてこの世界での活動のライフスタイルに組み込んでいけるだろう。

 ぶっきらぼうな発言から誤解されてるんじゃないかと思うが、マグナは頭も切れる。

 戦闘中、咄嗟のタイミングで要求されるアドリブに対する機転を利かした対処方法には俺も脱帽する思いだ。


「ジンは見た目に反して戦闘民族タイプかと思えば、意外と全部やりたがる方だったんだな」


 アバターの見た目を判断基準にしても、個人の好みで外見を操作できるのだから判断基準としてはいい加減なものだと思うが……逆に個人の趣味趣向がモロに反映されるとおも言えるか。

 マグナの言うことを察するに、全部色々とやるのはどれも極められないから、育成方針としては非効率的ではある。

 だから戦闘職を極めんとするようなプレイヤーにとっては敬遠されがちなんだよな。

 俺はこの世界でテストが開始してから、ひたすら戦闘訓練を積んできたのだから、戦闘中毒バトルジャンキーと見られていてもおかしくはないわけだ。


「確かに、出来ることは一通り触っておいて損は無いと思ってるな」


 過去には生産職をメインにしていたこともあるし、どちらかと言えばそっちの適性も十分にあるはずだ。

 VRMMOの醍醐味は戦闘だとは思っているが、VR世界の楽しみ方の一つとして生産職を欠かすことが出来ないと言うのも、俺の偽らざる考えだ。

 どういう事がこの世界で出来るのか、それらを駆使することで何が起こるのか。

 様々な角度から得た情報を擦り合わせることで、新たな攻略の糸口が見えることもあるし、見つけられる新しい発見が自分を支えてくれることもある。

 この辺は実体験も含むが、何よりもVRMMOで出会った数多くの先輩や、ネットで散見する逸話に感化されている部分の方が大きいかもしれない。

 芸は身を助く。

 VRMMOのシステムによってはスキルをアレコレと習得はできないものだが、そこはMMOの性質に則り複数人で当たれば解決できる部分だと思っている。


「なるほど、それがジンの強みなのかもなぁ……何でもそつなくこなすと感じてたが、実際には何でも経験した上でより良い結果を導こうと努力してると。

 あー、俺様にはそいつは無理だな!」


 マグナも心当たりがあるのか、うんうんと頷いていた。

 以前はそれなりの攻略チームに所属していたと言うし、戦闘職を支える環境などについても何かしら覚えがあるのだろう。

 特化した攻略部隊は、戦闘と生産といった風に、トップチームを支えるバックアップチームが存在していたりする。

 例えるなら最速を競うモータースポーツなどが近いだろうか。

 マシンを操る花形のレーサーと、彼が操るマシン、それらを最高の状態で送り出すメカニック。

 ピンと来ない人もいるだろうが、MMOをそういう競技の様な視点で捉えるプレイヤーも少なくは無いのだ。

 そして、マグナはどうやら花形として舞台に立っていた方で、間違っても小道具や大道具といった細々とした作業はできない性質なんだろう。

 付き合いはまだまだ短いが、その辺りは何となく納得できてしまう。

 たぶん、リアルだと料理とかができない……とか、そういったタイプだ。


「向き不向きはあるよな」


 俺は適当に相槌を打っておく。

 マグナは話題がひと段落したのを感じたのか、思い出したと言わんばかりにポンと手を打って別の話を切り出してきた。


「あ、そうだ。 オススメの魔法とかってあるか?」


 どうやら、互いにこの店に来た目的として近しいものがあったようだ。

 おそらくPvP要素の実装に合わせて、戦術の拡張をと考えていたのだろう。

 知らない仲じゃない、俺は快く頷いて答える。


「マグナに勧めるとしたら、そうだな――」


 それからしばらくの間、魔法屋の一角で魔法戦術について二人で花を咲かせたのだった。

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