【悲報】奄美光希、喋らない。
トイレで公認ぼっちが確定したことを知った矢木陽。彼は自分を陰キャぼっちだと自覚はしていたため他人から揶揄されてもそこまで傷つかない自信はあった。しかし、それを言う人の立場が大きいと話は変わってくる。彼はズボンを履いたまま便座に座り下を向いた。
(マジかよ...この学校こんなにノンデリだったのかよ...いや、みんなの前で大々的に言われるよりはマシだけど...)
彼は大きなため息をつき、便座から立ち上がるとそのまま自分の教室へ向かった。この日は自己紹介と1年時に返しそびれた小テストなどの答案の返却、先生による今後の授業の進め方で1日は終わった。
自己紹介の時、彼は昨年度の反省を生かし、極めて無難で、当たり障りのない自己紹介をした。
「矢木陽です。趣味は...読書です。よろしくお願いします。」
陽は集合5分前に化学実験室の横の教室に既に来ていた。扉の前には既に「非友協会」の表札が提げられていた。黒板には自由席と書かれていたので縦3×横4で置かれた机と椅子のひとつに彼は座った。教室には既に陽以外に人が来ていた。1人は明らかにここに来る雰囲気ではない感じの筋肉質なツンツンヘアの男子、もう1人は逆にここに来るのが自然な感じの小柄な女子であり、三つ編みのおさげで大きめの丸眼鏡をかけている。陽が1つの椅子に座ったとき、ツンツンヘアの巨漢:大和田照樹は陽に話しかけた。
「やあ!君もこの非友協会に呼ばれたのかい?非友の者同士、仲良くやろうじゃないか!ハッハッハッ!」
「あ、あははは...」
陽はなぜ彼が、大和田照樹がこの協会に来たのかますます分からなくなった。もう1人いた小柄な女子:奄美光希は陽に話しかけようともしなかった。彼女はずっと本に夢中のようだった。
そして時計は運命の時間、12:30を回った。
それと同時に勢いよく教室の扉が開く音が聞こえ、そちらを向くと中鉢校長が息を切らしながら教室内に入ってきた。歳をとった自分の体にムチを打って走ってきたのだろうと容易に想像できる様子で彼は話を始めた。
「や、やあ。皆の者。こんにちはー...すまないね、急いで来たもんだから...ちょっと深呼吸させて。」
彼はその場で大きく深呼吸をする。それが場を和ませるためのギャグなのか、素なのかは校長以外誰も分からない。
「ふー...よし、じゃあこれから第1回非友会議を始めようか!」
校長は話を始めた。
「昨日の始業式でも言った通り、この学校では深刻なぼっち陰キャの高入生差別が進んでいる。高校デビューをしようとここに入ったものの失敗してひとりぼっちで1年を過ごすことになる人が存在してしまっている!」
そこまで細かく言うな!と陽は言い出しそうになったが何とか抑えた。
「なんなら高入生だけじゃない。中学時代からみんなの雰囲気に馴染めなかったものや病欠などが続いて友達の輪に入ることができなくなってしまった者もいるのが現状だ。」
陽は少し驚いた。彼は中入生同士では高入生に対して行われるような軽い差別などは起きていないと思っていたのだ。そのような考えもあり、彼は校長の話を気づけば目を見開きながら聞いていた。
「まあとりあえず、自己紹介から始めようか。年上の生徒からで、いいかな?」
校長の確認と同時に大和田は立ち上がり自己紹介を始める。
「はい!3年2組 大和田照樹です!趣味はラグビー、見ることもすることも大好きです!あと筋トレも趣味です!」
彼の声量と鍛えられた肉体と趣味はあまりにも友達がいないとは言えないと場の雰囲気は語っていた。しかし彼は続けてこう言った。
「実は俺、高二の頃鬱になって、しばらく学校に来れなくて、夏休み後に復学したら気づいたら居場所がなくなってました!よろしくお願いします!」
(いや、思ったより壮絶だな...)
陽は思った。年齢順と言うとその次は多分自分だが、この人の後で自分は大丈夫なのだろうかとも思ってしまった。
「はいありがとう。じゃあ次は...矢木陽くんだね。よろしく。」
「あ、は、はい。2年3組の矢木陽です。趣味は...ええと、その...」
「朝みたいに嘘つかなくていいんだよ。」
校長は陽にゆっくりと近づき、他の誰にも聞こえないような声で耳打ちをしてきた。なんで見てるんですか!?とツッコミそうになるのを抑え、
「趣味は...ゲームです。主にパズルゲームを...やってます。」
と繋げた。
「自分は、先程校長が説明したように陰キャぼっちの高入生で高校デビューをしようとここに入ったものの失敗してひとりぼっちで1年を過ごすことになった人です...よろしくお願いします...」
陽は少し顔を赤くしながら席に座った。ここまで自分をさらけ出すのは初めてで、彼は赤くなった頬をポリポリと掻いた。
「はいありがとう。じゃあ最後は奄美光希ちゃんだね?よろしく。」
「...1年1組、奄美光希...趣味は読書...誰にも話しかけられず3年間終わった...よろしく...」
(え、早っ。)
陽は思った。場に似つかわしくない人(照樹)と自然すぎる人(光希)がいると少し混乱しそうになる。校長は口を開き自分の話を始めた。
「はいありがとう。これで自己紹介は終わりだね。じゃあこれからこの非友協会でする活動の話だけど...活動は基本的に自由だ。私は正直何も口出しする気はない。」
また本を読み出した光希以外全員(陽と照樹だけだが)声を上げて驚いた。校長以外ここはどこか委員会のようなものだと思い込んでいたのだ。照樹は真っ先に口を開いた。
「ちょっと待ってください!活動が特に決まってないってどういうことですか!?じゃあなんで朝会の時、生徒会と対立する組織のように紹介したんですか!?」
照樹がごもっともなことを言う。陽は無言で頷き、光希はまだ本に夢中だ。
「実はこの学校以外でも、一部の人間を仲間の輪から外すようなケースは少なくなくてね、私はこの学校の校長という権限を使って、そのような人達が1つの組織となって意見できる場を作るパイオニアになろうとしているんだ。そこで、厳正な審査の結果、君たち3人を呼び出したってわけだ。」
「で、でも活動内容の説明がまだ...」
陽は震えた声で話した。彼は高1の頃は波風立てないようになるべく自分からの発言を控えていたが、これだけは何故かしっかり聞きたくなったのだ。校長は大きなため息をつきこう答えた。
「君たちはもう、子供じゃないだろう?大人というのは学校の教員の場合、孤独に生徒の愚痴に耐えながら仕事をし、サラリーマンの場合、孤独に自分を抑え、クライアントや面倒な上司を相手に仕事をし、学生は、孤独に自分と向き合い、友達とかいう他人やしたくもない勉強に立ち向かう。そういうもんだろう。そろそろ自分で考えて活動してくれなきゃ、困るんだよ。」
校長は冷たい目でこう語った。誰も校長の素性は知らないが、本当に冷たい目でこう語った。
「まあそのまま突き放すのも酷か。とりあえず、生徒会の会議が5月16日にあったと思うから、そこに参加してみるのはどうかな?彼ら、今年からかなり差別的な事案を実行しようとしてるみたいだから。」
校長は再び柔らかい口調に戻り皆に問いかけた。光希は本を読み終えたのか、閉じて校長の方をいつの間にか見ていた。
「い、いいと思います。」と陽。
「はい、分かりました!!!」と威勢のいい声で照樹。
「...はい...」とレベルの高いモスキートぐらい聞こえない声で光希。と3人が了承した。
「じゃあ、ミーティング終わり。じゃあね~。」
校長は軽い足取りで教室のドアから出て行く。それを3人は目で追い、校長が見えなくなった途端、最初に照樹が口を開けた。
「こりゃ一体どういうことだ...?生徒会の会議に入り込むって聞いて思わず了承しちまったけど、それって、できるのか...?」
照樹は不安そうな顔で語った。屈強な体でかなりの脳筋に見える彼だが、実際は鬱病になるほど繊細なのである。
「う、うーん...とにかく、生徒会が何をしようとしてるか、僕たちは何も知らないから、どうしようもないですよね...」
つられて陽も口を開く。やはりいきなり生徒会とやり合うというのはハードルが高すぎるのだ。
「...5月16日までに...情報...集めれば...問題なし...」
とてもか細い声で光希が言う。
「え?いやいや、口ではそう言っても実際できるのか?そんなこと...聞いて回るにしてもここ割と生徒多i...」
照樹の声を遮るように光希が言う。
「ほとんどの生徒のSNS...私...掴んでる...」
照樹と陽は大声で驚く。彼女はただの読書中毒じゃなかったのだ。
「聞き込みも必要かもしれないけど...これはかなり使える。」
光希は比較的はっきりとした声で喋った。彼女の目はかなり真剣に生徒会に立ち向かう気であることを物語っている。
「やってやりましょうよ...せっかくだったら。輝樹先輩、僕たちがどこまで生徒会と戦えるか。」
陽が照樹の目を見て言う。人の目を見て物事を言うのは親を除いてかなり久しぶりである。
「あ、ああ。そうだな!よっしゃ!俺たちが、この高校を変えてやるぞ!!!!」
照樹の大きな声が教室中に響いた。隣の化学室に誰もいなくて陽はつくづく安心した。




