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第38話 藤原君の読み

 

「この時間なら帰りは車で大丈夫ですよ」


 神社の帰り。

 何故か現地にいた斎藤さんに送ってもらうこととなった。


「光輝、収穫は?」


 助手席の藤原君に斎藤さんが訊ねる。


「上々」


 会話はそれだけだったけど、二人の信頼の深さが伺えた。



 藤原君はノートパソコンを取り出す。

 画面に香島宮(かしまのみや)の上空写真が映る。


 そこに、器用に点や円を書き込んでいく。


「何の位置?」


 後部座席から夕夜が覗き込む。


「監視カメラ」


「藤原君、全部の位置確認してたもんね」


 それのせいで、三周くらい歩かされた。


「で、カメラの数と拾った電波の数がズレてるところ」


 一箇所を指す。


「まぁ何箇所かあるけど、気になるのはここ」


 よく見ると木の影に小さな建物がある。


「これ、もしかして」


「うん。(さかき)音羽(おとは)の話に出てきた奥宮(おくのみや)、かな」


「思ったよりも小さいね」


 建物というよりは蔵くらいの大きさ。


「で、これ」


 藤原君が気にしていたあの装飾のある棒の位置に点を打つ。

 点を繋ぐと、五角形が浮かび上がる。


「ね、奥宮は五角形のど真ん中」


 五角形の中心に丸――。


「見覚えあるでしょ?」


「……これ、榊家の神紋」


「“五稜鏡(ごりょうきょう)”――か」


 夕夜が呟く。


「それだけじゃない」


 藤原君がスマホの画面を開いて見せた。

 五稜鏡と同じ花びらの形を模した五角形の水盤が映っている。


 水盤を真上から見た画像に切り替え、スマホを寝かせる。


 画面の水盤をなぞるように指を動かす。


「これに水を張るでしょ」


 そして人差し指で空を指し、ゆっくりと水盤まで下ろす。


「ここの真ん中に()()を映す」


 水盤の中心を指差した藤原君は不敵に笑う。


「ね?」


「鏡の……紋」


 浮かび上がった幻像に痺れを覚える。


「水盤は毎月メンテナンスが入るらしいよ」


「じゃあ……満月に?」


 夕夜が驚く。


「明後日は満月だ」


 藤原君が愉しそうに言う。


「今も、やってるよね。なんらかの儀式」


 声を押し殺して笑ってる。


「榊天音が鍵だな」


 好戦的な目で画面の中の奥宮を見てる。


「榊天音は恐らく榊家と距離を置いている」


 藤原君が振り向く。


「どっちだろうね」


 ――そう、それが分からない。


「……榊家が、どの立場なのかが分からないと」


 夕夜が私を見る。


「俺は鏡夜を、簡単には責められない」


 夕夜の言葉に少しだけ、胸の力が抜けた。

 私たちに視線を向けていた藤原君と目が合う。


「名竹鏡夜って本当にあんなこと言うやつなの?」


「え?」


「少し話しただけだけど、そこまでな奴には思えないから」


「いや、私も」


 思わず顔を伏せる。


「あんな酷いこと言うとは思ってなかった」


「……鏡夜も」


 夕夜の声が沈んでる。


「無くしたから……色々」


 ――無くした?


 顔を上げると、夕夜は流れる景色を見ていた。


「あっ、“早妃ちゃん”――?」


 私が呟くと、夕夜の視線が戻ってきた。

 一瞬だけ、何かを言いかける。

 けれど、そのまま飲み込んだ。


 何かを諦めたように静かに笑って、視線を外に戻す。


 ――夕夜?


 夕夜と鏡夜に何かを隠されている。

 そんな気はするのに踏み込めない。


 私は何が、怖いんだろう――。


 私も車の外へと視線を移した。



「……斎藤。次のサービスエリア寄ってよ。なんか甘いもん食べたい」


「承知しました」


 ――思わず頬が緩む。

 藤原君らしい、彼なりの優しさ。


「藤原君、甘いもの食べるんだね」


「たまにね」


「脳に糖分をってやつ?」


「何それ、ただの嗜好。甘すぎるのは嫌いだけどね」


「えー、チョコは平気?」


「普通。なんでチョコ?」


「バレンタインの確認」


「あんた、大伴君の前でそれやる? あとで面倒になるの俺なんだけど」


「期待させて悪いけど、友チョコだよ?」


「まず前提が成立してないな」


「藤原は、すごい貰いそうだね」


 外を見ていた夕夜が、小さく笑う。


「去年は7個でしたね」


「斎藤」


 初めて口を挟んだ斎藤さんを睨む。


「おー、多すぎないのがリアル」


「大伴君だって貰うでしょ?」


「そんなことないよ」


「あぁ、大伴君はそうだよね」


 藤原君が納得したように笑う。

 そう言えば、貰ってるの見たこと無かったかも。


「夕夜は何個?」


「聞くかな、普通」


「どうせまた、こっそり貰ってるんでしょ?」


「なんで俺が悪いことしてるみたいになってんの……貰ってないって」


 夕夜は苦笑いを浮かべる。


「分かってないなあ、名竹さん」


 藤原君がくすりと笑う。


「大伴君は断るタイプでしょ、名竹さんの以外」


「へ?!」


「そうだよ?」


 私がたじろぐのを、いつもの余裕そうな笑みで見てる。

 最近はその顔を崩してやりたくなってる。


「……じゃあ何個断ってるの?」


「怒るよ?」


 笑顔のまま声が低くなる。

 やり過ぎたようだ。

 ミラー越しに斎藤さんと目があって、柔らかく微笑まれた。



「斎藤、名竹さんのこと見ててよ」


「分かりました」


 斎藤さんに付き添ってもらいながら、お土産を見て回る。

 色々教えてもらいながら、兄と玲香にお土産を選んだ。


 フードコートに入ると、休憩している夕夜と藤原君が女性たちの視線を集めていた。

 そこには入って行けず、少し離れたところに腰掛ける。


「藤原君、やっぱり目立ちますね」


 ソフトクリームを食べてる藤原君の色気で、あそこだけ異空間みたいになっていて、思わず笑ってしまう。


「ふふ、大伴君もですよ」


「……夕夜って、外見もかっこいいですか?」


 客観的に見てどうなのか、気になった。

 私にはもう無理だから。


「えぇ、外見()かっこいいと思いますよ」


 斎藤さんが小さく笑う。

 少し恥ずかしくなる。


「光輝がいつもやきもきしてますよ」


 二人の方を穏やかに見つめながら、斎藤さんが言う。


「え?」


「名竹さんと大伴君のことです」


「藤原君が?」


「とっととくっつけよ、って」


 斎藤さんが口元に手を当てて、くすくすと笑う。


 藤原君がそんなことを斎藤さんにも言っているなんて。

 恥ずかしいのはもちろんだけど、その “らしさ” に胸が詰まる。


「ねぇ、君たち姉妹? 可愛いね」


「ちょっとお話しない?」


「はっ?」


 隣に座っていた若い二人の男の人が会話に入ってきた。

 せっかくの余韻が一気に冷めてく。


「お断りします」


 斎藤さんが立ち上がり、テーブル越しに私の腕を引く。


「待ってよ、ちょっとした旅の思い出だよ」


サービスエリア(こんなところ)でナンパなんて非効率です」


 確かに。

 斎藤さんに引かれて立ち上がると、もう片方の腕を男に掴まれた。


「え、離してよ」


「離してくだ――」


「斎藤さん、ありがとう」


 背後から夕夜の声。


 気づけば、夕夜が男の腕を掴んでそのまま外していた。

 無言で男を睨む。


 その後ろから藤原君が、冷めた視線を男たちに向けながら近づいてくる。


「行こう」


 男たちが反応しないのを確認すると、夕夜は私の手を引いて歩き出す。


「良い旅を」


 藤原君が真顔で言った。



「なんで、そんな隙多いかな」


 しばらくして夕夜がため息混じりに言う。


「え、私のせいじゃないじゃん」


 納得がいかず、反論する。


「ゼロじゃないでしょ」


 繋いでいる手に力が込められる。


「自分たちだって、みんなに見られてたじゃん」


「見られるのと、声かけられるのは違うでしょ」


 視線が外される。


「イケそうって思われるの……俺が嫌」


「そんなの――」


「ねぇ」


 藤原君が遮る。


「あんたたちそれ、なんの立場で言ってんの?」


「へっ?!」


「まだ付き合ってもないのに」


 ため息と一緒に呆れきった視線が向けられる。


「ただのバカップルの喧嘩」


 斎藤さんの静かな笑いが響いた。


 でも――。

 夕夜から向けられる視線は、まだ気まずいままだった。

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