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幼馴染の元カノを家族だと言うのなら、私は不要ですよね。  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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005 家族という都合のいい言葉

 客間を出たその瞬間に、ため息をつきそうになる自分に少しだけ驚く。

 初めて来た人の、しかも婚約者の家でこんなにも疲労するなんて、思ってもみなかった。


 まだ客間は人がいたせいもあるのか、日が差し込み明るかったものの、廊下はどこまでも暗い。


 締め切ったカーテンのせいだろうか。

 辺りにはどこからも、日が差し込んではいない。


 なぜにここまで暗いのかしら。

 そもそもこんな陽気のいい日に、カーテンを開けない理由が分からない。


 別に隣の屋敷がすぐ近くで、のぞき見されるなんてこともないでしょうに。


 なんというか、その締め切った感じに息が詰まる。

 それに匂いも少し異様だ。


 生活臭というよりは、粉っぽくホコリっぽい感じ。


 ずっと住んでいる人間には気にならないのかもしれないけれど、少なくとも私は気になる。


 そしてやはり、どこにも人の気配もなければ、すれ違うこともない。


「あの、キーシスト様、お聞きしてもいいでしょうか?」

「ん? どうした?」


 私がおずおずと尋ねても、彼は嫌な顔はしない。

 質問さえ間違えなければ、この感じだと大丈夫そうね。


「使用人の方たちをお見掛けしないのですが」

「あー。うちは倹約家でね。基本的に自分たちのことは自分たちで行うようにしているんだ。とはいっても、最低限の使用人はちゃんといるけどな」

「そうなのですね」


 ドヤ顔でそう言う彼に、どう反応していいか分からず、私はただまた笑顔を作って見せた。


 するとその反応に気を良くしたのか、いかに倹約が大事なことなのかを力説してくれる。


「貴族だからといって、何もかもを人任せにするのはよくないことだ」

「はい……そうですね」

「自立とは、自分でやるからこそ身につくこと。花嫁修業にもそういったことが盛り込まれているんだ」


「そうなのですね」

「ああ、そうさ。うちの人間になるのだから、しっかり学んでくれないとな」


 言っていること自体は間違っていないから否定は出来ないのだけれど、何かが違うのよね。


 自分のことを自分でやるのは、別に悪いとは言わない。


 百歩譲ってそこはいいとしても、こんな広い屋敷の管理を自分たちだけでは出来ないだろう。


 だってそんなことにすべての時間を割いてしまえば、領地の経営やその他の仕事は誰がやるというのかしら。


 最低限の使用人がいるということは、たぶん洗濯などをしてくれる使用人と、料理人、あとは買い出しなどを行う外回りの人くらいってことよね。


 屋敷内を少し見た感じでは、掃除はほとんど行われていないみたいだし。

 きっと掃除まで行き届くほどの使用人がいなさそうだ。


 それってもう、最低限以下なんじゃ……。


「屋敷のことや花嫁修業については、母とマチュからよく聞いてくれ」

「マチュさんから……ですか?」


「ああそうだ。彼女はこの屋敷に来て長いからね。なんでも知っているのさ」

「ですが」


「マチュに任せておけば、大丈夫だよ。彼女はちょっと病弱なところもあるがしっかりしているし、とても優しい人だからね。きっと君もすぐに彼女を好きになるはずだよ」

「そう、ですね」


 私にとって彼女は見ず知らずの人だ。


 夫となる人の幼馴染だからと言われても、なんだかしっくりはこない。

 

 友だちには、努力すればなれるのかもしれない。

 だけど、少しそれも違う気がする。


 あの距離感。そして私を見下したように笑う感じ。


 たとえ私から彼女に寄っていったとしても、仲良くなれる未来は今のところ見えない。


 それに結婚しても、彼女はずっとああいう感じなのよね。

 ……なんか嫌だな。


 でもそれを口に出すことは許されないと思う。

 だって彼らはずっと、家族なんだからと主張していたから。


「さぁ、ここが今日から君の部屋だよ。一応必要なものは中に揃えておいたって、マチュが言ってたから問題ないはずさ。好きに使ってくれ」

「ありがとうございます」


 一階の廊下の一番奥。

 日当たりはもう、廊下自体が真っ暗なため分からない。


 だけど普通に考えて男爵家の妻が使うとは思えない部屋の位置に、私は案内された。


 たぶんカーテンを全て開けたとしても、方角的にここは日は当たらないだろう。


 うちでは物置になっている場所だ。


 ああ、ダメね。

 一度悪い方に考え出すと、どうも卑屈になってしまう。


 もしかしたらこの部屋を選んだのだって、何か理由があったのかもしれないし。


 中に入る前から、変なことを考えるのはやめよう。


「疲れただろうから、夕飯までは好きにするといい。夕食は皆で食堂で食べよう」

「はい。ありがとうございます、キーシスト様」

「では、またあとで」


 キーシストは私の手の甲にキスを落としたあと、手をひらひらと振りながら来た道を戻って行く。

 

 一人残された私は、深いため息をついたあと、その部屋に入って行った。 

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