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誕生~debut~

初めまして。

楽しんでいただけましたら幸いです。

「せーの!」

「よいしょ!」

暖かな寝床から産まれ落ちました。

「いい牡馬だ」

何のことでしょうか?

お母さま以外に馬は見当たりません。


はて?お母さまが馬?

では私はお馬さんなのではないでしょうか。


想像は正しかったようです。

胎盤も落ち、その1時間後には自立でき、お母さまから母乳をいただきました。

何なのでしょう。この本能というものは。

知っているとか知らないとかではなく、お母さまのお腹から生きるために必要な栄養をいただけるということが解ってしまうのは。


産まれたばかりの私の体を丁寧に拭ってくれた人間の女性めぐちゃんというらしいが、私のことを「ユメちゃん」と名付けてくれました。

牡なのだけど可愛すぎない?とは思いましたが、とねっこですから問題ないと納得してしまいました。


って……

ぇ~!私、馬に産まれちゃいました!?

理解するまで正直数時間寝藁に転がってました。


というか、お母さまを見るに農耕馬じゃなくてサラブレッドですよね。私。

これからセリに出されるのか、そのままオーナーの持ち馬として登録されるのか……

最悪、ペットフード行きなのでは?


そんな不安な中、めぐちゃんが優しく語りかけてくださいます。

「ユメちゃん。元気に大きくなって、無事にいっぱい勝ってね」

「無事に」の言葉が心に刻まれるくらい、慈愛に満ちています。

期待に応えられるようにしないといけませんね。


なんにせよ、競走馬候補として産まれたからには、正式に登録されて得賞金を稼ぐしかありません。

幸いこの牧場はそれなりの規模であるらしく、厩舎は広いようです。

レースというものは理解しているつもりです。

今はお母さまから乳をいただき、成長を待つだけですが、立派な競走馬になってみせましょう!

と決意しつつ、おやすみなさい。


--


あれから1年。

多分順調に成長したと思われます。

同世代の中でも優秀だと褒めてもらえるのは嬉しいですね。

前世で、生まれ変わったら愛してもらえる愛玩動物になりたいなんて思ってたのが実現したかもしれません。

べつにイジメにあったりしてませんし、他のコをイジメたりなんてしてませんよ?

何なら馴致で言われたことを素直にこなすだけで天才扱いされてるのが怖いです。

背中に人を乗せて走ることも慣れましたし、指示通りに走ることも覚えました。

逆に「手抜きしてるのでは?」と疑われたときには、どうしようかと思いましたが、仕方ありません(苦笑)。


ところで。

オーナーの意向で去年のセールには出されませんでしたが、どうも私のことを気に入って購入したいという調教師さんがいるようです。

私を買って損はさせませんよ、とは思っていますが、どうも値段の折り合いがつかないご様子。

聞いた(厩舎の名札見た)限りそこまで良い血統ではない、というか主流血統の傍流の仔なんですよね、私。

しかも体格はあまり大きくならず、見栄えは悪くないとはいえ評価されるかどうかと感じているのです。

小さいことは気しないようなのですが、やはり最近の傾向としては低評価な小型に見られいてるはずです。

そんな私にオーナーはいくらの値段を付けたのでしょうか……1000万切らなければ売られてもいいですよね?



……なんて、後から聞いたら(めぐちゃんが言ってた)とんでもない話でした。

オーナーは1億とか吹っ掛けたらしいです。

私にそんな価値ありますかね?

血統も良いというほどではないですし、ちょっと小柄ですし、調教では本気出しませんから、並以下の幼駒だと思うのですけど。

それでも調教師さんは何故か諦めきれないようで、後日ジョッキーの方と同伴で来訪されました。


漏れ聞こえる声を聞けば今を時めくスーパージョッキー、井原誠貴さんというらしい。

「テキ、この仔ですよ。きっと競馬史を塗り替えてくれるに違いないと見込んだんです!」

調教師さんが持ち上げてくれている。

ん~。ちょっとくらい人間の指示通りまじめに走れるだけで、そこまで強いか自信ないんだけど、と思いつつ、隣ではオーナーが

「この仔は天才だよ。正直売ったりしたくない。

 自分で走らせたい気持ちが強いんだよ」

オーナーさん。よく私の所に遊びに来てくれると思ってたけど、そんなに気に入ってくれてたんだ。

なんてちょっと嬉しくなりつつも、調教師さんと騎手さんに挨拶をする。


「賢い仔みたいだね」

ジョッキーが私の鼻筋を撫でながら言う。

「賢いというか、人間の言うことを全部理解してるそぶりがあるんだよ。まさにテキに最適の仔だと思うんだよね」

調教師がなんか不思議なことを言う。

確かに……私、今まで聞きわけ良すぎた?

なんかばれちゃダメなことがばれてる気がしてきましたよ。


「軽く乗ってみても?」

ジョッキーの言葉にオーナーは頷く。

「きっと驚きますよ」

何に驚かれるのだろうかと思っていたら、隣で用意してためぐちゃんに装鞍され、手綱を引かれた。

「トラックに行きましょうね~」

というめぐちゃんの声に促されながらトラックコースに移動する。


「では、1周してきますね。追っても大丈夫ですか?」

気軽にジョッキーが言ってくれてるが、1歳馬(もうすぐ2歳だから甘えてられませんけど)にはかなり辛いですよ?

そもそもちゃんと乗れてるだけで褒めてほしい。

「大丈夫でしょう。きっとびっくりしますよ」

オーナーも気楽なものです。

何をどうびっくりされるのでしょうか。

振り落としたら笑ってもらえますかね?

なんて、仕方ないので、鞍上の指示通りにトラックコースに入ります。

「本当に素直ではあるね」

ジョッキーがなんか言ってます。

聞き流していると、ジョッキーからの指示が入り、大人しく走り始めます。

無理して走りたくはないので、<頑張りました>くらいの速度で駆けていると、終盤、急に鞭を入れられました。

「まじめに走ってみ?」

ジョッキーから突っ込まれました。

# あ~。うん。ばれてましたか。仕方ない。

そう応えて15くらいまでペースを上げる。

「これは……」

ジョッキーは何か考えこむように追い続けましたが、ゴール時点ですぐに下馬したかと思えば、オーナーに頭を下げました。

「この仔を私に任せてもらえませんか?きっとG1……いえ、8大競争のタイトルを取りますから!」


何が気に入ったんでしょうか?

でもそれが、私とジョッキーとの出会いでした。


続けられたら、いいなぁ~、なんて

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