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長い長い雨の日に…

作者: のりもっち
掲載日:2025/10/11

雨の日に思いついた、雨の日って何か怖いね\(^o^)/

ー これは、とある雨の日の話。ー



初めて"それ"を体感したのは、高校に上がっで間もなくの暗く寒い雨の日だった。朝早くからザァーザァーと降り続ける雨に、私はうんざりし、ため息をついた。雨の日は嫌なことが多すぎる。頭には鈍痛が走り、髪の毛は湿気を最大限含みタヌキの様になる。冷え性の私にはしんどくなる位の気温が続き、教室の机に突っ伏した。こんな日はすぐに帰ってしまおうと残っている授業を聞き流し、放課後のチャイムを待った。



ようやく小気味の良い音で、キーンコーンカーンコーンと間延びしたチャイ厶が鳴った。少し雨が落ち着いている内に早足で帰ろうと、鞄に教科書や筆箱を乱雑に詰めた。肩にかけて勢いよく教室を飛び出た。途中で幼馴染とすれ違い、声をかけられた。急な声かけにキュッと廊下を鳴らして、足の速度を落とした。



「よぉ、そんなに急いでとうしたんだよ?廊下濡れてるから滑るぞ。」

「雨降ってるから急いで帰んの。アンタも早く帰ったほうがいいよ!こんなんじゃまたいつ強くなるか分かったもんじゃないから。」

「俺は部活なんだよ、こんな日ぐらい帰りたいもんだな。」



軽口を交わして、別れを告げた。私はバタバタと階段を下り、靴を履き替えるために昇降口を目指した。教室を早めに出てきたお陰で、靴箱は混んでおらずにすんなりと履き替えて、校門を出るために走り出す。軽快に走り出し、学校から家へと進んでいく。ポツ、ポツと少しずつ大粒の雨が落ちてき始めて、もうっ、まだ着いてないのに、と悪態をついた。大粒の雨はやがて、ゲリラ豪雨の様に激しくなり、近場の屋根がある所に避難する。寒さで少し体が震えた為、風邪を引きそうだと思って横にある自販機で温かいお茶を買う。お茶で体を温めつつ、濡れた体をハンカチでぬぐった。



「この雨、いつ止むんだろ。」



鋭く降り続ける雨の中、呟いた。私は高校の校則で、スマホの持ち込みを禁止されており、自宅に置いたままで天気予報を確認する術が無かった。お茶を飲み、雨をぼんやりと眺め続ける。しばらくすると、また段々と雨が弱く、雨粒も小さくなっていった。これが最後のチャンスとでも言いたげに、屋根の下から出て走り出す。制服が水分を吸ってとても重かったが、何とかゆっくり走っていき、家の近くにある公園が見える所まで来ていた。もうすぐ家に着くと足を早めた時、何か視界に映った。反射的に足を止め、公園の方を見た。こんな雨の中、女性が1人公園の隅っこに立っていた。少し不気味に思いながら、私は公園から視点を外して家に帰った。



「ただいまー、雨すごかったよ。」

「おかえり、びしょびしょになったでしょ。先にお風呂行きなさい。」

「はーい。」



玄関に入り、キッチンに向かうと母が夕飯の準備をしていた。良い匂いでお腹が鳴りそうだったが、ぐっと堪えてお風呂場に移動する。制服を洗濯に出し、お風呂で体を癒やした。浴室に入ると、途端に湯気が溢れだし体を包み込む。軽くシャワーで体をひとしきり洗い流し、湯船に足を入れた。冷えていた体にはお湯が染み渡り、少しチクチクとしたがすぐに馴染んだ。体にじんわりとお湯の温度が染み渡り、思わず息を吐き出す。冷えた体が柔らかくなってきた。



「今日は疲れたなぁ……公園のあの女の人なんだったんだろ。」

「まぁ、見間違いかな。流石にね。」



お風呂で存分に体を温め、ふーっと息をつき湯船に肩まで浸かる。存分に手足を浴槽の縁に載せ胴体を沈める。口からぶくぶくと息を吐き出しながら、今後の学校生活を思い浮かべる。まだクラスメイトとお喋り出来ていなくて、少しの不安が心にあった。ちゃんと友達出来るかな、部活動の申請書も、もうすぐ提出しなきゃとモクモクと考え事が、雲のように広がった。うーんうーんと考えている内に、少しのぼせてきていた。これは大変だと思い、ゆっくりと浴槽から出て、脱衣所に向かう。バスタオルで体を拭き、熱を逃がす。母が置いておいてくれた水をこくこくと喉に流し、一息ついた。最後に髪を乾かし、脱衣所から出た。



「長風呂だったわね、のぼせてない?」

「大丈夫、水飲んだから。ちゃんと温たまったよ。」

「それは良かった、もうすぐご飯ができるわ。お皿の準備してくれる?」

「今日は何?晩ごはん。」

「今日はシチューよ。ご飯かパンか選んでね。」



晩ご飯を聞き、舞い上がる。シチューは私の好物だ。やったぁとはしゃぎながら皿を出し始める。せっせせっせとテーブルのセットを進め、晩ご飯が出来るのを待った。待っている間に明日の準備と課題を済ませようと思いつき、鞄から課題と筆箱を出してやり始める。カリカリとシャーペンをノートやドリルに走らせて、問題を解いていく。するとドアがガチャッと開いて、兄と父がそろって帰ってきた。やっとご飯だ!と急いで課題達を乱雑に片付ける。後ろからパタパタと軽いスリッパの音が響き、父と兄を母が出迎えていた。



「おかえり、外は雨で寒かったでしょ。」

「ただいま、母さん。僕たちが帰ってきた時は雨止んでたよ、タイミングが良くて助かった。」

「お兄ちゃん、お父さんおかえり!もうご飯できてるよ!」

「もうこの子ったら、温かい内にみんなで食べましょう。」



各々部屋着に着替えたり鞄を部屋に置き、キッチンに集まる。ダイニングテーブルには。ホカホカと湯気を立てるビーフシチュー、色彩の凝られたサラダボール、カリッと焼かれたトーストが置かれていた。母が人数分サラダを小皿に盛り付けて、各自でご飯か、パンを選び自分の前に置く。頂きますと挨拶をして、他愛ない会話をポンポンと飛び交わし、穏やかな食卓になった。自分の好物でテンションが上がりながら食べ進めていく内にふと思い出し、兄と父に聞いてみた。



「そういえば、私が帰ってくる時に公園の隅っこにね、女の人が立っていたの。2人の帰りの時にもまだ居た?」

「いや、そんな人は見かけなかったな。」

「やっぱり見間違えたのかな…。傘も差さずにずっと立ってたよ?ちょっと不気味で怖かった。」

「ふむ。不審者かもしれないから、気をつけなさい。」



父が私と兄に向けて、注意喚起をする。物騒だなぁとあまり気にせずに晩ご飯を平らげた。自分のお皿を下げてシンクに持っていこうとした。その時、、、



ガシャンッッッ!!



持っていたコップを落としてしまい、大きな音を立てて砕けた。母が慌てて破片を集める。ケガはないかと聞かれて、大丈夫だよと答えた。母にコップを割ってしまった事を謝って掃除機でコッブの割れた場所を満遍なく吸い込んだ。特に手を離したわけでも、傾けて落としたわけでもなく何故か落ちた。少ししょんぼりと気落ちして、自室に戻り始めた。兄と目が合い、話しかけられる。



「何か変だそお前、疲れているのかもしれないな。」

「そんな事ないと思うんだけどな…。」

「今日は早く休んだほうがいいぞ。」

「そうする、お休みお兄ちゃん。」

「お休み。」



明日の準備を整え、いそいそとベッドに入る。大分寒い日だった事もあって、中々布団が温まり難かったが、段々自分の体温で布団が温まり、睡魔が訪れる。ウトウトと布団の中で船を漕ぎ出し、そのまますっと眠りについた。目覚まし時計が鳴る頃まで、すやすやと布団の中で眠った。この日学校から走っては沢山体を使い、疲れていたので夢を見ることはなかった。寒い部屋の温度で無意識に身震いをして布団をぐっと被り直した。時計のカチカチと言う音が、部屋に響いていた。



朝になり、ジリリリリと目覚ましの強烈な音で目が覚める。のっそりと掛け布団を押しのけて起き上がる。布団の外の温度は鋭いくらいに冷たくて肺に吸い込むと気持ちがスッキリした。よたよたとベッドから這い出して、朝の支度をする。制服に袖を通して、鞄を持ち、下の階へ向かう。トントンと階段をゆっくりと降りて、リビングへと向かった。そこには既に朝食が用意されていて、先に兄が食べていた。兄と母に、おはようと声を掛け、カバンを隣の椅子に置き、私も椅子に座る。母に早く食べなさいと促されて、もそもそと食べ進めていく。お味噌汁を啜り、おかずを口に運んでいく内に、体がシャキッと起き始めた。残さず食べ終わり、お皿を下げて玄関に向かった。



「行ってきまーす!」

「いってらっしゃい、車に気をつけるのよ。」

「分かってるって、子供じゃないんだからね!」

「何言ってるの。まだまだ子供よ、早く出ないと遅れちゃうわよ。」



ふふっと笑いあって、玄関を出た。昨日の雨が嘘の様に太陽が輝いていた。良い天気だと晴れやかな気持ちになり、足取りが軽くなる。スキップをしているかの様に学校に到着し、靴を履き替えて教室に入る。見知った顔に朝の挨拶を交わし、1時間目の用意を始める。2時間目、3時間目と過ぎ去っていき、放課後の時間が近づいてくる。チャイムが鳴り、職員室に入部届を出しに行く。結局、一番最初にパンフレットを貰った弓道部に決めた。見学に行った時、とてもカッコよく瞳に映ったのを思い出して、入る前からドキドキしていた。どんな事をするんだろうと気持ちが膨らむ。



家に帰り、私は母に弓道部に入る事を伝えた。とても上機嫌に話していたお陰で、母からも頑張りなさいねと応援を貰った。明日はとうとう入部をして、活動が始まる日だとワクワクしながらベッドに入った。眠りにつくまで、明日の事を楽しみにしながらウトウトと眠りについた。その日は、自分が部活動に参加している夢を見た。弓道着に身を包み、的を射ている。その姿がかっこよく見えて、うふふ、と夢を見ながら私の顔はニヤけていた。



翌日家を出ると、ばったりと幼馴染に会った。おはようと声をかけて近寄ると、その友達はぎょっとしていた。何だろと訝しげにそいつを見る。ちょっと複雑そうな顔で挨拶が返ってくる。何か私の姿が変なのかと聞いてみた。幼馴染は私の後ろを異様に気にしていた。そういえばこいつ、昔お化けが見えるなんてことを言っていた事を言っていたなと思い出して、顔が青くなる。



「いや、そんなんじゃないんだけど。お前何か変なことしたか?」

「いや?何もしてないけど。何か顔についてたりする?」

「目と口と鼻しかついてないな、強いて言うなら寝癖がついてる。直してこなかったのか?」

「え!?まだ付いてるの!必死で直したのに!!」

「ははっ、早く行こうぜ。遅刻する。」



寝癖をからかわれ、かあっと顔に熱が集まる。お化けだ何だと頭の中で騒いでいたのが馬鹿みたいだった。学校に着くまでにどうにかしないと、と鞄から櫛を取り出して、櫛で必死に梳かしていく。スプレーをかけて整えてどうにか寝癖は治った。この日は朝から雨が降りそうな空模様で髪が湿気を吸い込み、纏まりが悪かった。髪の纏まりが悪いと、その日のモチベーションが中々上がらず、気落ちしたまま学校に着いた。



何の変哲もない授業でノートを取り、先生の所まで課題を提出しに行く。午後からは体育が一発目にあり、バタバタと体操服を入れたバッグを引っ掴み、更衣室へ向かった。遅れて足を踏み入れ、ロッカーで丁寧に服を畳んで体操服に着替え、グラウンドへ向かった。今にも雨が降り出しそうな空の色と、鼻に入ってくる雨の匂いに体育が億劫になってしまった。集合の合図に一瞬びっくりし、遅れてしまう。小走りでみんなに付いていき、準備体操に入った。今日の内容は持久走だった。一番苦手なものがよりによって今日か、運がないなぁ…ともたもた最後尾に近い所を走る、もうすぐ完走だという所でポツポツと雨が降ってきた。嫌だなと感じつつ、ゴール直前で足を速めた。肩で息をして、クールダウンをしに周りを歩く。雨足は少しずつ強くなっていた。先生が号令を掛けて、皆で校舎に入る。昇降口に入る瞬間、視界の端に公園で見た女性が映った。



雨が弱くなった頃、待ち望んでいた放課後がやって来た。はやる気持ちを抑えて廊下を早歩きで進み、弓道場へ向かった。更衣室で体操服に着替え、部活のミーティングが始まった。先ずは、部活動の内容、先輩の紹介と始まって、新入生の自己紹介が始まった。ドキドキしてどうにかなりそうになったが、声を絞り出し最低限の挨拶をした。淡々とみんなの自己紹介が終わり、先輩について練習を始めた。初日はクタクタになって、学校からの帰り道がいつもより遠く感じた。トボトボと疲れを纏って歩き、家の玄関に着いた。ガチャッとドアを開けて、弱々しい声で帰りを告げた。



「ただいまぁー……。」

「おかえり。あら、疲れてるわね。部活はどうだった?」

「初めてなことばっかりで大変だったぁ…慣れたら楽しくなるかな?」

「良い事ね。鞄を置いて、着替えていらっしゃいな。」 

「はーい。」



ボフッとカバンをベッドに投げて一息つく。疲れが溜まっているせいで、目がシパシパしていた。寝てしまう前に部屋着に着替えて階段を下りた。下に行くにつれて美味しそうな匂いが漂った。どうやら今日は揚げ物をしているらしい。ジュワジュワと良い音を鳴らしながら、お味噌汁の匂いが鼻を突く。ぐううとお腹が鳴って、急ぎ足でキッチンへと向かった。キッチンに入ると、もう既にセッティングは済んでおり、父と兄が座って待っていた。今日は兄の好物がそろった食卓だった。



「すごい美味しそう!今日はお兄ちゃんの好きな物が勢ぞろいだね!」

「今日は前もって母さんにリクエストしたからな、楽しみにしてすぐに帰ってきたんだ。」

「お兄ちゃんてば、食いしん坊さんだねー」



お兄ちゃんが少し顔を赤らめてからかうなと少し口を尖らせて言う。それが面白くて笑って謝る。しょうがないなぁという顔をしながら、兄はご飯が出来るのをソワソワしながら待っていた。母がおかずの乗ったお皿をテーブルに置き始める。私はそのお皿を皆の前に配膳してくる。配り終えて、自分の席に着く。隣にはお母さんが居て、皆で食べ始める。やっぱり皆で食べるご飯は良いなと温かい気持ちを噛み締めて、食べ進める。わいわい食べながら、今日あった出来事を思い思いに話していく。皆が話し終わる頃に、目の前のお皿は空になっていた。お皿を下げて、少しリビングで休憩する。ふと、兄が学校で聞いた噂を話してくれた。



「そういえば知ってるか?学校で聞いた話なんだがな?」

「雨の日にだけ姿を現す、髪の長い女の人が居るらしい。」

「その人とは、目を合わせちゃいけないんだ。着いてきてしまうから。」

「お前も、気をつけなきゃ憑いてくるぞ???」



兄は私が先程からかった事を根に持っているようで、ニヤニヤしながら怖い噂を話した。私は怖い話が得意ではなかったので、顔を青ざめさせながら聞いていた。そんな私を見て、少し罪悪感を感じたのか兄が慰めてくれた。ただの噂だよと頭を撫でてくれた。怖さが紛れて、私も今日の部活の事、授業の事をポンポンと話し始める。うんうんと兄は聞いてくれて、満足げに私は部屋に行った。課題を進めて明日の用意をし、眠りにつく。今日は少し寒かったので、母が湯たんぽを入れていてくれた。その温かさですぐに眠りに落ちた。



そんな平凡な日常が進み、私にも少しずつ友達ができていった。最初は同じクラスから一緒に弓道部に入った女の子だった。同性の友達が出来て、とても嬉しかった。6限目までの授業が終わり、その子と一緒に部活へ向かう。あれこれ話している内に弓道場につき、着替え始める。今日から本格的な練習が始まると昨日先生が言っていた事を思い出し、お互いに頑張ろうと励まし合った。本格的な立ち稽古、ゴム弓を使った練習を短時間で速いテンポで行い、腕の筋肉がぷるぷると痙攣していた。やっと部活の時間が終わり、着替えを済ませ帰路につく。友達を一緒に帰ろうと誘い、道を進んでいく。驚いた事に私と同じ方向に友達の家もあったので、長い時間お喋りをして帰った。先に友達の家を通って、お別れする。その後すぐに家が見えてきた。公園をちらりと見る。今日は雨じゃないからと少しホッとして玄関に入った。



季節は春先から、夏の初めに移り変わった。制服も半袖になり、学校生活も段々と満喫できるようになっていた。相変わらず友達とは仲良くできており、軽口を叩ける気の置けない友達となっていた。部活でも助け合い、授業で分からない所を教え合ったりと充実した生活を送っていた。慣れたように授業でノートを取り、放課後を待った。2人で部活に行き練習を始める。すると、友達が喋りだした。他愛ない会話を弾ませる。ワイワイと色々な会話のキャッチボールを交わし、天気の話題になった。



「そういえば、今年は梅雨入りが早いみたいだね。ニュースでやってたよ。」

「もうそんな季節か。雨が続くのは嫌だなぁ…。」

「髪がボサボサになるから私も苦手だなぁ。部活が休みになるわけでもないしね。」

「外運動部は良いなぁ、グラウンドだから雨の日は少し早く帰れて。」



梅雨の時期が来ると知り、げんなりしてしまう。また頭が痛くなっちゃうなぁと憂鬱に感じた。その日は早々に練習を切り上げて先輩たちが使っていた道具の手入れなどの片付けを皆で行った。ピカピカに仕上げて元あった場所へ戻す。友達がやっと帰れると呟く。ここしばらくはのっぺりと分厚い雲で空が覆われていた。いつ降り出すか分からないような空とにらめっこしながら帰路につく。会話をそこそこでいつもより早いスペースで家まで急いだ。友達と離れ離れになり、公園が見えてきた頃には少し降り出していた。そっと目を公園に向ける、雨の日に公園を見るのは何となく癖になっていた。周りを見てみると、今日は女性は居なかった。あぁ、良かったと思った。だがしかし、女性は公園の入り口に立っていた。ゾッと鳥肌が立ち、走って家に入った。乱暴にドアを開け、人がいる方向に駆ける。リビングのドアをバンッッと開き、母に抱きついた。



「あら、どうしたのよ?こんなに慌てて。」

「お母さん、聞いて。公園に変な女の人が居るの。」

「お母さんさっきまで買い物に出かけていたけど、そんな人いなかったわよ?」

「ほんとに居たの!!雨の日に必ず居るの!どうしよう、お兄ちゃんの言ってた事が本当なら……」

「とりあえず落ち着きなさいな、ココア入れてあげるわ。」



母に宥められて、体の力を抜く。見間違いなんかじゃない、絶対にあそこに居たと訴えるが、取りつく島もなく躱されてしまう。もどかしい気持ちと、怖い思いが心を支配しその日は中々寝付けなかった。これから雨の日が続く、どうなっちゃうんだろと不安で頭がいっぱいだった。その様子を見かねた母が兄をたしなめて、一緒に布団で寝てくれた。久しぶりに一緒に寝る事もあり、少し恥ずかしくなってしまうが、そんな事より安心して寝付ける事が何よりも嬉しく感じた。寝る前に母に抱きつき、おやすみの挨拶を済ます。恥ずかしさなんて秒で飛んでいってしまった。怖いものは怖いのだ、この日は母と手を繋ぎながら眠った。



この日は大雨だった。朝から窓が割れそうなくらいバチバチと叩きつけられ、大きな雷がなっていた。ビクビクしながらも学校の用意をして、覚悟を決めて外に出た。昨日の内に、明日は一緒に登校しようと友達に連絡を入れていたため、1人での登校じゃなくなりホッと胸を撫で下ろした。母、兄と一緒にゆっくりと朝ご飯を食べて、学校に向かう準備をしながら友達を待った。ピンポーンとインターホンの鳴る音が響いて、元気な友達の声が聞こえた。玄関から顔を出すと、友達は驚いたような顔で私に声をかけた。とても心配そうな表情で私に話しかける。



「ちょっと大丈夫!?酷い顔色してるよ。」

「うん、ちょっとね……。」

「学校に行きながら話を聞くよ?」

「ありがとう、実はね……」



友達と合流し、学校に向かう。気を紛らわすように会話に集中して学校に到着した。今日は1日外に出る授業はなかったので、教室で友達と何でもない事を話したり、最近の気になっている事や好きな事をポイポイ話していった。とうとう放課後がやってきてしまい、帰る時間になった。生憎、友達は用事があって、私1人での下校となった。あまり周りを見ない様に歩いて行くが、どうしても見回してしまう。キョロキョロと見ては歩きを繰り返して、公園に着いてしまった。例の如く、公園を見渡す。相変わらず入り口に女性は立っていた。その時、いつもは下を向いて俯いていた首が、上を向いて顔が見えてしまった。生気を感じさせない青白い様な肌にカサカサの唇、さらには真っ黒に見えるような血走った目をして、じっと立っていた。寒気が一気に湧き上がってきた。不意に女性の身体の横から枝の様に骨と皮しかない腕が、下から上へと持ち上げられた。耐えられなくなり、持っていた傘を放り出しその場を走って逃げ出した。ドクドクと心臓を鳴らしながら、家へ走っていく。頭を真っ白にしてただひたすらに走った。



玄関のドアを壊れるかと思うくらい乱雑に開け、中に入った。すぐさま振り返って鍵をガチャリと閉める。家に入った安心感と体の疲労で、ドアにズルズルと凭れかかった。しばらく呼吸を落ち着けて、辺りを見回す。こんな日に限って誰も居なかった。冷えた体を擦りながらゆっくりと立ち上がり、階段を登って自分の部屋に向かった。トン、トン、トン、、と足音を鳴らして登っていると、ドアが開いた音がした。母が帰ってきたんだと思い、踵を返して下の階に降り始める。しかし、母の声は一向に聞こえてこず、代わりにピチャ、ピチャと水の滴るような音が聞こえた。ドクンッッと心臓が大きく脈打ち、踵を返して自室に戻った。まさか……入ってきちゃったの?と混乱する頭を必死に動かして、頭からすっぽりと布団を被る。体が雨のせいで芯から冷えており、ガクガクと震え出す。耳の神経が研ぎ澄まされ、外からの雨の音や、他の生活音、自分の呼吸の音ですらとても煩く感じた。必死に布団を握りしめ、嫌な気配が過ぎ去るのを待つ。



「お願い……早くどっかに行って………。」

「お母さん………早く帰ってきて……。」



心細く耐え忍んでいると、自分の部屋のドアがカチャッと小さい音を立てて開かれる。どうしようとパニックになり、勢いよく布団から顔を出した。閉めたはずのドアは少しだけ開いていて、そこから母が顔を出していた。予想外の出来事で一瞬呆けてしまったが、次第に体の力が抜けて涙が溢れた。そんな私を見て母が驚いた様な、焦っている様な、そんな顔をしてベッドの側に駆け寄ってきた。スーパーで買ってきた物を腕から投げ出して、私の側により頭や体を撫でて落ち着かせてくれた。私は小さな子供の様に、声を上げて泣いた。母はしばらく何も聞かずに抱きしめて、背中を擦ってくれていた。暫くして落ち着いてきた頃に、私に問いかけてきた。



「何かあったの?こんなに服も体も濡れたままベッドに潜って…。」

「風邪引いちゃうわよ?」

「ゆっくりでいいから、話してみて。」



母の優しい声を耳に入れて、ぽつぽつと話し出す。公園で女の人を見た事や、家に入ってきてしまったかもしれないという事、怖くなって布団に潜っていた事を嗚咽混じりに話した。その時に傘を無くしてしまった事も、申し訳なくて謝った。母はそんな事は気にしなくていいのよと笑って言ってくれた。学校で流行っていた噂は母の耳にも入っていたらしく、梅雨が終わるまで学校を休んでいてもいいのよ?と頬を撫でながら提案してくれた。その提案に頷いて、母はその場で学校の先生に連絡してくれた。私も一時的に学校を休むと友達に連絡を入れた。



「まったくもうっ、お兄ちゃんが脅かすから!ずうっと女の人が見え続けたら、お寺に行ってみようね。」

「うん。ありがとう、お母さん。」

「良いのよ、娘がこんな状態になってたら心配するものよ。」



部屋の電気もつけておらず、パチンとスイッチを押した。あまりの明るさに目の前が真っ白になった。母に促されて、着替えを持ちお風呂に向かう。母は先に下の階に降りて、晩ご飯の準備をするらしい。私はあまり気乗りせず、階段を俯き気味にゆっくり降りていく。下の階につき、廊下を見やった。玄関からリビングまでの床が薄っすらと濡れていた。ゾワッと少し怖くなってしまったが、あまり考えないようにしてお風呂場に向かう。すぐにお湯を溜め始めて、その間に制服を洗濯に出し、着替えを近いところに置いておく。ヘアゴムで括っていた髪を解き、櫛で少しずつ梳かしていく。雨で広がり、濡れていたので中々梳かすのが大変だったが、何とか手ぐしで通るくらいになった頃に、お湯が溜まった合図の音が鳴った。肌着を取っ払い洗濯に出して、浴室に入る。軽く体を流して湯船に浸かる。体が温まってきたら、体がほぐれて心にも少しずつ安寧が訪れた。



「はぁ、、疲れたな、散々だった。」

「もう早く忘れなきゃな、今日の事は。」

「ふぅ……学校にしばらく行かないからちゃんと部屋で勉強しなきゃ。」



浴槽の中で1人呟いた。よく体が温まり、浴槽を出て脱衣所に向かう。いつも通りに体を拭いて、着替え始める。髪を乾かす為にドライヤーを戸棚から出して、コンセントに挿した。乾かし終わってドライヤーをしまう。自分が使ったタオルなどを洗濯機に入れて、床に落ちた髪や糸くずを掃除していると、不意に首筋にピチョン、と雫が垂れてきた。ひゃっと体が跳ねて、首筋に手を当てた。大きな雫が背中に伝い、お風呂に入ったばかりなのに…と嫌な気分になった。そのまま手で首筋の水分を拭き取っていたその時、不意に手に何かが当たった。髪でも服でもない、冷たい様な、細い枝の様な物が私の手を包んでいた。冷や汗が噴き出し、そろっと前にある鏡を見た。そこには私の手を掴んで離さない、雨の日に公園に立つ女が居た。



「キャアアアアアアアアアア!!!!」



私は腰を抜かしてそのまま床にへたり込んだ。女が段々と近づいてきて、両手で顔を覆い私と目を合わせた。私は恐怖のあまり、失神した。女が私の耳元で囁いた。私の耳にしっかり届く様な、低く濁った様な声だった。遠くで廊下から、バタバタと音がしていた。母が私の悲鳴を聞きつけて、こちらに来ている音だった。



「ミチャッタミチャッタミチャッタミチャッタミチャッタミチャッタミチャッタミチャッタミチャッタミチャッタミチャッタ。」



そのまま意識を失い、私は病院に居た。どうやら両親に担ぎ込まれた様子だった。私は倒れる時に頭を打ってしまった様で、軽い脳震盪を起こしていたようだった。記憶も混濁しているらしい。私が病院に運ばれる前の出来事を母と父が話して聞かせてくれたのだが、何も思い出せずに、家に帰る事になった。体の様子を見て、しばらく安静にと言い渡された。車に乗り込み、家へ皆で帰っていく。梅雨の時期で外は雨だった。



「外、凄い雨だね。寒くて風邪引いちゃいそう。」

「そうだなぁ、暖かくして今日は早めに寝るんだぞ。」

「うん、そうする。ゆっくり休むよ。」



他愛ない会話をして、家に着いた。家の中に入って暫くは体が冷えていたが、母が皆の分のホットココアを淹れてくれてゆっくりと口に流し込んでいく。飲み終えて自分の部屋に向かった。トントンと階段を上り、ドアを開けた。電気がついており、ベッドを触ってみると少しだけ湿っていた。頭にはてなが浮かぶが、あまり気にせずにスマホを触っていた。少しだけゲームをして、布団に潜って眠りについた。



この一件以来、私には苦手なものが増えた。怖いものと、雨の日のピチョンという雫が滴る音。この音を聞くと、途端に脈が速くなってしまうようになった。頭の中で、1人の女の人が囁いている様な音が響きだし、頭に鈍痛が走る。あぁ、雨の日なんて嫌いだと愚痴って今日も傘を差して、学校に向かった。雨の日は母がとても心配してくれるのだが、私にはその理由が分からなかった。過剰な心配に少しだけ疲弊しつつ、玄関に背を向けて、通学路を進む。その後ろ姿にはピッタリと憑いた、髪の長い、痩せ細っている俯いた女が居た。



自分の知り得ないもの、不気味に感じたものは注視しない様にしましょう。


あの女の人は何だったんでしょうね?今となっては分からないものです。


絶対に、目を合わせ無いように注意しましょう。


もしお手数でなかったら、感想も頂けると参考にさせて貰いますφ(..)メモメモ

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