表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

お爺さんは山で死ばかり

掲載日:2026/06/27

 昔々あるところに、お爺さんとお婆さんがいました。

 お爺さんは山へ、しばかりに。

 お婆さんは川へ、洗濯に。

 行く。

 というところで、お婆さんがお爺さんに言いました。


「おぉい。爺さん。洗濯物。重いから川まで持ってておくれ」

「仕方のない婆さんだ。どれ。おや、こりゃ本当に重い」

「そりゃそうでしょう。お爺さんの着物。たっぷりと血を。吸い込んでいるのだもの」

「ありゃあ、酷い怪我じゃったからのう」

「血糊を落とすのは大変なんですよ。これだけの汚れ。十五分はかかります」


 他愛のない会話をし。

 二人は川に。


「じゃあ、婆さん。ちょっくら。ワシは山にしばかりに行ってくら」

「はいはい。いってらっしゃい」


 お婆さんは川で洗濯を。

 お爺さんは、川上の方へ。

 一歩二歩三歩。

 一秒二秒三秒。

 時間を数えながら、山の方へ。


 十分。

 お爺さんは山でしばかりを。

 していた、ところでした。

 お爺さんは山でしばかれました。


 しばかり中のしばかれ。

 ああ、このまましかばね。

 とはならぬ。ならぬ。ならぬ。

 お爺さんは、心臓の高鳴り。血管の収縮。止まらないアドレナリン。

 ドクドクと鳴る。脈打つ体を時計として。

 一秒。二秒。三秒。


 五分。

 お爺さんが致命傷から回復にかかった時間。

 である。


 お爺さんは山を下りる。

 山を登って、十分。

 山でしばかれ、五分。

 山を下り、十分。


 計二十五分。


 お爺さんは、川へ。

 そして、川で洗濯をしているお婆さんに。

 こう。言いました。


「犯人はお前だ!」


 お婆さんは、何を言っているんだと、お爺さんに、そ知らぬ顔。


「何を言っているんだい? お爺さん。そんなに息を切らして。やだ。その血。また、洗濯物を増やして。いやだいやだ。今。ちょうど。洗濯物が終わったところだというのに」

「今。終わった? 馬鹿な。そんなはずはっ?」


 お爺さんは、お婆さんが洗った洗濯物を全てチェックします。


「あれほどの汚れが全て落ちている。馬鹿な。あの洗濯物を全て、このように綺麗に洗濯するのは、」

「どうやったって、十五分はかかる」


 お婆さんは、先程とはうってかわり。

 にたり。にたり。にたり顔で。

 話を続ける。


「山への往復。そいつは何分かかるんだい?」

「にっ、二十分だ」

「なら、私が。犯人なわけないだろう?」

「いやっ、可能だ」

「どうやってさ」

「お婆さんあなたは、川で洗濯をしながら、川の中を移動したのではないですか?」

「はんっはっはっ。面白い。面白いっ。なら、二十分だ。たった、それだけの時間で服が乾くかい? 触ってごらんよ。私の服は濡れているかい?」


 お爺さんは、お婆さんの服を触りました。


「かわ。乾いてる」

「それが、私が川居てる証拠では?」

「確かに水には濡れてない。だが」


 お爺さんは、お婆さんの服を指さし。


「ワシの返り血に濡れている」

「確かに。お爺さんの返り血ですね」


 血濡れのお婆さんは、だからなんだ?

 と。


「洗濯したとき、汚れがうつったのでしょう。なんて、阿呆な言い訳はしません。その通り。お爺さんの返り血です。ですが、どうやって? 私はどうやって、お爺さんをしばきに行けたというのです? 私の服は返り血に濡れているが、水には濡れていない。お爺さんの推理では、私が川で洗濯をしながら、川の中を移動する。ならば服は、濡れていなければいけな、」


 お爺さんは遮る。


「桃だ」

「もも?」

「お婆さんあなたは、大きな桃で、どんぶらこ、どんぶらこ、と」

「証拠は?」

「すっここ」


 すっと指した先に、大きな桃が。


「川上から大きな桃が。どんぶらこっこ、すっこっこ。どんぶらこっこ、すっこっこ、と。『おや、まあ。美味しそうな桃だ。お爺さんの冥土の土産にしてやろう』と」

「くっ、なぜ分かった」

「洗濯物からフローラルな香りがした」

「だが。だがだがだが。お爺さん、あんたは推理ミスをしている。川上から大きな桃が流れる。それは当たり前だ。だがっ。川下から大きな桃が流れるなんてことはありえない。流れに逆らい、川上まで、」

「できるのさ」

「どうやって?」

「川の主の休日」

「川の主の休日?」

「ポロロッカ」


 お爺さんは一つ。小さな息をした。


「ふーっ。ポロロッカ。カシバナ語で、川の主の休日。という意味だ。満月のとき。大潮の影響によって、川が逆流する。お婆さん。君は、川を逆流させ、大きな桃に乗り、私をしばき。また、大きな桃に乗って川上から流れる。桃の中で、洗濯をしながらね」

「そんなことっ。できるわけがないっ」

「できるさ」

「できないっ」

「できる」

「できな、」

「だって、君は、かぐや姫だからね」


 お爺さんは、あの日の月を、思い出すように。遠くを眺めた。


「かぐや姫。月の民の住民である、あなたは、潮の満ち引き。潮汐力を自在に操ることができる。こんな、小さな川。逆流させることなど、造作もないことだ」

「なぜ、そんなことが分かる」

「君に、同じ方法で、二百二十二回。殺されているからね」

「そんな。馬鹿な。あっ、ああ、思い出した。あなたは、あの薬を燃やしてしまわなかったのですね」

「燃やしてしまったら、君を取り返すことなど、できなかっただろうね」


 お爺さんが山でしばかれること、二百二十三回。

 その山は富士山と呼ばれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ