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神将抄録  作者: 直江和葉
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十九. 合流

 いつも人でごったがえす池袋駅だが、たまきは難なく太一と合流した。それもそのはずで、太一には銀の神将と紅の神将がついている。つまり、彼は銀と紅の光に包まれているのだ。同時に、たまきには金とオレンジの華々しい色彩が纏われている。太一についている宮毘羅神将と真達羅神将には、すぐにそれと知れよう。

「待たせてすまぬ。……あれ?」

たまきは太一の腕に抱かれている子猫に気がついた。多聞はたまきと神将たちをみとめると甲高い声で鳴いた。

「なんだかな。今日に限って連れて行けといってきかないんだ」

太一は仕方なさそうに言って、キャリーケースを持ち上げてみせた。

「ははは。なんだ、多聞。お前も助太刀してくれるのか。鬼に金棒だな!」

たまきは笑いながら子猫を抱き取る。多聞は喉を鳴らして頭をすりつけた。太一が瞠目して少女を見つめる。

「なんだ、晴明?」

「……いや。行こうか」


 藤堂からメールで送られてきた地図を片手に神社を探していると、いきなりたまきが唸って立ち止まった。

「博雅、どうかしたか?」

太一が怪訝そうに少女を見遣るが、それへ宮毘羅神将がかぶりを振って呟いた。

「……無理もない」

「雑多なものが吸い込まれてゆくぞ。巻物が移ったせいか……?」

「ふむ……それにしては尋常な数ではないな。場の作用もあろう」

神将らが話している傍ら、

「たまき。我につかまっておれ」

伐折羅神将が差し出した手に、すがるように掴まったたまきは、大きく呼吸を繰り返す。反対側を魔虎羅神将が寄り添った。

「すまぬ、伐折羅大将、魔虎羅大将。……しかし、かなわんなこれは……宮毘羅大将、真達羅大将、頼む」

「承知」

銀と紅の神将が太一の傍らを固めたとき、石造りの鳥居から賑やかに子供が走り出てきた。鬼ごっこでもしているのか、はしゃぎながら出たり入ったりしている。

「うあ。あやつら……よくこんなところをうろちょろできるな。俺なら用がなきゃ足も踏み入れたくはないがな!」

呆れたように呟いたたまきに、

「ほう。そんなにいるか?」

「いるとも! まるであれだ。ボタンクラゲが大発生した海水浴場で泳ぐようなもんだ!」

たまきは確信を持って言い切った。珍妙なたとえに太一は首を傾げる。

「………なんだ、それは?」

「知らないのか? ボタンクラゲというのはだ。二センチ大のクラゲでな、あれが大発生した海の中を歩くと、こう、手足にぼろぼろぶつかるんだ。俺などは面白がって両手を広げてぐるっと回ってみたりもしたが、従弟などは海水パンツ一丁だろう? 気色が悪いと行って早々に上がっていったよ」

「海水パンツね……。ふうん。なんだ、思い出したのか?」

太一の呟きに、たまきはハタ、と思い至る。

「あ……」


 そうだ。あれは小学二年のときの夏休みのことだった。

そして、まるでそれが合図だったかのように、次々と藤原たまきの記憶の扉が開かれていった。小学校の卒業式、中学校の入学式、そして高校へ入って、ゴシップ雑誌で騒がれ………記憶は更に過去に飛んだ。

父と二人、古い屋敷に入って老婆の前に座る。老婆は自分を見るなり大きな溜息を吐き出した。

『こんな小さな身体で、これほどの霊力を保つは難しかろう。いつか、この子を導いてやれる者が現れるまでは、封印しておくのがよかろう……』

その間のことは覚えていない。目が覚めたとき、自分は布団に寝かされていたのだ。


 「……そうか……そうだったのか……」

ゴシップ雑誌で騒がれた頃に、老婆が施してくれた封印、あるいは枷が外れてしまったのだ。そして、入れ替わるようにして、友・安倍晴明の再誕である太一と出会った。

いま自分の力が暴走せずにすんでいるのは、この二人のおかげなのだ。

茫洋としていたたまきの目が焦点を結びはじめた。そして、じっと自分を見つめている青年の相貌をとらえ――少女の紅唇が艶やかにほころんだ。

「……ありがとう、晴明」

いきなり礼を言われ、太一は目をぱちくりさせる。

「母御の愛情の賜物だな」

「まこと」

伐折羅神将が笑い、魔虎羅神将が重々しく頷いた。


 藤堂が父親から継いだ神社は、骨董屋からすぐのところにあるこぢんまりとしたものだった。

ビルや住宅のあいだにぽっかりとあいた空間。敷地のぐるりを松と桜が囲む。そして、社の傍らには大きな楠木が一本、すっくと立っていた。

鳥居を通ってさまざまなものが流れ込んでいる。神将の言うように、この神社が建っている場所そのもののエネルギーも作用しているようだった。

「ううむ、しかしこいつらは邪魔だな……」

たまきが耐えかねたように呟く。

「ぼうずたち、ちと脇へどいておれ」

近くにいた子供にそう言いおいて、ひとり鳥居の中に足を踏み入れると、払いのけるように腕を振って大喝した。

退()け、きさまら!」

瞬間、たまきを中心に起こった風は四方へ飛び散り、少女の怒声に首を竦めた子供の前髪を揺らした。

流入はぴたりと止んだ。たまきは辺りを見回し、ふっと一息ついた。

「見事見事」

傍らの金の神将が笑いながら手を打つ。苦笑しながら入ってくる太一と神将の後ろ、鳥居の傍で呆然としている子供数人に、たまきが笑いかけた。

「悪いものは祓った。だが、ここで遊ぶのは明日のほうがよい。今日はもうお帰り」

「う、うん……」

「明日は大丈夫?」

少年の問いに、たまきは頷いてやる。すると、彼はにっと顔をほころばせて、親指をたててみせた。つられて少女も親指をたてる。

少年達は手を振って帰って行った。

社の扉がからりと開く。

「ああ! 来てくださったんですね! あれっ、綺麗になってる」

神主姿の藤堂が顔を覗かせ、神社の庭を見て素っ頓狂な声をあげた。

「たまきちゃんが祓ってくれたんですか? ……て、どうされましたか?」

不思議そうな藤堂と太一。社の前で俯いていた少女は、

「……なあ、晴明。コレ、なんのしるしだ?」

親指をたてた手を友人に突き出した。







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