【悲報】俺、公認される。
202〇年 4月7日
世間では出会いの時期と呼ばれるのが定説であるこの時期。道を歩き、右を見ればカップルが恋人繋ぎで手を結び、向かいの歩道でも同じような情景が見える。そのような景色を見たあと、昨年はずっとクラスの端っこに追いやられていた「陰」の言葉が良く似合う高校2年の黒髪の男、矢木陽は自分の左手を眺める。そして、誰もいないという寂しさを紛らわすかのような大きなため息をつく。
(まぁ俺には無縁か...)
彼は人間関係に酷いコンプレックスを抱えていた。ちょうど1年前、彼はあえて自分が住んでた中学からかなり遠い高校を選び高校デビューを図った。中学時代に友達が少なかった鬱憤晴らしのような、そんなことも考えての行動だった。彼の行く高校、綾切第五高等学校は校則が緩く髪色を変えたり、ピアスを開けて登校をしても良かった。それにあやかって彼は髪を金にし、堂々と入学式に望んだ。しかし、彼に声をかけるものは1人たりともいなかった。ほとんど黒髪の中、希少種の金髪なのにだ。
(まぁ入学式はそんなもんだろ。明日の自己紹介で、天下取ってやらぁ!)
そして翌日、彼は地獄を経験した。
「矢木陽です!中学の時友達いなかった分巻き返してやりたいと思っています!趣味は...ゲームです!よろしくお願いします!」
同クラスの全生徒に彼が高校デビューを考える陰キャだと勘づかれたのだ。実際、こういう学校で陰キャから陽キャに成り上がるのはかなりハードルが高い。金髪にした程度では陽キャとは認定されず、ましてや趣味がゲームという陰キャ丸出しのものじゃ近寄ってくれないのだ。
しかも彼の通っている高校は中高一貫であり、彼は中学は違う場所。これが何を意味するかと言うと、彼は中入生視点ではもう友達の輪が完成している中に入ろうとする謎の人物なのだ。
そうして陽は春(4月~6月)を台無しにし、祭りなどの定番イベントがある夏(7月~9月)も空虚に終わり、紅葉が綺麗な秋(10月~11月)も葉と共に散り、手を繋ぐには持ってこいの冬(12月~3月)を犠牲にした。
そうして高校2年の始業式が始まってしまった。彼は朝の情景を思い出すことを辞めて、外に貼り出された新クラスの表を見る。
(うわ...終わった...これ、よく廊下で耳にする陽キャの名前ばっかじゃん...)
彼は顔に絶望感という名のシワを引きつらせ、指定された教室へ向かう。彼は2年3組である。
陽はふと聞き耳を立てると、始業式は例年通り体育館で行われるが、開始時間は今年度は昨年度より1時間近く遅いと聞いた。彼は一瞬なぜだろうと考えたがあの暗黒の1年を送った代償か学校に対する興味関心を失っており、すぐに考えるのをやめた。
(まあ、俺には一切関係のないことなんだろうな...表彰の生徒が多いとかそういうのか...?)
彼の学校は、中学受験を経た中入生はしっかり優秀であり、様々なスポーツの県大会、地区大会の優勝や準優勝、スポーツ以外でも優秀賞などの話はよく耳にする。陽はすごいとは思いつつも特に学校に誇りを感じたり、自分もチヤホヤされたいとは現在は思っていない。彼は1年の頃部活に入る気すら起きず帰宅部だったのだ。
ガヤガヤうるさい(陽視点)教室待機を経てようやく始業式の準備が整ったという放送が教室内に響き渡った。教室内にいた皆一斉に体育館に移動し、整列すると昨年度にはいなかった謎の若そうな女性がステージ上に立ち話を始めた。
「ええ皆さん、静粛に。」
彼女の見た目とはかなりイメージが違う貫禄のある女声に陽キャ陰キャ問わず皆黙った。体育館内が怖いほどの静寂に包まれた中、彼女は再び口を開いた。
「静かにしていただき、ありがとうございます。私は新教頭の左京由紀と申します。よろしくお願いします。」
体育館内に拍手が巻き起こった。といっても、誰も本気で拍手をしていない、乾ききった拍手。
「これから始業式を開始します。まずは校長の話から、校長先生よろしくお願いします。」
彼女がそういうと、舞台裏からまたもや昨年度にはいなかった新しい校長が出てきた。見慣れない校長の顔に体育館内の生徒は整列した時以上にざわついた。
「え?教頭も校長もどっちも変わるの...?」
「ていうか、あの校長結構若そうだよな...」
「前の校長まだ1年目だったよね...?問題でも起こしたのかな...?」
「教頭のタイツいいなぁ。」
皆、言葉の節々に不信感や不安を出しながら話しだすと、まだ30代前半ぐらいに見える男性の校長が口を開いた。
「皆さん!!!!!おっはーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!」
体育館内がどよめいた。流石に古すぎるだろという顔の教師陣、色んなことがありすぎてパンクした顔を浮かべる一部生徒、ただ呆然と校長を見る一部生徒、早くも新教頭に惚れかけている一部生徒など多種多様であった。
「あれ...少し古かったかな...?まあいいか。私はこの綾切第五高等学校の新校長、中鉢誠三です。よろしくお願いします。」
教頭の時と同様、感情のない拍手で体育館が包まれた。
「今回、1時間ほど始業式を遅らせてしまい申し訳ございませんでした。この理由はあとで話す弊学の新たな活動が関係しております。順を追って話します。」
生徒の困惑を横目に校長は続けて話した。
「私はこの度この高校に初めて来て、それで校長をさせていただくという機会を頂きましたので予め、学校の授業の様子、施設、生徒の雰囲気などを昨年度下見させて頂きました。結論から申し上げますと、この高校は大変素晴らしく、授業の内容やレベルも申し分なく、理科などの実験設備も充実しており、学生たちの笑顔も多い素晴らしい学校だと感じました。」
校長の言葉を聞き、先程は困惑で包まれた体育館の雰囲気は多少柔らかくなった。教師陣は特に、授業を褒められてさも嬉しそうな反応をしていた。
「ですが、問題点も多少なりともありまして、それが、仲間の輪が強すぎることなんですよね。この学校は中入生に新たな風を吹かせるという名目で高入生制度を採用しており、全校生徒が皆友達のようになることを我々教員は望んでいるのです。でもそう上手くはいかず、中学生時代に共に3年間を過ごした仲間を中入生は皆選びます。あ、もちろんこれはしょうがないことなんです。急に来た謎の人物も仲間に加えようとするなんて、漫画とかアニメの主人公じゃあるまいし。」
新校長は丁寧語の中に砕けた言葉も多少入れることで少し柔らかい雰囲気を出そうとしたが、言葉の節々にある毒に体育館全体は気まずい雰囲気が流れた。
「このようなことから、一部の高入生は教室の隅が唯一の居場所となってしまい、自尊心や発言権も失ってしまっている。これが我が校の現実と私は捉えたのです。なので、校長になるのであればいっその事なにか大きな策を打とうと思ったんです。」
体育館内の気まずい雰囲気の中、矢木陽だけは人一倍目を輝かせていた。ここまでストレートに自分の学校の現状、本質、真実を突いてくる大人はこれまでにいなかったのである。彼は久々に関心を露わにして話を聞き続けた。
「3階の化学実験室の右隣、あそこずっと空き教室でしたよね?あそこを「非友協会」として運営をさせて頂きます。」
体育館内が「?」で包まれた。今日だけで随分忙しい体育館である。だが、困惑するのも当然で校長や教頭、その他の教師陣以外はこのことどころかこの言葉を知らなかったのである。
「え?ヒトモ?協会って何?」
「まずヒトモってなんだよ!?」
「確かに化学実験室の横ずっと空いてたけど、あんなところに?」
「教頭のタイツいいなあ。」
またもや生徒がざわつき始めたので新教頭は手を叩き、会話を止めるよう合図を送った。そして彼女は校長に耳打ちで皆に聞こえないような声で話し始めた。
「校長、皆困惑してます。校長の造語なんていくら優秀な生徒だとはいえ、理解できる人なんていません。」
「ハハッ、そうだったね。皆すまない。非友とは、非売品の『非』に友達の『友』を重ねた私の造語だ。つまりこの非友協会は、弊学生徒の友達がいない人を集め、そこで生徒会を与党と置いた野党組織として活動して欲しいんだ。友達のいない自分らの人権を主張するものとして、ね。」
また体育館内は困惑に包まれた。知らない造語をいきなり使われたと思ったら今度は与党野党と始業式では絶対に出てこないワードが出てきたのだ。
「何この人たち...怖い...」
「なんでこんな人に校長任せたの...?」
「教頭のタイツいいなぁ。」
ザワつく生徒を無視するかのように校長は続ける。
「ということで、この非友協会は明日開きます。今回の始業式が遅れた理由はこれをどのように伝えるかがあまり定まっていなかったためです。改めて申し訳ございません。これで校長の話は終わります。」
こうして衝撃の連続であった校長の話は終わった。この後は新教頭が司会となり表彰など色々なことをしていたが、校長の話が強く残ったのか、ほとんどの生徒があまり話に集中できていなかった。
放課後。この日は始業式だけで1日は終わった。新クラスでもぼっちがほぼ確定した矢木陽は新校長:中鉢誠三の言葉にかなり心を動かされていた。下校中、彼は一人で考え事をしていた。
(まさかこの学校の高入生制度に疑問がある大人がいるなんて思わなかったな...)
同時に彼は少し恐怖を抱くこともあった。校長が語る高入生の現状があまりにも彼にとって図星だったからだ。非友協会という謎の組織に彼は勝手に入れさせられるのかもしれないと恐怖していた。
(なんなんだよ非友協会って...ていうかそんな教室の隅にいる陰キャが進んで話し合いに参加って、陰キャが学校ではどう扱われてるのか知ってるのか?教師陣は。)
この綾切第五高等学校では陰キャの意見はまず受け入れられない。手をあげれば発言させてはくれるものの、ほとんどが陽キャの意見にかき消されてしまうのだ。その事実を知っている陽はそのことを強く警戒した。
彼は電車を経由して自宅に着き、母親:矢木知佳と会話をした。
「母さん、ただいま。」
「あぁ、おかえり。始業式どうだった?」
彼の始業式の印象は非友協会という謎の組織の設立でいっぱいになっていたが、これは話さないことにした。母は彼が学校でぼっちということに薄々気づいているのだ。それ故に話せなかった。
「あぁ...校長と教頭がどっちも新しい人になったよ。」
「ええ!?教頭はまだしも、校長って前の人まだ1年目だったわよね!?何があったの?」
「いや、詳しくは聞かされてないんだよ...」
小さな会話を終えると彼は食事、風呂、歯磨きなどごく一般的な日常のルーツを終え眠りについた。
次の日。陽は眠い目を擦りながら起き、朝食を食べ学校へ行く。
「母さん、行ってきます。」
朝の洗濯などで忙しく、聞こえてなさそう母さんを横目に彼は学校へ行く。
学校へ着き、クラスを間違えないように自分の下駄箱を開けると、何やら茶色の封筒が入っていた。宛名には「矢木陽さんへ」と書かれていた。
(まさかこれ...ラブレター?でもこんな茶封筒にラブレターって入れるか?)
疑問を感じた彼はトイレの個室に行き、封筒を開けた。中は折られた白い紙1枚のみであり、こう書いてあった。
『認定 あなたの高校1年時での活躍を拝見し、見事に非友協会に認められたことをここに記します。放課後、12:30に非友協会本部(化学実験室の右隣)にお集まりください。 202〇年 4月8日』
彼が、矢木陽が恐れていたことが、現実になってしまった。矢木陽は学校公認の陰キャぼっちになってしまった。




